AWS保守の特徴や注意点とは? AWS保守の基礎知識を徹底解説!
この記事は約14分で読めます。
「AWSは導入したけれど、運用・保守となると、何から手をつければいいのか…」
そんな悩みを抱えるIT担当者の皆さん、この記事が力になります。AWSの保守業務では、従来のオンプレミス環境とは異なるクラウドならではの特性を理解し、その利点を最大限に引き出すことが鍵となります。本記事は、AWS保守の基礎から実践的な知識・ノウハウ、具体的な事例、将来の展望まで解説していきます。
AWSの保守業務はオンプレミス環境と何が異なるのか
AWSなどのクラウドサービスにより、企業は従来型のオンプレミス環境から脱却し、柔軟かつスケーラブルなITインフラストラクチャを手に入れました。しかし、保守運用という観点では、従来とは異なるアプローチが必要です。
項目 | オンプレミス | AWS |
インフラ管理 | 物理サーバーの管理が必要 現場作業が多い | 仮想サーバーによる管理 リモート操作可能 |
スケーラビリティ | ハードウェアの追加が必要 時間とコスト高 | リソースの即時追加が可能 柔軟性が高い |
コスト | 固定コストが多く設備投資が必要 | 使用量に応じた従量課金 初期費用低 |
障害対応 | 物理的な対応が必要 復旧に時間がかかる | 自動化された切り替えが可能 迅速な復旧 |
セキュリティ | 自社で全て管理と対策を実施 | AWSのセキュリティサービスを活用可能 |
運用効率 | 手動作業が多く、労力と時間を要する | 自動化ツールの利用で効率的な運用が可能 |
サーバー障害対応
オンプレミス環境では、サーバーに障害が発生した場合、担当者がデータセンターに駆けつけ、物理的にサーバーの交換や復旧作業を行う必要がありました。時には、深夜や休日に呼び出されることもあり、エンジニアにとって大きな負担となっていました。
一方、AWSでは、サーバーは仮想化されており、物理的な障害はAWS側で対応されます。ユーザーは、仮想サーバーであるEC2インスタンスの状態を監視し、障害発生時には、可能な限り迅速に新しいインスタンスに切り替える、といった対応を行うことになります。
もちろん、AWS環境だからといって、すべての障害が自動的に復旧するわけではありません。例えば、アプリケーションの不具合や設定ミスなどが原因で発生する障害については、ユーザー自身で対応する必要があります。
重要なのは、AWSが提供する様々な監視サービスや自動復旧機能を効果的に活用し、障害発生時の影響を最小限に抑えることです。例えば、CloudWatchを活用すれば、CPU使用率やネットワークトラフィックなどのメトリクスを監視し、異常値を検知した場合にアラートを通知するように設定できます。さらに、Auto Scalingと組み合わせることで、障害発生時に自動的に新しいインスタンスを起動し、サービスを継続することも可能です。
システム拡張性
システムの拡張性という点においても、オンプレミス環境とAWS環境では大きな違いがあります。従来のオンプレミス環境では、システムの規模を拡張する場合、新たなサーバーの購入・設置からネットワークの再構成まで、多大な時間とコストを要しました。場合によっては、データセンターに新たなスペースを確保する必要もあり、拡張計画は容易ではありませんでした。
しかし、AWSでは、必要なリソースを必要な時に必要なだけ追加できるため、ビジネスの成長スピードに合わせて柔軟かつ迅速にシステムをスケールアップできます。EC2インスタンスであれば、数クリックの操作で、CPUやメモリなどのスペックを強化したり、台数を増やしたりすることが可能です。
また、AWSでは、データベースや負荷分散装置など、様々なシステム構成要素がマネージドサービスとして提供されています。これらのサービスを活用することで、ユーザーは、インフラストラクチャの構築・運用管理に手間をかけることなく、必要な機能をすぐに利用開始できます。
例えば、Amazon RDSを利用すれば、MySQLやPostgreSQLなどのリレーショナルデータベースを、わずか数分で構築し、運用を開始できます。また、データベースのバックアップやソフトウェアのアップデートなどの運用タスクも、AWS側で自動的に行われるため、ユーザーの運用負荷を大幅に軽減できます。
このように、AWSは、従来のオンプレミス環境では考えられなかったような柔軟性と拡張性を備えています。ただし、その利点を最大限に活かすためには、AWSの特性を正しく理解し、適切な設計・運用を行う必要があります。
