
【2025年9月最新】脱・とりあえずTerraform!マルチクラウド時代のIaC戦略とツール選定
多くの現場で「IaCといえばTerraform」という時代が長く続きました。その強力なエコシステムと宣言的な構文は、今なお多くの組織にとって魅力的です。
この記事では、マルチクラウドやハイブリッドクラウドの採用が一般化する中で、なぜ従来の「とりあえずTerraform」というアプローチを見直す必要があるのかを解説します。そして、主要なIaCツールであるTerraform、Pulumi、Crossplaneの3つを比較し、あなたの組織やプロジェクトの状況に合わせて最適なツールを選び抜くための具体的な指針を提示します。
この記事を読み終える頃には、あなたは各ツールの思想や特性を深く理解し、自信を持って次のIaC戦略を描けるようになっているはずです。
「とりあえずTerraform」のデメリット
ビジネスの要求が多様化し、AWS、Google Cloud、Azureといった複数のクラウドをまたがるシステムが当たり前になるにつれて、インフラ管理の複雑性は増す一方です。
このような状況下で、単一のツールに固執することは、時に開発生産性の低下や、特定ベンダーへの依存といった新たな課題を生み出しかねません。IaCツールの選択肢を広げ、それぞれのツールの哲学や特性を理解し、自社の状況に合わせた戦略的なツール選定を行う事も重要です。
主要IaCツール徹底比較
市場には数多くのIaCツールが存在しますが、ここではマルチクラウド環境で特に注目されるTerraform、Pulumi、Crossplaneの3つに焦点を当て、その特徴を比較します。
どのツールが優れているかという単純な話ではなく、それぞれの思想やアプローチの違いを理解することが、最適な選定への第一歩となります。
ユースケース別、選定ガイド
ツールの特徴を理解した上で、次は「自分の組織にはどれが合うのか?」という問いに答えていきましょう。
ここでは、具体的な3つのケースを想定し、それぞれの状況に最適なツールを考察します。これらの推奨は絶対的なものではなく、あくまで一つの考え方として活用し、多角的な視点からツール選定することをおすすめします。
1. 業界標準の安定性とエコシステムを重視する場合
「Terraform」がおすすめです。
すでにチーム内にTerraformの知見が蓄積されており、インフラ定義に特化したHCLのシンプルさを評価している組織には、引き続きTerraformが最適な選択肢となるでしょう。
Terraformの最大の強みは、その巨大なプロバイダーエコシステムです。 AWS、Google Cloud、Azureはもちろん、多くのSaaSプロバイダーに対応しており、既存の資産を活かしつつ、安定した運用基盤を維持したい場合に適しています。
2. 開発者体験とプログラミング言語の柔軟性を求める場合
「Pulumi」がおすすめです。
アプリケーション開発者とインフラエンジニアの垣根を越えて、共通の言語でコラボレーションを促進したい組織にはPulumiが強力な候補となります。TypeScriptやPythonといった汎用プログラミング言語を使えるため、複雑なロジック、テスト、コンポーネントの抽象化などを、開発者が普段から利用しているツールや手法で実現できます。
これにより、インフラコードの品質と再利用性が向上し、開発サイクル全体の高速化に繋がります。
3. Kubernetes中心のインフラ戦略を描いている場合
「Crossplane」がおすすめです。
組織のインフラ戦略の中心にKubernetesが据えられている場合、Crossplaneは非常に魅力的な選択肢です。Crossplaneは、Kubernetesのコントロールプレーンを拡張し、外部のクラウドリソースをKubernetesネイティブなリソースとして扱えるようにします。
これにより、開発者はkubectl
コマンドやYAMLマニフェストを使ってインフラを管理でき、すべてをGitOpsのワークフローに統合したい先進的なチームに最適です。
4. オンプレミスとクラウドをまたぐハイブリッド環境を管理したい
「Terraform」がおすすめです。
既存のオンプレミス環境(例:VMware vSphere)とパブリッククラウドを併用するハイブリッドクラウド構成を一元管理したい場合、Terraformの成熟したプロバイダー群が力を発揮します。
特にvSphereプロバイダーは長年の実績があり、オンプレミスの仮想マシンからクラウドの最新サービスまで、単一のワークフローで管理することが可能です。既存資産を活かしながら段階的にクラウドへ移行するシナリオにおいて、現実的な選択肢と言えるでしょう。
ただし、Terraformはこの領域で成熟しているものの、PulumiやCrossplaneもハイブリッドクラウドに対応しています。 既存のプログラミングスキルやKubernetesエコシステムをどの程度活用したいかによって、PulumiやCrossplaneも選択肢に入れても良いでしょう。
