
25年1月スタート 固定電話の双方向番号ポータビリティ制度とは?

従来、固定電話の番号ポータビリティには制約があり、通信事業者の切り替えを行う場合には一部のケースでしか番号を継続利用できませんでした。電話番号の変更にかかる事務的なコストが高いことから、通信事業者の切り替えを諦めていた企業も多いのではないでしょうか。
このような中、2025年1月より開始された双方向番号ポータビリティ制度により、電話番号を継続利用できるケースが拡大されました。今回は、この双方向番号ポータビリティ制度について詳しく解説します。
従来の番号ポータビリティ制度について

本題に入る前に、まずは番号ポータビリティ制度の全体像について整理します。
番号ポータビリティ制度の全体像
番号ポータビリティ制度は、利用者が現在の電話番号を維持したまま異なる通信事業者へ移行できる仕組みです。番号ポータビリティ制度により、通信事業者を変更したい場合でも既存の電話番号を引き続き使用することが可能となっています。
番号ポータビリティ制度は、固定電話の番号ポータビリティ制度である「LNP(Local Number Portability)」と、携帯電話の番号ポータビリティ制度である「MNP(Mobile Number Portability)」とに大別されます。
項目 | NMP(Mobile Number Portability) | LNP(Local Number Portability) |
対象 | 携帯電話番号 | 固定電話番号 |
範囲 | 全国 | 地域限定 |
主な制約 | 一部サービスの継続利用は不可 | NTT東西以外からの移行は不可(双方向制度導入前) |
開始時期 | 2006年 | 2001年 |
番号ポータビリティ制度の必要性
電話番号は各通信事業者から払い出されているものですので、通信事業者を切り替えたい場合、そのままでは継続利用することができません。従来A社の回線を利用していたものの、コスト面やサービス品質面からB社を利用したいという場合には、既存の電話番号を廃止したうえで、新しい通信事業者から別の電話番号を払い出してもらう必要があります。
一方で、個人の携帯番号や会社の固定電話番号が変更になると、取引先への連絡や印刷物・Webサイトの修正など、さまざまな手続きや連絡が必要です。これを解消するために、番号ポータビリティ制度が必要となります。
従来の番号ポータビリティ制度は片番号のみ許可されていた
固定電話の番号ポータビリティ制度(LNP)においては、これまで「片番号ポータビリティ」のみが利用できる状態となっていました。片番号ポータビリティの状態を端的に言えば、切り替えられる事業者に制約がある状況でした。
片番号ポータビリティの状態では、過去、独占的に電話事業を担っていたNTT東西の回線からのみ番号ポータビリティ制度を利用できました。よって、一度NTT東西以外の事業者に切り替えを行った後、再度別の事業者に切り替えを行うことは不可能でした。
また、番号ポータビリティは従来のアナログ回線を利用しているケースに限定されていました。よってNTT東西を含め、あらゆるIP電話をLNPにより切り替えることも不可能でした。
双方向番号ポータビリティ制度の解禁

2025年1月より固定電話における双方向番号ポータビリティ制度が開始され、これらの制約はなくなります。
以下では、双方向番号ポータビリティが解禁された背景と、その対象範囲をご紹介します。
IP網への移行完了
双方向番号ポータビリティが実現した背景として、電話回線のIP網への移行完了が挙げられます。過去、電話回線はアナログ回線としてメタル線を利用した伝送方式が採用されていました。一方で、近年ではコストメリットや品質に優れるIPプロトコルを利用した電話通信が実現しており、これまでNTT東西ではIP網への移行を進めてきました。
IP網への移行により、後述する「ENUM方式」による低コストでの番号ポータビリティが実現できるようになったのです。
双方向番号ポータビリティ制度の対象範囲
2025年1月からは、03などから始まる「0ABJ番号(地域番号)」やフリーダイアルに用いられる「0120番号」「0800番号」などが番号ポータビリティ制度の対象となります。
なお、IP電話に用いられる「050番号」が対象外となっている点には注意が必要です。050番号を利用している企業においては、番号ポータビリティ制度を利用することはできません。
制約事項
総務省の答申※1によれば、一部「番号ポータビリティを実施する必要のないケース」においては番号ポータビリティ制度の対象外とする方針が示されています。具体的には以下が例示されています。
<番号ポータビリティ制度の対象外となる電話番号>
・NTT東西が提供する公衆電話や緊急通報用電話
・NTT東西が提供する臨時電話
・付加的役務電話番号などのサービス呼の裏番号
・提供エリア外地域の公衆電話、緊急通報用電話
ただし、企業が一般的に利用する範囲ではまずこれらの対象外条件に該当することはないと思われます。
※参考1:総務省「IP網への移行等に向けた電気通信番号制度の在り方」別紙1
双方向番号ポータビリティの仕組み
以下では、双方向番号ポータビリティ制度の仕組みについてご紹介します。これまでリダイレクション方式と呼ばれる方法で実現されていた番号ポータビリティですが、2025年1月からはENUM方式にて実現されます。