責任共有モデル
AWSでは、「責任共有モデル」という考え方が採用されています。これは、AWSとユーザーそれぞれが、セキュリティや運用に関する責任を分担するというものです。AWSは、データセンターの物理的なセキュリティや、ネットワークインフラストラクチャの保護、サービスを支えるハードウェアやソフトウェアの可用性など、「Security of the Cloud(クラウドそのもののセキュリティ)」に責任を負います。一方、ユーザーは、OSやアプリケーション、データといった部分のセキュリティ、そしてアクセス管理など、「Security in the Cloud(クラウド上でのセキュリティ)」に責任を持つ必要があります。
例えば、EC2インスタンスに脆弱性のあるアプリケーションを配置した場合、AWSはその責任を負いません。ユーザー自身が適切なセキュリティ対策を講じる必要があります。具体的には、セキュリティグループやネットワークACLによるアクセス制御、OSやアプリケーションのセキュリティパッチ適用、データの暗号化などが挙げられます。また、IAM(Identity and Access Management)を利用して、ユーザーやアプリケーションに適切な権限を付与することも重要です。
AWSは豊富なセキュリティサービスを提供していますから、ユーザー側が責任を持ってセキュリティ対策を実施することで、安全なAWS環境を構築・運用していくことができます。
自動化と豊富なマネージドサービス
自動化は日々のタスクを効率化するための強力な手段です。AWSでは、プロビジョニング、設定変更、ソフトウェアアップデートなど、従来手作業で行っていた多くのタスクを自動化できます。さらに、AWSはデータベース、機械学習、コンテナオーケストレーションなど、さまざまな分野で豊富なマネージドサービスを提供しています。
例えば、OSやソフトウェアのパッチ適用、設定変更といった定型的な運用タスクは、AWS Systems Manager を使用することで自動化できます。また、AWS CloudFormationやTerraformなどのIaC (Infrastructure as Code) ツールを活用すれば、インフラストラクチャの構築・変更をコードで管理できるため、作業の効率化、再現性の向上、人的ミスの削減といった効果が期待できます。
さらに、Amazon RDSやAmazon DynamoDBなどのマネージドサービスを利用すれば、データベースソフトウェアのインストールやパッチ適用、バックアップ・リストアなどの運用タスクをAWSに任せることができるため、運用負荷を大幅に軽減し、本来の業務であるアプリケーション開発やビジネスの成長に集中することができます。
クラウドの落とし穴とは? AWS保守における注意点
AWS保守は、その利便性の裏側で、いくつかの注意点が存在します。
注意点①:クラウドであるがゆえのセキュリティリスク
クラウド環境では、インターネットを介して世界中からアクセスが可能になるため、従来のオンプレミス環境よりも不正アクセスのリスクが高まります。また、複数のユーザーが同じリソースを共有するため、設定ミスや誤操作による情報漏洩のリスクも無視できません。
これらのリスクに対処するためには、多層防御の考え方に基づいたセキュリティ対策が不可欠です。IAM(Identity and Access Management)を活用し、ユーザーやアプリケーションに必要最小限のアクセス権限のみを許可することで、不正アクセスによる被害を最小限に抑えることができます。さらに、セキュリティグループとネットワークACLを組み合わせることで、多層的なファイアウォールを構築し、許可された通信のみを通過させることができます。データの暗号化も重要です。保存時および転送時のデータ暗号化を行い、万が一情報漏洩が発生した場合でも、データの内容が保護されるように対策しましょう。OSやアプリケーションの脆弱性管理も怠ってはいけません。定期的なスキャンと迅速なパッチ適用により、セキュリティホールを突かれるリスクを低減します。
注意点②:従量課金制という落とし穴
AWSは従量課金制を採用しており、使った分だけ支払うという柔軟性が大きなメリットがあります。一方、リソースの利用状況を適切に管理しなければ、コストが予想以上に膨らんでしまうリスクをはらんでいます。クラウドのリソースが非常にスケーラブルであり、簡単にリソースを追加できるがゆえの落とし穴と言えるでしょう。
