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AWS設計に際して知っておきたい基本原則とベストプラクティス

AWS設計に際して知っておきたい基本原則とベストプラクティス

AWS設計

AWS設計を進めていくにあたり、知っておきたいのがAWSが公式に紹介する基本原則や、ベストプラクティスの知見です。AWSの豊富なサービスを踏まえるとその可能性は無限大ですが、運用当初はセオリーに則ることでリスクを小さく抑えられます。

この記事では、AWS設計に際して知っておきたい、設計構築の基本原則や、各施策におけるベストプラクティスについて、解説します。

AWSが提唱する一般的な設計原則

AWSが提唱する一般的な設計原則

AWSは、アーキテクチャ設計を最適化するために、以下の設計原則を提唱しています。基本の設計原則を知っておくことで、無駄が少なく質の高いシステムを作りやすくなるでしょう。

容量ニーズの推測はしない

AWSにおいてまず大切なのが、要領ニーズの推測をしないことです。オンプレミス環境では、容量を事前に見積もり、必要以上のリソースを確保することが一般的でした。しかし、AWSではオンデマンドでリソースを拡張または縮小できるため、事前に容量ニーズを推測する必要がありません。

このアプローチにより、過剰投資やリソース不足による損失を回避できます。また、リソースの自動スケーリング機能を活用することで、予期せぬトラフィックの増加にも柔軟に対応できるようになるでしょう。

テストは本稼働時のスケールで実施する

テスト運用だからと言って、スケールを縮小したりする必要はありません。本番環境と同じスケールでテストを実施することで、予期しない負荷やパフォーマンス問題を防ぐことができます。

AWSでは、Elastic Load BalancerやAuto Scalingを利用して負荷テストを簡単に行うことができます。さらに、AWS Fault Injection Simulatorを用いたカオスエンジニアリングの導入も効果的です。システムの弱点を事前に把握し、運用中の障害リスクを軽減できるでしょう。

自動化はアーキテクチャの実験を念頭に置く

設計の自動化は、効率的なアーキテクチャ実験を可能にします。Infrastructure as Code (IaC) を用いてテンプレート化されたアーキテクチャを迅速に構築し、異なるシナリオをテストできます。

この工程に役立つのが、AWS CloudFormationやTerraformです。リソースの展開と管理を一貫して行うことで、人的ミスを削減し、変更内容のトレーサビリティを確保することが可能です。

アーキテクチャの発展余地を確保する

ビジネス要件や技術の進化に対応するため、アーキテクチャには柔軟性を持たせることが重要です。モジュール化された設計やAPIベースのインターフェースを活用することで、拡張性を確保できます。

例えばマイクロサービスアーキテクチャを採用することで、個別のサービスを独立して開発・デプロイを可能にし、全体的な開発効率を向上させます。リファクタリングを容易にする設計を心がけることも、長期的なメンテナンスコストの削減に寄与します。

データドリブンにアーキテクチャを駆動させる

運用データやパフォーマンスメトリクスを基にアーキテクチャを最適化しましょう。Amazon CloudWatchやAWS X-Rayを活用すれば、詳細なインサイトを得ることが可能です。これにより、システムのボトルネックや非効率なプロセスを特定し、改善する機会を得られます。

さらに、データ分析の結果をもとに、リソースの適切なプロビジョニングやトラフィック分散の最適化を実施することもできます。データに基づく意思決定が、持続可能で信頼性の高いアーキテクチャ設計に繋がります。

ゲームデーを利用して改善する

ゲームデーとは、シミュレーションイベントを通じてシステムの耐障害性や復旧能力をテストする方法です。この手法により、予期せぬ障害に備える能力を向上させることができます。

具体的には、障害シナリオを設定し、運用チームがどのように対応するかを実践的に学ぶ機会を提供します。AWS Fault Injection Simulatorを用いることで、よりリアルな環境でのテストが可能になります。このような取り組みは、障害対応力の向上だけでなく、チームの連携強化にも寄与します。

優れたクラウド環境を構築するための設計原則

優れたクラウド環境を構築するための設計原則

AWSでは、優れたクラウド環境を構築するための実践的な原則も提示しています。以下の原則に目を通し、現場に反映することが大切です。

ビジネスの成果に最適なチームを組む

ビジネスの目標に合致したチームを構築することは、重要な取り組みです。DevOpsの文化を取り入れ、開発と運用を一体化することで効率的な運用が可能になります。この際、責任共有モデルを理解し、各チームが明確な役割を持つことが重要です。

