AWSセキュリティの7つの設計原則に基づいたベストプラクティスな設計を解説!
AWSのセキュリティ設計は、最初の構築段階から適切な対策を施すことで、クラウド環境全体の安全性を確保します。この記事では、AWSセキュリティの7つの設計原則に基づくベストプラクティスを詳しく解説します。アカウント管理、データ保護、自動化、そしてセキュリティインシデントへの備えなど、実践的なガイドラインを通じて、AWS環境を堅牢で信頼性の高いものにする方法を学びましょう。
AWSセキュリティのベストプラクティスとは
AWSセキュリティのベストプラクティスは、AWS上で構築されたシステムやデータを安全に保護するための、一連の推奨事項やガイドラインのことです。
これらのベストプラクティスは、AWS Well-Architectedフレームワークの「セキュリティ」の柱に集約されています。
なぜAWSでセキュリティ対策が重要なのか
AWSは、サービス数が多く非常に柔軟性の高いクラウドプラットフォームですが、その分、適切なセキュリティ対策を行わないと、データ漏洩や不正アクセスなどのリスクにさらされる可能性も高まります。
そして、サイバー攻撃は日々巧妙化しており、標的型攻撃やランサムウェア攻撃など、様々な脅威に常に晒されています。これらのセキュリティ脅威から企業の重要なデータを守るためも、AWS環境のセキュリティ対策が重要です。
各国でデータ保護に関する法規制が強化されており、これらの規制に違反した場合、高額な罰金や法的責任を問われる可能性があります。これらに対応するためにも適切なセキュリティ対策が必須です。
完全にベストプラクティスに沿った構成が良いわけではない
AWSのベストプラクティスは、多くのシステムで高い効果を発揮する一般的な指針ですが、すべてのケースでベストプラクティスを完璧に遵守することが、最適解というわけではありません。
高いセキュリティを確保しようとすると、システムの操作性が低下したり、開発効率が落ちる場合があります。また、一般的にセキュリティを強化しようとするほどコストがかかります。
セキュリティと利便性、コストはトレードオフの関係にあるため、これらを考慮し、システムの要件や制約に合わせて最適なバランスを見つけることが重要です。
AWS Well-Architected フレームワークとは
AWS Well-Architected フレームワークは、AWS上で安全で効率的なクラウドアプリケーションを構築するためのベストプラクティス集です。
AWSの豊富な経験とノウハウを基に、以下の6つの柱から構成されています。
- 優れた運用効率
- セキュリティ
- 信頼性
- パフォーマンス効率
- コスト最適化
- 持続可能性
AWSのセキュリティに関するベストプラクティスは、「セキュリティの柱」に細かく記載されています。このフレームワークは、AWS上で新たなシステムを構築する際だけでなく、既存のシステムを評価し、改善するための指針としても活用できます。AWS Well-Architected フレームワークを活用することで、より安全で、効率的で、コスト効果の高いシステムの構築が可能です。
AWSセキュリティの7つの設計原則
AWS環境でのセキュリティを強化するためには、設計段階から強固なセキュリティ原則を取り入れることが不可欠です。本稿では、AWSのセキュリティを最適化するための7つの設計原則を紹介し、各原則の重要性と実践方法について解説します。
1. 強力なアカウント管理基盤の実装
1つ目の設計原則は、アカウント管理に関する原則です。AWSでは、最小権限の原則の考え方に沿って、各ユーザーやサービスに、必要な最小限の権限しか与えないような設定が推奨されています。
また、複数サービスで同じパスワードを使用したり、長期間同じパスワードを使用したりすることを避ける管理手法がベストプラクティスとされています。アカウント使用時は、多要素認証を義務付けることも重要なセキュリティ対策です。
2. 全アカウントでの証跡確認の実現
2つ目は、アカウントの証跡確認に関する原則です。AWSでは、AWS CloudTrailを使用してすべてのアクションを記録し、詳細なログを残すことが可能です。全アカウントにおける証跡確認は、セキュリティ上のリスクを早期に検知し、迅速な対応を可能にします。
アカウントの証跡確認だけでなく、AWSの各リソースに対して、リアルタイムモニタリング、ログの分析、異常検知時にアラート発砲までを考慮した設計が設計原則とされています。
3. 全レイヤーでセキュリティを適用する
3つ目の原則は、各レイヤーに関するセキュリティの設計原則です。ネットワーク、サーバー、アプリケーションなど、システムのあらゆる層においてセキュリティ対策を施すことが重要です。
- ファイアウォールでネットワークを保護
- WAFでWebアプリケーション攻撃から保護
- OSやアプリケーションに最新のセキュリティパッチを適用