コスト最適化のためには、不要なリソースは停止し、適切なインスタンスタイプを選択する、ストレージサービスの階層を適切に使い分けるなど、常に利用状況を把握し、無駄を省く意識を持つことが重要です。AWS Cost ExplorerやAWS Budgetsなどのコスト管理ツールを活用し、コストの可視化と予算管理を行うことも効果的です。
注意点③:可用性とセキュリティのバランス
クラウド環境では、可用性とセキュリティはトレードオフの関係にあります。セキュリティ対策を強化しすぎると、システムの運用が複雑になり、可用性が低下する可能性があります。一方、可用性を重視しすぎると、セキュリティが脆弱になり、情報漏洩などのリスクが高まります。
最適なバランスを見つけるためには、可用性設計とセキュリティ設計を両立させる必要があります。マルチAZ(Availability Zone)や冗長化構成などを採用し、単一障害点の発生を防ぐことで、システム全体の可用性を高めましょう。その一方で、セキュリティ対策も怠らず、適切なアクセス制御やデータ保護などを実施します。継続的な監視と改善も重要です。システムの稼働状況やセキュリティログなどを監視し、問題発生時には迅速に対応することで、可用性とセキュリティの両立を図ることができます。
AWS保守を成功に導くポイント
AWS環境を安定運用し、ビジネスの成長を支え続けるためには、ただ漫然と日々の業務をこなすのではなく、戦略的な視点を持ってAWS保守に取り組むことが重要です。ここでは、AWS保守を成功に導くための4つの重要な視点を軸に、具体的な取り組みやポイントを解説していきます。
運用体制の整備
まず、AWS環境を円滑に運用していくためには、日々の運用業務を標準化し、担当者全員が同じレベルで業務を遂行できる体制を構築することが重要です。そのためには、運用手順書の作成は欠かせません。例えば、「EC2インスタンスの起動・停止手順」「セキュリティグループ変更手順」「CloudWatchアラーム設定手順」など、AWS環境の運用で頻繁に発生する作業を手順書としてまとめることで、担当者の習熟度に依存しない安定した運用体制を構築できます。
さらに、AWS CloudFormationやTerraformといったIaC(Infrastructure as Code)ツールを活用し、インフラストラクチャをコードとして管理することも有効な手段です。これにより、インフラストラクチャの構築・変更作業を自動化できるだけでなく、設定の差異による不具合発生のリスクを抑制し、再現性と一貫性を確保したインフラストラクチャ運用が可能になります。
また、変更管理プロセスを明確化しておくことも重要です。開発環境・本番環境といった環境ごとに変更申請・承認プロセスを整備することで、不用意な設定変更による障害発生を抑制し、安定したシステム運用を実現できます。
監視体制の強化
安定したAWS環境の運用には、問題発生を未然に防ぐための予防的措置と、問題発生時の迅速な対応が不可欠です。そのためには、AWS環境の状態をリアルタイムに把握できる、強固な監視体制を構築する必要があります。
AWSが提供する標準サービスであるAmazon CloudWatchは、AWSリソースのメトリクスをほぼリアルタイムで監視できる強力なツールです。CPU使用率、ネットワークトラフィック、ディスクI/Oなど、様々なメトリクスを監視し、あらかじめ設定したしきい値を超えた場合にアラートを通知するように設定することで、問題の発生を早期に検知し、迅速な対応を可能にします。
また、ログ分析も問題解決の迅速化に役立ちます。アプリケーションログ、データベースログ、AWSサービスのログなどを分析することで、問題の原因究明を効率的に行えます。Amazon CloudWatch LogsやAmazon Athena、Amazon Elasticsearch Serviceなどのログ分析サービスを活用することで、効率的なログ収集・分析環境を構築することが可能です。
さらに、Amazon GuardDutyやAWS Security Hubなどのセキュリティ監視サービスを活用することで、不正アクセスやマルウェア感染などのセキュリティ脅威を早期に検知し、被害の拡大を防止することも重要です。
スキル・知識の向上
AWSは常に進化しており、新しいサービスや機能が頻繁に追加されています。そのため、AWS保守担当者は常に最新の情報をキャッチアップし、スキル・知識を向上させていくことが求められます。
