2025年のトップ10戦略的テクノロジートレンドとは?
加速的に技術が進化する中、2025年もまた企業や私たちの日常生活に大きな変革をもたらす年となると思われます。IT領域の調査会社であるガートナーより、企業が注目すべき2025年のトップ10戦略的テクノロジートレンドが発表されています。これらのトレンドは、AIの進化から新しいセキュリティ対策まで多岐にわたります。
この記事では、注目される最新のテクノロジーについてご紹介します。
①エージェント型AI
AI技術が進化する中で、人間の作業をサポートする「エージェント型AI」に注目が集まっています。
エージェント型AIシステムは、ユーザーが設定した目標を達成するために自律的に計画を立て、行動します。エージェント型AIは、人間の作業を補助・向上させる仮想労働力として、企業の業務のあり方を変える可能性があります。
ガートナーによれば、2024年から2028年までに少なくとも15%の日常業務の決定がエージェント型AIによって自律的に行われるようになると予測されています。企業の多くの業務はAIにより置き換わっていくと想定されます。
エージェント型AIの特徴は、目標主導型であるという点です。具体的な指示を出すのではなく、目標を提示することでAIが具体的に必要となる作業を想定します。これにより、多様なタスクを遂行できる、柔軟で適応力の高いソフトウェアシステムが実現されます。
エージェント型AIの技術を実現するために、企業およびベンダーは堅ろうで安全、かつ信頼できる仕組みを開発しているところです。エージェント型AIが実用化されると、組織全体の生産性向上を目指すCIOやシステム部門にとって有益である可能性があります。
②AIガバナンスプラットフォーム
AIの活用が進む中で、AI利用におけるガバナンスの強化についても検討が進められています。2024年にはEU AI規制法が施行されるなど、AIガバナンスに関する法規制の強化も進んでいるところです。
※関連記事: 2024年8月発効 EU AI規制法への対応のために企業は何をするべきか?
このような中、AIのガバナンスを強化するためのAIガバナンスプラットフォームが検討されています。AIガバナンスプラットフォームは、リスク管理やセキュリティ管理フレームワークの一部として、組織がAIシステムの法規制対応や倫理的な観点での対応、運用上のパフォーマンスを管理するために利用されるものです。AIの製造・利用における責任が求められる中、AIガバナンスプラットフォームはAIの利用に関するポリシーの作成や管理を定義しつつ、各AIシステムへ適用する機能を提供します。これにより、AIシステムの説明性と透明性の向上を図ります。
ガートナーは、2028年までに包括的なAIガバナンスプラットフォームを導入する組織では、そのようなシステムを導入していない組織と比較して、AI関連の倫理的インシデントが40%減少すると予測しています。AIに関する規制が進む中、企業においてはAIのガバナンス強化の取り組みが求められています。AIガバナンスプラットフォームは、このような環境下において有効な選択肢となるでしょう。
③偽情報セキュリティ
「偽情報(ディスインフォメーション)」とは、国家もしくは組織による影響工作の一手法であり、虚偽を含んだ情報を拡散することで社会の混乱を引き起こすものです。SNSが一般化した現代において、新たな情報操作方法として世界的に注目されています。IPAでも新たな脅威として特集記事を組んで紹介するなど、偽情報に関する認知度も向上しつつあります※1。
企業を対象とした情報操作に対抗するためには、偽情報セキュリティとして対策が必要です。偽情報セキュリティは、信頼性の確認や整合性の維持、真正性の評価、なりすまし防止、有害情報の追跡を目的とした新しい取り組みです。ガートナーによれば、2028年までに偽情報セキュリティの製品やサービスを導入する企業が現状の5%未満から50%に増えると予測されています。
AIや機械学習ツールの悪用が広がる中、企業への偽情報による攻撃が増加することが予想されます。偽情報を放置すると誤解による評判の失墜など、企業に大きな被害をもたらす可能性があり、注意が必要です。
※参考1:独立行政法人情報処理推進機構「IPA NEWS Vol.67特集 情報操作型サイバー攻撃が世界に拡大 「偽情報」の脅威にどう向き合う?」
④ポスト量子暗号
超高速で計算処理を行える量子コンピューティング技術の発展も進んでいます。量子コンピューティングの進化と共に企業が認識しなければならない注意点として、量子コンピューティングによる暗号解読のリスクが挙げられます。従来の暗号強度では、高速に計算処理を行える量子コンピューティングにより解読されるリスクがあるのです。
今後量子コンピューティングの開発が進むにつれ、広く使用されている従来の暗号化方式のいくつかの種類は終焉を迎えると予想されています。ガートナーは、2029年までに量子コンピューティングの進歩により、従来の非対称暗号のほとんどが安全に使用できなくなるという予測を発表しています。
企業は機密情報や秘密情報の保護を行うために、暗号化方式の切り替えを検討する必要があります。一方で、暗号化方式の変更は容易ではありません。長いリードタイムを確保し、取り組みを進める必要があります。
⑤アンビエント・インビジブル・インテリジェンス
アンビエント・インビジブル・インテリジェンスは、日常生活の中にコンピューター技術を埋め込むことを指します。この技術は超低コストの小型スマートタグおよびセンサーにより実現され、広範囲にわたる人やモノの追跡・検知を手ごろな価格で提供します。
このようなアンビエント・インビジブル・インテリジェンスは、現在流通・小売りの現場で利用されているRFID(Radio Frequency Identification:無線周波数識別)の代替としても検討できます。RFIDは有用な技術ではありますが、タグのコストが高い点が課題です。アンビエント・インビジブル・インテリジェンスにより、さらに安価に商品の追跡が実現できます。