このように、可能な限りすべての層でセキュリティ対策を行い、攻撃者がシステムに侵入することを防ぐ考え方を多層防御と呼びます。AWSでは、多層防御の考え方に基づく設計がベストプラクティスとされています。
4. セキュリティ対策を自動化する
4つ目の設計原則は、AWSでのセキュリティ対策を可能な限り自動化することです。手作業によるセキュリティ対策は、人的ミスが発生しやすく、効率も悪いため、自動化することで、より安全かつ迅速な運用を実現できます。
インフラ管理の自動化ツールや、セキュリティ監視サービスを活用することで、脆弱性の検出や修正、コンプライアンスチェックの自動化が可能です。
例えば、AWS ConfigやAWS Lambdaを活用し、セキュリティポリシー違反が検出された場合に自動で対策を実行することができます。こうした自動化により、迅速な対応と運用コストの削減が実現します。
5. 伝送中および保管中のデータの保護
AWSセキュリティに関する設計原則5つ目は、データの暗号化に関する原則です。データのセキュリティは、伝送中(転送中)と保管中の両方で適切に暗号化し、保護しましょう。
AWSでは、データの伝送中にSSL/TLSを使用して暗号化し、保管中のデータにはAWS Key Management Service(KMS)やS3のサーバーサイド暗号化を活用することが推奨されます。
さらに、アクセス制御リスト(ACL)やIAMポリシーを設定し、必要なユーザー・サービスにのみデータアクセスを許可することで、データ漏えいのリスクを最小限に抑えられます。
6. データに人の手を入れない
セキュリティを強化するためには、データ操作をできる限り自動化し、人の手を介さないようにすることが重要です。手動でのデータ操作はミスや不正のリスクを高めるため、データの生成、管理、処理は自動化ツールやスクリプトを活用して行います。
AWSでは、インフラのコード化(IaC)やAWS Lambdaを利用することで、データの自動管理を実現可能です。また、監査ログやアクセス権限の管理も自動化し、常にセキュリティが保たれる状態を確保します。
7. セキュリティインシデントに備える
最後の設計原則は、AWS環境におけるセキュリティインシデント発生に備えた計画をすることです。具体的には、以下の対策を行います。
- インシデント対応演習を実施する
- インシデント対応ツールを導入する
セキュリティインシデントが発生した場合の対応手順を事前に定めておくことで、迅速な対応が可能になります。
サービスごとのベストプラクティスな設定
AWSのサービスを最大限に活用するためには、サービスごとの特性に合わせた最適な設定が重要です。ここでは、AWSの主要なサービスにおけるベストプラクティスな設定について解説します。
AWS Identity and Access Management (IAM)
AWS IAMのベストプラクティスは、設計原則1つ目でも解説した通り、最小権限の原則に基づくアクセス制御を行うことです。
必要最低限のアクセス権限のみを付与し、特定のリソースやアクションに限定したカスタムポリシーを作成します。また、マルチファクタ認証(MFA)の有効化、強力なパスワードポリシーの設定、そしてIAMユーザーとロールの定期的な監査が推奨されます。
不要なアカウントや権限は速やかに削除し、アクティビティログを活用して監視を強化することも重要です。
AWS CloudTrail
AWS CloudTrailは、AWSアカウント内でのアクティビティを追跡するためのツールです。ベストプラクティスは、全リージョンでCloudTrailを有効化し、すべてのアクションを記録することです。そして、ログはAmazon S3に保存し、バケットはアクセス制御で保護しましょう。
また、CloudTrailログの不正な変更や削除を防ぐためにログファイルの整合性の検証機能を有効にすることも推奨されています。CloudWatchとの連携によるリアルタイムアラートの設定も、セキュリティインシデントの早期検出に役立ちます。
Amazon GuardDuty
Amazon GuardDutyは、AWS環境の脅威検出サービスです。GuardDutyのベストプラクティスとしては、すべてのアカウントとリージョンでGuardDutyを有効にし、継続的な監視を行うことです。
そして、脅威検出後は自動修復を実行するためにAWS Lambdaなどと連携させましょう。また、定期的なレポートを確認し、アクションプランを最新の状態に保つことも重要です。
Amazon Inspector
Amazon Inspectorは、AWSリソースの脆弱性を自動的に評価するセキュリティツールです。ベストプラクティスとして、インスタンスやコンテナを含むすべての対象リソースにInspectorを適用し、定期的に脆弱性スキャンを実行します。
また、脆弱性が発見された場合には自動修復プロセスを設定して、迅速に問題を修正します。評価結果はセキュリティチームに共有し、脆弱性を常に最新の状態で監視する体制を整え、必要に応じて手動でも評価を実行しましょう。
Amazon Macie
