
OpenAIが10件のAI悪用を阻止 ─企業ができる対策と、AI監視ツール4選を紹介
2025年6月、OpenAIが脅威インテリジェンスレポート「Disrupting Malicious Uses of AI: June 2025」を発表した。このレポートでは、生成AIの悪用が世界的な脅威となっている現状を詳細に報告しており、同社は2025年初頭だけで、中国、ロシア、イラン、北朝鮮などに拠点を置く10件の悪意あるキャンペーンを検知・阻止したとされている。
具体的には詐欺、世論操作、サイバースパイ活動にAIが悪用されており、デジタル社会の安全性確保に向けた早急な対策が求められている。
本記事では、発表されたレポートの概要をもとに企業ができる対策を考え、AI監視ツールを紹介する。
AIを悪用した、多様な攻撃手法
OpenAIの報告によると、生成AIは新たな脅威カテゴリーを生み出してはいないものの、技術的障壁を大幅に下げ、悪意あるアクターの攻撃効率を飛躍的に高めているという。
報告書で取り上げられた事例は、AIが詐欺のスケール拡大、世論操作の自動化、サイバースパイ活動の支援に悪用されていることを示している。
特に、AI生成のコンテンツは文法的に正確で説得力があり、従来の検知手法をすり抜けるケースが増えている。報告書で取り上げられた主要なキャンペーンの詳細を以下にまとめる。
ScopeCreep(ロシア)
ロシア語話者の脅威アクターがChatGPTを悪用し、Windowsベースのマルウェアを開発。Telegramの警告機能を回避するためのデバッグにもAIを活用した。このキャンペーンは、サイバー犯罪の技術的ハードルを下げるAIの能力を象徴している。
北朝鮮関連のキャンペーン
生成AIを用いて、リモートのテック職向けに偽の履歴書を大量生産。偽装した求職者が企業ネットワークに侵入し、デバイス制御を試みた。こうした攻撃は、企業の人事プロセスを悪用する新たな手口として警戒が必要だ。
Operation Sneer Review(中国)
中国関連のネットワークがTikTokやX上で偽のデジタルペルソナを展開し、親中的なプロパガンダを拡散。AI生成のコンテンツは、自然な文章と視覚的説得力を持ち、検知が困難だった。
Helgoland Bite(ロシア)
ロシアのアクターがChatGPTを利用して、ドイツ語で反米・反NATOコンテンツを生成。2025年のドイツ選挙を標的にした偽情報や、反体制活動家を特定するためのソーシャルメディア投稿を作成。支払いと投稿を連携させるメッセージもAIで生成された。
Uncle Spam(中国)
米国を対象に、社会的分断を煽るコンテンツを生成。関税の賛否を巡る議論や、退役軍人支援を装った偽アカウントを作成し、信頼を悪用した情報操作を行った。
AIがもたらす新たな課題
生成AIの普及により、悪意あるアクターは低コストで高効率な攻撃を展開できるようになった。報告書では、AIが以下の分野で特に悪用されていると指摘している。
- 詐欺の自動化:フィッシングメールや偽のウェブサイトを迅速に生成し、標的を欺く。
- 偽情報キャンペーン:政治的・社会的な分断を煽るコンテンツを、多言語で大規模に作成。
- サイバー攻撃の強化:マルウェアのコード生成や、セキュリティ対策の回避策をAIで模索。
OpenAIは、AIの悪用が新たな脅威を生み出すのではなく、既存の攻撃手法を強化し、スケールを拡大していると分析。技術的知識が乏しいアクターでも、高度な攻撃を仕掛けられる点が問題視されている。
国際的な協力の必要性
AIの悪用は国境を越えた脅威であり、国際的な協力が不可欠だ。報告書は、政府、企業、市民社会が連携し、AIの安全な利用を促進する規制や標準を策定する必要性を指摘。
EUのAI法や米国のサイバーセキュリティフレームワークを参考に、グローバルなガイドラインの構築が急務となっている。更なる詳細は、発表されたレポートを確認してほしい。(レポートはこちら)
企業ができる対策
企業は、AI悪用のリスクに対応するための対策を講じるべきだろう。以下に具体的な対策をまとめる。
AI監視ツールの導入 | 異常行動をリアルタイムで検知するAIベースのセキュリティシステムを採用。生成AIの不自然なパターンを特定するアルゴリズムを活用。 |
---|---|
情報共有ネットワークの構築 | OpenAIや他のテック企業と脅威情報を共有し、業界全体での防御を強化。 |
従業員教育の徹底 | AI生成のフィッシングメールや偽履歴書を見抜くトレーニングを実施。特に、リモート採用プロセスでの検証を強化。 |
セキュリティプロトコルの見直し | AIを活用した攻撃の進化に合わせ、多要素認証やゼロトラストモデルの導入を進める。 |
コンテンツ認証技術の活用 | AI生成コンテンツを識別する技術(例:デジタル透かし)を導入し、偽情報の拡散を防止。 |
AI監視ツールとは?
