運用設計とは?種類や目的、具体的な流れや実施時のコツを詳しく解説
サーバーを安定的かつ安全に稼働し続けるためには、丁寧な運用設計が不可欠です。運用開始前に慎重に設計することで、業務効率化にもつながります。
本記事では、サーバーの運用設計の概要や種類、主な目的、検討すべき項目、具体的な流れなどについて解説します。設計業務について詳しく知りたいサーバー運用の担当者様は、ぜひご一読ください。
サーバーの運用設計とは
サーバーの運用設計とは、システムが安定して稼働し続けるために、運用の詳細な手順やポリシーを定めるプロセスです。
具体的な作業としては、監視、バックアップ、セキュリティ対策、障害対応手順など、日常の管理業務が含まれます。また、定期的なメンテナンスやパッチの適用も運用設計の一部として考慮する必要があります。
運用設計は、システムが予定通りに動作し続けることを保証し、ダウンタイムを最小限に抑えるために不可欠です。効率的な設計を意識することで、トラブル発生時の迅速な対応を可能にし、システムの信頼性を高められます。
開発設計との違い
サーバーの開発設計とは、システムやアプリケーションの機能や構造を決定するプロセスを指します。これから開発を行うシステムの要件を満たすために、技術的な仕様やアーキテクチャを詳細に計画する作業です。
一方の運用設計は、システムのリリース後、継続的に稼働するための運用面のプロセスを設計します。開発設計が「システムを作る」ことを目的としているのに対して、運用設計は「維持する」ことに焦点を当てています。
運用設計の種類
運用設計には、業務運用設計、基盤運用設計、運用管理設計の主に3つの種類があります。ここでは、それぞれの特徴について詳しく解説します。
業務運用設計
業務運用設計は、組織における日常業務を円滑に進行するための、具体的な運用手順やフローを設計するプロセスです。主に業務プロセスの最適化や効率化を目的としており、業務の各ステップを明確に定義することが求められます。
また、各業務に関わるリソースの割り当てや役割分担の決定も重要な作業のひとつです。業務運用設計を丁寧に行うことで、業務の中断や混乱を最小限に抑え、生産性の向上につながります。
業務運用設計は、システムの運用部門と連携しながら、業務の流れを一貫性のあるものにするための基本的なフレームワークを提供する作業であるといえます。
基盤運用設計
基盤運用設計は、サーバーやネットワークなどのITインフラが安定して稼働するための、具体的な運用方針や手順を決定するプロセスです。ハードウェアやソフトウェアの構成、ネットワークの設定、セキュリティ対策、バックアップ体制などが設計の中心となります。
基盤運用設計では、インフラが常に最適な状態で稼働し続けるために、リソースの管理や障害対応、パフォーマンスの監視といった運用面の計画を行います。これにより、システム全体の信頼性と可用性を確保でき、業務を停止することなく継続し続けられる環境を整えられます。
運用管理設計
運用管理設計は、システムの運用を統合的に管理し、効率的な運用体制を築くための設計プロセスです。主に監視システムやログ管理、インシデント対応手順の整備が行われます。
また、運用業務の標準化や自動化の方針を策定し、人的ミスを削減することも、運用管理設計の重要な目標のひとつです。
運用管理設計により、一貫性を保ったシステム運用を継続し、トラブルが発生した際にも迅速かつ適切に対応できる体制を整備できます。結果として、運用コストの削減やシステムの安定性の向上を実現し、長期的な運用効率の確保につながります。
運用設計の目的
運用設計の主な目的は、システム運用の効率化やトラブル時の初動対応の迅速化、業務標準化の推進などにあります。ここでは、3つの目的について解説します。
システム運用を効率化する
運用設計の主な目的のひとつに、システム運用の効率化が挙げられます。
システムが安定して稼働し続けるためには、日々の運用業務をスムーズに行う必要があります。運用設計においては、業務フローの最適化やリソースの効果的な活用を計画し、無駄を省きながら運用作業を効率化することが求められます。
また、これまで手動で行っていた作業を自動化することで、作業時間の短縮や人的ミスの削減が可能になります。
効率的なシステム運用は、組織全体の生産性を向上させるとともに、リソースの有効活用を促進するための基盤を作り上げるための重要な要素です。
トラブル時の初動対応を迅速化する
トラブルが発生した際の初動対応を迅速化することも、運用設計の重要な目的です。
システム障害やセキュリティインシデントが発生した場合、迅速かつ適切な初動対応が求められます。そのため、運用設計ではトラブル発生時の連絡体制や対応手順を明確にし、各担当者の役割を定義します。
