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リスクアセスメントとは?情報セキュリティ対策の基礎

リスクアセスメントとは?情報セキュリティ対策の基礎

情報セキュリティインシデントが後を絶たない現代、企業にとって情報資産の保護は最重要課題の一つと言えるでしょう。顧客情報や社内データの漏洩、システムのダウンなど、ひとたびセキュリティインシデントが発生すれば、企業の信用失墜、経済的損失、業務の停止など、甚大な被害を被る可能性があります。

このようなリスクから企業を守るために重要なのが、「リスクアセスメント」です。リスクアセスメントとは、情報資産に対する脅威を特定し、そのリスクを分析・評価することで、適切なセキュリティ対策を講じるためのプロセスです。

本記事では、リスクアセスメントの基礎知識、評価の手法、事例紹介などについて詳しく解説していきます。

情報システムのリスクアセスメントとは?

情報システムのリスクアセスメントの概要

情報システムのリスクアセスメントは、システムに潜むリスクを特定・分析・評価し、適切なセキュリティ対策を講じるプロセスです。

リスクアセスメントを行うことで、セキュリティ対策の効率化、セキュリティインシデントの予防、事業継続性の確保、法令遵守などの効果が期待できます。

情報システムを取り巻く環境は常に変化するため、リスクアセスメントは定期的に見直し、最新の状態に保つことが重要です。

リスクアセスメントの定義と目的

リスクアセスメントとは、ある行動や事象に伴うリスクを特定し、その影響度と発生確率を分析・評価することで、リスクの重大性を明らかにするプロセスです。

情報システムの分野では、情報資産に対する脅威を分析し、適切なセキュリティ対策を講じるために実施されます。

リスクアセスメントの目的として、以下の点が挙げられます。

目的内容
リスクの把握システムに内在するリスクを明確化し、その影響度と発生確率を把握することで、リスクの全体像を理解します。
セキュリティ対策の効率化限られたリソースを効果的に活用し、重要なリスクに優先的に対応することで、セキュリティ対策の効率を高めます。
セキュリティインシデントの予防潜在的なリスクを事前に把握し、対策を講じることで、セキュリティインシデントの発生を予防します。
事業継続性の確保重大なリスクに対して適切な対策を講じることで、事業継続性を確保します。
意思決定の支援リスクアセスメントの結果は、経営層がセキュリティ対策に関する投資判断を行う際の材料となります。
法令遵守個人情報保護法などの法令で、リスクアセスメントの実施が義務付けられている場合があります。

リスクアセスメントは、システム開発時だけでなく、運用開始後も定期的に実施することが重要です。システムを取り巻く環境は常に変化するため、定期的な見直しによって最新の状態を維持し、効果的なセキュリティ対策を継続的に実施していく必要があります。

リスクアセスメントのプロセス

リスクアセスメントは、情報資産に対する脅威を特定し、その脅威によって生じる可能性のある損害を評価し、それらの脅威に対処するための対策を決定するプロセスです。

リスクアセスメントのプロセスは、以下のステップから構成されます。

プロセス内容
範囲の決定リスクアセスメントの対象範囲を明確に定義します。対象となる情報資産、システム、部門などを具体的に特定します。
範囲が広すぎると、アセスメントに時間がかかり、精度が低下する可能性があります。逆に、範囲が狭すぎると、重要なリスクを見落とす可能性があります。プロジェクトの規模や目的、利用可能なリソースなどを考慮して、適切な範囲を設定することが重要です。
情報資産の特定対象範囲内で、保護すべき情報資産を洗い出します。
情報資産の例:顧客情報、従業員情報、財務情報、技術情報など
各情報資産の重要度を評価することも重要です。
脅威の特定情報資産に対して、どのような脅威が存在するかを特定します。
脅威の例:自然災害、事故、サイバー攻撃、内部不正など
過去のインシデント事例やセキュリティインシデント情報などを参考に、網羅的に脅威を特定することが重要です。
脆弱性の特定情報資産やシステムに、どのような脆弱性があるかを特定します。
脆弱性の例:セキュリティホール、パスワードの脆弱性、人的ミスなど
脆弱性診断ツールなどを活用して、客観的に脆弱性を特定することが重要です。
リスクの分析特定された脅威と脆弱性から、どのようなリスクが発生するかを分析します。各リスクについて、発生確率と影響度を評価します。
発生確率と影響度を掛け合わせることで、リスクの大きさを算出することができます。
リスクの評価分析結果に基づき、各リスクの重大性を評価します。リスクマトリクスなどを用いて、リスクの重大性を可視化することが一般的です。
重大なリスクには、優先的に対策を講じる必要があります。
リスク対応評価されたリスクに対して、適切な対応策を検討・実施します。リスク対応には、リスクの回避、リスクの軽減、リスクの転嫁、リスクの保有といった選択肢があります。
コスト、効果、実現可能性などを考慮して、最適な対応策を選択することが重要です。
監視と見直しリスク対応後も、リスクの発生状況を監視し、必要があれば対応策を見直します。情報システムを取り巻く環境は常に変化するため、定期的にリスクアセスメント全体を見直すことが重要です。