AWS Well-Architected Toolは、このような成果につながるチームづくりに最適なサービスと言えます。定期的なレビューを行い、チーム間の認識を揃えることが大切です。

オブザーバビリティを確保してインサイトを得る

クラウド環境では、システムの挙動を観察可能なものとすることが大切です。いわゆる億円ビリティの確保には、Amazon CloudWatch LogsやAWS X-Rayが役に立ちます。

リアルタイムでシステムパフォーマンスの監視を実現し、問題発生時の迅速なトラブルシューティングが可能になるでしょう。またアプリケーションの健全性を把握し、潜在的な問題を未然に防ぐことができます。

安全な自動化を心がける

自動化を導入する際は、セキュリティを優先することが重要です。AWS Identity and Access Management (IAM) を使用してアクセス制御を実行し、リスクを最小限に抑えます。

システムの安全性を高めるには、AWS ConfigやAWS Security Hubの導入も有効です。セキュリティポリシーの準拠状況を、自動的に監視することができます。結果、セキュリティの強化と運用効率の向上を両立できるでしょう。

小規模・可逆的な変更を適宜行う

システムの変更はできるだけ小規模で、可逆的なものとして行うのが推奨されています。何か問題が発生した時に、迅速に元の状態に戻すことができるからです。AWS CodePipelineなどのツールは、このような柔軟性の高いシステム運用体制を実現し、変更のリスクを最小限に抑える上で活躍します。

オペレーション手順を積極的に改善する

定期的なレビューと反復プロセスにより、運用手順を改善していきましょう。運用に際して自動化ができる範囲を拡大できないか、常に検討することも効率を求める場合に有効です。

AWS Systems Managerは、運用タスクをスクリプト化し、一貫性と効率性を向上させる上で重要な役割を果たします。こうした取り組みは、時間とコストの節約にも繋がります。

障害予測を徹底する

障害予測は、システムの信頼性を高めるための重要なプロセスです。障害予測の実施には、AWS Fault Injection Simulatorが有効です。障害シナリオをテストし、復旧能力を強化します。

障害予測をプロセスの一環として組み込むことにより、計画外の停止やパフォーマンス低下に対処する能力が向上します。

運用上のイベントとメトリクスに学ぶ

過去の運用データから教訓を得ることは、より優れたシステム運用を実現する上で欠かせません。詳細なメトリクス分析を通じて、システムの最適化ポイントを特定します。

Amazon QuickSightは、そんな運用データを視覚化し、洞察を得る上で役に立つツールです。これにより、データ駆動型の意思決定を促進しましょう。

マネージドサービスを活用する

AWSが提供するマネージドサービスを活用することで、運用負荷を大幅に軽減できます。Amazon RDSやAWS Lambdaなどがその一例です。

これらのサービスは、インフラ管理をAWSに委ねることで、ビジネスロジックの開発に集中する時間の確保をサポートします。加えてサービスの利用に伴う、セキュリティ強化とスケーラビリティ向上も期待できるでしょう。

AWS Well-Architected フレームワークと6つの柱について

AWS Well-Architected フレームワークは、クラウド設計のベストプラクティスを体系化したものです。効率性と信頼性を兼ね備えた、堅牢な設計を目指すための指針を提供します。

このフレームワークは、クラウド設計と運用における標準的な課題に取り組む上で必要な、具体性のある戦略を提示しています。その上で重要なのが以下で紹介している6つの柱で、それぞれの柱を通じて卓越した運用を実現可能です。

ここでは、6つの柱の概要やそこで示されるベストプラクティスについて、解説します。

柱その1:オペレーショナルエクセレンスの柱

オペレーショナルエクセレンスの柱は、システムの実行からモニタリング、そしてプロセスの継続的な改善までの流れに目を向けたものです。日々の運用業務を最適化し、予測可能性と一貫性を高めるための方法論を提供します。効率的な運用は、ビジネス継続性を確保し、チームの生産性向上につながるでしょう。

