クラウドセキュリティ対策:5つの対策とリスク・事例を解説
クラウドは利便性が高く、多くの企業がオンプレミスからの移行を進めています。一方で、リプレイスに伴う設定不足などによりセキュリティに抜け穴が生じてしまう危険性もあります。
本記事では、クラウドセキュリティ対策として押さえておくべき5つのリスクとその対策を紹介するとともに、実際に発生したセキュリティ事故の事例から企業が考えるべき課題について解説します。
クラウドセキュリティとは
クラウドセキュリティとは、クラウド環境における情報資産の機密性、完全性、可用性を確保するための対策のことです。クラウドサービスを利用する企業は、自社の責任においてクラウド上の情報資産を保護する責任があります。
クラウドセキュリティ対策は、単一の対策で万全を期すことはできません。多層防御と呼ばれる、複数の対策を組み合わせて、クラウド環境を保護することが重要です。
クラウドセキュリティで考慮すべき5つのリスクとその対策
ここでは、クラウドセキュリティで特に注意すべき5つのリスクをご紹介します。
- データ漏洩
- サイバー攻撃によるアカウントの乗っ取り
- DDoS攻撃
- 脆弱なAPIやインターフェース
- 内部脅威
これらのリスクに対策を講じることで、クラウドの利便性を安心して活用することができます。
データ漏洩
データ漏洩は、クラウドサービスを利用する上で最も大きなリスクの一つです。
漏洩するデータの対象には個人情報だけでなく、機密性の高いビジネス情報や顧客情報なども含まれる可能性があり、いずれにせよ企業にとって大きな被害をもたらすと言えるでしょう。
データの流出経路としては、外部からのハッキングだけでなく内部の不正行為や誤った情報公開等も含まれますが、本セクションにおいては特にデータの暗号化による不正アクセスへの対策を紹介したいと思います。
データの暗号化
クラウドセキュリティ対策において、データの暗号化は最も基本的な対策の一つです。
データの暗号化は、データを特殊なアルゴリズムを用いて変換し、読み取り不能な状態にする技術です。これにより、仮にデータが盗まれたとしても、暗号鍵がなければデータを読み取ることができないため、情報漏洩を防ぐことができます。
クラウドにおけるデータの暗号化には、大きく分けて以下の2つの方法があります。
ストレージ暗号化 | データをストレージに保存する際に暗号化する方法です。 ストレージ暗号化は、クラウドサービスプロバイダーが提供する機能を利用して、簡単に実装することができます。 |
クライアント側暗号化 | データをクラウドに送信する前にクライアント側で暗号化する方法です。 クライアント側暗号化は、ストレージ暗号化よりもセキュリティが強固ですが、実装が複雑になる場合があります。 |
クラウド環境でデータを暗号化する場合、以下の点に注意する必要があります。
- 使用する暗号化アルゴリズムは、十分な強度を持っている必要があります。一般的には、AES-256やRSAなどのアルゴリズムが推奨されています。
- 暗号鍵については、安全な方法で管理する必要があります。暗号鍵を盗まれた場合、データが復号されてしまう恐れがあります。
- データを暗号化すると、データの処理速度が遅くなる場合があります。クラウドサービスによっては、暗号化されたデータを処理するための追加料金が発生する場合もあります。
データの暗号化は、クラウドセキュリティ対策の基本中の基本です。クラウド環境でデータを扱う場合は、必ずデータの暗号化を検討しましょう。
サイバー攻撃によるアカウントの乗っ取り
アカウントの乗っ取りは、クラウド環境において重大なセキュリティリスクです。攻撃者は、盗んだアカウントを利用して、機密データにアクセスしたり、サービスを悪用したりする可能性があります。
アカウントの乗っ取りは、主に以下のような方法で発生します。
フィッシング攻撃 | 偽のメールやウェブサイトを通じて、ユーザーのIDやパスワードを盗み取る手法です。 |
ブルートフォース攻撃 | 自動化されたツールを使用して、大量のパスワードを試行錯誤して解読する手法です。 |
マルウェア感染 | マルウェアに感染した端末から、IDやパスワードが盗み取られる場合があります。 |
これらの攻撃に対して、今すぐにでもできる対策として多要素認証(MFA)やパスワードポリシーの設定が挙げられます。
多要素認証(MFA)
多要素認証は、パスワードに加えて、プラスアルファの認証要素を使って本人確認を行う認証方法のことです。例えば、パスワードに加えて、スマートフォンに送信されるワンタイムコードを入力するケースや、指紋認証や顔認証などの生体認証を利用するケースなどが挙げられます。
