システム構築費用の計算方法とは？最適なコストを導き出すポイントを解説

ITシステムの構築を検討する際、「システム構築費用がどれくらい掛かるか」は誰しも気にするところでしょう。構築計画当初に見積っていたシステム構築費用が結果的に大きく膨れ上がる、あるいは費用対効果が想定より少なかったり赤字になってしまったという失敗例も見聞きします。

本記事では、システム構築費用の構成要素の捉え方、費用を見積る方法について解説します。システム構築計画を進めるにあたり、この記事が参考となれば幸いです。

システム構築に関する基本的な内容は別の記事で説明していますので、こちらの記事も是非参照してください。

参考リンク：システム構築の基礎と構築計画－基本的な内容の理解と構築計画の流れ

システム構築の料金相場

さっそく、システム構築の料金相場を確認してみましょう。

システム構築の料金相場は、構築するシステムの規模や種類によって異なります。システム発注担当者向けのマッチングサービスでは、事例として次のケースが紹介されています。

マッチングシステム（500～2,000万円）

マッチングシステムとは、ユーザーと企業、またはユーザー同士を繋ぎ合わせるためのシステムです。恋愛マッチング、求人マッチング、ビジネスマッチングなど様々なマッチングサービスが存在します。

ECサイト（200～1,000万円）

ECサイトとは、インターネット上でモノやサービスの売買を行う eコマース（電子商取引）サービスを提供するWebシステムです。Amazonや楽天などのモール型が有名ですが、

独自にECサイトを構築している企業も多く、種類もネットショップやオークションサイト、オンライントレード（株の売買取引）など多岐にわたります。

予約システム（300～2,000万円）

予約システムとは、予約の受付やキャンセルなど予約に関する業務を一元管理できるシステムです。ホテルの宿泊予約やイベントへの参加予約、レストランの予約など様々な場面で予約システムが取り入れられています。

CMS（100～300万円）

CMS（Contents Management System）とは、Webサイトを構成する文書や画像、デザイン、レイアウト情報などを一元的に保存・管理するシステムです。代表的なものにWordPress、Wix、Joomla!などがあり、個人でも簡単に導入・利用できることから広く普及しています。

業務支援システム（数万～数千万円）

業務支援システムとは、企業や団体といった組織や個人の業務を支援するシステムです。その業務に特化した業務支援システムもあれば、複数の業務を統合的に支援するシステムもあります。

システム構築の費用を決定する要素

ざっくりとシステム構築の料金相場を紹介しました。しかし、構築するシステムの規模や種類によって料金が大きく異なるため、結局これから構築するシステムの費用がどれくらいになるのか容易に判断できないことでしょう。

これらシステム構築の費用がどのように決定されるのか、その内訳について説明します。

システム構築費用を構成する要素として、次の３つが挙げられます。

要件定義
製品購入費
人件費

1. 要件定義

システム構築費用を構成する１つ目の要素として、要件定義を説明します。

要件定義は、システム構築費用を確定させる前提要素となるため、大変重要な要素です。システムを構築する際、大体の場合は要件定義という工程を踏むことになります。

要件定義とは、構築するシステムの機能や性能、制約条件といったシステムに求める要件を明確に定義する作業のことです。これら要件の数や複雑さは、システム構築費用を決定する大きな要素となります。

システムの要件は「機能要件」と「非機能要件」に大別されます。違いは次の通りです。

機能要件	システムが実行する必要がある機能に関する要件
非機能要件	機能要件を補足するための機能以外の部分や品質に関する要件

誤解を恐れずに言うと、機能要件は開発するソフトウェアに実装する機能とリンクします。非機能要件は、開発するソフトウェアが稼働するシステム基盤（インフラ）に求める要件となります。

システム構築費用を見積る場合、ソフトウェア開発と結びつく機能要件とインフラ部分の非機能要件で見積りを分けて考え、システム全体の構築費用を見積る流れになることが多いでしょう。

