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クラウド運用設計の基本|責任共有モデルを考慮した保守業務とは?

クラウド運用設計の基本|責任共有モデルを考慮した保守業務とは?

クラウド運用において、システムの安定運用を確保するためには、従来のオンプレミスとは異なるアプローチが求められます。しかし、社内でクラウドに関わる知識やノウハウが蓄積されておらず、運用設計の進め方に悩む企業は多いのではないでしょうか。

本記事では、クラウド運用設計の基盤となる責任共有モデルの考え方や運用設計の検討項目について解説します。クラウド運用設計を行うメリットや効率化するためのポイントについても解説しているので、クラウド運用にお悩みの方はぜひ参考にしてください。

クラウド運用設計とは?

クラウド運用設計とは?

はじめに、クラウド運用設計の目的や重要性、実施内容について見ていきましょう。

クラウド運用設計の目的

クラウド運用設計とは、クラウド環境でシステムを安定稼働させ、サービスを継続的に提供するために計画する実施事項です。運用設計はオンプレミスにおいても必要なプロセスですが、クラウド環境ではクラウドの特性を考慮した計画が求められます。その際、「責任共有モデル」を理解することで管理するべき範囲が明確化され、適切な監視や障害対策の設計が行えます。

また、クラウド運用設計では、計画に沿った運用保守を実施し、継続的に改善を繰り返すことも重要です。これにより、運用保守における業務の質が向上し、システムの安定性及び継続性につながります。

クラウド運用設計の重要性

クラウド運用は、オンプレミス環境に比べて多くの利点が得られる一方で、クラウド特有の課題も存在します。それらを回避するには適切な運用設計を行い、クラウドのメリットを最大限に引き出すことが重要です。

たとえば、クラウド環境をビジネス目的として利用した場合、何よりも重視したいのがシステムの可用性です。これを高めるには冗長化や自動ファイルオーバー(待機システムへの切り替え)の設計を行い、安全性を確保する必要があります。また、データの保管方法やアクセス制御も従来の方法と異なるため、適切なセキュリティーポリシーに沿った対策が必要です。

クラウドにおける運用保守の実施内容

クラウド環境における運用保守では、主に以下のような業務が必要です。これらを事前に計画することで抜け漏れのない運用保守が実施でき、クラウド運用のスムーズ化が図れます。

実施業務
監視死活監視(インスタンスやアプリケーションの動作)リソース監視(CPU、メモリなどの使用率)
セキュリティ対策データの暗号化、アクセス制御、脆弱性管理など
バックアップ/復旧日次、月次、年次などの定期的なバックアップの取得
定期メンテナンスOSやアプリケーションの更新、セキュリティパッチの適用など
障害対応原因特定、影響範囲の確認、復旧方法の策定、復旧作業、関係者への連絡など

責任共有モデルの理解

クラウド環境の安定性を図るには、責任共有モデルを理解した上での運用設計が必要です。ここでは、責任共有モデルの役割分担やメリットについて解説します。

責任共有モデルとは

責任共有モデルとは、クラウド環境において、クラウド事業者と利用者のどちらに責任の所在があるのかを示した考え方のことです。クラウドサービスは、IaaS、PaaS、SaaSといったさまざまな形態で提供されるため、それぞれのモデルに合わせた管理が求められます。

責任共有モデルが必要な理由は、クラウド運用を効率的に実施するためです。たとえば、AWSでは物理的なインフラの保護やネットワークの管理はAWSの責任ですが、データの暗号化やアクセス制限などは一切関与しません。利用者がこれを理解した上で運用すれば、管理するべき業務に集中できるのです。

責任共有モデルにおける役割分担


責任共有モデルではクラウド事業者と利用者の責任範囲が明確化されており、それを示したものが以下の図です。

責任共有モデルではクラウド事業者と利用者の責任範囲が明確化されている

出典:NISC ホームページ「内閣官房内閣サイバーセキュリティセンター:クラウドを利用したシステム運用に関するガイダンス」(https://www.nisc.go.jp/pdf/policy/infra/cloud_guidance.pdf)

