
「ハッカー」という言葉は、もともと尊敬の言葉だった
日々のシステム運用、お疲れ様です!会議前のアイスブレイクや、同僚とのちょっとした雑談に使える、IT用語の豆知識はいかがでしょうか?
今回は、マサチューセッツ工科大学(MIT)の歴史的資料や、その文化を記録した文書に基づき、「ハッカー」という言葉の、知られざる歴史を紐解いてみます。ぜひご覧ください。
参考記事:History of Computer Hacking and Cybersecurity Threats: From the 50s to Today
「ハッカー」の本来の意味
現代では「サイバー攻撃を仕掛ける人」というイメージが強い「ハッカー」ですが、その語源は1950年代から60年代にかけてのマサチューセッツ工科大学(MIT)に遡ります。

当時、この言葉は「尊敬と称賛」を込めた言葉として使われていました。その舞台となったのが、MITの「Tech Model Railroad Club(TMRC)」という鉄道模型のクラブです。
ここに集った学生たちは、単に模型を走らせるだけでは満足しませんでした。彼らは、どうすればもっと面白く、賢く、効率的にシステムを動かせるかを追求し、回路を改造したり、マニュアルにはない独創的な工夫を凝らしたりすることに情熱を燃やしていました。
このような、常人には思いつかないような創造的な方法で問題を解決する行為を「ハック(hack)」、つまり日本語で「工夫して改善する」という言葉で呼び、それを行う優秀な人物を「ハッカー(hacker)」と称えたのです。
創造性の象徴としてのハッカー
この鉄道模型のメンバーたちの探求心は、鉄道模型だけにとどまりませんでした。彼らの興味は、当時大学に導入され始めたばかりの黎明期のコンピューターへと向かいます。
彼らは、コンピューターの持つ可能性を最大限に引き出すため、プログラムを解析し、改良を加え、時には遊び心あふれるソフトウェアを創り出しました。
決められた使い方に満足せず、システムの深層を探求し、より優れた、あるいは全く新しい価値を生み出す。この「ハッカー精神」こそが、今日のテクノロジーの発展を支えるオープンソースの文化などにも繋がっていると言えるかもしれません。
ハッカーの元々の特徴 | 現代のエンジニアリング文化との関連 |
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既存のシステムの限界を探求する | パフォーマンスチューニング、ボトルネックの解消 |
独創的な方法で問題を解決する | DevOpsやSREにおける自動化、効率化の工夫 |
知識や成果をコミュニティで共有する | オープンソースソフトウェア、技術ブログでの情報発信 |
何故、言葉の意味が変わったのか?
では、なぜ「ハッカー」という言葉のイメージは変わってしまったのでしょうか?
それは、1980年代頃から、コンピューターネットワークが普及するにつれて、その技術を悪用し、システムに不正侵入したり、データを破壊したりする人々が現れ始めました。 メディアが彼らのことを「ハッカー」と報じたことで、次第にネガティブなイメージが一般に定着していきました。
本来の意味を知る人や一部の人間の中では、これと区別するために、悪意のある行為を行う者を「クラッカー(cracker)」と呼ぶことがあります。
筆者は以前、ペネトレーションテスト(実際のサイバー攻撃を模倣してシステムへの侵入を試み、脆弱性を評価する侵入テスト)のサービスを提供するSIerに所属していたのですが、倫理観を持って活動するホワイトハッカーに敬意を払う意味で、悪意ある攻撃者は「クラッカー」と呼ぶようにしていました。
呼び方を気にするホワイトハッカーは少ないとは思いますが、少しだけ意識してみると良いかもしれません。
まとめ
いかがでしたでしょうか。「ハッカー」という言葉が、元々は創造性と探求心にあふれたエンジニアへの最高の褒め言葉だったというのは、少し意外だったかもしれません。
私たちの仕事にも、この古き良き「ハッカー精神」を少しだけ取り入れてみると、日々の運用業務に新しい発見があるかもしれません。