
SREチーム構築の実践ガイド!DevOps連携で実現する、信頼性・開発速度の両立
この記事では、システムの信頼性を追求するSRE(Site Reliability Engineering)チームをいかに構築し、開発チームと効果的に連携させるか、その具体的な役割分担とプロセス改善のノウハウを解説します。
この記事を読み終えることで、あなたはSREの本質を理解し、自社の開発チームと運用チームの間に横たわる課題を解決するための、明日から使える具体的なアクションプランを描けるようになります。
SREとDevOpsの連携は、なぜ重要?
多くの現場では、新しい機能を迅速に届けたい開発チームと、システムの安定性を維持したい運用チームとの間で、目的の違いから対立が生まれがちです。 DevOpsは、この二つのチームが協力し合う文化や考え方を示すものですが、その理念を具体的にどう実践すれば良いのか、悩む声も少なくありません。
SREは、その問いに対する一つの具体的な答えです。Google社は「SREはDevOpsを実装するクラスである」と表現しており、SREはDevOpsの文化を、エンジニアリングの力で実現するための具体的な実践方法論と言えます。
SREとDevOpsの関係性、その本質
SREとDevOpsは対立する概念ではなく、相互に補完し合う関係にあります。 DevOpsが「開発と運用の連携を強化し、ビジネス価値を迅速に提供する」という文化的な目標を掲げるのに対し、SREはその目標を達成するために、具体的な技術的アプローチと組織構造を提示します。
DevOpsが目指す継続的なデリバリーや自動化といったプラクティスを、SREはサービスレベル目標(SLO)やエラーバジェットといった定量的な指標を用いて、より規律ある形で実装していきます。
つまり、SREはDevOpsの「何をすべきか」という問いに、「どのようにすべきか」という具体的な答えを与える役割を担っているのです。
クロスファンクショナルなSREチームの主な役割
成功するSREチームは、従来のインフラエンジニアの枠を超え、多様なスキルセットを持つメンバーで構成されます。 彼らは単なる「火消し役」ではなく、システムの信頼性をプロアクティブに高めるためのソフトウェアエンジニアリングを実践します。
役割 | 主な責務 |
---|---|
運用の自動化と効率化 | 手作業で行われている運用タスク(トイル)を特定し、スクリプトやツールを開発して自動化する。これにより、ヒューマンエラーを削減し、チームがより価値の高い作業に集中できる時間を確保する。 |
信頼性設計とコンサルティング | 開発の初期段階から関与し、システムのアーキテクチャレビューやコードレビューを通じて、信頼性、スケーラビリティ、保守性の高い設計を支援する。 |
モニタリングとオブザーバビリティ | ユーザー体験に直結するサービスレベル指標(SLI)を定義し、計測する仕組みを構築する。問題が発生した際に「何が起きているか」だけでなく「なぜ起きているか」を迅速に特定できる可観測性を確保する。 |
インシデント対応と事後検証 | サービス停止につながるインシデントの対応を主導し、再発防止を徹底する。個人を非難するのではなく、システムやプロセスの問題として捉える「非難なき事後検証(Blameless Postmortem)」の文化を醸成する。 |
キャパシティプランニング | 将来の需要を予測し、システムの容量がビジネスの成長に追従できるように計画する。これには、負荷テストの実施や、クラウドサービスの効率的なリソース配分が含まれる。 |
SREチーム構築方法の4ステップ
開発と運用の連携は、精神論だけでは改善しません。両チームが同じ目標を向き、共通の言語で対話するための「仕組み」が不可欠です。
ステップ1:サービスレベル目標(SLO)を共通言語にする
連携の第一歩は、サービスの信頼性に関する客観的な目標、すなわちSLO(Service Level Objective)を開発チームと共同で設定することです。 たとえば、「月間の可用性99.9%」や「リクエストの99%を500ms以内に処理する」といった具体的な目標を定めます。
重要なのは、このSLOから導き出される「エラーバジェット」の考え方です。 可用性99.9%のSLOは、裏を返せば「0.1%は停止してもよい」という予算(エラーバジェット)があることを意味します。この予算を消費するのは、インフラ障害だけでなく、新機能リリースのための計画停止や、リリースした機能のバグも含まれます。
エラーバジェットを使い切ってしまった場合は、信頼性向上のための作業が最優先され、新規リリースの停止も辞さない、というルールを共有します。これにより、開発チームも「自分ごと」として信頼性を意識するようになります。
参考記事:SREの心臓部・エラーバジェット完全ガイド!実用的なSLO設計とチーム合意の秘訣
ステップ2:非難なき事後検証で学習する文化を根付かせる
障害が発生した際、その原因を個人の責任に帰するのではなく、チーム全体で学びの機会と捉える文化が極めて重要です。
SREチームが主導し、インシデントのタイムライン、影響範囲、原因、そして具体的な再発防止策をドキュメント化します。このプロセスを通じて、開発チームとSREチームは、システムの弱点を共に理解し、恒久的な改善策を講じることができます。
参考記事:SREのインシデント対応!ポストモーテムの実践方法と、失敗から学んだ教訓
ステップ3:CI/CDパイプラインと監視ツールを統合する
ツールの分断は、チームの分断に直結します。開発からデプロイ、監視までの一連のプロセスを、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)パイプラインとして統合し、両チームが同じツールセットを利用することが連携を円滑にします。
Azure DevOpsのAzure Pipelines やAWS CodePipeline のようなサービスを活用し、ビルド、テスト、デプロイのプロセスを自動化します。さらに、そのパイプラインにDatadogやNew Relicのようなオブザーバビリティツールの情報を連携させることで、リリースがシステムのパフォーマンスに与える影響を全員が可視化できるようになります。
ステップ4:具体的な協業プラクティスを導入する
文化やツールだけでなく、日々の業務プロセスに連携を組み込むことが成功の鍵です。
連携プラクティス | 具体的なアクション |
---|---|
開発計画ミーティングへの参加 | SREチームがスプリント計画会議などに参加し、開発の初期段階で運用上のリスクや要件を共有する。 |
共通のバックログ管理 | 開発のタスクと、信頼性向上のための技術的負債解消タスクを、JiraやAzure Boards などで一元管理し、優先順位を共同で決定する。 |
オンコールローテーションの共有 | 開発チームのメンバーもオンコール(緊急呼び出し対応)の一部を担うことで、自分たちのコードが本番環境でどう動くかに対する責任感を醸成する。 |
まとめ
SREは単なる運用チームの新しい呼び名ではありません。それは、DevOpsの理念をエンジニアリングの力で具現化し、開発の速度とシステムの信頼性という、時に相反する二つの目標を両立させるための強力な方法論です。
成功の鍵は、SLOやエラーバジェットといった共通の指標を設け、開発チームとSREチームが一体となってシステムのオーナーシップを持つことです。ツールやプロセスを統合し、非難のない文化を醸成することで、チーム間の壁は自然と解消されていくでしょう。
もしあなたが、開発と運用の連携に課題を感じているのであれば、まずは一つの重要なサービスを選び、そのクリティカルユーザージャーニー(CUJ)を定義することから始めてみてはいかがでしょうか。 そして、そのCUJに対するSLI/SLOを開発チームと一緒に設定するのです。それが、あなたの組織の信頼性を新たな高みへと導く、確かな第一歩となるはずです。