「機能要件」の見積り

機能要件を見積る場合、有効な手段としてFP（ファンクション・ポイント）法で見積る方法が挙げられます。この方法は、システムに実装する機能ごとに点数（ファンクション・ポイント）をつけて、その合計によって構築規模を見積る方法です。

ファンクション・ポイントは、その機能の種類や複雑さによって点数が決められており、その点数は明確な基準に基づいて決まっているため、誰が見積っても同じように点数計算され、開発手法や構築環境（オンプレミスかクラウドか）に左右されないのが特徴です。最終的に算出したポイント点数の合計を過去の実績と比較することで、より精度の高い見積り結果を導き出すことができます。

ソフトウェア開発の現場では、このFP法による見積りがよく行われます。前述の通り、機能の数や複雑さで見積り額が決まるため、要件定義の工程はシステム構築費用の算出に大きく影響します。

「非機能要件」の見積り

システムの基盤部分に関わる非機能要件は、「品質要件」、「技術要件」、「その他要件」の３種類に分けられます。

品質要件	システムに要求する品質に関する要件
技術要件	システムを構成するハードウェア、ソフトウェアに関する要件
その他要件	品質要件にも技術要件にも該当しない要件（運用・操作、移行、付帯作業等）

これら非機能要件を正確に見積るのは難しく、自社にそれを判断する経験やノウハウがあるかが重要になります。それらの経験やノウハウを蓄積できていれば、過去の実績等からある程度見積ることが可能でしょう。

しかし、非機能要件に絡む経験やノウハウを持たない場合、SIer等のITベンダ企業に見積りを依頼するのがベストでしょう。

要件定義時点の見積りは概算

最後に、要件定義の段階で精度の高い見積りをするのは不可能という点は注意すべきです。設計も始まっていない段階で、機能の数や内容を確定させることはほぼ不可能と言えるからです。モノづくりを進める上で、後から要件を追加・変更・削除したいという要望が出ることは珍しくないありません。また、作り始めてから当初の予定通りにいかない部分があると発覚することもあります。

そのため、要件定義直後の見積りは、あくまでも概算であるという意識で捉えるべきでしょう。

2. 製品購入費

システム構築費用を構成する２つ目の要素として、構築に掛かる諸経費を説明します。

これは、前章「非機能要件の見積り」で取り上げた技術要件に該当するハードウェア・ソフトウェアの購入費、構築・開発を進める上で必要な作業PCやツールの費用です。

具体的には、次のような内容を考慮するといいでしょう。

コンピュータ本体の価格
周辺機器の価格
ソフトウェア関連の価格
ネットワークの構築費用
運用保守費用

コンピュータ本体の価格

コンピュータ本体はハードウェアに分類され、その本体価格は性能によって変わります。

PCとして使用するようなコンピュータであれば20万円前後から存在し、サーバコンピュータとして利用するような高性能なものは100万円を超えるものもあります。

サーバコンピュータに求める性能は、要件定義の非機能要件で定義した品質要件に基づいて決めることになるでしょう。

周辺機器の価格

コンピュータを稼働させるためには、ネットワーク機器（スイッチやルータ、ファイアウォール）やUPS（無停電装置）、NAS（ストレージ装置）などの周辺機器も必要です。

価格はそれぞれの周辺機器の性能やネットワークに接続する装置の数などで異なります。

ルーターは低い性能のものであれば1万円～5万円前後、大規模システム向けだと数10万～100万を超えるものもあります。UPSも同様に、小規模システム向けであれば10万円前後、大規模システム向けだと100万を超えてきます。

その他にもコンソールユニットやサーバラック、ロードバランサ―といった機器に加え、キーボードやマウスなども含めると実に様々な周辺機器があります。

システム要件を前提に、これらの周辺機器１つ１つについて幾つか候補を挙げ、十分に比較検討した上でもっとも要件に見合ったものを選ぶのがいいでしょう。

機器によっては、異なるメーカー同士のコンピュータや周辺機器を組み合わせた場合に想定外のトラブルが起こることもあります。機器の組み合わせについて十分な知識やノウハウが無い場合は、その知識やノウハウを持つSIer等の他社に依頼することをお勧めします。