これにより、初動対応のスピードが向上し、被害の拡大を最小限に抑えられます。事前に想定されるトラブルシナリオに基づいた訓練やシミュレーションも、迅速な対応を実現するために重要です。
業務の標準化を推進する
運用設計には、業務の標準化を推進する目的もあります。
標準化された業務フローや手順は、作業の一貫性を保ち、品質の向上を図るために欠かせません。運用設計においては、業務プロセスを統一し、どの担当者でも同じ基準で作業が行えるように設計します。
適切な運用設計によって、新しい担当者がスムーズに業務に適応できるようになるだけでなく、業務の引き継ぎやチーム全体のパフォーマンス向上にも貢献します。
運用設計の主な項目
運用設計で定義する主な項目は、次のとおりです。
- 基本方針
- システムの使用目的
- リリース予定のサービス内容
- システムの利用者
- 最も負荷がかかるタイミングの予測
ここでは、上記の項目について詳しく解説します。
基本方針
運用設計では、最初に基本方針を定めるのが一般的です。基本方針とは、システム運用における全体的な方向性や優先事項を指しています。
基本方針は、運用チームが日々の業務を行う際の指針となり、運用における一貫性と品質を保つために重要な役割を担います。また、トラブル発生時の対応基準や運用管理の目標を明確化することで、全体の効率とシステムの信頼性を向上させることが可能です。
基本方針は、経営層やステークホルダーとの合意を得た上で策定し、システム運用に関わる全員が意義を理解・共有することが求められます。
システムの使用目的
システムの使用目的も、運用設計において欠かせない項目のひとつです。使用目的を正確に理解することで、システム運用の具体的な目標や方向性が定まります。
例えば、業務効率の向上を目的とするシステムの場合、目的に沿った運用方法や監視体制を用意することが求められます。
また、システムの使用目的を定義することで、優先的に対応すべき課題やリソース配分の判断が容易になります。使用目的は、運用設計全体の基盤となる要素であり、運用に関する全ての決定に影響を与えるため、詳細かつ明確に定義することが大切です。
リリース予定のサービス内容
リリース予定のサービス内容も、運用設計で考慮すべき重要な項目です。サービス内容によって必要なインフラや運用体制が大きく変わるため、サービスがどのような機能を持ち、どのように提供されるのかを詳細に理解しておく必要があります。
サービス内容を事前に十分に検討しておくことで、サービス提供に必要なリソースやセキュリティ対策、バックアップの手順などを具体的に設計できます。リリース後のトラブルを未然に防ぎ、スムーズな運用を実現するための準備を整えるために欠かせない項目です。
システムの利用者
運用設計においては、システムの利用者を明確にすることも大切です。利用者がどのようなユーザーであるかによって、必要なサポート体制やアクセス権限の管理方法が異なるためです。
また、利用者の技術的なスキルや利用頻度に応じて、トラブル対応や運用支援の内容が変わってくるため、利用者のニーズを正確に把握する必要があります。
利用者を意識した運用設計を行うことで、ユーザーエクスペリエンスが向上し、システムの利用価値を最大化できます。
最も負荷がかかるタイミングの予測
システムに最も負荷がかかるタイミングを予測することは、運用設計において極めて重要です。システムのリリース後は、事前に予測した負荷に基づいて、適切なリソース配分やパフォーマンス管理が行われます。
例えば、特定の時間帯やイベント期間中にアクセスが集中する場合、そのタイミングに合わせたサーバー増強や負荷分散の計画が必要です。また、負荷が集中するタイミングを予測することで、事前にリソースを調整し、システムの安定稼働を確保できます。
システムの信頼性と可用性を保つためには、十分な事前予測が不可欠です。
運用設計の具体的な流れ
ここからは、運用設計の具体的な流れを解説します。
1.全体の業務をリストアップする
運用設計の最初のステップは、運用に関わる全ての業務をリストアップすることです。リストアップする項目には、日常の運用業務だけでなく、緊急対応や定期的なメンテナンス作業も含まれます。
全ての業務をリストアップすることで、運用に必要なリソースやスキル、優先順位を明確にし、業務の抜け漏れを防止できます。この段階で、各業務の詳細や担当者、必要なツールなども一緒に整理しておくと、次の設計フェーズにスムーズに移行しやすくなります。
2.運用設計を行う
リストアップした業務内容に基づいて、具体的な運用設計を行います。
運用設計においては、業務フローを具体化し、どのような手順で運用を行うかを詳細に決定します。設計項目には、リソース管理、障害対応、セキュリティ対策、監視システムの設定などが挙げられます。