AWS公式ドキュメントは、最新情報や詳細な技術情報が網羅されており、AWSサービスを深く理解する上で非常に有用な情報源です。また、AWSトレーニングを受講することで、実践的な知識やスキルを習得することも可能です。AWS認定資格取得を目指すことは、自身のスキルを客観的に証明するだけでなく、学習のモチベーション維持にも繋がります。
さらに、AWS SummitやAWS re:InventなどのAWSのイベントに参加することで、最新技術動向や先進的な事例を学ぶことも有効です。
AWS保守の外部委託も視野に入れる
AWS環境の運用・保守をすべて自社で行うことが難しい場合や、より専門性の高いスキルが必要な場合には、AWSマネージドサービスプロバイダー(MSP)やAWSコンサルティングパートナーに運用・保守業務を委託することも検討しましょう。
AWSマネージドサービスプロバイダーとは、AWSの関連業務を代行するAWSパートナーを指します。実績のあるパートナー企業により、AWS環境の設計・構築から運用・監視・障害対応に至るまでさまざまなサービスを提供しています。例えば企業の製品ウェブサイトをAWS上に構築した場合などは、MSPにフルマネージドでの運用保守を任せることで、自社の人的リソースを本業に専念させることができます。
AWSコンサルティングパートナーは、幅広いAWSサービスについて高度な技術力を有しており、個別の運用課題に合わせた対応が可能です。例えば自社でEC2の運用保守は行うものの、高度なデータベースの専門性が必要となったため、そのスキルを持つコンサルティングパートナーに一部業務を委託するといったケースが想定されます。
一方で、委託先の選定が重要なポイントとなります。MSPやコンサルパートナー各社の強みや実績、AWS公認スキルの有無などを確認し、自社の要件にフィットするベンダーを慎重に選ぶ必要があります。またコミュニケーションをしっかり取り、セキュリティ対策の適切性も見極めることも重要です。
項目 | 自社運用 | 外部委託 |
費用 | 安価になる可能性がある | 高額になる傾向がある |
コントロール | 自社で最大限にコントロールできる | コントロールが効きにくくなる可能性がある |
専門知識 | 専門知識を持つ人材の確保が必要 | 専門知識を持つ業者に任せられる |
24時間365日対応 | 複数名のエンジニアが必要となり、体制構築が難しい | 24時間365日の監視体制を構築しやすい |
柔軟性 | 自社のニーズに合わせて柔軟に対応できる | 契約内容によっては柔軟な対応が難しい場合がある |
AWS保守を外部委託するメリット
AWSの保守運用業務を外部に委託するメリットは、以下のようなものがあります。
- 自社の人的リソースを本業に集中できる
- 24時間体制の構築や、高度な専門知識が不要になる
- AWSの最新ベストプラクティスに則った適切な運用が可能
- 障害発生時の突発的な対応負荷が軽減される
つまり、専門性の高い運用保守業務を外部に委託することで、自社では本業に専念できるようになるわけです。優秀な人材の確保が難しい中小企業にとっては、大きなメリットと言えるでしょう。
加えて、AWS運用における最新のノウハウやベストプラクティスに精通したベンダーに委託することで、より適切な保守運用が実現できます。クラウドサービスは日々進化を続けているため、最新トレンドをキャッチアップする必要がありますが、それを自社で行うのは現実的に難しい場合もあります。
AWS保守を外部委託するデメリット
一方で、外部委託にはデメリットもあります。大きなものとしては以下が挙げられます。
- 委託費用の発生によるコストアップ
- 社内にAWSの専門知識が蓄積されづらくなる
- 運用ノウハウがベンダーに収束し、ベンダーロックインが発生する
AWSのマネージドサービスは安価ですが、人的サービスを多数活用すればコスト高になる傾向にあります。中小企業にとっては、費用対効果をきちんと見極める必要があります。
また、外部委託が進めば進むほど、社内のAWS運用ノウハウが希薄化し、ベンダーへの依存度が高くなっていく恐れがあります。ベンダー離れのコストは軽視できません。
そのため、一般的には基本的な運用レイヤーだけ外部に委託し、アプリケーションなどのコア領域は内製化するハイブリッド形態が多く見られます。安全性とコスト、自社のリソース状況を見極めた上で、適切な委託範囲を定める必要があります。
まとめ
AWS保守は容易ではありませんが、適切な知識と戦略を持って取り組むことで、AWSの真価を引き出し、ビジネスの成長を大きく加速させることができます。この記事が、読者の皆様のAWS運用を成功に導く一助となれば幸いです。