多要素認証は、仮にパスワードが漏洩した場合でも、他の要素により不正アクセスを防ぐことができます。近年、サイバー攻撃は巧妙化しており、パスワード単体の認証では十分なセキュリティ対策とは言えません。
企業や組織においては、多要素認証の導入を積極的に検討し、情報資産の安全性を高めることが重要です。
パスワードポリシーの設定
パスワードポリシーとは、ユーザーが設定するパスワードの強度、使い回しなどを規定するルールのことです。パスワードポリシーの設定にあたっては、以下の点を考慮する必要があります。
- パスワードは、英数字、記号を組み合わせた最低8文字以上の長さにする
- 過去に使用したパスワードの再利用を禁止する。
- 容易に推測されるパスワードの使用を禁止する。
クラウドサービスによっては、デフォルトでパスワードポリシーが設定されている場合がありますが、自社のセキュリティポリシーに合わせて、より厳格なポリシーを設定することが推奨されます。
また、近年ではパスワードポリシーの運用にあたっては、従業員への周知徹底と、定期的な研修などの実施を徹底している企業も多く、2段階認証の導入を推奨するサービスも多くなってきました。
DDoS攻撃
DDoS攻撃は、大量のトラフィックをサーバーに送り込み、サービスを停止させる攻撃です。攻撃者は、多くのコンピュータを乗っ取ってボットネットを構築し、一斉に攻撃を行います。この攻撃は、サービスの停止だけでなく、ネットワークの輻輳や遅延を引き起こす可能性があります。
DDoS保護サービスの利用
DDoS保護サービスは、DDoS攻撃からサーバーを守るためのサービスです。DDoS攻撃の兆候を検知すると、攻撃元のIPアドレスを遮断したり、攻撃トラフィックを吸収したりすることで、サーバーへの負荷を軽減します。
DDoS保護サービスを利用することで、以下のメリットがあります。
- DDoS攻撃からサーバーを守ることができる
- 攻撃を受けた場合でも、サービスの継続性を確保できる
- 攻撃対策にかかる労力を削減できる
導入するDDoS保護サービスを選ぶ際には、以下のポイントを考慮する必要があります。
- 対応可能な攻撃規模
- サービスの信頼性
- 価格
DDoS攻撃は、企業にとって大きな脅威となります。DDoS保護サービスを利用することで、DDoS攻撃からサーバーを守り、サービスの安定運用を実現することができます。
脆弱なAPIやインターフェース
クラウドセキュリティ対策において、脆弱なAPIやインターフェースは大きな脅威となります。これらの脆弱性を利用した不正アクセスやデータ漏洩、サービス停止攻撃などのリスクが存在します。
そのため、定期的な脆弱性診断やパッチ適用、アクセス制御、データ暗号化、セキュリティ監視などの対策が必要です。
脆弱性診断やパッチ適用
クラウド環境のセキュリティ対策において、脆弱性診断やパッチ適用は不可欠です。
定期的な脆弱性診断は、クラウド環境に存在する脆弱性を発見し、対策を講じることで、セキュリティリスクを軽減します。
パッチ適用は、発見された脆弱性に対する修正プログラムを適用することで、攻撃者に悪用される可能性を減らします。
脆弱性診断やパッチ適用によって得られる具体的なメリットは以下の通りです。
- 攻撃の成功率を低下させる
- データ漏洩のリスクを軽減する
- システムの可用性を向上させる
- コンプライアンス違反を回避する
クラウド環境のセキュリティ対策において、脆弱性診断やパッチ適用は不可欠です。定期的な実施と適切な対応によって、セキュリティリスクを軽減し、クラウド環境を安全に運用することができます。
内部脅威
企業にとって、情報セキュリティ上の脅威はさまざまな形をとります。外部からの攻撃者は依然として大きな脅威ですが、内部からの脅威も無視できません。
内部脅威は、悪意のある意図を持つ従業員や元従業員、または単にセキュリティ知識を誤って理解している従業員によって引き起こされる可能性があります。
内部からの脅威に対処するためのアクセス管理やセキュリティ研修の実施は重要な対策です。
アクセス管理
クラウドサービスを利用する際には、データへのアクセスを適切に管理することが重要です。アクセス管理を怠ると、権限のないユーザーが機密情報にアクセスしたり、悪意のある攻撃者がシステムに侵入したりすること考えられます。
そこで、クラウドサービスのアクセス管理には以下の対策が有効です。
アクセス制御リスト(ACL)の設定 | ACLは、ユーザーやグループに対して、特定のリソースへのアクセス権限を設定する仕組みです。ACLを設定することで、誰がどのリソースにアクセスできるかを明確に定義できます。 |