ここからわかるように、IaaSでは、物理インフラの管理やハードウェアのメンテナンス、物理的なセキュリティ対策はクラウド事業者が担当しますが、OSやミドルウェア、アプリケーション、データなどは利用者の責任範囲です。一方、PaaSやSaaSは、ほとんどがクラウド提供事業者の管理となるため、利用者は運用保守に手間をかけずにサービスを利用できます。これらの役割分担をあらかじめ理解することで、適切な運用設計が行え、クラウド環境の安定化を図れます。

責任共有モデルを使用するメリット

責任共有モデルの活用は、利用者にさまざまなメリットをもたらします。

まず、最も大きなメリットと言えるのがセキュリティの向上です。クラウドサービスでは、物理インフラはクラウド提供事業者の管理内となるため、データセンター自体が厳格なセキュリティ対策が施されています。つまり、利用者はその他のセキュリティ対策にリソースを集中でき、全体のセキュリティレベルが向上します。

また、責任共有モデルはコンプライアンスの確保においても有効です。クラウド提供事業者と利用者の間でどちらに責任があるのか明確化されているため、企業のコンプライアンス要件を管理しやすくなります。

クラウド運用設計の検討項目

クラウド運用設計の検討項目

クラウド運用設計では、いくつかの検討すべき項目があります。以下、主な検討項目について解説します。

  • 基本方針
  • 運用スケジュール
  • 運用体制
  • 運用保守の対象項目
  • セキュリティ対策
  • バックアップ/復旧
  • 監視設計
  • 障害対策

基本方針

基本方針の策定は、安定的且つ効率的なクラウド運用を実現するための重要なステップです。基本方針を明確にすることで企業全体で統一した運用が可能となり、抜け漏れのない運用保守を実施できます。

その際、重要なポイントとなるのが利用目的と目標の明確化です。方向性に一貫性を持たせることで運用設計の指針が定まり、具体的な運用手順やルールを決めることができます。また、企業が持つデータやシステムをどのように保護するのかといったセキュリティポリシーについても、あらかじめ検討する必要があります。

運用スケジュール

運用スケジュールの策定は、システムの安定性を図る上で重要な要素です。具体的には、日々の運用作業や定期メンテナンス、バックアップなどの実施時間を事前に設定し、これに従って運用保守を実施します。

スケジュール化する際の注意点は、必要な運用タスクをすべて洗い出すことです。タスクは重要度や緊急度によって優先順位を付けるため、ここで漏れてしまうと後から問題が生じる可能性があります。また、スケジュールを実施するための人的リソースも確保し、定期的な見直しと改善を繰り返すことが重要です。

運用体制

クラウド運用を成功させるためには、運用体制の策定が不可欠です。あらかじめ役割分担や配置を明確にすることで、日常的な運用作業やメンテナンス作業が計画的に実施でき、クラウド環境の安定化を図れます。

運用体制を整える際の注意点は、システムの稼働時間やメンテナンス時間に合わせてリソースを確保することです。たとえば、24時間365日稼働するようなサービスでは、3交代でエンジニアのシフトを組むなどして保守業務を実施する必要があります。また、運用体制には障害発生時の対応手順も含まれており、誰がいつ何を行うのかを明確化することが重要です。

運用保守の対象項目

クラウド運用設計において、対象項目の洗い出しはシステムの安定化を図るための重要な要素です。保守範囲を整理することで抜け漏れのない保守業務が可能となり、セキュリティリスクを最小限に抑えられます。

この際注意したいのが、システム全体の構成要素を体系的に把握することです。OSやミドルウェア、ソフトウェア、データベース、ストレージ、ネットワークなどをピックアップするのと同時に、各構成要素の役割や依存関係も理解する必要があります。これにより、保守の優先順位が決定され、運用保守のスムーズ化が図れます。

セキュリティ対策

クラウド運用はオンプレミスに比べて利便性が高い一方で、不正アクセスや情報漏洩などのリスクを伴います。これらのリスクを軽減するには、包括的なセキュリティ対策が不可欠です。