リスクアセスメントは、情報セキュリティ対策の基礎となる重要なプロセスです。組織は、定期的にリスクアセスメントを実施し、情報資産を適切に保護する必要があります。

システムリスクの評価

システムリスクの評価では、リスクが起きたときの影響の大きさ(影響度)と、リスクが起きる可能性の高さ(発生確率)を考えます。それらを組み合わせて、リスクの重大さを評価します。

評価方法には、言葉で評価する「定性評価」、数字で評価する「定量評価」、表で評価する「リスクマトリクス」などがあります。

システムにおけるリスクの種類

システムにおけるリスクは、その種類も影響も多岐に渡ります。大きく分けると、以下の3つのカテゴリーに分類できます。

カテゴリー項目内容具体例
セキュリティリスク機密性許可されたユーザーのみが情報にアクセスできることを保証する性質。
不正アクセス、情報漏洩、盗難などにより、機密情報が漏洩するリスク。
顧客情報、個人情報、企業秘密などが漏洩すること。
完全性情報が正確で完全であることを保証する性質。
データ改ざん、データ破壊、システムエラーなどにより、情報が改ざんされたり、破壊されたりするリスク。
顧客の注文情報が改ざんされる、データベースが破壊されるなど。
可用性システムやサービスが利用可能な状態であることを保証する性質。
システム障害、サイバー攻撃、自然災害などにより、システムが停止し、サービスが利用できなくなるリスク。
Webサイトがダウンする、業務システムが停止するなど。
運用リスクシステム障害操作ミス、設定ミス、管理ミスなど、人為的なミスによるリスク。誤ったデータを入力する、重要な設定を誤る、バックアップを忘れるなど。
システム障害ハードウェアの故障、ソフトウェアのバグ、ネットワークの障害などによるリスク。サーバーがダウンする、アプリケーションがエラーを起こす、ネットワークが切断されるなど。
災害地震、火災、洪水など、自然災害によるリスク。データセンターが被災する、停電が発生するなど。
プロジェクトリスク要件定義の不備顧客の要求を正確に把握できず、開発したシステムが要件を満たさないリスク。顧客が要望している仕様になっていないこと
開発の遅延開発計画が遅延し、納期に間に合わないリスク。開発の納期が遅れてしまいサービス開始に間に合わないこと
予算超過開発費用が当初の予算をオーバーするリスク。開発費が想定上の金額になってしまうこと
品質不良システムに欠陥があり、期待通りの品質を満たせないリスク。システムのバグが発生し業務影響が出ること

これらのリスクは、単独で発生することもあれば、複数のリスクが連鎖的に発生することもあります。

それぞれのシステムやプロジェクトの特性を踏まえ、どのようなリスクが存在し、どの程度の発生確率と影響度があるのかを分析することが重要です。

システムリスク評価の方法

システムリスク評価の方法には、大きく分けて定性的な評価と定量的な評価の2種類があります。それぞれの特徴を理解し、評価対象や目的に合わせて適切な方法を選択する必要があります。

主な手法概要
定性評価リスクマトリクス影響度と発生確率を軸としたマトリクス上にリスクをプロットし、視覚的にリスクの重大性を評価する方法。
シナリオ分析リスクシナリオを作成し、そのシナリオに基づいてリスクの影響度や発生確率を評価する方法。
デルファイ法専門家へのアンケート調査などを実施し、その結果を統計的に処理することでリスクを評価する方法。
定量評価モンテカルロシミュレーション乱数を用いてリスクの影響度や発生確率をシミュレーションし、リスクの期待値を算出する方法。
決定木分析リスクの発生要因を分析し、意思決定の選択肢を評価する方法。