多要素認証(MFA)の導入 | MFAは、パスワードに加えて、別の認証要素(例えば、スマートフォンへのプッシュ通知やワンタイムパスワード)を要求することで、アカウントの不正アクセスを防ぐ仕組みです。 |
特権アカウントの管理 | 特権アカウントは、システム全体へのアクセス権限を持つアカウントです。特権アカウントは、不正アクセスを防ぐために厳重に管理する必要があります。 |
ログの監視と分析 | クラウドサービスのログを監視し、不審なアクセスがないかを確認することが重要です。ログの分析によって、不正アクセスを早期に発見し、被害を最小限に抑えることができます。 |
クラウドサービスのアクセス管理は、セキュリティ対策の基本です。上記のような対策を講じることで、クラウドサービスを安全に利用することができます。
セキュリティ研修の実施
クラウドセキュリティ対策において、重要な要素の一つがセキュリティ研修の実施です。社内のすべての従業員を対象に、クラウドのセキュリティリスクについての理解を深め、安全なクラウド利用方法を学ぶ機会を提供します。
研修では、以下の内容を網羅することが重要です。
- クラウドセキュリティの基本知識
- クラウドサービスの利用に伴うリスク
- 安全なパスワード管理方法
- フィッシング詐欺への対策
- クラウドデータの暗号化
- クラウドサービスの利用規約
- セキュリティインシデント発生時の報告方法
これらの内容を体系的に学ぶことで、従業員のセキュリティ意識を高め、クラウドサービスを安全に利用するための知識とスキルを習得させることができます。
また、セキュリティ研修は定期的に実施することが重要です。技術の進歩や新たな脅威の出現に伴い、セキュリティ知識を常に最新の状態に保つ必要があります。
クラウドセキュリティの重要性と具体的な対策方法を学ぶことで、企業の情報資産を安全に保護することが可能となります。
クラウド環境で発生したセキュリティ事故の事例紹介
クラウドサービスは利便性が高いですが、セキュリティリスクにもさらされます。ここでは、クラウド環境で発生したセキュリティ事故の事例を紹介します。
- 金融サービス会社のデータ漏洩(2019年)
- 大手クラウドデータベースの脆弱性(2021年)
- 大手オンラインストレージサービスの従業員アカウント乗っ取り(2012年)
金融サービス会社のデータ漏洩
2019年に発生した金融サービス会社のデータ漏洩事件では、犯人がクラウド環境の構成ミスにつけこむ形で、AWSサーバーから個人情報を含むデータにアクセスし、1億件以上の顧客の個人情報が流出しました。
この事件の教訓として、クラウド環境の構成を適切に管理し、セキュリティ対策を講じることの重要性が改めて明確化されました。また、攻撃者は常に新しい手法を開発しているため、セキュリティ対策を常に最新の状態に保つ必要があります。
さらに、個人情報の漏洩は、企業にとって大きな損失につながるため、個人情報を適切に保護するための対策を講じることが重要です。
大手クラウドデータベースの脆弱性(2021年)
2021年4月、大手クラウドが提供するデータベースに脆弱性が見つかりました。この脆弱性により、攻撃者はデータベースへ不正アクセスしデータの盗難や改ざんを行いました。
この脆弱性は、某データベースの認証メカニズムに存在していました。攻撃者は、特権アカウントを乗っ取ることでデータベースにアクセスし、機密情報を盗み出したり、データベースの内容を改ざんしたりすることが可能となっていたのです。
このデータベースを提供していた大手クラウド会社はこの問題を認識し、すぐに修正パッチをリリースし、影響を受けたユーザーに対して、データベースのセキュリティを強化するための追加措置を講じるよう呼びかけました。
この事件は、クラウドデータベースのセキュリティの重要性を改めて浮き彫りにしました。クラウドサービスを利用する企業は、セキュリティ対策を万全にすることで、データの漏洩や改ざんを防ぐ必要があります。
大手オンラインストレージサービスの従業員アカウント乗っ取り(2012年)
2012年、某オンラインストレージサービス会社は従業員のアカウントがフィッシング攻撃によって乗っ取られたことによりユーザー情報が流出したと発表しました。
攻撃者は、従業員のメールアカウントを乗っ取り、ユーザー情報を含む7,500万件のファイルを流出させた後、従業員のなりすましをして偽のメールを他の従業員に送信し、さらにマルウェアに感染させたとのことです。
情報管理の責任について、クラウドサービス利用者に改めて問いかけるきっかけとなったこの事件以降、クラウドサービスプロバイダーは、セキュリティ対策の強化を図っており、多要素認証の導入、セキュリティ意識向上トレーニングの実施、脆弱性に対するパッチ適用などが進んでいます。
