
今さら聞けない!クラウドデータベースの監視方法、ツールの選定ポイント、有効活用
クラウドを利用する企業にとって、データベースはシステムの基盤となる重要な存在です。しかし、クラウドはオンプレミスと異なる特性を持つため、データベースの管理・監視方法に不安をお持ちではないでしょうか。
本記事では、クラウドデータベースの重要性と監視の目的、監視ツールの選び方、効果的な監視方法について解説します。三大クラウドであるAWS、Azure、Google Cloudの監視ポイントについてもまとめているので、クラウドデータベースの管理にお悩みの方はぜひ参考にしてください。
クラウドデータベースの重要性
クラウドデータベースの活用は、企業の競争力を向上させるための重要な要素です。クラウドは、これまでのオンプレミスでは困難と思われたデータの一元管理を可能にし、業務プロセスの自動化を促進します。たとえば、CRMやERP、社内システムなどのデータを統合することで、個別に実施していた作業が自動化され、人的ミスの削減や業務効率の向上につながります。
また、クラウドのビッグデータは、企業の迅速な意思決定に有効です。クラウドデータベースは、管理者や従業員がいつでも必要な情報にアクセスでき、リアルタイムでデータ分析を行えます。これにより、市場のトレンドや競合他社の動向を素早く把握でき、戦略的な意思決定も可能です。
クラウドデータベース監視の基本

ここでは、クラウドデータベースを監視する目的と、監視項目となるメトリクスの重要性について解説します。
クラウドデータベースを監視する目的
クラウド運用において、データベースの監視が必要な理由は、セキュリティとパフォーマンス、可用性を確保するためです。クラウドサービスは、各プロバイダーの管理範囲が広く、利用者のコントロールできる範囲は一部に限られます。そのため、ユーザーは自ら監視を行い、セキュリティやプライバシーに関わる懸念、パフォーマンスの問題に対して素早く対処する必要があります。
たとえば、パフォーマンスの監視では、クエリの実行時間やリソース使用状況の把握が重要です。特に、クラウドはインターネット経由でアクセスが集中する場合もあり、小さな問題がシステム全体に影響を及ぼす可能性があります。さらに、オンプレミスに比べて不正アクセスやデータ流出のリスクも生じやすいため、異常なアクセスパターンやマルウェアの兆候を早期に検知する仕組みも必要です。
主要な監視メトリクス
クラウドデータベースの監視では、いくつかの重要なメトリクスがあります。以下のようなメトリクスを組み合わせることで、データベース全体の把握が容易になり、問題の早期発見と対処が可能です。また、これらのメトリクスはデータベースの最適化に役立つ情報を提供し、効率的なクラウド運用を実現できます。
パフォーマンス
- トランザクション数
- CPU使用率、メモリ使用率
- ディスクI/O
可用性
- アクセス時間(利用可能な時間の割合)
- 接続失敗数
- 復旧時間
セキュリティ
- 不正アクセス施行数
- 認証エラー数
- データ変更ログ
主要なクラウドデータベースサービスの監視方法

クラウドデータベースを監視する際、まず取り組みたいのが各プロバイダーが提供するサービスの活用です。AWS、GoogleCloud、azureは、それぞれ独自のサービスが提供されており、これらを活用することで監視業務の効率化を図れます。
Amazon RDSの監視
Amazon RDSの監視では、AmazonCloudWatchとAmazon RDS Performance Insightsが活用できます。
AmazonCloudWatch
AmazonCloudWatchは、データベースを含め、AWS環境を総合的に監視するサービスです。各種リソースやアプリケーションからメトリクスやログを収集し、ユーザーが直感的に把握できるグラフや数値で可視化されます。メトリクスは通常5分間隔で取得されますが、Amazon RDSでは1秒間隔の拡張モニタリングが使用でき、リアルタイムな問題検出が可能です。
Amazon RDS Performance Insights
Amazon RDS Performance Insightsは、パフォーマンスやデータベースの問題解決に役立つサービスです。高負荷なクエリや遅延クエリ、処理待ちセッション数などがダッシュボードに可視化され、問題のSQLをランキング形式で確認できます。SQLはそのままテキストへの展開や実行計画の分析が可能なため、迅速なパフォーマンス改善につながります。
Google Cloud SQLの監視
Google Cloud SQLの監視では、Google Cloud MonitoringとGoogle Cloud SQL Insightsが活用できます。
Google Cloud Monitoring
Google Cloud Monitoringは、Google Cloudのアプリケーションやパフォーマンス、可用性をリアルタイムで監視するためのサービスです。異なる環境をまとめて監視することができ、他のクラウドやオンプレミスから収集した指標、イベント、メタデータをまとめて管理できます。さらに、ユーザーが独自のカスタムメトリクスを定義できるため、企業のニーズに合わせた監視が可能です。
Google Cloud SQL Insights
Google Cloud SQL Insightsは、SQLインスタンスのパフォーマンスを監視し、高負荷のクエリや遅延クエリを特定できるサービスです。データベースやユーザー、クライアント アドレスごとにパフォーマンスの問題を検出し、その根本原因を探るための詳細な診断情報を提供してくれます。また、ダッシュボードはドラッグ&ドロップで簡単にカスタマイズでき、既存のアプリケーションモニタリングツールとの統合が可能です。
Microsoft Azure SQL Databaseの監視
Microsoft Azure SQL Databaseの監視では、Azure MonitorとAzure SQL Analyticsが活用できます。
Azure Monitor
Azure Monitoは、クラウド環境やオンプレミス環境、ハイブリッド環境などを包括的に監視・分析できるサービスです。異常を検知した際はリアルタイムでアラートを発信し、問題解決のためのアクションをトリガーする機能があります。また、Azure関数やPowerBIなどと統合して自動化フローが構築しやすく、システムの健全性確保に役立ちます。
Azure SQL Analytics
Azure SQL Analyticsは、クエリの実行計画や待機時間を解析し、ボトルネックの特定やクエリの最適化を支援するサービスです。過去のパフォーマンスデータからパターン・トレンドを分析し、原因の特定や将来の問題を予測することができます。また、リソースのスケール管理と最適化を自動で実行できるため、運用管理の負担を減らせます。
監視ツールの選定ポイント

