
AIOpsで実現する予知保全!AWS CloudWatch+AIによる障害予防方法
日々のシステム運用業務において、突然のアラートに追われ、障害が発生してから対応に奔走するという経験は、多くのインフラエンジニアやSREが直面する課題ではないでしょうか。
この記事では、そのような事後対応型の運用から脱却し、障害の予兆を捉えて未然に防ぐ「予知保全」を、AIOps(AI for IT Operations)のアプローチを用いて実現する方法を解説します。
具体的には、AWSの標準的な監視サービスであるAmazon CloudWatchに組み込まれたAI機能群を活用し、明日からでも始められる実践的なノウハウを提供します。
「従来の監視」と「予知保全」の違い
従来の監視は、CPU使用率が80%を超えたらアラートを発報するといった「静的しきい値」に基づいています。この手法はシンプルで分かりやすい一方、正常なスパイクアクセスでもアラートが鳴ってしまったり、逆にゆっくりとしたリソースリークのような静かな異常を見逃したりする欠点がありました。
対して予知保全は、AIがシステムの平常時の振る舞いを学習し、その「いつもと違う」パターンから将来の障害につながる可能性のある予兆を検出します。これにより、問題が顕在化する前に対策を講じることが可能となり、システムの可用性と信頼性を飛躍的に向上させることができるのです。
AWSにおけるAIOpsサービスの中核
AWSでは、CloudWatchを中心に特別なツールを追加導入することなくAIOpsを実現するためのサービスが提供されています。
これらのサービスは、機械学習の専門知識がなくとも利用できるように設計されており、インフラエンジニアが直面する課題解決を力強く支援します。
サービス名 | 機能概要 | 解決する課題 |
---|---|---|
CloudWatch Anomaly Detection | メトリクスの過去のデータを機械学習で分析し、正常な値の範囲(バンド)を自動で定義します。メトリクスがこのバンドから逸脱した場合に異常として検知します。 | 静的しきい値では検知が難しい、緩やかな変化や周期性を持つメトリクスの異常を捉えます。 |
Amazon DevOps Guru | 複数のメトリクス、ログ、イベント情報を横断的に分析し、アプリケーション全体の健全性を評価します。 異常の根本原因分析や、具体的な改善策の推奨まで行います。 | 複雑なマイクロサービス環境などで、問題の根本原因を特定する時間を大幅に短縮します。 |
Amazon Lookout for Metrics | ビジネス指標(売上、ユーザー登録数など)や運用メトリクスにおける予期せぬ変化を自動で検出します。複数の異常を関連付けて、単一のアラートとして通知することで、アラート疲れを軽減します。 | 膨大なデータの中から、ビジネスに影響を与える可能性のある重要な変化点を見つけ出します。 |
Amazon Q Developer (Operational Investigation) | 生成AIを活用し、アラーム発生時にCloudWatchのテレメトリ、CloudTrailログ、デプロイ情報などを自動で調査します。 問題の根本原因に関する仮説や、推奨される修復アクションを提示します。 | インシデント発生時の初動調査を自動化し、オペレーターの負担を軽減して解決を迅速化します。 |
CloudWatch Anomaly Detectionによる予知保全の実施方法
予知保全への第一歩として、最も手軽かつ効果的なのがCloudWatch Anomaly Detectionの活用です。ここでは、具体的な設定手順を解説します。
ステップ1:異常検知の有効化
まず、監視したいメトリクスを選択します。例えば、あるEC2インスタンスのCPU使用率(CPUUtilization)を対象とします。
CloudWatchのコンソールから「すべてのメトリクス」に移動し、該当のインスタンスとメトリクスを選択します。グラフ化されたメトリクスの「アクション」から、波のような形をした「異常検出」アイコンを選択するだけで、CloudWatchは自動的に過去のデータ(通常は2週間分)を分析し、機械学習モデルのトレーニングを開始します。
ステップ2:正常範囲(バンド)の確認
トレーニングが完了すると、グラフ上にもとのメトリクスを囲むように灰色の帯(バンド)が表示されます。 これがAIによって定義された「正常な振る舞いの範囲」です。今後、実際のメトリクスがこのバンドを上回ったり下回ったりした場合、それは「異常」である可能性が高いと判断されます。
ステップ3:アラームの設定
次に、この異常を通知するためのアラームを作成します。メトリクスのグラフ画面からアラーム作成(鈴のアイコン)に進み、「条件」セクションでしきい値の種類として「静的」ではなく「異常検出」を選択します。
ここで、「メトリクスがバンドの外にある」「バンドを上回る」「バンドを下回る」といった、アラームを発報する具体的な条件を指定できます。例えば、「バンドを上回る」を設定すれば、CPU使用率が通常では考えられないレベルまで上昇した際にアラートを受け取ることができます。
実例:障害予防率の検証
公式な統計データではありませんが、公開されている事例などを見ると、この手法の有効性がうかがえます。例えば、あるシステムでメモリ使用率がわずかずつ上昇し続けるメモリリークが発生していたとします。静的しきい値(例:90%)では、実際にリソースが枯渇する直前までこの問題に気づくことはできません。
しかし、CloudWatch Anomaly Detectionを適用していれば、AIモデルは「メモリ使用率が常に微増し続ける」というパターンそのものを異常として捉えます。 その結果、使用率が50%や60%の段階で、「いつもと違う振る舞いです」というアラートを発報し、本格的な障害に至る前に調査と対策に着手する機会を与えてくれます。このような早期発見が、障害予防率を実質的に高めることにつながるのです。
まとめ
AIOps、特にAWS CloudWatchが提供するAI機能を活用した予知保全は、もはや一部の先進的な企業だけのものではありません。 従来の静的しきい値による監視の限界を補い、システムの安定性をプロアクティブに高めるための強力な手段として、すべてのインフラエンジニア、SREが利用できます。
今回紹介したCloudWatch Anomaly Detectionは、追加コストもほとんどなく、数クリックで始められる非常に効果的な第一歩です。 まずは、あなたのシステムで最も重要だと考えるメトリクス、あるいはこれまで原因不明のスパイクに悩まされてきたメトリクスに対して、この機能を試してみてはいかがでしょうか。そこから得られる新たな気づきが、あなたのシステムの運用を次のレベルへと引き上げるきっかけになるはずです。