クラウド運用のメリットを最大限に活用する方法
現代のビジネスにおいて、クラウドの重要性はますます高まっています。クラウドは、運用効率を上げることでその価値が最大に引き出され、企業に多くのメリットをもたらします。
本記事では、クラウド運用の基本とメリット、効率化するポイントについて解説します。クラウド運用でよくある課題と対策方法についても解説しているので、クラウド運用にお悩みの方はぜひ参考にしてください。
クラウド運用とは?
クラウド運用のメリットを最大化するためには、クラウドの基本概念やオンプレミスとの違いについて知ることが重要です。
クラウド運用の基本概念
クラウド運用とは、インターネットを経由して外部サービスを利用し、企業のITインフラやアプリケーションを運用することです。これにより、企業はサーバーやハードウェアといった物理的な機器を保有する必要がなく、運用コストの削減が実現します。
クラウドサービスの種類は多く、企業の目的に合わせた運用が可能です。具体的には以下のようなサービスがあり、さまざまなビジネスシーンで活用されています。
- 社内で利用するソフトウェアの提供(Microsoft Office 365、会計システムなど)
- アプリケーション開発のプラットフォームを提供(Google Cloud Platformなど)
- サーバーの提供(AWS、Microsoft Azureなど)
- ストレージの提供(AWS、Microsoft Azureなど)
オンプレミスとの違い
クラウドがオンプレミスと大きく異なる点は、管理する責任の所在です。
オンプレミスは、自社でサーバーやネットワーク機器を購入し、社内やデータセンターに設置して運用する方法です。物理インフラの保守やメンテナンス、ソフトウェアのアップデートはすべて自社の責任範囲となるため、それに伴う運用負荷が発生します。
しかし、クラウドはクラウドベンダーがサーバーやハードウェアを提供してくれるサービスのため、利用者は物理的な保守やセキュリティ対策が不要です。オンプレミスに比べ、管理する範囲が狭くなり運用コストを抑えられます。
クラウド運用の重要性
クラウドは、環境構築すれば終わりというものではなく、安定稼働させてこそ意味があります。サーバーダウンを起こすことなくビジネスに活用するためには、適切な運用管理が重要です。
たとえば、クラウド環境で最も懸念されるのがセキュリティ面ですが、これにはクラウドの特性を意識した運用設計や監視、セキュリティポリシーの設定が必要です。障害対応についても、重要度ごとの対処方法をあらかじめ策定し、影響範囲を最小限に留められる体制が求められます。これらの意味において運用管理の重要性は高く、クラウドを利用する企業にとっては必須と言えるでしょう。
クラウド環境を活用するメリット
クラウドは、利便性の向上だけでなく、企業にさまざまなメリットをもたらします。ここでは、主なメリットを4つ紹介します。
- 導入コストの削減
- 柔軟性とスケーラビリティ
- BCP対策として有効
- 最新技術の活用
導入コストの削減
クラウド運用における最大のメリットと言えるのが、導入コストの削減です。
クラウドは物理的なITインフラを提供してもらうサービス形態のため、自社でサーバーやネットワーク機器を準備する必要がありません。電力供給や機材のメンテナンスもすべてクラウドサービス提供事業者の管轄内となり、それらにかかるコストを削減できます。また、導入の際は、ある程度型が決められた中で環境構築を進められるため、人的コストの面でも大きな削減効果を期待できます。
柔軟性とスケーラビリティ
柔軟性とスケーラビリティに優れている点も、クラウドサービスの大きなメリットです。
スケーラビリティとは拡張性を示す言葉で、必要に応じて仮想マシンの台数やメモリ、保存容量を追加したり縮小したりできることを表します。オンプレミスは、あらかじめ最大リソースを想定した上で環境構築されているため、一定以上のリソースを追加するには、サーバーの入れ替えや追加が必要です。しかし、クラウドは管理画面から簡単に設定変更が行え、必要に応じて素早くリソースを調整できます。さらに、自動スケーリングは動的に仮想マシンの追加・縮小が行え、予測できない急激なアクセスに対しても柔軟な対応が可能です。
BCP対策として有効
クラウドサービスは、ビジネスを継続させるためのBCP(事業継続計画)対策としても有効です。
クラウドのデータセンターは厳格な基準で立地・運営されており、あらゆるリスクから自社のデータを守れます。具体的には、自然災害や電力供給、回線速度などが考慮されているため、自社にサーバーを設置するよりも安全なシステム運用が可能です。また、データセンターの所在は非公開であることが多く、データは物理的に分離された複数の場所にミラーリングされます。これにより、大規模な災害や障害が起きたとしても素早くシステムを復元でき、ビジネスへの影響を最小限に抑えられます。
最新技術の活用
最新技術の活用もクラウドの大きなメリットの一つです。
クラウドサービスでは、AIや機械学習などの最新技術が提供されており、ノウハウの少ない企業でも手軽に利用可能です。手間のかかるデータ収集や学習モデルの設計、運用、評価はすべてツールによって自動化されるため、実装までの手間と時間を大きく削減できます。