ソフトウェア関連の価格

ハードウェアに実装するOSやソフトウェアの価格です。

これらも各ソフトウェアによって価格が変わるため、システム要件を実現できるソフトウェアの候補を挙げて十分に比較検討する必要があります。機能ごとに価格や依存関係、仕様の実現度や構築の複雑さなどを総合的に判断し、最適なソフトウェアを選択しましょう。

ネットワークの構築費用

ネットワークに接続するコンピュータの台数やオフィスの規模などにあわせて、ネットワークを設計・構築する際にかかる費用です。

ネットワークの敷設場所やシステムの規模、有線か無線かといった部分が費用を決定する要素になるでしょう。有線のネットワークを構築する際は、LANケーブルやハブの敷設作業にも費用が必要となります。

運用保守費用

システムの運用・保守に掛かる費用です。

運用の面では、技術的な問い合わせ等に対応するサポートライセンスや運用監視体制（人員の用意）等に関する費用が該当します。保守の面では、障害発生時の保守要員や緊急窓口に関する費用が該当します。

ライセンスは年単位での買い切り購入や月額のサブスクリプションなど、提供元のサービス体系によって様々あります。一方、体制や要員の費用には人件費が絡むため、人員の稼働時間や所有スキルなどが関係してきます。

3. 人件費

最後に、システム構築費用を構成する３つ目の要素として、人件費を説明します。システム構築費用において、最も大きな割合を占めるのが人件費です。

参考として、技術者単価の例を以下に記載します。（※あくまで目安の金額です）

上級システムエンジニア：100〜160万円程度
初級システムエンジニア：60〜100万円程度
大手企業所属のプログラマー：50〜100万円程度
下請け企業または個人事業主プログラマー：40〜60万円程度
外国籍プログラマー：30～40万円程度

人件費は「作業単価 × 作業時間」の計算式で算出します。

作業単価は、技術者1人が1ヶ月間稼働した時に発生する金額です。先ほどご紹介した、技術者単価の目安を基に見積ることができます。専門性や難易度が高いシステムを構築する場合は、技術者のスキルを加味して高単価になる場合があります。

システム構築を外部に委託する場合の注意点

システム構築を外部に委託する際の注意点について説明します。

委託先企業の得意分野や開発実績
自社開発をしているか否かを確認

システム構築を外部に委託する場合、委託先候補となる企業の実績や得意分野に注目すべきでしょう。構築するシステムの要件によって、必要な技術やノウハウは異なるためです。

また、自社開発をしているかも重要なポイントです。自社開発をしている会社に委託すると、高いスキルを持った技術者を確保でき、細かい要望が伝わりやすく、迅速な対応が期待できます。

費用のシミュレーション

費用のシミュレーション方法について説明します。

オンプレミスの費用例

オンプレミスシステムの構築費用をシミュレーションする場合は、自社にコンピュータや周辺機器、ソフトウェアの基本的な仕様について理解が必要です。これらのシミュレーションをする能力を持つ人材が自社にいればいいですが、IT企業でない場合はなかなか難しいでしょう。したがって、外部企業に見積りも委託することをお勧めします。

システム要件を実現してくれそうな委託先候補となる企業を複数挙げ、それぞれの委託先候補に見積りを依頼し、それらを比較することでより精度の高いシミュレーション結果を得られるでしょう。

大事なのは、複数企業の見積り結果を十分に比較することです。それは金額だけでなく、構成するハードウェアやソフトウェア、周辺機器の内容、システム構築体制も検討材料となります。比較結果から見える差異について、なぜその差異がなぜ生まれているのかを明確にしましょう。