セキュリティ対策として、第一に考えたいのはアクセス制御です。適切なアクセス権限を設定することで、外部と内部両方のアクセスが限定され、不正アクセスのリスクを最小限に抑えられます。そのほか、多要素認証(MFA)の導入やデータの暗号化を活用すれば、より強固なセキュリティ基盤を構築できます。さらに、定期的なセキュリティ監査を実施することで最新の脅威に備えられ、クラウド環境のセキュリティ性を高められます。

バックアップ/復旧


クラウド運用において、データの完全性と可用性は何よりも重要です。これを確保するには定期的にバックアップを取得し、障害やデータ損失、自然災害といったあらゆるリスクに備える必要があります。

バックアップの取得に利用できるのが、AWS BackupやAzure Backupといったクラウド事業者が提供するサービスです。これらを活用することで、簡単に自動取得やスケジュール設定が行え、バックアップ業務の効率化につながります。また、バックアップを複数のデータセンターに保存する仕組みも提供されており、これを活用することでより高い可用性を実現できます。

監視設計

監視設計は、システムの安定性を確保するための重要な要素です。障害の予兆をいち早く検知するには、漏れのない適切な監視設計が求められます。

具体的な手順として、まず実施しなければならないのが監視対象の明確化です。サーバーやネットワーク、アプリケーション、データベースといったシステムの全体像を把握し、一つ一つの項目に対して適切な基準や閾値を設ける必要があります。その際、クラウド事業者が提供する監視ツールを利用すれば、アラート通知やアクションを自動で発行でき、迅速な対処が可能です。

障害対策

クラウド環境は、適切な運用設計によって高い可用性を確保できますが、それでも障害やトラブルがゼロになるわけではありません。障害が発生した際の影響範囲を最小限に抑えるには、迅速かつ効果的に対処できる事前の準備が必要です。

たとえば、システム構成図や障害レベル、対応フローの定義は必須です。そのほか、レベルに応じた対応方法や役割分担、連絡経路、対応終了条件などを策定すれば、予期せぬトラブルが起きたとしても速やかに対処できます。また、実際に障害が起きた際は、根本原因の特定や恒久的な対策を行い、サービスの安定性を高めることが重要です。

クラウド運用設計を行うメリット

クラウド運用設計を行うメリット

クラウド導入にあたり、運用設計は企業にさまざまなメリットをもたらします。ここでは主なメリットを4つ紹介します。

  • 運用保守を効率的に実施できる
  • 予期せぬトラブルや障害に備えられる
  • 高セキュリティな環境が運用できる
  • 運用保守の属人化を防げる

運用保守を効率的に実施できる

責任共有モデルを意識した運用設計では、クラウド提供事業者と利用者の責任範囲が明確に切り分けられます。そのため、ユーザーは物理インフラを管理する必要がなく、OSやアプリケーション、データなどに絞った管理が可能です。障害が生じた際も、従来のオンプレミスに比べて問題の判別がつきやすくなり、運用負担を大幅に削減できるでしょう。

また、運用保守の業務を一部自動化できる点も大きなメリットです。たとえば、オートスケール機能では、サーバーの負荷状態を判別して自動で仮想サーバーの台数やスペックを調整してくれます。これにより、運用担当者の手間をかけずにシステムの安定性を維持でき、運用保守のスムーズ化を図れます。


予期せぬトラブルや障害に備えられる

運用設計では、定期的なバックアップがスケジュール化され、トラブルや障害対策として有効です。万が一、サイバー攻撃や人的ミスが起きたとしても、データ損失のリスクを最小限に抑えられるほか、リカバリによって迅速に復旧作業ができます。さらに、データセンター自体が遠隔地に立地されているため、物理的な障害からもデータ保護が可能です。

高セキュリティな環境で運用できる

クラウドは運用設計を行うことで、包括的なリスク管理が可能です。運用の目的や目標を明確にすることで自社のセキュリティポリシーを確立でき、抜け漏れのないセキュリティ対策を実施できます。