システムリスク評価は、情報セキュリティ対策の基礎となる重要なプロセスです。適切な評価方法を選択し、組織のセキュリティレベル向上に役立てましょう。

評価結果の活用

リスクアセスメントを実施し、リスクの評価が完了したら、その結果を適切に活用し、具体的なセキュリティ対策に繋げることが重要です。評価結果を分析し、組織のセキュリティレベル向上に役立てるために、以下の活用方法を検討しましょう。

1. リスク対応の優先順位付け

全てのリスクに同じレベルで対応することは、時間的・資源的な制約から現実的に難しいことが多いです。そのため、評価結果に基づき、リスクの重大度が高いものから優先的に対応することで、限られたリソースを効果的に活用し、最大限のリスク軽減効果を得ることが可能になります。

リスクマトリクスなどを用いることで、視覚的にリスクの優先順位を把握し、関係者間で共有することができます。

2. 適切なセキュリティ対策の検討・実施

リスクの種類や特性に応じて、適切なセキュリティ対策を検討・実施します。セキュリティ対策は、多層防御の考え方に基づき、複数の対策を組み合わせることで、より効果を高めることができます。

3. セキュリティ対策の費用対効果の評価

セキュリティ対策を導入する際には、費用対効果を考慮することが重要です。セキュリティ対策にかかるコストと、その対策によって得られる効果 (リスク軽減効果、経済的損失の抑制、信用失墜の防止など) を比較し、費用対効果を評価することで、投資判断の材料とすることができます。

4. 関係者への情報共有

リスクアセスメントの結果を、経営層、システム管理者、利用者など、関係者に共有することで、セキュリティ意識の向上を図り、組織全体のセキュリティレベル向上に繋げることができます。情報共有の方法としては、報告書の作成、説明会の実施、社内ポータルサイトへの掲載などが考えられます。

5. 定期的な見直し

システムリスクは、技術の進歩、新たな脅威の出現、ビジネス環境の変化などにより、常に変化します。定期的にリスクアセスメントを見直し、評価結果を最新の状態に保つことで、変化するリスクに対応し、効果的なセキュリティ対策を継続することができます。見直しを行うことで、新たなリスクの特定や、既存の対策の有効性検証を行うことができます。

リスクアセスメントの結果を適切に活用することで、組織はセキュリティリスクを効果的に管理し、安全なシステム運用を実現することができます。

評価結果の活用事例

あるECサイト運営企業が、顧客情報を含むデータベースに対するリスクアセスメントを実施した結果、以下のリスクが特定されました。

内容影響度発生確率
外部からの不正アクセスによる顧客情報漏洩
データベースサーバーの故障によるシステム停止
従業員による顧客情報の不正利用
地震によるデータセンターの被災極低

1. リスク対応の優先順位付け

リスクマトリクスを用いてリスクの重大度を評価した結果、リスク1が最も重大度が高いと判断されました。

重大度は以下の通りです。

  • リスク1:重大度「大」
  • リスク2:重大度「低」 
  • リスク3:重大度「中」
  • リスク4:重大度「低」

2. 適切なセキュリティ対策の検討・実施

  • リスク1:ファイアウォール、WAF (Web Application Firewall) の導入、アクセス制御の強化、脆弱性診断の実施、セキュリティ教育の強化など
  • リスク2:データベースサーバーの冗長化、定期的なバックアップの実施など
  • リスク3:アクセス権限の厳格な管理、ログ監視システムの導入、従業員へのセキュリティ教育など
  • リスク4:ディザスタリカバリ計画の策定、遠隔地へのバックアップデータ保管など

3. セキュリティ対策の費用対効果の評価

リスク1への対策として、高額なセキュリティ製品の導入を検討していましたが、費用対効果を評価した結果、既存のセキュリティ対策を強化することで十分な効果が得られると判断し、導入を見送りと判断しました。

4. 関係者への情報共有

リスクアセスメントの結果をまとめた報告書を作成し、経営層に提出しました。 また、システム管理者や開発者向けに説明会を実施し、セキュリティ対策の重要性や具体的な対策内容を共有しました。

