
OpenAI DevDay 2025 基調講演(Opening Keynote)レポート
「OpenAI DevDay 2025」とは、2025年10月6日にOpenAIがサンフランシスコにて開催するオンサイトイベントです。
AI技術の最前線を知り、開発者同士が交流できる本イベントは、今年で3回目の開催です。本年過去最大規模となる1500人超の開発者を世界中から招待して行われます。
本講演は、元々CEOのサム・アルトマンや社長による基調講演が予定されていましたが、具体的に何が発表されるのか発表されていませんでした。次世代AIモデル「GPT-5」の詳細や新しいAPI、開発者向けの新ツール群が発表されるのでは?など、多くの期待と噂が飛び交っていました。
本記事では、皆さんお待ちかねの、基調講演のレポートをお届けします!
開催概要
セッション名 | Opening Keynote with Sam Altman |
---|---|
セッション概要 | Sam Altman kicks off DevDay 2025 with a keynote to explore ideas that will challenge how you think about building. Join us for announcements, live demos, and a vision of how developers are reshaping the future with AI. 日本語訳: Sam Altmanによる基調講演で、DevDay 2025が開幕します。開発に対する考え方を変えるようなアイデアを探求します。発表、ライブデモ、そして開発者がAIで未来をどのように変えていくのかというビジョンをご覧ください。 |
登壇者 | OpenAI 最高経営責任者 サム・アルトマン氏 |
講演内容
今回のOpenAI DevDay 2025のオープニングキーノートは、AI開発の新たな時代を告げる画期的な発表に満ちています。
具体的には、ChatGPT内でのアプリ構築を可能にする「Apps SDK」や、エージェント開発を劇的に簡素化する「AgentKit」、そしてソフトウェア開発のあり方を変革する「Codex」の正式版など、開発者の生産性を飛躍させるツール群が発表されました。
本記事では、運用エンジニアやSREの視点から、これらの新技術がもたらす価値と明日からの活用方法を、基調講演の時系列に沿って詳しく解説します。
「Apps SDK」のプレビュー版が公開
DevDayの冒頭、OpenAIはChatGPTが単なる対話ツールから、開発者がインタラクティブなアプリケーションを構築し、数億人のユーザーに届けられるプラットフォームへと進化することを発表しました。
その中核をなすのが、プレビュー版として公開された「Apps SDK」です。
このSDKは、開発者がChatGPTの対話内に、データ接続、アクションの実行、そしてインタラクティブなUIの描画までを含むフルスタックのアプリケーションを構築することを可能にします。
AIモデルと外部ツールを接続するための技術標準であるMCP(Model Context Protocol)に準拠しており、開発者はバックエンドのロジックとフロントエンドのUIを完全に制御できます。将来的には、対話内での即時決済を可能にする新しいプロトコル「Agentic Commerce Protocol」など、多様な収益化手段もサポートされる予定です。
デモンストレーションでは、3つの具体的なアプリが紹介されました。
アプリケーション | ChatGPT内での連携内容 |
---|---|
Coursera | 対話形式で機械学習について学びたいと伝えると、Courseraアプリが起動し、講座ビデオが再生される。ビデオの内容について質問すると、ChatGPTが文脈を理解して解説を提供する。 |
Canva | ブレーンストーミングしたビジネスのアイデアを元にポスター作成を依頼すると、Canvaが複数のデザイン案を生成。さらに、そのポスターを元に投資家向けのピッチデックを作成することも可能。 |
Zillow | 事業拡大に適した都市として提案されたピッツバーグの住宅情報を検索。インタラクティブな地図が埋め込まれ、「庭付き3ベッドルーム」といった条件で絞り込み、特定の家から最寄りのドッグパークまでの距離を尋ねるなど、対話と地図操作をシームレスに連携。 |
Apps SDKは本日、日本時間2025年10月7日よりプレビュー版として開発者に提供されます。2025年以内には、アプリのレビュー申請と公開が可能になる予定です。
オープンソースの AI エージェント開発キット「AgentKit」の発表
次に焦点を当てたのは、AIエージェント開発の複雑さを解消し、誰もが迅速にアイデアを形にできるようにすることです。その解決策として「AgentKit」が発表されました。
これは、エージェントのプロトタイピングから本番運用までを支援する、OpenAIプラットフォームに統合された包括的なツールセットです。
AgentKitは、主に3つの要素で構成されています。
Agent Builder | ロジックのステップを視覚的に設計し、フローをテストできるキャンバス。 |
---|---|
ChatKit | 自社アプリに簡単に組み込める、カスタマイズ可能なチャットインターフェース。 |
Evals for Agents | エージェントのパフォーマンスを測定・評価するための専用機能群。 |
デモンストレーションでは、このAgentKitを使い、わずか8分でDevDayのイベントサイトにAIアシスタントを構築し、デプロイする様子が実演されました。
ファイル検索や事前定義されたガードレール(個人情報保護など)といった部品をドラッグ&ドロップで組み合わせ、セッション情報を案内するエージェントを迅速に作成。完成したエージェントは、ChatKitを使って即座にウェブサイトに埋め込まれました。
【筆者からの補足】 運用エンジニアにとってのAgentKitの価値
AgentKitは、システム運用業務の自動化において大きな可能性を秘めており、今後の活用が大いに期待されますね!