Amazon Macieは、機械学習を活用して機密データの検出と保護を行うサービスです。Macieのベストプラクティスとして、全S3バケットでMacieを有効にし、バケット内の機密データを自動検出します。また、定期的なスキャンを設定し、機密データの取り扱い方針に違反していないかを確認します。検出された機密データに対するアクションは、適切なアクセス制御を設定することで対応します。さらに、検出結果は定期的にレビューし、必要な措置を講じます。
AWS WAF
AWS WAFは、Webアプリケーションを保護するファイアウォールサービスです。WAFのベストプラクティスとして、SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティング(XSS)攻撃に対するルールセットを適用し、アプリケーション層のセキュリティを強化します。
特定のIPアドレスや地域からのアクセス制限を設け、不要なトラフィックをブロックすることも有効です。AWS Shieldと連携させ、DDoS攻撃に対する包括的な保護を提供することで、より強固なセキュリティ体制を構築します。
Amazon EC2のセキュリティに関するベストプラクティス
Amazon EC2インスタンスのセキュリティを強化するためには、複数の対策を講じることが重要です。
- EBSボリュームを暗号化
- VPCフローログの有効化
- セキュリティグループによる適切なトラフィック制御
ここからは、上記3つのEC2に関するベストプラクティスを紹介します。
EBSボリュームを暗号化する
Amazon EC2のEBSボリュームには、暗号化を適用することが推奨されます。EBS暗号化を使用することで、EBSに保管されたデータの暗号化が可能です。暗号化時に作成される暗号化キーはAWS Key Management Service(KMS)で管理できます。
これにより、データの保護が強化され、万が一ボリュームが不正にアクセスされた場合でも、暗号化により情報が漏洩するリスクを軽減します。既存のボリュームについても、スナップショットを作成して暗号化することが可能です。
VPCフローログを有効にする
VPCフローログを有効にすることで、Amazon EC2のネットワークトラフィックを監視し、不審なアクティビティを検出できます。これにより、インシデント発生時の調査や監査に役立つデータを収集でき、セキュリティの向上につながります。
フローログは、VPC、サブネット、またはネットワークインターフェイス単位で設定でき、トラフィック情報をCloudWatch LogsやS3に保存可能です。
セキュリティグループで適切なトラフィック制御を行う
セキュリティグループは、EC2インスタンスへのトラフィックを管理するための重要なツールです。ベストプラクティスは、最小権限の原則に従い、必要最低限のポートとIPアドレス範囲のみを許可することです。
インバウンドおよびアウトバウンドのルールを明確にし、特にインターネットへのアクセスが必要ない場合は、すべてのトラフィックをブロックすることが推奨されます。適切なトラフィック制御により、外部からの攻撃リスクを大幅に減少させることができます。
Amazon S3のセキュリティに関するベストプラクティス
Amazon S3を安全に利用するためには、適切なセキュリティ設定が欠かせません。S3バケット内のデータは、重要情報を多く含んでおり、万が一の漏洩すると企業の信用に大きく影響します。そのため、データの保護やアクセス制御の強化など、基本的なベストプラクティスを遵守することが重要です。
また、S3では基本的なベストプラクティスに加えて、以下の2つの項目も設定が推奨されています。
- パブリックアクセスのブロックを有効にする
デフォルトではS3バケットが外部に公開されています。公開したくない情報を含むパケットは、パブリックアクセスをブロックしましょう。
組織全体でこの設定を強制することで、意図しないデータ公開を防ぐことができ、安全なデータ管理が可能になります。
- サーバーサイド暗号化(SSE)を有効にする
データがS3に書き込まれる際に自動的に暗号化を行い、保存中のデータを保護する機能です。大きく分けるとSSE-S3、SSE-KMS(DSSE-KMS)、SSE-Cの3つの方式がありますが、KMSと連携可能で、より細かいアクセス制御と監査ログができるため、基本的にはSSE-KMSを使用することが推奨されています。一部、用途によってはSSE-KMSでエラーが確認されているため、エラーが発生するケースでは、SSE-S3の利用がおすすめです。
まとめ
AWSセキュリティの7つの設計原則を理解し、適切に実装することで、クラウド環境の安全性を高めることができます。アカウント管理の強化、データ保護、自動化、インシデント対応の準備など、各項目を継続的に見直し、改善することが不可欠です。これらのベストプラクティスを適用し、セキュリティリスクを最小限に抑え、AWS環境を常に保護された状態に維持しましょう。