ガートナーでは、2027年までにアンビエント・インビジブル・インテリジェンスの初期事例が登場すると予想しています。たとえば、小売業における在庫確認や生鮮品の物流など、この技術が活用できる領域はさまざま存在します。アンビエント・インビジブル・インテリジェンスにより、低コストでリアルタイムの商品の追跡と検知が可能となり、可視性および効率性の向上が実現できると見込まれています。
⑥エネルギー効率の高いコンピューティング
世界的に環境負荷低減の取り組みが求められる中、コンピューターが消費する電力やエネルギーの削減や高効率化も求められています。日本においても、資源エネルギー庁の旗振りによりデータセンターに対するベンチマーク制度の導入やエネルギーの効率利用の取り組みが進められています※2。
IT組織は、エネルギー消費量についても考慮が必要です。特に、大量のGPUリソースを利用するAIのトレーニングやシミュレーション、最適化など、計算集約型アプリケーションは多くのエネルギーを消費します。結果として、組織の二酸化炭素排出量を増加させる要因となります。
このような問題に対応するために、新たな技術の開発も進んでいます。大規模な並列演算処理を行う「全光コンピューティング」やアナログ回路を使って人間のニューロンを模倣する「ニューロモルフィックコンピューティング」、独自の設計と専用のハードウェアにより従来品よりAI処理性能を大幅に向上させる「AIアクセラレーター」などが注目される新技術です。これらの技術は、AIや最適化といった特殊目的のタスク向けに設計されており、エネルギー消費量の大幅な削減に寄与します。
※参考2:資源エネルギー庁「データセンター業のベンチマーク制度 制度の概要」
⑦ハイブリッドなコンピューティング
上述した量子コンピューティングや全光コンピューティング、ニューロモルフィックコンピューティングなどに加え、特定用途向け集積回路(ASIC)など、新しいコンピューティングパラダイムが次々と登場しています。これらを併用して課題を解決するハイブリッドなコンピューティングに注目が集まっています。
ハイブリッドなコンピューティングでは、これらの新しい技術に加え、ストレージやネットワークを統合し、複雑なコンピューティング課題を解決します。特定用途向けに活用できるコンピューティング技術とその他の一般的なCPU・GPU、ストレージなどを併用することで、AI活用における現在の技術的制約を超えてコンピューティング処理を行えるようにします。
従来、計算量の問題やコストの問題で実現できなかった仕組みも、ハイブリッドなコンピューティングにより解決できる可能性があります。これまで技術的な制約があったビジネスも、新しいコンピューティング技術により実現できるようになるかもしれません。
⑧空間コンピューティング
空間コンピューティングは、拡張現実(AR)や仮想現実(VR)などのテクノロジーを活用し、物理的な世界にデジタルの要素を統合する技術です。空間コンピューティングにより物理的な体験と仮想的な体験を組み合わせることで、ユーザー体験を新たな段階へと進化させることができます。
空間コンピューティングはビジネスにおける活用も期待されます。たとえば、ワークフローの効率化やコラボレーションの向上などが期待されており、今後5~7年の間に組織の効率性が向上すると見込まれています。
一方で、空間コンピューティングの実現にはハードウェア的な課題があるのも事実です。現在のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)はサイズが大きく、日常的な用途で利用するのは困難です。空間コンピューティングが普及していくためにも、ハードウェアの技術革新が求められています。
ガートナー社の予測によれば、空間コンピューティング市場は2023年の1,100億ドルから2033年までに1.7兆ドルへと成長する見通しです。
⑨多機能型スマート・ロボット
多機能型スマート・ロボットとは、複数のタスクを実行する能力を備えたロボット装置です。従来、製造現場などでは特定の単一タスクを反復的に遂行するよう設計された専用ロボットが利用されてきましたが、多機能型スマート・ロボットにより代替される可能性があります。
多機能型スマート・ロボットは、製造現場のみならず、流通・販売など広い分野での活用が期待されます。たとえば、必要な荷物を自動でピッキングするロボットや、レストランにおいてオーダーに応じて調理を行うロボットなどが考えられます。
これらの革新的なロボットにより、企業の生産性向上や投資利益率の改善が期待されます。多機能型スマート・ロボットは、人間が活動する環境での運用を前提として設計されているため、迅速な導入および容易な拡張が可能です。
ガートナーによれば、2030年までにこのようなロボットと日常的に関わる人々の割合が現在の10%未満から80%に増加すると予測されています。
⑩脳機能強化技術による神経系との融合
脳機能強化技術(Neurological Enhancement)は、脳の活動を読み取り、解読する技術、およびその結果を活用する技術のことです。脳機能強化技術により、人間の認知能力を向上させられる可能性があります。脳機能強化技術は、BBMI(Brain Body Machine Interface)と呼ばれる機械を使用して、人の脳を読み取ります。
脳機能強化技術は人間のスキル向上、次世代のマーケティング、パフォーマンスという3つの領域での応用が期待されています。神経学的強化により人間の認知能力は向上し、小売業では消費者の考えや感情を把握できるようになると想定されます。
ガートナーによれば、職場におけるAIの台頭に伴い、長期的には知識労働者の30%がBBMIのテクノロジーに依存するようになると予測されています。
まとめ
この記事では、ガートナーが年次で公表している「トップ10戦略テクノロジートレンド」の2025年度版についてご紹介しました。各技術はすでに一定の研究開発が進んでいるものであり、今後社会へと実装されていくことが見込まれるものです。これらの技術をいち早く抑えておくことで、自社のビジネスの高度化・効率化を実現できる可能性があります。