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【SRE入門】運用チームを自動化・システム改善で強化!従来の運用との違いは?

【SRE入門】運用チームを自動化・システム改善で強化!従来の運用との違いは?

「また障害対応で徹夜か…」「同じトラブルが繰り返される…」「運用業務に追われて改善の時間がない…」こんな悩みを抱えている運用エンジニアの皆さん、SREという考え方を取り入れることで、これらの問題を解決できるかもしれません。

今回は、GoogleやAmazonなどの大規模サービスでも採用されている「SRE(Site Reliability Engineering:サイト信頼性エンジニアリング)」について、基本から実践までの概要を解説します。

SREの誕生と背景

SREは2003年頃にGoogleで誕生したエンジニアリング文化です。当時、Googleのサービス規模は急速に拡大しており、従来の運用手法では24時間365日の安定稼働を維持することが難しくなっていました。そこで、ソフトウェアエンジニアリングのアプローチを運用に取り入れることで、この課題を解決しようとしました。

なぜソフトウェアエンジニアリングなのか、と思われる方もいると思いますが、実はこれがSREの本質です。人間が手作業で行う運用作業を、可能な限りソフトウェアで自動化することで、スケーラビリティを高め、ヒューマンエラーを減らすという考え方になります。

Googleの元SREであるベンジャミン・トレイノール氏が著書「Site Reliability Engineering」で提唱したように、「運用作業の70%はエンジニアリング、30%は従来の運用タスク」という比率を目指すことがSREの理想とされています。これは、単なる理想論ではなく、エンジニアの時間を確保するための明確な指標となります。

Googleのような大きなシステムだから効果が発揮できたのではと考える方もいらっしゃると思いますが、SREの考え方は、大規模サービスだけでなく、中小規模のシステム運用にも適用できます。むしろ、リソースが限られた環境だからこそ、効率化の恩恵が大きくなるケースがあります。

従来の運用とSREの違い

従来の運用とSREの最も大きな違いは、問題解決へのアプローチです。従来の運用では、障害が発生したら対症療法的に対応し、同じ障害が再発したら同じ手順で対応するというサイクルが続きがちでした。

一方、SREでは「なぜその障害が発生したのか」「同様の障害を根本的に防ぐにはどうすればいいか」を考え、自動化やシステム改善によって問題を解決します。つまり、人間による手動対応からシステムによる自動対応へのシフトを目的にしています。

具体的な違いを3点まとめてみました。

インシデント対応従来の運用では ”人間” がマニュアルに従って対応するのに対し、SREでは可能な限り自動復旧する仕組みを構築しています。
モニタリング従来はシステムの状態監視が中心でしたが、SREではユーザー体験の監視にフォーカスします。サーバーが動いていても、ユーザーにとって使いづらければ問題だとしています。
チームの目標従来はダウンタイムをゼロにすることが目標でしたが、SREでは適切なリスクを取りながら改善を続けることを重視しています。

自動化は一朝一夕でできることではありません。しかし、小さな部分から始めて、徐々に範囲を広げていくことは十分可能です。例えば、よくある障害対応の手順をスクリプト化するところから始めてみるのはどうでしょうか。

SLOやエラーバジェットの基本と適用例

SREを実践する上で重要な概念が「SLI(Service Level Indicator)」、「SLO(Service Level Objective)」、「エラーバジェット」です。これらは、サービスの信頼性を数値化し、改善の指標とするためのフレームワークです。

SLI

サービスの状態を示す指標です。
例えば、APIのレスポンスタイム、成功率、ページの読み込み時間などが該当します

SLO

SLIの目標値です。
例えば、「APIのレスポンスタイムを99.9%のリクエストで200ms以内に抑える」といった形で設定します。SLOは100%の完璧を目指すのではなく、コストとリスクのバランスを考慮した現実的な値を設定することが重要です

エラーバジェット

SLOを達成できなかった時間や回数の許容範囲です。
例えば、「月間稼働率99.9%」というSLOがあれば、月に約43分のダウンタイムが許容されることになります。このエラーバジェットを使い切ってしまった場合は、新機能のリリースよりも安定性の向上を優先するといったルールを設けることで、開発速度と安定性のバランスを取ります。

実際の適用例として、あるEコマースサイトでは、以下のようなSLOを設定しているとします。

  • 商品検索APIの応答時間:95%のリクエストで500ms以内
  • ショッピングカート機能の可用性:99.95%
  • 決済処理の成功率:99.99%
このサイトでは、決済処理には最も厳しいSLOを設定し、重要度に応じて異なるレベルのSLOを適用しています。また、エラーバジェットが残っている間は新機能のリリースを積極的に行い、エラーバジェットを使い切ったら安定化作業に注力するというルールを導入する事でリスクを杞憂して先に進めない状態を作らないようにしています。

まずは、ユーザーにとって最も重要な機能や体験に着目し、そこから測定可能な指標を選ぶとよいでしょう。完璧を目指すのではなく、十分良いレベルを定義することがポイントになります。

