
【徹底比較】AWS・Azure・Google Cloud、マルチクラウド監視ツールの最適解は?
多くの企業がビジネスの要求に応じてAWS、Azure、Google Cloudなどを組み合わせるマルチクラウド戦略を採用しています。
しかしその結果、「監視基盤をどのクラウドのサービスに集約すれば良いのか?」「あるいは、高価なサードパーティ製の統合監視ツールを導入すべきか?」という新たな悩みが生まれています。この問いに答えるため、この記事では3大クラウドがネイティブで提供する監視サービスを徹底比較します!
それぞれのAIOps機能とマルチクラウドへの対応力を深く掘り下げることで、あなたの会社に最適な監視戦略を決定するための、具体的で実践的な判断材料を提供します。
マルチクラウドによる、システム運用現場の課題
マルチクラウド環境は、柔軟性や可用性を向上させる一方で、運用管理の複雑性を増大させます。これを理解するために、外国の代表者が集まる国際会議を想像してみてください。
それぞれの代表者(クラウド)は違う言語(データの形式)を話し、独自の手順(ツールの使い方)で報告をします。この会議を、一人の議長(運用担当者)が、通訳なしでまとめようとしているのが、マルチクラウド運用の実態に近いのです。
それぞれのクラウドから生成されるデータは、一見すると同じ「CPU使用率」や「エラーログ」のように見えても、その定義、収集方法、形式が微妙に、あるいは全く異なります。そのため、単純にデータを一か所に集めても、そのままでは比較したり、横断的に分析したりすることはできません。
では、なぜ一つのサービスで簡単に管理・監視できないのでしょうか。そこには、主に3つの「壁」が存在します。
壁の種類 | 具体的な内容 | 運用の課題 |
---|---|---|
データの「言語」の壁 | 各クラウドで、ログのフォーマット、メトリクスの名称や単位、APIの仕様が異なります。 例えば、CPU使用率という同じ指標でも、AWSでは「CPUUtilization」、Google Cloudでは「instance/cpu/utilization」のように名前が違います。 | データを集めても、そのままでは統一されたダッシュボードで表示したり、相関分析をしたりすることができません。 データを「翻訳」し、正規化する前処理が必要になります。 |
「道具」の壁 | AWS CloudWatch、Azure Monitor、Google Cloud Operationsなど、各クラウドは独自の高機能な監視ツールを提供しています。 それぞれに独自の操作方法、クエリ言語、アラート設定の仕組みがあります。 | 運用チームは複数の専門ツールを習得し、使い分ける必要があります。 これにより、学習コストが増大し、担当者によるスキルのばらつきも生まれやすくなります。 |
「ルール」の壁 | ユーザー認証や権限管理の仕組み(IAM)が、クラウドごとに独立しています。 どのユーザーが、どのデータに、どの範囲でアクセスできるのかを、プラットフォームごとに設定・管理しなければなりません。 | セキュアなアクセス制御を維持しながら、監視ツールに必要な権限を与える設定は非常に複雑です。 設定ミスがセキュリティホールにつながるリスクも高まります。 |
これらの課題を解決する、AIOps
AIOpsは、このような複雑な環境下でこそ真価を発揮します。これらの「壁」を乗り越えるための「通訳」の役割を果たす仕組み(後述するエージェントなど)と連携し、機械学習を用いて正規化された大量のデータを分析します。
そして、ノイズの中から重要なシグナルを検知し、根本原因を特定、時には自律的な修復まで行います。これにより、運用チームは障害対応の迅速化とプロアクティブな問題解決を実現し、より価値の高い業務に集中できるようになるのです。
以下では、AIOps機能を持つAWS、Azure、Google Cloud、それぞれの監視サービスを紹介・比較します。
Amazon CloudWatch|主なAIOps機能
Amazon CloudWatchは、AWSリソースとそこで実行されるアプリケーションのためのネイティブな監視・オブザーバビリティサービスです。長年の実績があり、非常に多くのAWSサービスと密に統合されています。
CloudWatchも、運用負荷を軽減するための機械学習を活用した機能を拡充しています。
機能分類 | 具体的な機能名 | 説明 |
---|---|---|
