Azureセキュリティの基礎を徹底解説! 基本原則と各種サービスの概要をおさえよう
ビジネスのデジタル化が加速するにつれて、クラウドサービスはもはや「特別な選択肢」ではなく、「当たり前の存在」へと変化しつつあります。その中でも、Microsoft Azureは、豊富なサービスと高い信頼性を誇り、多くの企業から支持を集めています。
しかし、クラウドの利用拡大は、新たなセキュリティリスクをもたらす側面も孕んでいます。Azureを安心して活用するためには、クラウド時代のセキュリティ対策を正しく理解し、強固な防御体制を構築することが欠かせません。
Azureセキュリティでは「責任共有モデル」に基づいて対策を定める
Azureのセキュリティとは、一言で表すならば、「Azureプラットフォーム全体で提供される、多層的なセキュリティ対策の総称」です。Azureでは、24時間365日最新のセキュリティ情報を収集し分析するシステムを擁し、研究開発に巨額の投資をしています。企業は、Azure上に構築したシステムやデータをあらゆる脅威から保護するため、マイクロソフトが提供する様々な機能やサービスを包括的に活用していくことが重要となります。
Azureセキュリティの基本原則「責任共有モデル」
従来のオンプレミス環境では、企業は自社で保有するサーバーやネットワーク機器のセキュリティ対策を全て自らの手で管理していました。一方、Azureのようなクラウド環境では、インフラストラクチャの一部または全部をクラウドプロバイダーであるマイクロソフトに預けることになります。これにより、従来は自社で行っていたセキュリティ対策の一部をマイクロソフトが担うことになり、責任の所在が変化します。これが、クラウドにおけるセキュリティの大きな特徴と言えるでしょう。
Azureでは、「責任共有モデル」と呼ばれる考え方に基づき、マイクロソフトとユーザー企業との間でセキュリティ責任が明確に分担されています。マイクロソフトは、Azureのインフラストラクチャのセキュリティ確保に責任を負い、ユーザー企業は、Azure上に構築したシステムやデータのセキュリティ確保に責任を負うことになります。
Azureセキュリティの要は「脅威」と「対策」を見極めること
Azureのセキュリティ対策において重要なのは「自社のシステムにとって、何が『脅威』であり、何が最適な“対策”なのか」を見極めることです。
Azure環境における具体的な脅威としては、以下のものが挙げられます。
- 不正アクセス: 認証情報漏洩、権限の乱用、SQLインジェクションなど、システムへの不正なアクセスによるデータ漏洩や改ざん。
- マルウェア感染: ウイルス、ランサムウェアなど、悪意のあるソフトウェアによるシステムの機能停止やデータの暗号化。
- DDoS攻撃: 大量のアクセス集中によるシステムのダウン。
- ヒューマンエラー: 従業員による意図的なまたは偶発的な情報漏洩。
- ゼロデイ攻撃: 未知の脆弱性を突く攻撃。
これらの脅威に対し、多要素認証(MFA)やアクセス制御、ネットワークセキュリティなど複数の対策を組み合わせて対策します。
例えば、ECサイトを運営している企業であれば、顧客のクレジットカード情報などの重要データが不正アクセスされるリスクを考慮する必要があります。このような場合には、Azure Firewallによるネットワークの境界防御を強化し、外部からの攻撃を遮断すると同時に、Azure Active Directoryによる多要素認証を導入し、管理者アカウントのセキュリティレベルを高めるといった対策が有効でしょう。
Azureは、進化を続けるセキュリティ脅威からビジネスを守るための強固な基盤を提供しています。責任共有モデルを正しく理解し、Azureのセキュリティ機能を最大限に活用していきましょう。
Azureのセキュリティサービス
Azureは、多岐にわたるセキュリティ脅威からシステムやデータを保護するために、豊富かつ高度なセキュリティサービスを提供しています。これらのサービスは、大きく4つのカテゴリに分類できます。
- ネットワークセキュリティ: Azureリソースを外部からの攻撃から保護する。
- IDとアクセス管理: 限定されたユーザーに、適切な権限でリソースへのアクセスを許可する。
- データセキュリティ: 機密データを不正アクセスや漏洩から保護する。
- 脅威検知と対応: セキュリティ脅威を早期に検知し、迅速に対応する。
それぞれのカテゴリにおいて、Azureは多層的なセキュリティ対策を可能にするサービス群を提供しています。企業は自社のセキュリティ要件やリスク許容度に応じて、最適なサービスを選択し、組み合わせることができるわけです。
ネットワークセキュリティ
Azure環境において、ネットワークセキュリティは最も基本となる防御線です。Azure Firewallは、クラウドネイティブなマネージドファイアウォールサービスであり、Azure Virtual Network 内のリソースに対するネットワークトラフィックを制御します。これにより、不正なアクセスをブロックし、アプリケーションやデータを保護します。