※引用:総務省「IP網への移行等に向けた電気通信番号制度の在り方」別紙2 P17より
従来:リダイレクション方式
従来の番号ポータビリティ制度において利用されていたのが、リダイレクション方式です。この方式では、電話番号を移行した通信については、NTT東西から新しい電話会社に対してリダイレクト処理を行います。
具体的には、元の電話番号に対する着信が発生すると、元の電話会社がいったん着信を受け、その後新しい電話会社に転送する形で通信を行います。
リダイレクション方式は技術的に比較的簡単に実装でき、既存のインフラを大きく変更することなく対応可能な点がメリットです。2001年の固定電話番号ポータビリティ制度の開始当初、双方向での番号ポータビリティを実現するためには膨大な設備投資が必要であることが分かり※2、比較的低コストで実現できるリダイレクション方式が採用された背景があります。
※2参考:総務省「双方向番号ポータビリティについて」P1より
リダイレクション方式では通信経路が間接的になるため、通話品質の低下や遅延が生じることもあります。また、NTT東西からのみリダイレクトが可能であるため「片番号ポータビリティ」のみが実現できる状態でした。
新:ENUM方式
一方、2025年1月からは新たにENUM方式が採用されます。ENUMとは「E.164 Number Mapping」の略称であり、電話番号をDNS(ドメインネームシステム)によりIPアドレスにマッピングし、直接的なルーティングを行う技術です。
この方法により通話経路が直接的になるため、通話品質の向上や遅延の軽減が期待できます。また、ENUM方式はIPベースの通信を前提としているため、どの企業でも実装しやすく、双方向での番号ポータビリティを実現するために適した手法です。
番号ポータビリティガイドラインのポイント

双方向番号ポータビリティ制度の開始に伴い、総務省では「固定電話番号の番号ポータビリティの実施に関するガイドライン」のとりまとめを進めています。
以下では、本ガイドラインの内容についてご紹介します。
番号ポータビリティの実施の原則
全ての固定電話番号提供事業者は、原則として番号ポータビリティを可能としなければなりません。よって、自社がどの通信事業者と契約していたとしても、番号ポータビリティ制度を利用できる環境が整うことになります。
なお、2025年1月時点では、以下の事業者が番号ポータビリティ制度に対応することを表明しています※3。
<番号ポータビリティ制度に対応する事業者>
中部テレコミュニケーション | 大江戸テレコム | ZIP Telecom |
アイ・ピー・エス・プロ | オプテージ | ソフトバンク |
アルテリア・ネットワークス | QTnet | トークネット |
STNet | KDDI | 楽天モバイル(楽天コミュニケーションズ) |
NTTコミュニケーションズ | Coltテクノロジーサービス | 東日本電信電話 |
エネコム | 三通 | 西日本電信電話 |
※参考3:NTT東日本「固定電話サービス提供事業者間における双方向番号ポータビリティの開始について」
手続き方法
固定電話の番号ポータビリティ制度においては、携帯電話の番号ポータビリティ制度(MNP)と同様に、ワンストップ方式での手続きが採用されます。ワンストップ方式では、利用
者が移転先の通信事業者に対して申し込みを行うことで、番号ポータビリティが完了します。
具体的な手続き方法として、ガイドラインではインターネットや対面、電話などの複数の受付方法を用意することとしています。
また、利用者が負担する番号ポータビリティに係る料金については、利用者に過度に負担させることのないよう、固定電話番号使用事業者間で発生する費用を踏まえた合理的な料金とし、過度な費用請求をしないこととされています。
運用方法
番号ポータビリティ制度の実施にあたって、通信事業者には以下の対応が求められています。
- 番号ポータビリティの迅速な実施
通信事業者は、番号ポータビリティの標準的な処理期間を設定して遅滞なく対応しなければなりません。また、回線設置工事などの追加対応が必要な場合は、その旨を利用者に説明する必要があります。
- 引き止め行為などの禁止
番号ポータビリティ実施時に移転先事業者への対応が移った際に、利用者への引き留め行為を行うことは禁止されます。また、不当な費用設定や手続き遅延などの干渉もNGです。
- 苦情への対応
通信事業者は苦情受付窓口を設置し苦情に対応することが求められます。
- 個人情報の保護
番号ポータビリティに関する個人情報は、法律に基づき適切に管理することが求められます。
双方向番号ポータビリティ制度は企業の選択肢を増やす

これまで、企業において固定電話の通信事業者の切り替えには一定の制約がありました。双方向番号ポータビリティ制度が開始されたことにより、これまで通信事業者の切り替えをためらっていた企業でも切り替えがしやすくなります。
双方向番号ポータビリティ制度により、企業は以下のような選択肢を取りやすくなります。
IP電話の通信事業者の切り替え
これまでIP電話を利用している場合には、通信事業者の切り替えにおいて番号ポータビリティ制度を利用することはできませんでした。双方向番号ポータビリティ制度の開始とともに、IP電話を利用している企業でも、通信事業者を切り替えることができます。
近年では、さまざまな事業者がIP電話サービスへ参入しています。これらの事業者からコストの安い事業者を選定し、通信環境の費用負担を減らすことも選択肢となるでしょう。
クラウドPBXの活用
また、最近ではクラウドPBXを採用する企業も増えています。ミーティングツールであるZoomが提供する「Zoom Phone」や、Microsoftが提供する「Teams電話」など、近年の働き方の変化を踏まえた電話サービスも登場しています。
クラウドPBXには「初期コストが安い」「利用者数を変更しやすい」というメリットがあり、スタートアップ企業や中小企業はもちろん、大企業においても有効な選択肢となります。
クラウドPBXへの移行を検討する際によくあるのが「電話番号が変更となってしまうために利用を諦めていた」というものです。双方向番号ポータビリティ制度の開始とともに自社の電話番号を継続できるようになるケースも増えますので、これを機会にクラウドPBXの活用を検討してみてもよいでしょう。
まとめ
この記事では、2025年1月に開始された双方向番号ポータビリティ制度について詳しくご紹介しました。双方向番号ポータビリティ制度により、固定電話の通信事業者の切り替えが容易となります。通信事業者間の競争も促進されていき、より利用者にとって利便性の高いサービスも登場していくと思われます。
企業においては、これを機に自社の電話環境を見直してみてもよいでしょう。