メトリクス監視 | CloudWatch Anomaly Detection | メトリクスの過去のデータに基づいて正常なベースラインを機械学習でモデル化し、予測から逸脱した際にアラートを発報します。 |
ログ分析 | Contributor Insights | ログデータを分析し、システムのパフォーマンスに影響を与えている上位N個の要因(例: エラーを多発させているIPアドレス)を特定します。 |
ログ分析 | Logs Insights | 対話的なクエリ言語を使い、大量のログデータを高速に検索・分析できます。パターン検出や時系列での集計も可能です。 |
パフォーマンス管理 | ServiceLens | サービスマップを通じて、アプリケーションのコンポーネント間の依存関係やトラフィックを可視化し、ボトルネックを特定します。 |
マルチクラウド環境への対応
CloudWatchも、CloudWatch Agentをオンプレミスサーバーや他のクラウド(Azure, Google Cloud)のVMにインストールすることで、それらの環境からメトリクスやログを収集できます。
また、AWS Distro for OpenTelemetryというオープンソースの計装SDK/エージェントを活用することで、ベンダーに依存しない形でテレメトリデータを収集し、CloudWatchを含む複数の監視プラットフォームに送信することも可能です。
Azure Monitor|主なAIOps機能
Azure Monitorは、Azure内外のリソースを包括的に監視するための統合ソリューションです。 機械学習の専門知識がなくても利用できる、組み込みのAIOps機能が豊富に提供されているのが特徴です。
Azure Monitorは、ログ、メトリクス、トレースを横断したインテリジェントな分析機能を提供します。
機能分類 | 具体的な機能名 | 説明 |
---|---|---|
ログ監視 | Log Analytics ワークスペースインサイト | 機械学習を用いてログの取り込みに関する異常を自動的に検出します。 |
ログ監視 | KQLの時系列分析と機械学習関数 | Kusto照会言語(KQL)を使い、専門知識なしで時系列データの予測や異常検出が可能です。 |
アプリケーション監視 | スマート検出 | Application Insightsが収集したテレメトリを分析し、パフォーマンスの異常やエラーの急増を自動で検知・警告します。 |
メトリクス監視 | 動的しきい値 | 過去のメトリクスパターンを学習し、静的なしきい値ではなく、動的な境界に基づいて異常を検知します。 |
マルチクラウド環境への対応
Azure Monitorの大きな強みは、Azure Arcを通じて、オンプレミスや他のクラウド上のサーバーやKubernetesクラスタまで監視対象を広げられる点です。
Azure Monitor Agentをデプロイすることで、Azure VMと全く同じようにデータを収集し、一元的にAIOps分析を適用できます。
Google Cloud Operations Suite|主なAIOps機能
Google Cloud Operations Suite(旧称: Stackdriver)は、Googleが自社のSRE(Site Reliability Engineering)で培ったベストプラクティスが反映された運用管理ツール群です。
サービスの信頼性(Reliability)に焦点を当てた機能が特徴的です。
機能分類 | 具体的な機能名 | 説明 |
---|---|---|
モニタリング | SLOモニタリング | サービスの信頼性を測る指標であるSLI/SLOを定義し、エラーバジェットの消費状況を追跡、違反時にアラートを通知します。 |
モニタリング | 異常検出 | 指標データから正常なパターンを学習し、予期せぬ逸脱が発生した際に自動でグラフ上にハイライトし、通知します。 |
ロギング | ログ分析(Log Analytics) | Cloud Loggingに集約された大量のログデータを、BigQueryの強力な分析能力を使って調査し、深い洞察を得ることが可能です。 |
パフォーマンス管理 | Cloud Profiler | 本番環境で実行中のアプリケーションのプロファイルを継続的に収集・分析し、パフォーマンスのボトルネックとなっているコード箇所を特定します。 |