たとえば、適切に管理されたアクセス制限は、外部からの不正アクセスや情報漏洩の抑止が可能です。同時に、多要素認証(MFA)やシングルサインオン(SSO)、データの暗号化といった先進技術を用いることで、自社システムの安全性がより強化されます。クラウドサービスの多くではこれらの機能が提供されており、運用設計に組み込むことで高セキュリティな環境を実現できます。

運用保守の属人化を防げる


運用保守は、特定の運用担当者にしかできない業務が存在すると、その人物が不在になった際に業務が停滞するリスクが存在します。とくに、クラウド運用は特有の知識・スキルが求められることから、経験の長いエンジニアでも適切な対処が難しいケースもあるでしょう。

しかし、運用設計では保守業務が標準化されることで、誰でも同じ手順で業務が可能です。これにより、業務の属人化を抑止でき、運用をスムーズに行えます。標準化されたマニュアルを用いることで業務フローが明確化され、ヒューマンエラーの削減にも効果的です。

クラウドの保守業務を効率化するポイント

クラウドの保守業務を効率化するポイント

運用保守の効率化を実現するには、ツールの活用や自動化、運用支援サービスの利用がおすすめです。以下、具体的な効率化ポイントについて見ていきましょう。

  • AWSやMicrosoft Azureが提供するツールの活用
  • 運用保守の自動化を実装する
  • 運用支援サービスを利用する

AWSやMicrosoft Azureが提供するツールの活用


効率化に向け、最も多く利用されるのがクラウド事業者が提供するサービスです。AWSやMicrosoft Azureでは、運用管理に役立ついくつものサービスが提供されており、これらを活xzc用a すxdcferることで運用保守の負担軽減が可能です。


たとえば、監視機能では、クラウド環境の監視をリアルタイムで行い、メトリクスやログを用いてパフォーマンスを診断することができます。異常が検知された際はアラート発行がて通知され、運用担当者はメールやSMS、音声通知によって問題に素早く気付くことができます。また、対処方法がすぐに判断できない場合は、管理画面上から推奨事項の確認も可能です。

運用保守の自動化を実装する

クラウド環境では、さまざまな保守業務の自動化が可能です。従来の手動作業は人的ミスや負担が課題でしたが、自動化を実装することで問題が解消され、運用保守の効率化につながります。

たとえば、定期的なバックアップや監視はタスクを自動化することができ、運用担当者の負担軽減が可能です。ほかにも、ジョブ管理機能では大量のジョブをスケジュール化し、アクセスの少ない時間帯にまとめて実行するといった運用もできます。また、特定のイベントに対して自動でコードを実行する仕組みを活用すれば、リソースの調整やサーバーを再起動する際も対応できます。

運用支援サービスを利用する

運用保守の効率化で、最も手軽にできるのが運用支援サービスの活用です。

運用支援サービスは、システムの運用保守を専門に請け負っており、利用者は環境構築から監視、メンテナンス、トラブルシューティングまでをまとめて委託できます。サービスによっては24時間365日の有人監視にも対応しており、自社のリソースを使うことなく充実した監視体制が構築できます。また、委託先企業ではクラウドの知識・経験を積んだプロフェッショナルが在籍しているため、最新の技術やセキュリティ対策を用いたベストな運用が可能です。

まとめ

クラウド運用設計は、システムを安定的かつ効率的に運用するための重要な要素です。責任共有モデルを理解することで、クラウド提供事業者と利用者の責任範囲が切り分けられ、適切な監視やセキュリティ対策、障害対策の設計が行えます。

また、運用管理を成功させるには、適切なツール選択や自動化のしくみも必要です。多くのクラウドサービスでは、運用管理に役立つ機能が提供されており、これらを活用することで運用保守の負担を軽減できます。さらに、運用支援サービスを利用すれば、手間のかかる運用保守をすべてクラウドに精通した専門家に任せられ、サービス品質の向上につながります。

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