ここでは、今まで取り上げてこなかった「AI監視ツール」について取り上げる。
AI監視ツールとは、人工知能(AI)や機械学習(ML)システムの動作、性能、データ使用状況をリアルタイムまたは定期的に監視・分析するためのソフトウェアやプラットフォームだ。
これらのツールは、AIモデルの異常行動、データドリフト(データの分布変化)、性能低下、または悪意ある使用(例:詐欺、偽情報生成、サイバー攻撃)を検知することを目的としている。特に、今回のレポートで指摘されたような、生成AIの悪用に対抗するためにも重要な役割を果たす。
AI監視ツールの具体例
AI監視ツールは、データドリフト、モデル性能の低下、異常なAPI使用パターンを検知し、悪意ある行動を早期に発見するのに役立つため、企業は自社のニーズに応じて、これらのツールを選択・導入することで、AI悪用のリスクを軽減できる。
具体的なツールの例とその機能を以下にまとめる。
Evidently AI
機能概要 | オープンソースのML監視ツール。データドリフトやモデル性能の監視に特化し、直感的なダッシュボードを提供。 |
---|---|
AI悪用対策への適用 | 異常なデータパターン(例:偽情報キャンペーンの特徴的なテキストパターン)を検知。たとえば、企業が自社プラットフォームで生成されたコンテンツの異常を特定し、偽アカウントの活動を早期に発見。 |
Fiddler AI
機能概要 | モデル性能と異常行動の監視に特化。説明可能なAI機能を提供し、異常の原因を詳細に分析可能 |
---|---|
AI悪用対策への適用 | 生成AIが不自然な頻度でコンテンツを生成(例:大量のフィッシングメール)した場合、アラートを発し、原因を追跡。OpenAIのようなプラットフォームで、悪意あるAPI使用を特定するのに有用。 |
Neptune AI
機能概要 | MLOps向けツールで、モデル実験と本番環境の監視をサポート。メタデータ管理とダッシュボード作成が強み。 |
---|---|
AI悪用対策への適用 | 異常な生成パターン(例:特定の政治的コンテンツの大量生成)を追跡し、モデル挙動をログ化。ソーシャルメディア企業が偽情報拡散を監視する際に活用可能。 |
MetricFire
機能概要 | リアルタイム監視プラットフォームで、TensorFlowやPyTorchなどと統合可能。異常検知に機械学習アルゴリズムを活用。 |
---|---|
AI悪用対策への適用 | AIのAPI使用量やパフォーマンスを監視し、異常なリクエスト(例:マルウェア生成のための高頻度リクエスト)を検出。カスタマイズ可能なアラートで迅速な対応を支援。 |
まとめ
OpenAIは、AIの悪用が今後も進化すると警告し、継続的な技術革新と情報共有の重要性を強調している。生成AIは社会に革新をもたらす一方、悪意あるアクターの手による悪用は、サイバーセキュリティの新たな課題となっている。
企業や政府が一丸となり、迅速かつ効果的な対策を講じることが、デジタルエコシステムの安全性を確保する鍵となる。AI監視ツールの利用なども検討しながら、対策していきたい。