また、ビッグデータの解析では、膨大な量のデータから新たな発見が得られ、ビジネスへの活用が可能です。たとえば、市場のトレンドや顧客の行動を詳しく分析することで、将来的なニーズが予測でき、ビジネスの意思決定に役立ちます。
クラウドシステムの種類
クラウドシステムは、運用方式や提供形態によって種類が分かれます。ここでは、2つの観点から見たクラウドの違いについて解説します。
パブリッククラウドとプライベートクラウドの違い
クラウドシステムは、大きく分けると「パブリッククラウド」と「プライベートクラウド」の2種類があります。
まず、パブリッククラウドは、クラウドサービス事業者が提供するサーバーやソフトウエア、回線などを、不特定多数のユーザーと共有する方法です。Webサイトから登録するだけですぐに始められ、自社の要件に合わせて自由にリソースを追加できます。一般的によく利用されるのがこのパブリック型で、導入及び運用コストの削減が可能です。
一方、プライベートクラウドは、サーバーとネットワークを特定のユーザーが占有し、そこにクラウド環境を構築する方法です。外部と切り離された空間となるため、自社独自の方法で設計・管理・カスタマイズが行えます。運用方式は、自社にサーバーを設置する「オンプレミス型」と外部サービスを利用する「ホステッド型」の2種類から選択でき、ホステッド型ならパブリッククラウドと同様に運用負荷を減らせます。
SaaS、PaaS、IaaSの違い
クラウドは、提供されるサービス範囲によってIaaS、PaaS、SaaSの3つに分類されます。
まず、一つ目のSaaSは、アプリケーションをサービスとして提供する形態で、一般的によく知られているのがMicrosoft Office 365やDropboxです。クラウド会計ソフトやクラウドメール、チャットツール、ERPといったサービスもこれに該当し、企業は設定とデータを管理するだけで利用できます。
2つ目のPaaSは、アプリケーション開発の実行環境を提供するサービスで、利用者はOSや開発ツールを準備しなくてもすぐに開発に着手できます。提供されるプラットフォームはすべてクラウド事業者の管理範囲となり、保守の手間を省ける点がメリットです。
3つ目のIaaSは、物理的なITインフラを提供してもらえるサービスです。代表的なものではAWS、Azure、Google Cloudなどがあり、要件に合わせて自由にリソースを割り当てられます。ただし、SaaSやPaaSに比べて利用者の責任範囲が広いため、以下の責任共有モデルを考慮した運用管理が必要です。
参考:内閣官房内閣サイバーセキュリティセンター:クラウドを利用したシステム運用に関するガイダンス
クラウド運用の課題とその対策
クラウド運用にはいくつかの課題があり、それらに対して適切な対策を講じることが重要です。以下、クラウド運用のよくある課題と解決策について解説します。
- コスト管理
- セキュリティ対策
- パフォーマンス管理
- 人材不足とスキルギャップ
- 運用負荷の悩み
コスト管理
クラウドサービスは、リソースの使用量や利用時間に応じた従量課金制であることが多く、コストの予測を立てにくい点が課題です。たとえば、過剰なリソースの割り当てや使われていないリソースの放置は、無駄なコストを継続的に発生させます。
この問題を回避するには、コスト管理ツールの導入がおすすめです。コスト管理ツールでは、リソースの使用状況がリアルタイムで可視化され、現在の利用料金が一目で把握できます。さらに、アラート機能は予算を超える前に通知が受け取れるため、無駄な支出を未然に防ぐことができます。
セキュリティ対策
クラウド運用で最も懸念されるのがセキュリティ対策です。クラウドは、インターネットを介して提供されるという理由から、不正アクセスやサイバー攻撃のリスクが高まります。アカウント情報やアクセス権限の管理についても、誤った設定は甚大なセキュリティ事故を引き起こす危険性があります。
この問題に対処するには、監視ツールを用いたクラウド環境のモニタリングが重要です。取得されたイベントログには、エラーや警告、セキュリティ関連情報が含まれており、分析することで不正アクセスやシステム障害などの問題をすぐに見つけられます。また、Amazon GuardDuty(AWS)、Microsoft Defender for Cloud(Azure)、Security Command Center(Google Cloud)などは、クラウド環境の構成ミスや脆弱性、脅威を自動スキャンすることができ、脅威の重要度に応じたアラート通知が可能です。
パフォーマンス管理
パフォーマンスが低下する原因として挙げられるのが、サーバーやデータベースの管理不足です。たとえば、サーバーがトラフィックの増加に対応できるかどうかは、CPUやメモリの使用率が大きく影響します。インデックスが最適化されていないデータベースについても、データ検索や処理時間に問題が生じやすくなります。