これまでアラート通知後の一次調査や、定型的なインフラ構成の変更といったタスクを自動化するには、専門的なフレームワークの知識とコーディングが不可欠でした。
しかし、Agent Builderの視覚的なインターフェースを使えば、SREやインフラエンジニアは、運用手順書(Runbook)を組み立てるような感覚で、自動化エージェントを迅速に構築できるようです。
例えば、「特定のアラートをトリガーに、関連するメトリクスを収集し、過去の類似障害と比較して、原因の可能性をSlackに報告する」といった一連のワークフローを、コードをほとんど書かずに実現する、といった使い方ができそうです。
ソフトウェア開発の新たな共同作業者「Codex」の正式リリース
AIによるソフトウェア開発の変革を象徴するのが、ソフトウェアエンジニアリングエージェント「Codex」です。リサーチプレビューとして提供されてきたCodexが、今回ついにGA(一般提供開始)となりました。
Codexは、新たにGPT‑5-Codexモデルを搭載し、コードのリファクタリングやレビューといったタスクの能力が向上しています。
IDE、ターミナル、GitHub、クラウドといった開発のあらゆる場面で利用でき、チームでの利用を促進するための新機能も発表されました。
新機能 | 概要 |
---|---|
Slack連携 | チームの会話が行われるSlackから直接Codexを呼び出し、コード作成や質問が可能に。 |
Codex SDK | チーム独自のワークフローにCodexを組み込み、自動化を拡張するためのSDK。 |
管理者ツール | 環境制御、モニタリング、分析ダッシュボードなど、企業でのCodex管理を強化する機能群。 |
デモンストレーションでは、Codexがいかに強力な「チームメイト」となり得るかが示されました。
事前の準備なしに、会場のカメラ(Sony FR7)を制御するためのNode.jsサーバーを構築。さらにライブで、Xboxコントローラーや音声対話によってカメラと照明システムを操作する機能を追加実装しました。
驚くべきことに、Codex SDKをツールとして利用することで、音声エージェント自身がリアルタイムでアプリケーションのコードを書き換え、ユーザーの要求(「映画のクレジットのように参加者名を表示して」)に応じて即座に新機能を追加する様子まで披露されました。
【筆者からの補足】SRE/DevSecOpsが見るCodexの可能性
CodexのGAとCodex SDKの登場は、IaC(Infrastructure as Code)やセキュリティ運用の現場に大きな変革をもたらしそうです!
例えば、Codex SDKを利用して、Terraformの構成ファイルやKubernetesのマニフェストファイルに特化した静的解析ツールを自作することが考えられます。これにより、組織独自のセキュリティポリシーやベストプラクティスに違反するコードがコミットされるのを自動的に防ぐ、高度なDevSecOpsパイプラインを構築できるでしょう。
また、複雑なCI/CDパイプラインのスクリプト生成や、インシデント対応時に必要となるログ分析スクリプトの動的な作成など、これまで手作業に頼っていた多くの運用タスクをCodexに任せることで、エンジニアはより創造的で本質的な問題解決に集中できるようになることが期待できます。
「GPT-5 Pro」と「Sora 2」、API提供開始
以下のツール群を支える基盤モデルとAPIにも、重要なアップデートがありました。こちらは表にまとめます。
サービス | 詳細 |
---|---|
GPT-5 Pro API | これまでで最も高性能なモデルであるGPT-5 Proが、本日よりAPI経由で全ての開発者に提供開始されます。 これにより、金融、法務、ヘルスケアなど、高い精度と深い推論が求められる領域での活用が期待されます。 |
gpt-realtime-mini | 高品質な表現力を維持しつつ、従来より70%安価な小型音声モデルがAPIで利用可能になります。 |
Sora 2 API | 最先端の動画生成モデルSora 2が、プレビュー版としてAPIで提供されます。 詳細な指示に対する高い制御性、映像と同期した豊かなサウンドスケープの生成、そして実写の画像や動画との合成など、クリエイティブな表現の可能性を大きく広げます。 |
まとめ
OpenAI DevDay 2025は、AIが単なるツールから、開発者と協働し、アイデアの実現を加速させるプラットフォームへと進化したことを明確に示しました。
Apps SDKによるChatGPTのアプリエコシステム、AgentKitによるエージェント開発の民主化、Codexによるソフトウェア開発プロセスの再定義、そしてGPT-5 ProやSora 2といった最先端モデルのAPI解放。これら全てが、開発者がより迅速に、より創造的に価値を生み出すための強力な追い風となります。
数ヶ月、数年かかっていたソフトウェア開発が、数分で可能になる時代が到来しました。
この記事を読んだインフラエンジニアやSREの皆さんは、ぜひこの変化の波を捉え、まずは身近な運用課題の解決から始めてみてはいかがでしょうか?例えば、AgentKitのビジュアルビルダーを使い、日々の定型作業を自動化する小さなエージェントを作成してみることから、あなたのチームの生産性革命が始まるかもしれません!