5. 定期的な見直し

6ヶ月ごとにリスクアセスメントを見直し、新たな脅威や脆弱性がないか、既存の対策が有効に機能しているかを検証しました。

この事例のように、リスクアセスメントの結果を適切に活用することで、組織はセキュリティリスクを効果的に管理し、安全なシステム運用を実現することができます。

情報セキュリティ対策の基礎

情報セキュリティ対策は、企業にとって非常に重要です。情報漏洩やシステム障害などのセキュリティインシデントは、企業に大きな損害を与える可能性があります。

情報セキュリティ対策の基本原則は、「機密性」「完全性」「可用性」の3つをバランスよく確保することです。

具体的な対策としては、技術的な対策、物理的な対策、人的な対策、組織的な対策など、様々な方法があります。

ここでは、情報セキュリティ対策の基礎となる以下の内容を解説します。

  • 基本的なセキュリティ対策
  • 人的対策の重要性
  • 継続的な改善

基本的なセキュリティ対策

情報セキュリティ対策の基本は、情報資産の「機密性」「完全性」「可用性」を確保することです。これを「CIAトライアド」と呼びます。

基本的なセキュリティ対策として技術面・物理面から多層的に行うことが重要です。

対策として以下の例を参考にしてみて下さい。

カテゴリー項目内容
技術的な対策アクセス制御ネットワークへのアクセスを制限し、不正アクセスを防ぐ。ファイアウォール、侵入検知システムなど。
マルウェア対策ウイルス、ワームなどのマルウェアからシステムを保護する。ウイルス対策ソフトの導入、定義ファイルの更新など。
脆弱性対策システムの脆弱性を解消し、攻撃を防ぐ。OSやソフトウェアのアップデート、脆弱性診断など。
暗号化データを暗号化し、盗み見や改ざんを防ぐ。
物理的な対策入退室管理サーバールームなど、重要な場所にアクセスできる人を制限する。
環境対策温度、湿度、火災、水害などから設備を保護する。
盗難・紛失対策PC、モバイル端末などの盗難・紛失を防ぐ。

セキュリティ対策は、脅威の変化に合わせて、常に最新の状態を維持することが重要です。

人的対策の重要性

情報セキュリティ対策において、技術的な対策や物理的な対策と並んで重要なのが「人的対策」です。高度なセキュリティシステムを導入しても、それを運用する人間の意識や行動が伴わなければ、セキュリティインシデントを防ぐことはできません。

人的ミスや不注意は、セキュリティインシデントの大きな要因の一つです。 実際、多くのセキュリティインシデントは、従業員のパスワード管理の甘さや、フィッシングメールへの不用意なクリックなど、人的な要因によって引き起こされています。そのため、従業員一人ひとりのセキュリティ意識を高め、適切な行動を促すための人的対策が不可欠です。

人的な対策としてよく行われている内容がこちらです。

項目内容
セキュリティ教育従業員へのセキュリティ意識向上のための教育。
パスワード管理強固なパスワードの設定、定期的な変更。
アクセス権限管理従業員の職務に応じて、適切なアクセス権限を付与する。

人的対策は、単発的な取り組みではなく、継続的に実施することが重要です。定期的な教育や訓練、意識啓蒙活動などを通して、セキュリティ意識を根付かせ、セキュリティインシデントを未然に防ぐ体制を構築しましょう。

「人」は、セキュリティの最大の弱点であると同時に、最強の防御壁でもあります。人的対策を強化することで、組織全体のセキュリティレベルを向上させることができます。

継続的な改善

情報セキュリティ対策は、一度実施すれば終わりではありません。

技術の進歩、新たな脅威の出現、ビジネス環境の変化などにより、リスクは常に変化していくからです。

そのため、セキュリティ対策を継続的に改善して「組織的な対策」を行なっていくことが重要となります。

組織的な対策としてよく行われている内容については以下の表で解説します。

カテゴリー項目内容
組織的な対策セキュリティポリシーの策定組織全体のセキュリティに関するルールを定める。
リスクアセスメント:リスクを特定し、評価する。
BCP (事業継続計画)災害や事故発生時の対応手順を定める。
PDCAサイクル計画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Action) を繰り返すことで、セキュリティレベルを継続的に向上させる。

継続的な改善を行うことで、セキュリティ対策をより効果的なものにし、組織の情報資産を安全に守ることができます。

まとめ

リスクアセスメントは、情報セキュリティ対策の基礎となる重要なプロセスです。システムに潜むリスクを早期に発見し、適切な対策を講じることで、情報資産を守り、ビジネスの安定稼働を支えることができます。

リスクアセスメントは、一度実施したら終わりではありません。システムを取り巻く環境やビジネスニーズは常に変化するため、定期的に見直し、最新の状態に保つことが重要です。

また、リスクアセスメントの結果を、関係者間で共有し、組織全体のセキュリティ意識向上に繋げることも重要です。

リスクアセスメントを効果的に活用することで、組織はセキュリティリスクを最小限に抑え、安全な情報システム運用を実現できるでしょう。

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