各業務が効率的かつ一貫して遂行されるように、標準化された手順やガイドラインを作成するのがポイントです。また、必要に応じて、運用の自動化や業務の負荷分散のためのツールの選定・導入も検討する場合があります。
この設計フェーズで決定した内容は、運用チーム全体で共有し、運用における基盤として活用します。
3.設計に基づいて運用する
運用設計が完了したら、設計に基づいて実際の運用を開始します。この段階では、設計に従って業務が円滑に行われるかを確認しながら、計画通りの運用を実施します。
運用中に発生した問題や課題は、設計内容の改善点として後でフィードバックを行うため、適切に記録しておきましょう。
また、設計に基づく運用がチーム全体で統一されているかを定期的にチェックし、必要に応じて教育やトレーニングを行うことで、設計の効果を最大化できます。
4.現場からフィードバックを得る
運用を行う過程では、現場からのフィードバックを得ることが重要です。現場の運用担当者から、設計内容に関する改善点や問題点の報告を受けることで、より効率的に設計を見直せるようになります。
フィードバックの具体的な内容としては、業務フローの問題点やツールの使い勝手、負荷分散の効果などが考えられます。
定期的なレビューやアンケートを通じて、現場からの意見を積極的に収集し、設計内容の改善に活かすことで、運用品質の向上が期待できます。
5.改善点の反映・再運用
現場からのフィードバックを受けた後は、改善点を反映し、再度運用を行います。前回の運用で生じた課題を解消し、設計が改良された状態で新たな運用を開始しましょう。
再運用後は、改善効果が表れているかどうかを確認し、必要に応じてさらなる調整を行います。このプロセスを繰り返すことで、運用設計は洗練され、より効率的な運用体制を構築できます。
また、定期的な見直しを行い、新たな技術や業務要件に対応するための運用設計の更新も行う必要があります。
運用設計を成功させる3つのポイント
運用設計を行う際は、トラブル時でもシステムを維持できる設計を意識することが大切です。また、セキュリティ対策の強化や、常に最新の状態を保つための作業も重要になります。
ここでは、運用設計を成功させるための3つのポイントを解説します。
トラブルが起きてもシステムを維持できる設計を意識する
運用設計を成功させるためには、トラブルが発生してもシステムを維持できる設計を意識することが重要です。システム運用中に障害や予期しない問題が発生することは避けられないため、万が一の状況に対応するための計画が必要になります。
例えば、障害が発生した際に迅速にバックアップから復旧できる手順を整備したり、冗長化されたシステム構成を採用して、1つの障害がシステム全体に影響を与えないようにしたりする対策は有効です。
これにより、トラブル発生時でもシステムの稼働を維持し、サービスの中断を最小限に抑えることが可能になります。
また、定期的な訓練やシミュレーションを通じて、運用チームがトラブル時の対応に慣れておくことも効果的です。
セキュリティ対策を強化する
セキュリティ対策の強化も、安全な運用を維持する上で重要なポイントです。
システムを外部からの攻撃や内部の不正アクセスから守るためには、包括的なセキュリティ設計が必要になります。具体的には、ファイアウォールや侵入検知システムの導入、アクセス権限の適切な管理、データの暗号化など、多角的なセキュリティ対策を講じることが求められます。
また、定期的にセキュリティチェックや脆弱性のテストを行い、新たな脅威に対応するための対策を講じることも重要です。セキュリティ対策が万全であれば、システムの信頼性が向上し、外部からの脅威に対しても強いシステムを構築できます。
常に最新の状態を保つ
システムやソフトウェアを常に最新の状態に保つことも、運用設計を成功させるためには欠かせません。
ソフトウェアのバージョンアップやセキュリティパッチの適用は、システムの安定性やセキュリティを維持するために重要な要素です。必要に応じて最新の技術やツールを導入すると、さらに運用効率を向上させられます。
また、業界のトレンドや新しい脅威に対応するための情報収集を怠らず、定期的に設計や運用方法をアップデートすることも重要です。常に最新の状態を維持することで、システムのパフォーマンスや安全性を確保し、運用を成功に導けます。
まとめ
運用設計は、システムの安定稼働と効率的な管理を実現するために不可欠なプロセスです。運用設計には、業務のリストアップ、具体的な運用手順の設計、実際の運用、フィードバックの収集・改善といった流れが含まれます。
運用設計を成功させるためには、トラブル発生時の対応力を備えた設計と強固なセキュリティ対策、常にシステムを最新状態に保つための意識づけが重要です。
システムの信頼性を高め、持続的な運用を可能にするためにも、適切かつ丁寧な運用設計を行いましょう。