マルチクラウド環境への対応
Google CloudもOps エージェントを提供しており、これをAWSやAzureのVMにインストールすることで、Cloud MonitoringやCloud Loggingでの一元管理が可能になります。これにより、プラットフォームをまたいだオブザーバビリティ(可観測性)を確保し、AIOpsの分析対象を広げることができます。
【実例】ユースケース別・最適な監視ハブの選び方
理論上、どのプラットフォームも他クラウドを監視できますが、結局どれを選べば良いのでしょうか。ここでは代表的なユースケースを複数挙げ、それぞれに最適な監視ハブとその理由を解説します。
要望 | 最適な監視ハブ | 理由 |
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AWSが中心で、既存のスキルや資産を活かしたい | Amazon CloudWatch | 主力ワークロードがAWSにある場合、エンジニアの既存スキルを最も活かせます。 AWSサービスとの親和性が圧倒的に高く、CloudWatch Agentにより他クラウドの基本的な監視もカバーできるため、学習コストを抑えつつマルチクラウド監視を始められます。 |
オンプレミスとクラウドが混在し、管理を一元化したい | Azure Monitor + Azure Arc | Azure Arcは、オンプレミスや他クラウドのサーバーをAzureネイティブリソースのように扱える唯一無二の機能を提供します。 インフラの「管理」と「監視」をAzure Portalに集約し、ガバナンスを効かせたい場合に最も強力な選択肢です。 |
サービスの信頼性を最重要視し、SRE文化を推進したい | Google Cloud Operations Suite | GoogleのSREプラクティスが色濃く反映されており、プラットフォームを横断してSLO(サービスレベル目標)を定義・監視する機能は頭一つ抜けています。 サービス中心の高度な信頼性管理を目指す組織に最適です。 |
コストを最優先し、データ転送料金を抑制したい | データ量が最大のクラウド | マルチクラウド監視の隠れたコストは、他クラウドから監視ハブへのデータ転送料金です。 データが最も多く発生するクラウドを監視ハブにすることで、高額になりがちな外部へのデータ送信(Egress)コストを最小限に抑えられます。まずはコストシミュレーションを行うことが賢明です。 |
マイクロサービスのパフォーマンス分析を重視したい | Azure Monitor + Application Insights | Application Insightsは、多様な言語に対応した自動計装と、サービス間の依存関係を自動で描画する「アプリケーションマップ」機能が非常に強力です。 コードへの変更を最小限に抑えながら、マイクロサービス環境の複雑なボトルネックを素早く特定したい場合に優れています。 |
Kubernetes中心のコンテナ戦略を推進している | Google Cloud Operations Suite (特にGKE中心の場合) | Kubernetesの生みの親であるGoogleのGKEは、運用管理の自動化が進んでおり、Operations Suiteとの統合もスムーズです。 特にGKEを複数クラスタ利用している環境では、ネイティブな連携によるオブザーバビリティの確保が容易です。Azure Arc for Kubernetesも強力な対抗馬であり、多様な環境のクラスタ管理をAzureに寄せたい場合に適しています。 |
まとめ
AWS CloudWatch, Azure Monitor, Google Cloud Operations Suiteは、それぞれ異なる強みを持ちつつも、いずれもマルチクラウド環境に対応した強力なAIOps機能を提供しています。どのツールが絶対的に優れているということではなく、あなたの組織の状況と目的に合わせて選ぶことが重要です。
この記事が、あなたの会社に最適な監視基盤を選択する一助となれば幸いです。まずは、現在最も利用しているクラウドのAIOps機能を試してみることから始めてはいかがでしょうか。
例えば、AWSであればいくつかの主要メトリクスにAnomaly Detectionを設定してみる、といった小さな一歩が、運用の未来を大きく変えるきっかけになるはずです。ぜひその一歩を踏み出してみてください。