クラウドデータベースの監視において、ツールの選定は極めて重要です。ここでは、監視ツールを比較する際のポイントを2つ紹介します。
機能と要件の明確化
監視ツールを選定する際、最も重要なポイントは機能と要件の明確化です。
たとえば、機能の充実度やアラートの柔軟性、データ収集・分析の深度は、監視業務の効率性に大きく関わります。特に、異なる環境を持つ企業にとっては、統合監視や自動化、API連携への対応も重要です。これらの要件を明確にすることで、自社に最適なツールの選定が可能となり、クラウドデータベースの安定運用が実現できます。
オープンソースツールvs商用ツール
プロバイダーとは別の選択肢として挙げられるのが、オープンソースツールと商用ツールです。これらは、クラウドサービスとは異なる提供元から配布され、コストや機能に大きな違いがあります。
オープンソースは、ソースコードが公開された無償のソフトウェアのことで、誰でも再配布や改変が可能です。コストが抑えられるだけでなく、カスタマイズ性にも優れ、企業独自の要件や監視項目に対応できます。ただし、導入や設定のサポートが受けられないため、適切に運用するには一定以上のスキルが必要です。
一方、商用ツールは、監視機能とサポートを有償で提供してくれるサービスです。導入から運用、トラブル発生時に至るまで、専用チームによってサポートが受けられるため、はじめての企業でも安心して利用できます。また、商用ツールは、多機能且つ高機能であることが多く、幅広いニーズに応えられるメリットもあります。ただし、ライセンス費用やサブスクリプション料金が高額になるため、長期的なコストの試算も重要です。
クラウドデータベースの効果的な監視手法