5. 社内向けプラットフォーム(IDP)を構築したい
「Crossplane」または「Pulumi」がおすすめです。
プラットフォームエンジニアリングチームが、インフラの複雑性を隠蔽し、開発者にセルフサービスな「ゴールデンパス」を提供したい場合、CrossplaneのComposition機能やPulumiのコンポーネント抽象化が強力な武器になります。
例えば「本番用Webサービス基盤」といった抽象リソースを定義し、開発者は数行のコードを記述するだけで、セキュリティやネットワークが担保されたインフラ一式を払い出せるようになります。
6. Policy as Codeによる統制とセキュリティを徹底したい
すべてのツールが強力な選択肢です。
DevSecOpsの実現において、ポリシーをコードとして定義し自動検証する「Policy as Code」は不可欠です。TerraformはSentinelやtfsec、PulumiはCrossGuard、そしてCrossplaneはOPA/GatekeeperやKyvernoといったKubernetesエコシステムと連携します。
どのツールを選ぶかは、組織が持つ既存のスキルセットや、ポリシーを記述したい言語、そしてKubernetesエコシステムへの依存度によって決まります。
7. DRやマルチリージョン戦略を効率的に管理したい
「Terraform」がおすすめです。
ディザスタリカバリ(DR)やサービスの可用性向上のために、複数のリージョンにインフラを展開する戦略において、Terraformのモジュールとワークスペースの仕組みは非常に効果的です。
ベースとなるインフラ構成をモジュールとして定義し、リージョンごとの差異を変数として注入することで、少ないコード量で複数リージョンへの展開を効率的に管理できます。
ただし、Pulumiもスタックやコードの抽象化によってマルチリージョン戦略を組むことも可能です。
マルチクラウドIaCのベストプラクティス
どのツールを選択するにせよ、マルチクラウド環境でIaCを成功させるためには、共通のベストプラクティスが存在します。これらを実践することで、インフラ管理の安全性、効率性、そして再現性を飛躍的に高めることができます。
ベストプラクティス | 具体的な実践内容 | 関連ツール・アプローチ |
---|---|---|
コードのモジュール化 | 環境ごとの差異(開発、本番など)を変数で吸収し、共通のインフラ構成を再利用可能な部品として定義します。これにより、コードの重複を排除し、メンテナンス性を向上させます。 | Terraform Modules, Pulumi Components, Crossplane Compositions |
状態ファイルの管理 | TerraformやPulumiが出力する状態ファイル(state)をローカルPCではなく、共有のリモートストレージで管理します。これにより、チームでの安全な共同作業と、意図しない状態の破損を防ぎます。 | Amazon S3 + DynamoDB, Google Cloud Storage, Terraform Cloud, Pulumi Cloud |
CI/CDへの統合 | インフラの変更をアプリケーションコードと同様に、自動テストとデプロイのパイプラインに組み込みます。plan やpreview の結果をプルリクエスト上でレビューする文化を醸成します。 | GitHub Actions, GitLab CI, Jenkins, Atlantis |
Policy as Code (コードとしてのポリシー) | セキュリティや組織のコンプライアンスルールをコードで定義し、CI/CDパイプラインで自動的に検証します。これにより、安全でない、あるいはルールに違反する変更が適用されるのを未然に防ぎます。 | Open Policy Agent (OPA), Sentinel,Trivy, CrossGuard, Kyverno |
まとめ
マルチクラウド時代において、「とりあえずTerraform」という思考停止に陥ることなく、自社の技術スタック、チームのスキルセット、そして将来のビジョンに照らし合わせてIaCツールを戦略的に選定することは、競争優位性を確立する上で不可欠です。
Terraformの安定性と広大なエコシステム、Pulumiの開発者フレンドリーなアプローチ、そしてCrossplaneのKubernetesネイティブな思想。それぞれに明確な利点があり、解決しようとしている課題が異なります。
本記事で紹介した比較や選定ガイドを参考に、ぜひあなたのチームに最適なツールは何かを議論してみてください。 今日の小さな一歩が、未来の強固なインフラ基盤を築く礎となるはずです。