SRE導入時に直面する課題と解決方法

SREを導入しようとすると、さまざまな障壁に直面します。よくある課題とその解決策を見ていきましょう。

組織文化の変革

 ”今までの方法で何の問題もなかった” という声や、変化への抵抗は必ず出てきます。これに対しては、小さな成功事例を積み重ねることが効果的です。例えば、頻繁に発生する単調な作業を自動化し、その効果を可視化することで、SREの価値を実感してもらうことができます。

開発チームとの連携

運用のことは運用チームに任せるという壁を壊すために、開発者も一定期間オンコール(障害時の対応当番)を担当する「共有オンコール」の導入が効果的です。自分が作ったシステムの運用課題を実感することで、運用性を考慮した設計・実装が促進されます。

適切なツールの選定と導入

モニタリング、自動化、インシデント管理など、多くのツールが必要になりますが、一度にすべてを導入しようとするとプロジェクトが複雑化します。まずは、最も価値を生み出す領域(例:頻発する障害の自動検知と復旧)に焦点を当て、段階的に拡大していくことをお勧めします。

例えば、障害対応の手順書をすべて見直し、自動化可能な部分を特定することから始め、次に、繰り返し発生していた特定のデータベース接続エラーの自動復旧スクリプトを作成したとします。これだけで、月間の対応工数が30%ほど削減する事が可能となるケースがあります。また、この成功体験をきっかけに、徐々にSREの取り組みが組織に浸透させていくこともできます。

小規模チームでのSRE実践例

大規模チームだけではなく、小規模チームでこそSREの考え方が活きることもあります。ポイントは優先順位の明確化です。すべてを一度に行うのではなく、最も価値のある部分から取り組むことが重要です。例えば、以下の4つのポイントを押さえて実施してみてください。

  1. 頻発する障害の自動検知と通知:まずは人間が早く気づけるようにする
  2. 手動復旧手順の文書化:誰でも対応できるようにする
  3. 頻発する障害の自動復旧:最も効果の高い部分から自動化する
  4. SLOの設定と監視:改善の指標を定める

例えば、5人程度のスタートアップでは、週に一度の「運用改善タイム」を設け、その時間内で運用の自動化や改善に取り組むというルールを設けるとよいでしょう。最初は障害アラートの統合とSlackへの通知自動化から始め、徐々にデプロイのCI/CD化、データベースのバックアップ自動化と検証、障害時の自動ロールバックまで範囲を広げていくことをお勧めします。

また、プロジェクト終了後の運用フェーズに入る前に「運用準備スプリント」を設け、監視設定や自動化スクリプトの作成、運用手順書の整備を行うという工夫をすることで、プロジェクト納品後の運用コストが大幅に削減されます。

しかし、小さなチームではエンジニアリングの時間を確保するのが難しいという声も上がってきます。確かに短期的には工数が増えますが、中長期的には運用負荷の軽減につながります。週に1回発生する30分の手動作業があったとして、これを自動化するのに4時間かかったとしても、約2ヶ月で元が取れる計算になります。

運用をエンジニアリングで強化するメリット

最後に、SREを導入することで得られるメリットを具体的に見ていきましょう。

障害対応時間の短縮

自動検知・自動復旧の仕組みにより、深夜の障害でも迅速に対応できるようになります。

リリース頻度と品質の向上

CI/CDパイプラインの整備やテスト自動化により、リリースのリスクが低減し、より頻繁に新機能をデプロイできるようになります

エンジニアの負担軽減と満足度向上

深夜の障害対応が減り、単調な作業から解放されることで、エンジニアはより創造的な業務に集中できるようになります。これは離職率の低下にもつながります。

ビジネス成果への貢献

サービスの安定性向上はユーザー満足度の向上に直結し、収益増加につながります。Amazonの調査によると、ページ読み込み時間が100ms遅くなるごとに売上が1%低下するというデータもあります。

導入コストが高そうという懸念もあるかもしれません。確かに初期投資は必要ですが、多くの企業ではSRE導入後1年以内にROI(投資対効果)がプラスに転じたという報告があります。

コスト削減だけでなく、リリース頻度向上による市場投入速度の改善、障害減少によるブランド価値の保持など、多面的な効果を考慮すると、その価値はさらに高まります。

まとめ

SREは、単なるトレンドや技術ではなく、システム運用に対する考え方の転換を促すものです。運用はエンジニアリングできるという視点で業務を見直すことで、より効率的で安定したシステム運用が実現可能になります。

大規模サービスでも、小規模チームでも、明日から始められるSREの取り組みはあります。まずは、最も頻発する運用業務を1つ選び、それを自動化することから始めてみてはいかがでしょうか。

小さな一歩が、大きな変革につながるはずです。

Sler企業にて10年間WEBアプリ開発から経験を積み、現在はフルスタックエンジニアとして現場で働いています。アプリケーションから、インフラ含めた幅広い知見をベースにノウハウをアウトプットしていきます。実は生粋のジャンカーでジャンク品を買い漁っては修理して楽しんでいますので、ハードウェアにも片足踏み込んでます。

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