クラウドデータベースの安定性を維持するためには、監視の際に多角的なアプローチが必要です。ここでは、監視精度を高めるための4つのポイントを解説します。
- パフォーマンス監視
- アラート設定
- セキュリティ監視
- ログとデータの解析
パフォーマンス監視
クラウドデータベースのパフォーマンス監視では、リソース使用率とモニタリング、計測が重要です。
リソース使用率の監視
リソース使用率は、CPUやメモリ、ディスクI/Oなどの利用状況を表す指標で、データベースの健全性に関わる要素です。これらのメトリクスをリアルタイムで取得することで、過負荷の兆候をいち早く発見し、適切な対処が行えます。
例えば、CPU使用率が高負荷になった場合は、クエリの最適化やスケーリングの検討が必要です。メモリ不足が発生している場合は、キャッシュ設定の見直しを行うことで、パフォーマンスの改善が期待できます。また、ディスクI/Oが頻繁に発生しているのであれば、ストレージの増設やネットワーク帯域を拡張するなどが可能です。
クエリパフォーマンスのモニタリング
データベースの監視において、クエリパフォーマンスのモニタリングは不可欠です。クエリは、データベースの重要部分であるため、問題の早期発見・対処がパフォーマンス向上につながります。
たとえば、実行時間や実行頻度のモニタリングでは、パフォーマンスに影響を与える可能性があるボトルネックの特定が可能です。クエリが過度にリソースを消費している場合、インデックスの見直しやSQLチューニングでパフォーマンスの改善が見込めます。また、データアクセスの問題であるなら、クエリキャッシュや負荷分散の実装も効果的です。
レイテンシとスループットの測定
パフォーマンスの管理項目として、レイテンシとスループットの把握も重要です。レイテンシは、データベースがクエリに応答するまでの時間を示すもので、この数値が低くなるほどユーザー体験が向上します。一方、スループットは、一定時間内に処理できるデータ量を示す指標のことで、高スループットな環境だと一度に大量のデータ処理が可能です。
この2つが重要な理由は、パフォーマンスボトルネックの特定に役立つためです。たとえば、レイテンシが高い場合は、SQLやリソースの問題が考えられ、クエリの最適化やデータベースのスケールアウトなどの対策が講じられます。逆に、レイテンシが低く、スループットが高い状態であれば、パフォーマンスに問題なく動作していることを表します。
アラート設定
クラウドデータベースの異常を素早く検知するためには、アラート設定の活用が不可欠です。具体的なアラート条件としては以下のような項目が挙げられ、これらを上手く組み合わせることで重大なインシデントを未然に防げます。
- CPU使用率
- メモリ使用率
- ディスクI/O
- レイテンシ
- スループット
- エラーレート
- データベース接続数
ただし、アラート条件はただ増やせば良いというものではなく、自社の環境に合わせた使い分けが重要です。無意味な通知は監視業務の過負荷を招くだけでなく、重要なアラートを見逃す可能性があります。
セキュリティ監視
クラウドデータベースのセキュリティ監視を効果的に行うためには、自動化とAI技術の活用がポイントです。
たとえば、自動アラート機能は、異常な動作や潜在的なセキュリティ脅威をリアルタイムで検知し、即座に管理者への通知が可能です。これに自動応答機能を組み合わせることで、事前に定義されたアクションが自動実行され、インシデントの影響を最小限に留められます。
また、AI技術はデータアクセスパターンを分析し、通常とは異なる動きを素早く察知できます。過去データを学習することで、将来起こりうる脅威を予測でき、潜在的なリスクの抑止につながります。
ログとデータの解析
クラウドデータベースの監視では、ログデータの収集と解析も重要です。
ログデータは、アクセス状況や各種イベントを詳細まで記録し、異常値の検出やパフォーマンスの改善に役立つ情報を取得可能です。各プロバイダーが提供するツールやオープンソースツール、商用ツールなどを利用することで、ログが収集しやすくなり、パターン分析や未来予測に利用できます。
その際、ログの分析に役立つのがカスタムされたダッシュボードです。ダッシュボードは、異なるメトリクスを一元的に管理し、フィルタリングを通じて、重要なエラーログやイベントなどを視覚的に表現してくれます。これにより、監視業務を効率的かつ効果的に行えるようになり、データベースの信頼性向上に寄与します。
クラウドデータベースの有効活用に向けた3つのポイント

クラウドデータベースのパフォーマンスを向上させるためには、最適化に向けた取り組みも重要です。ここでは、クラウドデータベースの有効活用に向けた3つのポイントを解説します。
- 自動化とスケーリング
- 異常時の対応とトラブルシューティング
- 継続的な改善と最適化
自動化とスケーリング
クラウドデータベースのパフォーマンスを維持する上で、自動化とスケーリングは不可欠です。自動スケーリングは、トラフィックの増減に応じてリソースを調整し、ユーザーエクスペリエンスの向上に役立ちます。
具体的なスケーリング戦略としては、垂直スケーリングと水平スケーリングの2つがあります。垂直スケーリングは、CPUやメモリなどのスペックを引き上げ、短期的な需要の増加に対処する方法です。
一方、水平スケーリングは、サーバーの台数を増減させ、それぞれのサーバーに負荷を分散することができます。これらを、計画的に使い分けることで、コスト効率とパフォーマンスが向上し、クラウドデータベースの安定性を維持できます。
異常時の対応とトラブルシューティング
異常時の対応やトラブルシューティングは、データベースのダウンタイムに影響する要素です。これらを事前に整理することで、問題を素早く解決でき、システムの可用性を高められます。
異常時の対応で、まず考えなければならないのが、役割分担と権限設定です。対応チームには定期的な訓練とシミュレーションを実施し、対応能力をより引き上げる必要があります。
また、トラブルシューティングでは、ランブック(対応手順書)を作成するなどして、作業を標準化することが重要です。これらを事前に準備すれば、適切且つ迅速な対応が可能となり、サービスを安定的に供給し続けられます。
継続的な改善と最適化
クラウドデータベースをモニタリングする際、継続的な改善と最適化が不可欠です。システムのパフォーマンスや可用性は常に変動するため、新たなボトルネックや問題に対処できる仕組みが求められます。
その際、押さえておきたいのがフィードバックループの概念です。フィードバックループとは、結果(データ)から得られた評価を元に改善を繰り返すプロセスのことで、その後の結果をよりよいものに転換できます。具体的には、データの収集、分析、対応策の実施、再評価のプロセスを継続的に行い、システムの信頼性向上を目指す手法です。
まとめ
クラウドデータベースの監視は、システムの健全性とパフォーマンス維持において不可欠です。自社の環境に適した監視ツールを用いることで、メトリクスやログの収集が可能となり、問題の早期発見や分析、対策に活用できます。
その際、監視精度を高めるためには、パフォーマンス監視、アラート監視、セキュリティ監視、ログとデータ解析の4つが重要です。
多角的なアプローチによって潜在的な予兆が検知され、問題へ発展する前に対策を講じられます。また、継続的な改善と最適化を繰り返すことで、クラウド環境の変化にも対応でき、システムの信頼性と可用性の向上が可能です。