
世界で最初のWebサイトは、今でも復刻版が閲覧できる。
システム開発や運用の現場は、日進月歩の技術革新の連続で、一息つく暇もないかもしれません。そんな忙しい合間に、ふとWebの原点を振り返ってみるのはいかがでしょうか?
日々のシステム運用や開発業務で、私たちは当たり前のようにWebを使っています。しかし、その広大なWeb空間の「一番最初のページ」、つまり世界で最初に公開されたWebサイトの復刻版が、現在も存在していることをご存知でしょうか。
本日ご紹介するのは、そんな歴史の始まりを告げる1つのWebサイトの物語です。
すべてはここから始まった!
世界初のWebサイトは、1991年8月6日に公開されました。
場所はスイスにあるCERN(欧州原子核研究機構)です。 作成者は、英国の科学者ティム・バーナーズ=リー氏。
彼の目的は、世界中に散らばる研究者たちが、もっと簡単に研究データや論文を共有できるようにすることでした。この「あったらいいな」という純粋な動機から、World Wide Web、つまりWWWは生まれました。
彼が使っていたNeXT社のコンピュータが、記念すべき世界初のWebサーバーとなったのです。壮大な革命も、始まりは現場の課題を解決したいという、私たちにも身近な思いだったというのは、興味深い話です。
Webを世界に広げた決断
WWWがこれほどまでに普及した背景には、CERNによる重要な決断があります。1993年4月30日、CERNはWWWに関する技術をパブリックドメインとし、誰でも無償で利用できるようにしたのです。
このオープンな姿勢が、Webの爆発的な発展を後押ししました。
「始まりのページ」を訪ねてみる
そして2013年、WWWのパブリックドメイン化から20周年を記念して、CERNは世界初のWebサイトを復元するプロジェクトを開始しました。 その復刻版サイトは、現在もこちらのURL(http://info.cern.ch
)で閲覧することができます。
アクセスして最初に目に飛び込んでくるのは、おそらく想像以上のシンプルさでしょう。

現代のWebサイトのような華やかな画像や複雑なレイアウトはなく、青い文字のハイパーリンクが埋め込まれた、黒いテキストが並んでいるだけ。
しかし、これこそが革命の原点でした。
この「テキストをクリックすれば、別の情報に飛ぶ」というハイパーリンクの概念こそが、情報と情報を結びつけ、知識を網の目のように広げることを可能にしたのです。
ラインモードブラウザで、当時の雰囲気を再現!
このサイトでは、当時のラインモードブラウザのシミュレーターを使って、Web黎明期の雰囲気を体験することも可能です。その画面がこちら!

一瞬、ランサムウェアに感染した際の画面のようだ、などと不謹慎なことを思ったのは筆者だけでしょうか。(もちろん違います)
黒い画面に浮かぶ、粗いドット感のある緑色の固定幅フォント。その佇まいはレトロなSF映画のようでもあり、今見るとかえって新鮮に映ります。
それでいて、このサイトと同じ1991年生まれの筆者にとっては、この文字が子供の頃によく見ていたファミコンのゲーム画面を思い出させ、どこか懐かしい気持ちにもさせてくれます。
SSLがついていない…
筆者を含め、現代人には当たり前のSSLがついていない、と気になった方も多いのではないでしょうか?このサイトがSSL化されないのは、こんな理由が考えられます。
1. 歴史的な正確性を尊重しているから?
Webサイトの通信を暗号化するプロトコルであるSSL/TLS(HTTPSの根幹技術)が広く使われるようになったのは、1990年代半ば以降のことです。世界初のWebサイトが誕生した当時には、HTTPSという概念そのものが存在せず、すべての通信は暗号化されていないhttpで行われていました。
そのため、当時の技術的な環境を忠実に再現し、「ありのままの歴史」を体験できるようにしているのではないでしょうか。
2. セキュリティ上の緊急性が低いから?
HTTPSの主な目的は、クレジットカード番号やパスワードといった機密情報が、第三者に盗み見られたり改ざんされたりするのを防ぐことです。
該当のサイトは、閲覧者が情報を入力するフォームなどはなく、一方的に情報を提供するだけの静的なサイトです。機密情報のやり取りが発生しないため、通信を暗号化する緊急性や必要性が非常に低いのです。
なぜ今も、この場所は大切にされているのか
CERNがこのサイトを復元し、公開し続けているのは、単なるノスタルジーからではありません。そこには、Webが生まれた時の「知識はオープンに共有されるべき」という大切な理念を、後世に伝えたいという思いがあるようです。
実際に、CERNは1993年にWWWの技術を無償で公開するという決断を下し、それがWebの爆発的な普及に繋がりました。始まりのページを訪れることは、このWebの根底に流れる「オープンさ」という文化の源流に触れる体験でもあるのです。
まとめ
最新技術のキャッチアップに追われる毎日ですが、たまにはこうしてWebの原点を覗いてみるのも面白いものです。
私たちの仕事が、30年以上前にたった一台のコンピュータから始まった、壮大な歴史の延長線上にある。そう考えると、目の前のターミナル画面も、少し違って見えてくるかもしれません。