設計原則

オペレーショナルエクセレンスの柱においては、以下の2つが主な設計原則です。

  • プロセスをコード化し、自動化を推進する。
  • 変更管理を徹底し、迅速にリリースする。

自動化の推進によって現場の効率と品質向上を目指すとともに、変更内容を管理することでリリース速度も高めます。

ベストプラクティス

オペレーショナルエクセレンスの実現には、以下のような取り組みが最適と考えられます。

  • 運用手順の文書化
  • 監視ツールの活用
  • 自動化の徹底

施策の実施に際しては、運用手順を具体的に文書化しておきます。これにより、全てのプロセスを詳細に記録し、新しいチームメンバーが迅速に運用に参加できるようになるでしょう。

また、Amazon CloudWatchやAWS X-Rayといった監視ツールを使用して、運用の可視性を確保することも重要です。自動化を徹底するには、AWS Systems Managerを活用してタスクをスクリプト化し、一貫した結果を提供します。

柱その2:セキュリティの柱

セキュリティの柱では、機密性、完全性、可用性を確保しながら、リスクを管理する方法に焦点を当てています。この柱は、組織のデータとシステムを保護するための包括的な戦略を提供するのが特徴です。

設計原則

セキュリティの柱においては、以下の設計原則が求められます。

  • 強力なアクセス制御を実施し、最小権限の原則を徹底する。
  • セキュリティの全責任を組織全体で共有する。

重要なのは、アクセスを徹底して制御することです。各担当者には必要最小限のアクセス権限のみを与え、情報流出を回避します。

また、セキュリティの責任は組織全体で共有することで、脆弱性を抱える部門の発生を回避できるでしょう。

ベストプラクティス

セキュリティの柱を実現する上では、以下のような取り組みが有効です。

  • AWS Identity and Access Management (IAM)の利用
  • 暗号の標準化によるデータ保護の強化
  • AWS Security Hubの活用
  • 定期的なセキュリティレビューと脅威モデリングの実施

IAMの利用は、AWSにおいてアクセス管理を実行する上で基本となる手法です。また、暗号はシステム上で標準化し、データ保護を一律強化することも求められます。

AWS Security Hubは、セキュリティ管理を一元化する上で役に立ちます。管理能力を高めることができれば、定期的なセキュリティレビューによって、新たなリスクを迅速に特定し対応できる能力が確保できるでしょう。

柱その3:信頼性の柱

信頼性の柱では、システムが障害から迅速に復旧し、要求に応じて拡張できる能力を重視します。この柱は、システムの安定性と可用性を確保するための重要な指針を提供するのが特徴です。

設計原則

信頼性の柱では、以下の設計原則の確保が必要です。

  • フェイルオーバーとバックアップの適切な設定
  • システムのリカバリ能力の定期的なテスト

信頼性とは、期待通りの機能が必要な時にきちんと使えること、そして要求水準に満たない場合、その原因の特定と問題解決を迅速に行えるようにすることで賄われます。

これらの設計原則は、信頼性の確保において重要な意味を持つ要素です。

ベストプラクティス

信頼性の柱におけるベストプラクティスは、以下の通りです。

  • マルチAZ配置の利用
  • AWS Backupの活用
  • 定期的な障害注入テストの実施
  • Amazon Route 53を使用してDNSフェイルオーバーを実現

マルチAZ配置の利用は、高い可用性を確保する上で重要な取り組みです。データ復旧に際しては、AWS Backupを導入しておくことで、その効率を高められるでしょう。

耐障害性を高めるには、定期的に障害注入テストを実行することが求められます。Amazon Route 53を使用したDNSフェイルオーバーの実現は、冗長性を確保して障害への耐性を高めるのに役立つ施策です。

柱その4:パフォーマンス効率の柱

パフォーマンス効率の柱では、計算、ストレージ、ネットワークリソースを最適化して、効率を最大化することを目指します。この柱は、リソースの利用を最適化し、応答性とスループットを向上させるための指針を与えるのが特徴です。

設計原則

パフォーマンス効率の柱においては、以下の設計原則が求められます。

  • 適切なリソースの選択
  • テクノロジーの変化の積極的な採用

パフォーマンス効率は、正しいリソースを選べるかどうかで大きく変わってくるものです。性能の最大化に向けた、広範な知識や試行錯誤が求められます。

また、時代によって変化するトレンドや、新しいテクノロジーに対しても常に関心を持ち、まずはシステムに採用してみるという主体性も確保しましょう。

ベストプラクティス

パフォーマンス効率の柱においては、以下のベストプラクティスが挙げられます。

  • Amazon EC2 Auto Scalingの活用
  • Amazon CloudFrontの導入
  • 定期的なリソースレビューの実施
  • AWS Compute Optimizerの活用