また、DDoS攻撃からアプリケーションやリソースを保護するために、Azure DDoS Protectionも重要な役割を果たします。Azure DDoS Protectionは、常に最新の攻撃手法に対応しており、大規模な攻撃にも耐えられるよう設計されています。
Azure Network Security Groups (NSG) は、Azure Virtual Network内のVMインスタンスへのネットワークトラフィックをフィルター処理するためのセキュリティルールを定義します。NSGを使用することで、アプリケーションへのアクセスを特定のIPアドレスやポートに制限するなど、きめ細かなアクセス制御が可能となります。
IDとアクセス管理
Microsoft Entra ID(旧Azure AD) は、Microsoftが提供するクラウドベースのIDおよびアクセス管理 (IAM) サービスです。Azure ADを利用することで、シングルサインオン、多要素認証、条件付きアクセスなどの機能を活用し、Azureリソースへのアクセスを厳格に管理できます。
多要素認証は、パスワードに加えて、スマートフォンアプリや生体認証などの追加の認証要素を要求することで、セキュリティを強化します。これにより、仮にパスワードが漏洩した場合でも、不正アクセスを防ぐことが期待できます。
また、Azureロールベースのアクセス制御 (RBAC) を使用すると、ユーザーの役割に基づいて、Azureリソースへのアクセス権をきめ細かく設定できます。必要な権限だけをユーザーに付与することで、過剰な権限によるリスクを低減することが可能となります。
データセキュリティ
Azure Key Vaultは、証明書、接続文字列、APIキーなどの機密データを安全に格納し、アクセスを制御するためのサービスです。機密データをアプリケーションのコードに直接埋め込むことなく、Key Vaultに格納することで、セキュリティリスクを大幅に低減できます。
AzureのストレージサービスであるAzure Storage、Azure SQL Database、Azure Cosmos DBなどは、それぞれ独自の暗号化機能を提供しています。これらの機能を活用することで、保存データを暗号化し、不正アクセスや漏洩から保護できます。暗号化キーの管理も柔軟に行えるため、セキュリティレベルや運用負荷に応じた最適な構成を選択することが可能です。
脅威検知と対応
Microsoft Defender for Cloudは、Azure、オンプレミス、その他のクラウド環境を含む、ハイブリッドクラウド環境全体のセキュリティ状態を可視化し、脅威に対する保護を強化します。セキュリティのベストプラクティスに基づいて環境を評価し、潜在的な脆弱性を特定します。また、高度な分析と脅威インテリジェンスを活用して、悪意のあるアクティビティを検出し、修復ガイダンスを提供します。
Microsoft Sentinelは、クラウドネイティブなSIEM(セキュリティ情報イベント管理)およびSOAR(セキュリティオーケストレーション、自動化、対応)ソリューションです。Azure環境だけでなく、オンプレミス環境や他のクラウド環境を含む、組織全体のセキュリティログを収集・分析し、脅威を検出、調査、対応します。AIと自動化を活用することで、セキュリティアナリストの負担を軽減し、より迅速かつ効果的なインシデント対応を可能にします。
Azureのセキュリティサービスは、常に進化を続けており、新たな脅威への対応や機能強化が日々行われています。最新の情報やベストプラクティスを常に収集し、Azure環境のセキュリティレベル向上に努めることが重要です。
設計から考えるAzureのセキュリティ (SbD)
システムのセキュリティは、後から付け足すものではなく、設計段階から組み込むことが理想です。これをセキュリティバイデザイン(SbD)と呼びます。Azureは、SbDを実現するための様々な機能を提供しており、より安全で信頼性の高いクラウド環境を構築することができます。
- 脅威モデリング: システムがどのような攻撃を受ける可能性があるかを洗い出し、その脅威に対する対策を検討します。
- 脆弱性分析: システムに存在する可能性のある脆弱性を洗い出し、対策を講じます。
- セキュリティ要件の定義: システムに求められるセキュリティレベルを明確化し、設計に反映させます。
- セキュリティテスト: システムの開発段階から、セキュリティテストを繰り返し実施し、脆弱性を早期に発見します。
- 継続的な監視: システム稼働後も、セキュリティ状況を継続的に監視し、新たな脅威に対応します。
順番に解説していきます。
脅威モデリング
システムがどのような攻撃を受ける可能性があるかを、STRIDEやDREADといった指標で洗い出します。
【STRIDE】
・偽造:Spoofing
・改ざん:Tampering
・否認:Repudiation
・情報漏洩:Information disclosure
・サービス拒否:Denial of service、権限昇格:Elevation of privilege
【DREAD】
・潜在的被害:Damage potential