これらを解決するには、監視ツールやアドバイザーツールの利用が有効です。監視ツールは、CPU使用率やメモリ使用量、ネットワークトラフィックの値をメトリクスとして収集し、時系列で可視化することでパフォーマンスの変化を測定できます。また、アドバイザーツールはパフォーマンスを改善するための推奨事項が提示され、ボトルネックの特定に役立ちます。
人材不足とスキルギャップ
クラウド運用は、従来のスキルに加えて新たな知識も求められ、クラウド経験の少ないエンジニアにとっては大きな課題です。人材育成に取り組むとしても、コストや時間がかかるといった問題もあり、すぐに運用に活かせるわけではありません。
この問題を解決するには、クラウド運用に向けた戦略的な育成計画が求められます。自社の目標を定めた上で必要な人材やスキル、経験を明確化し、勉強会やセミナー参加、資格取得などを進めていく必要があります。また、スキルを活かせる配置転換や、昇進・昇給につながる制度を作ることで従業員のモチベーション向上につながり、継続的な習得を促せます。
運用負荷の悩み
はじめてクラウドを導入する企業にとって、運用管理にかかる負担も大きな悩みの一つです。その中でも、とくにマルチクラウドは管理ツールや運用手順もサービスごとに異なり、より運用保守を複雑にさせます。
これを解決する手段として有効なのが、統合管理ツールの活用です。統合管理ツールでは、複数のクラウドを一つの画面から管理でき、監視やリソース管理、インシデント管理、アラート通知が行えます。同時に、全体のセキュリティポリシーを設定することで、個別に管理する手間が省け、一貫性を持った同じセキュリティ対策を施せます。
クラウドの運用保守を効率化するポイント
効率的なクラウド運用を実現するには、いくつかのポイントを押さえることが重要です。以下、運用保守の効率化に役立つ4つの方法を解説します。
- 適切な運用設計を行う
- クラウドベンダーが提供するツールを利用する
- 自動化のしくみを実装する
- クラウドマネージドサービスを活用する
適切な運用設計を行う
運用保守の効率化に欠かせないのが適切な運用設計です。運用設計は、システムの運用ルールや基準などをあらかじめ計画することで、この内容に沿って運用保守が実施されます。
たとえば、最適なリソース配置やスケーラビリティの確保、セキュリティーポリシーの設定は、可用性を高めるための重要な要素です。環境構築する際は、IaC技術を活用することでインフラ設定がコード化され、更新とデプロイ作業を円滑に進められます。さらに、これらの設計と自動化を組み合わせることで運用保守の負荷が軽減され、クラウドの安定稼働が実現できます。
クラウドベンダーが提供するツールを利用する
クラウドベンダーのツールはさまざまな運用保守に活用でき、運用負荷を大きく軽減してくれます。それらは標準機能として提供されており、以下のような運用保守の効率化に役立ちます。
業務内容 | ツールでできること |
監視 | 死活監視(インスタンスやアプリケーションの動作)リソース監視(CPU、メモリなどの使用率)、アラート通知など |
セキュリティ対策 | 脆弱性のチェック、データの暗号化、アクセス制御、脆弱性管理など |
バックアップ/復旧 | 日次、月次、年次などの定期的なバックアップの取得 |
コスト管理 | コストの発生状況、リソースの利用状況、推奨事項の提案など |
自動化のしくみを実装する
クラウド運用の自動化は、運用保守にかかる負担を削減し、運用効率の向上をもたらします。自動化に役立つ機能を活用することで、人的ミスを抑止でき、効果的な自動化を実現できます。
たとえば、日々のタスクやパッチ適用、バックアップ処理などは、管理画面からスケジューリングが可能です。監視やアラート通知も、自動化によって問題を素早く検知できるようになり、障害が起きる前に素早く対処できます。さらに、自動スケーリングを活用することで、手動のリソース調整が不要となり、運用保守の負担を大きく軽減できます。
クラウドマネージドサービスを活用する
運用保守の効率化で、最も手軽に利用できるのがクラウドマネージドサービスです。
クラウドマネージドサービスとは、クラウド運用に必要な監視やセキュリティ対策、定期メンテナンスなどを一手に引き受けるサービスです。サービスによっては24時間365日の有人監視にも対応でき、企業は社内のリソースを使うことなくクラウドを運用できます。また、委託先の企業は、クラウドに関わる知識・ノウハウが蓄積されており、サーバーの移行やシステム構築、運用設計のサポートも可能です。これにより、企業の運用負担が大きく軽減され、効率的且つ効果的なクラウド運用を実現できます。
まとめ
クラウドのメリットを最大限に引き出すためには、運用の最適化が重要です。クラウドサービスでは、監視やリソース管理、コスト管理、セキュリティ対策に役立つさまざまなツールが提供されており、これらを活用することであらゆるクラウドの課題を解決できます。
ただし、さらなる効率化を実現するには、事前の運用設計が重要です。可用性を高めるためのリソース配置やスケーラビリティの確保、環境構築の方法、自動化の仕組みまで細かく計画する必要があります。また、自社の人的リソースを抑えながら生産性向上を実現するには、クラウドマネージドサービスの利用も一つの方法です。