
「技術的負債」は、必ずしも悪ではない?
システム開発の現場でよく耳にする「技術的負債」という言葉。多くのエンジニアにとって、この言葉は妥協案のような、ネガティブな印象を抱くものではないでしょうか?
しかし、この「負債」は必ずしも悪いものとは言い切れません。技術的負債は、スピードを優先するための「計画的な借金」と捉えられるのです。
今回は、そんな逆説的な視点から、技術的負債について考えてみます!
そもそも「技術的負債」とは?
技術的負債とは、ソフトウェア開発の場面で、長期的に見ればベストな方法よりも、目先のスピードを優先して簡単な解決策を選んだ結果、将来的に発生する追加コストや手間のことを指します。
これは金銭的な負債、つまり「借金」によく似ています。返済を先延ばしにするほど「利息」が膨らんで、システムの改修や新機能の追加がどんどん難しくなっていくイメージです。
一般的には、不十分な設計やテスト不足、古い技術を使い続けることなどが原因で、意図せず溜まってしまうことが多いとされています。
スピード重視の「計画的な借金」という考え方
とはいえ、すべての技術的負債が「悪」とは言いきれません。市場へのスピーディーな製品投入が成功のカギを握る場面では、完璧を目指すあまりチャンスを逃すくらいなら、あえて「計画的な負債」を抱える、という戦略もあります。
これは、完璧な設計に時間をかけるあまりビジネスチャンスを逃してしまうより、まずは最低限の機能を持つ製品(MVP)をリリースし、市場の反応を見ながら改善していく、というアジャイルな考え方です。
負債の返済は、計画的に
いわば、これは事業成長のための「前向きな借金」。もちろん、借金である以上、しっかりとした返済計画が不可欠です。「いつ、どのようにこの負債を返済していくのか」をチーム全体で合意し、管理していくことが成功の絶対条件になります。
この点を理解するのに、マーティン・ファウラーが提唱した「技術的負債の象限」という考え方がありました。この考え方では、負債を「慎重か無謀か」と「意図的か不注意か」の2つの軸で分類します。これにより、自分たちの負債がどの種類に当てはまるのかを客観的に把握できるのです。
ビジネス成長に繋がるのは、もちろん「慎重かつ意図的」な負債です。
計画的な負債管理に、クラウドサービスを活用!
AWS、Google Cloud、Azureといったクラウドプラットフォームは、この「計画的な負債」をうまく管理していく上で、非常に強力なツールを提供しているのをご存じでしょうか?
AWS
例えばAWSは、古くなったシステムをクラウドに移行するタイミングが、技術的負債を整理する絶好のチャンスだと教えてくれています。Amazon Q DeveloperのようなAIアシスタントを使えば、コードの修正案を提案してくれたり、負債返済のスピードアップを手伝ってくれます。
Microsoft Azure
Azureも負債の管理を支援しています。Azure Boardsというツールを使えば、「この負債をいつまでに返す」という計画をタスクとして見える化し、日々の開発に組み込む。SonarCloudのような外部ツールと連携して、新しい負債が生まれないように見張ってもらうことも可能です。
Google Cloud
Googleも、インフラの負債を軽くするためのサービスを用意しています。例えば、古いvSphere環境(オンプレミスの仮想環境)をまるっとGoogle Cloud VMware Engineに引越しすることで、面倒なインフラ管理の悩みから解放される、といった提案をしています。
技術的負債の管理ツール一覧
各クラウドサービスをうまく活用することで、負債の発生をコントロールし、返済を効率化することが可能になるわけです。
クラウド | 技術的負債管理へのアプローチ | 具体的なツールやサービス例 |
---|---|---|
AWS | 移行を機とした負債の見直しと、AIによる返済の加速 | Amazon Q Developer, AWS Amplify, AWS Lambda |
Azure | 負債の可視化とアジャイル開発プロセスへの統合 | Azure Boards, Azure DevOps, SonarCloud |
Google Cloud | インフラ刷新による根本的な負債の解消 | Google Cloud VMware Engine, Vertex AI |
まとめ
技術的負債は、無計画に溜め込んでしまえばシステムの健全性を損なう大きなリスクです。しかし、ビジネスのスピードを上げるための戦略として「計画的」に利用すれば、成長のエンジンにもなり得ます。
重要なのは、負債をきちんと可視化し、チームで返済計画を共有し、クラウドサービスのようなモダンなツールを駆使しながら賢く管理していくことです。
日々の運用に追われる中で、自分たちの抱える「負債」がどんな性質のものなのか、一度チームで話してみるのも良いかもしれません。それが、明日の開発をよりスムーズにするための、価値ある一歩になるはずです。