・再現可能性:Reproducibility
・悪用可能性:Exploitability
・影響を受けるユーザー数:Affected users
・発見可能性:Discoverability
これにより、具体的な脅威に対する対策を検討することができます。
脆弱性分析
静的コード解析、動的アプリケーションセキュリティテスト(DAST)、インタラクティブアプリケーションセキュリティテスト(IAST)などの手法を用いて、システムに存在する可能性のある脆弱性を洗い出します。脆弱性が発見された場合は、迅速にパッチを適用したり、セキュリティ設定を変更したりするなどの対策を講じます。
セキュリティ要件の定義
システムに求められるセキュリティレベルを明確化し、設計に反映させます。例えば、個人情報を取り扱うシステムであれば、より厳格なセキュリティ対策が必要になります。セキュリティ要件を定義することで、開発チームがセキュリティを意識したシステムを開発することができます。
セキュリティテスト
システムの開発段階から、セキュリティテストを繰り返し実施します。これにより、脆弱性を早期に発見し、修正することができます。代表的なセキュリティテストには、侵入テスト、ペネトレーションテスト、脆弱性スキャンなどがあります。
継続的な監視
システム稼働後も、セキュリティ状況を継続的に監視し、新たな脅威に対応します。Azure Security Centerは、システム全体のセキュリティ状況を可視化し、脆弱性や脅威を検出します。また、Azure Sentinelと連携することで、より高度な脅威分析を行うことができます。
AzureにおけるSbDのサポート
Azureは、SbDを実現するための様々な機能を提供しています。
- Azure Security Center: システム全体のセキュリティ状況を可視化し、脆弱性や脅威を検出します。また、推奨されるセキュリティ対策を提示することで、セキュリティ強化を支援します。
- Azure Policy: リソースへの変更を制御し、セキュリティポリシーを強制的に適用することができます。
- Azure Blueprints: 一連のリソースとポリシーを定義し、環境を迅速にデプロイすることができます。これにより、セキュリティ設定の標準化を促進します。
Azureセキュリティを学ぶ方法
Azureのセキュリティは、進化し続ける分野であり、常に最新の情報やスキルを習得することが重要です。ここでは、Azureセキュリティの学習を始めるにあたって、特に効果的な方法を紹介します。
- 基礎知識の習得: Azureセキュリティの基礎を築くためには、Microsoft Learnや公式ドキュメントが最適です。
- 実践的なスキル習得: より実践的なスキルを身につけるためには、ハンズオンラボや実際にAzure環境を操作してみるのが効果的です。
- 資格取得: 専門知識を証明し、キャリアアップを目指すなら、Azureセキュリティ関連の資格取得が有効な手段となります。
自分に合った学習方法を選び、継続することで、Azureセキュリティのスキルを効果的に向上させることができます。
Microsoft Learnと公式ドキュメント
Azureセキュリティの学習を始める際に、まず活用したいのが、Microsoft Learnと公式ドキュメントです。
Microsoft Learnは、マイクロソフトが提供する無料のオンライン学習プラットフォームであり、Azureセキュリティを含む様々な技術分野の学習コンテンツが用意されています。学習パスと呼ばれる体系的なカリキュラムに沿って学習を進めることができ、初心者の方でもスムーズに学習を進められます。
公式ドキュメントは、Azureのサービスや機能に関する詳細な情報を網羅しており、より深く理解を深めたい場合に役立ちます。Microsoft Learnと公式ドキュメントを併用することで、Azureセキュリティに関する体系的な知識を効率的に身につけることができます。
AZ-500試験
Azureセキュリティに関する専門知識を客観的に証明したいと考える場合は、資格取得を目指しましょう。数あるAzure資格の中でも、「AZ-500: Microsoft Azure Security Technologies」は、Azureセキュリティに特化した資格であり、取得することで、Azure環境におけるセキュリティ対策の設計、実装、管理に関する専門知識を有することを証明できます。
AZ-500の試験範囲は多岐にわたり、ネットワークセキュリティ、IDとアクセス管理、データセキュリティ、脅威保護など、Azureセキュリティの主要な領域を網羅しています。資格取得に向けて学習を積み重ねる過程で、実践的なスキルや問題解決能力も身につくため、実際の業務にも役立つはずです。
まとめ
クラウド環境におけるセキュリティ対策は、もはや選択肢ではなく必須の要件となっています。Azureは包括的なセキュリティサービスを提供しており、適切に組み合わせることで強固な防御体制を構築できます。日々の業務で試行錯誤を重ねながら、自社のシステムに最適なセキュリティ対策を実装していってください。