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AI推進法が可決 ─内容解説と企業がとるべきアクションを考察

AI推進法が可決 ─内容解説と企業がとるべきアクションを考察

2025年5月28日、「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案」(以下、AI推進法)」が参議院本会議において全会一致で可決、成立した。

AI推進法は2025年4月18日に衆議院内閣委員会で可決され、4月24日に衆議院本会議で可決、日本初のAIに特化した法律として注目を集めていた。

AI推進法は、規制よりも支援を重視する「理念法」的性格が強い点が特徴である。AIの技術革新を加速させつつ、その安全性と透明性を確保することで、経済・社会の持続的発展を目指す狙いだ。

本記事では、衆議院のサイトにて公開されているAI推進法の内容を分かりやすく解説し、企業がとるべきアクションを考える。

AI推進法の目的と背景

AI推進法は、AI技術の研究開発と活用を推進し、産業競争力の強化や社会課題の解決を図ることを目的としている。それと同時に、AIの誤用や倫理的問題によるリスクを軽減し、「人間中心のAI社会原則」に基づく信頼性の高いAI社会を構築することを目指すものだ。

生成AIや自動運転技術の進展に伴い、プライバシー侵害やフェイク情報の拡散といった課題が顕在化しており、これに対応する法整備の必要性が背景にある。法案は、AIの可能性を最大限に引き出しつつ、国民生活の向上と経済発展を両立させることを企図している。

AI推進法の内容

AI推進法の主要な内容は以下の通りである。

AI戦略本部の設置

内閣に「AI戦略本部」を新設し、内閣総理大臣を本部長、全閣僚をメンバーとする体制を確立する。これにより、AI政策の総合的かつ一元的な企画・立案・推進が可能となる。

本部は、産学官連携や国際協調を視野に入れ、AI技術の研究開発から社会実装までを統括する。法案全文では、本部の具体的な役割として「AI基本計画の策定や進捗管理、関係省庁の調整」が明記されている。

    研究開発の促進

    AI関連技術の研究開発の加速を目的に、財政支援や税制優遇を活用したインセンティブを提供する。特に、生成AIやデータ解析技術など、先端分野でのイノベーションを推進する。

    法案全文では、研究開発の促進に向けた具体策として、「民間企業や研究機関への資金助成や技術基盤の整備」が強調されている。また、産学連携によるオープンイノベーションの環境構築も明記されており、AI技術の社会実装を加速する方針が示されている。

      安全確保と倫理基準の確立

      AIの安全性を確保するため、透明性や説明責任を重視したガイドラインを策定する。法案全文では、AIシステムの開発・運用におけるリスク評価基準の設定や、個人情報保護、差別防止を考慮した設計の義務化が規定されている。

      特に、AIによる重大な事案が発生した場合、国が調査を行い、是正勧告や企業名の公表を通じて是正を促す仕組みが導入されている。ただし、罰則は設けず、企業への「名指し」による社会的圧力を活用する方針だ。

        人材育成と国際協力

        AI分野の専門人材育成を強化するため、教育プログラムの拡充や産学連携による実践的研修を推進する。法案全文では、AIリテラシー向上のための国民向け教育や、専門家の育成に向けた奨学金制度の検討も含まれる。

        さらに、国際的なAIガバナンスの枠組み構築に積極的に参画し、グローバルなルール作りをリードする方針が示されている。国際協力に関しては、「AIの倫理的利用に関する国際基準の策定への貢献」が強調されている。

        企業がとるべきアクションと変化

        AI推進法によって、生成AIを活用するIT企業は、AIシステムの透明性や説明責任を重視し、リスク評価基準や個人情報保護・差別防止の設計を義務化される。違反した場合、、国による調査や企業名が公表されるリスクがあるため、コンプライアンス体制を整備が必須だろう。以下のようなアクションを取ることが考えられる。

        • AIシステムの開発・運用で、倫理ガイドラインやリスク評価基準に準拠したプロセスを構築。
        • アルゴリズムの説明可能性を高める技術(XAI)の導入や、プライバシー保護・差別防止のデータ管理体制を強化。

        また、政府の助成プログラムや税制優遇を活用し、AI開発への投資を増やす事で資金面のハードル低下で参入が容易になるのは、特に中小企業やスタートアップには大きな利点だろう。

        今後の展望と課題

        政府は2025年度中にAI戦略本部を発足させ、5年ごとに更新される「AI基本計画」の策定を進める予定だ。

        AI推進法は罰則がないソフトローであるため、法的な強制力がなく実効性の確保に限界がある。ソフトローは責任の所在が曖昧になりやすいというデメリットはあるが、作成や改変が容易で、状況に応じて柔軟に対応できるというメリットもある。

        また、一部議員の反対討論ではAIのリスク管理や透明性確保に関する懸念が語られており、AIの急速な進化に伴う倫理的・法的な課題への対応は引き続き求められる。

        まとめ

        AI推進法は、技術革新と社会的信頼のバランスを追求する日本の新たな挑戦である。

        産業界や学術界、市民社会が一体となってこの法律を活用することで、AIがもたらす可能性を最大限に引き出しつつ、安全で持続可能な未来を築くことが期待される。今後、AI戦略本部による具体的な施策やガイドラインの策定が注目される。

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