Amazon EC2 Auto Scalingは、リソース管理を動的に行なっていく上で必要なサービスです。Amazon CloudFrontを導入すれば、コンテンツ配信に伴う遅延を抑え、パフォーマンスの低下を予防できます。

定期的なリソースレビューの実施は、リソース状況がベストな状態を保たれているかを確認する上で大切です。コストの削減にも役立ちます。AWS Compute Optimizerの活用によって、リソース配置の最適化も実現できればベターと言えます。

柱その5:コスト最適化の柱

コスト最適化の柱では、無駄を削減し、必要な場所に投資を集中させることを重視するものです。リソース使用を効率化し、コスト効率の高い運用を実現するための戦略を提供します。

設計原則

コスト最適化においては、以下の取り組みが設計原則と言えます。

  • 必要なリソースの選別
  • リザーブドインスタンスやスポットインスタンスの活用

コスト最適化は、とにかく余剰負担の発生を抑えることが重要です。不要なリソースは排除し、コストを削減しましょう。

また、必要に応じてリザーブドインスタンスやスポットインスタンスといった、費用対効果の高いインスタンスを適宜活用することも求められます。

ベストプラクティス

コスト最適化におけるベストプラクティスは、以下の通りです。

  • AWS Cost Explorerの導入 コストの可視化を実施。
  • 使用率の低いリソースの特定・削除
  • Amazon S3のライフサイクルポリシーの利用 ストレージコストを削減。
  • Savings Plansの活用 予算内でリソース利用を最大化。

AWS Cost Explorerは、AWS内で発生しているコストを可視化できるツールです。使用率の低いリソースは、こういったツールを使って特定の上削除しましょう。

Amazon S3のライフサイクルポリシーは、時間の経過、あるいは何らかのイベントをトリガーとして、ストレージクラスを移行したり削除したりができる機能です。

Saving Plans(SP)は、費用削減のための割引プランを利用できるサービスです。一定期間の利用と引き換えに、高い割引率が期待できます。

柱その6:持続可能性の柱

持続可能性の柱は、クラウドリソースが環境に与える影響を減らし、長期的に持続可能な運用を目指すものです。この柱は、環境への配慮を組織の戦略に統合するためのガイドラインを提供します。

設計原則

持続可能性の柱は、以下の2つを設計原則としています。

  • 環境への影響の最小限化
  • エネルギー効率の最大化

持続可能性の柱は、環境負荷を抑えたサステナブルな設計とともに、エネルギー効率を最大化するための工夫が含まれます。地球環境への影響はもちろん、組織のサステナビリティを考える上でも重要な概念です。

ベストプラクティス

持続可能性の柱においては、以下のベストプラクティスが求められます。

  • サーバーレスアーキテクチャの活用
  • Amazon Forecastの導入
  • AWS Well-Architected Toolの導入

サーバーレスアーキテクチャとは、サーバー不要でサービスを構築できる手法です。サーバー費用、あるいはそれに付随する人件費などの負担を削減できます。サーバー運用に伴うエネルギー消費も抑制します。

Amazon Forcastは、機械学習を用いてエネルギー需要の予測や製品需要予測を実施できるサービスです。エネルギー消費レビューの実施において役立つでしょう。

AWS Well-Architected Toolは、環境抑制につながるベストプラクティスを学習できるツールです。持続可能性の柱を踏まえた、効果的な改善を促せます。

まとめ

まとめ

この記事では、AWS設計の基本原則とベストプラクティスについて、AWS Well-Architected フレームワークに触れながら解説しました。

同フレームワークを支える6つの柱は、クラウド設計のベストプラクティスを体系化し、組織が効率的かつ安全にクラウドを活用するための指針です。それぞれの柱に沿った設計と運用を実施することで、スケーラブルで信頼性の高いシステムを構築することができるでしょう。

これらの原則を活用して、ビジネス目標の達成と持続可能なクラウド環境の構築を目指すことが求められます。

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