クラウドサービスの拡大及び普及に伴いクラウド環境に対する攻撃も増加の一途をたどっており、クラウドサービスプロバイダーとサービス利用者の両者に、それぞれの責任分界点におけるさらなるセキュリティ対策が求められています。
企業が考えなければならないクラウドセキュリティの課題
クラウドサービスの利便性は広く認められていますが、セキュリティ面での課題も無視できません。企業はクラウド移行に伴い、さまざまなセキュリティ課題に直面します。
主な課題としては、以下の3点が挙げられます。
- データのプライバシーとガバナンス
- アクセス制御と認証
- 脅威検知とインシデント対応、脆弱性管理
これらの課題を克服するためには、クラウドセキュリティ対策をしっかりと講じることが不可欠です。具体的な対策方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
データのプライバシーとガバナンス
クラウド環境において、データのプライバシーとガバナンスは最も重要な課題の一つです。企業は、個人情報や機密情報を含むデータがどのように収集、保存、アクセス、使用、破棄されているかを常に把握し、適切な対策を講じなければなりません。
- 個人情報保護法(PIPA)などの関連法規の遵守
- データアクセス制御の強化
- 暗号化や匿名化などの技術的な対策
- データガバナンスポリシーの策定
- 従業員に対するセキュリティ教育
- データ漏洩対策
これらの対策を徹底することで、データのプライバシーとガバナンスを確保し、クラウド環境におけるセキュリティリスクを最小限に抑えることができます。
アクセス制御と認証
アクセス制御はクラウドセキュリティにおいて重要な対策の一つです。誰が、どのような方法で、どのリソースにアクセスできるかを制御することで、不正アクセスやデータ漏洩を防ぐことを目的としています。
アクセス制御を実施する際には、以下の要素を検討する必要があります。
認可 | どのユーザーやアプリケーションがどのリソースにアクセスできるかを許可します。 |
認証 | ユーザーやアプリケーションの身元を確認します。 |
監査 | アクセスログを記録し、不正なアクセスがないか監視します。 |
アクセス制御には、様々な方法があります。以下に代表的な方法を挙げます。
ロールベースアクセス制御 (RBAC): | ユーザーの役割に基づいてアクセス権限を設定します。 |
属性ベースアクセス制御 (ABAC): | ユーザーやリソース、環境などの属性に基づいてアクセス権限を設定します。 |
多要素認証 (MFA): | パスワード以外にも、トークンや生体認証などを組み合わせることで、より強力な認証を実現します。 |
クラウドサービスには、アクセス制御機能が備わっていることがほとんどです。しかし、サービスごとに機能や設定が異なるため、適切に設定することが重要です。
脅威検知とインシデント対応、脆弱性管理
クラウド環境への不正アクセスやデータ漏洩などのインシデントから自社のデータを保護するために、企業は脅威検知とインシデント対応、脆弱性管理の対策を講じなければなりません。
まずは、脅威検知とインシデント対応の対策についてです。
セキュリティ情報イベント管理(SIEM)やセキュリティオーケストレーション自動化および対応(SOAR)などのツールを活用して、クラウド環境のログやイベントを監視し、異常を検知します。
また、インシデントが発生した場合には、迅速な対応が必要です。インシデント対応計画を作成し、関係者が役割を明確にしておくことが重要です。
次に、脆弱性管理の対策についてです。
定期的にクラウド環境の脆弱性診断を行い、発見された脆弱性を速やかに修正します。ソフトウェアやファームウェアの更新情報を常に確認し、最新の状態で運用することが重要です。
クラウド環境のセキュリティ対策は、上記の対策だけに限らず、さまざまな対策を組み合わせる必要があります。企業は自社のクラウド環境の特性やリスクを考慮し、最適な対策を講じる必要があります。
まとめ
クラウドは、利便性とコスト削減というメリットがある反面、セキュリティリスクへの対応が重要になります。ここでは、クラウドセキュリティにおける5つの対策と、代表的なリスク・事例について解説しました。
特に、クラウドをこれまで利用してこなかった企業や部署の場合には、設定の抜け漏れからセキュリティリスクが生じてしまう可能性が高くなります。また、大手企業でもセキュリティ事故が発生していたことからもわかる通り、長く利用している場合でも常に最新情報に基づいたセキュリティ対策が必要となります。
本記事の内容を踏まえて、適切なセキュリティ対策を施し、安全なクラウド利用を実現しましょう。