
ネットワークレイテンシ(遅延)と「江戸時代の飛脚」、共通の悩みとは? 解決の鍵は宇宙?!
かつて江戸時代の日本では、情報を届けるために飛脚(ひきゃく)たちが文字通り道を駆け抜けていました。そして現代、私たちはネットワークを通じて、光の速さで世界中の情報と繋がっています。
しかし、技術がどれだけ進歩しても、昔も今も変わらない一つの大きな壁があります。勘の良い方は、それが何なのか、お気づきでしょう。

….それは、「物理的な距離」です!
今回は、江戸時代の飛脚と、我々が日々格闘しているネットワーク遅延(レイテンシ)の意外な共通点、そしてその解決策が宇宙にあるかも?なんて話を掘り下げてみます。
江戸の飛脚は超高速!でもやっぱり「距離」には勝てなかった
昔々、江戸時代。大事な手紙を届けるのは、もちろん飛脚のお仕事でした。
特に幕府の公文書なんかを運ぶ「継飛脚」は、江戸(東京)と大坂(大阪)の約500kmを、なんと3日くらいで走破したというから驚きです!子供時代にクラスメイトからもやしと呼ばれた、生粋の運動音痴である筆者からすると信じられない身体能力です。

これは驚異的な速さですが、それでも3日間という時間は、人や馬が物理的な距離を移動するためにどうしても必要な時間でした。 飛脚の依頼料は非常に高価で、誰もが気軽に利用できるものではなく、安価な便では1ヶ月近くかかることもあったそうです。
このように、当時の情報伝達の速度は「越えなければならない物理的な距離」と「それを走破する人間の脚力」という制約の中にあったのです。
光の速さでも遅延が発生?現代のレイテンシ問題
一方、現代の私たちは、光ファイバーケーブルによって構築されたインターネットの世界に生きています。光ファイバーの中をデータが高速でビュンビュン飛び交っているんですね。
しかし、ここにもやっぱり「距離の壁」が立ちはだかります。

…それが「ネットワーク遅延(レイテンシ)」。
ネットワークにおける「遅延(レイテンシ)」とは、データが送信元から宛先に到達するまでにかかる時間のこと。つまり、データが「いってきまーす!」と出発してから、「ただいまー!」って目的地に着くまでに時間がかかる、という事象です。
この遅延の主な原因の一つが「伝搬遅延」と呼ばれ、通信が行われる2点間の物理的な距離が長くなるほど、時間がかかってしまう現象を指します。
遅延(レイテンシ)が起こる理由
例えば、東京のデータセンターからアメリカのデータセンターにデータを送る場合、データは光ファイバーの中を光の速さで進みます。しかし、その速度には限界があります。

光ファイバーというガラスの中を進む光の速度は、真空中よりも約3分の1ほど遅くなってしまうのです。そのため、長ければ長いほど、どうしても無視できない「遅延」が発生してしまうのです。
これは、江戸の飛脚が江戸と大坂の間を走るのに時間がかかったことと本質的に同じ課題です。技術は「人の足」から「光」へと劇的に進化しましたが、「距離」という物理法則からは今はまだ逃れられていません。
解決の鍵は「宇宙インターネット」?
この物理的な距離による遅延を、さらに短縮する可能性を秘めているのが「宇宙インターネット」です。
SpaceX社の「Starlink」とか、Amazon社の「Project Kuiper」に代表されるこの技術は、地球の周り数千~数万基の人工衛星を飛ばしてそれらを連携、地球全体をカバーする通信網を構築するぞ!!!という壮大な計画です。

なぜ宇宙だと速くなる可能性があるのか?
それは、光がガラス(光ファイバー)の中より、真空(宇宙)の方が速く進めるから。地上で長ーーーい光ファイバーを長距離這わせるより、一度宇宙にある衛星を経由させた方が、最終的にデータを速く届けられる可能性がある、ということです。
これらの宇宙インターネットは、まだ発展途上の技術ですが、山間部や離島など、これまで高速なインターネット環境の構築が難しかった地域に新たな可能性をもたらす事も期待されています。将来的には、大陸間の通信遅延をさらに縮める切り札になるかもしれません。
現在、この分野では2つの大きなプロジェクトが注目されています。
プロジェクト名 | 計画衛星数 | 軌道高度 | 特徴 |
---|---|---|---|
Starlink(SpaceX社) | 1万2000基(計画) | 約550km | すでに日本を含む世界中でサービスを開始しており、数千基の衛星が稼働中。 |
Project Kuiper(Amazon社) | 3,236基(計画) | 590km〜630km | Amazonのクラウドサービス「AWS」の地上局と直結し、シームレスな連携を目指す。2026年以降に段階的に商用サービスを開始予定。 |
まとめ
江戸の飛脚から、現代の光ファイバー、そして未来の宇宙インターネット。情報をいかに早く届けるか、という課題は、いつの時代も「物理的な距離」という制約と戦い続けてきました。
日々の業務で私たちが向き合っているネットワークの遅延も、その壮大な歴史の延長線上にあります。次にレイテンシの課題に直面したときは、江戸の町を駆け抜ける飛脚の姿や、遥か上空を周回する人工衛星に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
技術は変われど、課題の本質は変わらない。そんな視点を持つと、日々の仕事が少しだけ面白く感じられるかもしれません!