
Gartner、SecOpsにおけるAI活用の指針を発表 ─ AWS、Azure、Google Cloudの有効サービスまとめ
2025年4月22日、ガートナージャパン株式会社は、企業のセキュリティ・オペレーション(SecOps)におけるAI活用の指針として「4つのアプローチ」を発表した。
生成AI(GenAI)の急速な進化とサイバー攻撃の高度化が、従来のセキュリティ手法を時代遅れにしている中、ガートナーはAIを戦略の中核に据えることで、組織の防御力を飛躍的に高められると強調する。
本稿では、今回発表された4つのアプローチの概要に加え、各アプローチに利用できる主なAWS、Google Cloud、Azureの具体的なセキュリティサービスをまとめる。
ガートナーの4つのアプローチ:概要
ガートナーは、SecOpsにおけるAI活用を以下の4つの柱で定義。これらは、クラウドネイティブな環境でのサイバーレジリエンスを強化する。
1. AIによる脅威検知の強化 | AIの機械学習(ML)とGenAIを活用し、リアルタイムで異常行動や未知の脅威を検知。ディープフェイクやゼロデイ攻撃に対応。 |
2. インシデント対応の自動化 | AIによるインシデントの迅速な分析と対応自動化で、被害を最小化し、運用負荷を軽減。 |
3. AIガバナンスとリスク管理 | AIの倫理的運用を確保し、誤検知やプライバシー侵害を防止。法令遵守を強化。 |
4. 人材育成とAI協働 | SecOpsチームのAIリテラシーを向上させ、人間とAIの協働を最適化。 |
これらのアプローチは、クラウドプラットフォームのAI機能を活用することで最大の効果を発揮する。(詳細はガートナーの発表を参照) 次の章では、各アプローチに有効なAWS、Google Cloud、Azureの主なサービスを整理する。
「AIによる脅威検知の強化」に有効なサービス例
Amazon GuardDuty Extended Threat Detection
機械学習(ML)とAIを活用し、AWS環境内の異常行動や潜在的な脅威をリアルタイムで検知するサービス。S3バケットやIAMアクティビティの異常、ゼロデイ攻撃の可能性を特定。以下特徴。
- AI/MLによる攻撃シーケンスの特定(例: 不審なAPI呼び出しやS3データアクセス)
- 追加コストなしで全GuardDutyアカウントに自動適用
- AWS Security HubやAmazon EventBridgeとの統合で、脅威の可視化と対応を強化。
ユースケース
- ディープフェイクに関連する不正な認証試行の検知(例: 異常なIAM認証パターン)
- ゼロデイ攻撃の兆候を、異常なネットワークトラフィックから特定。
Google Security Command Center with AI Protection
AIを活用した脅威検知プラットフォームで、Vertex AIやGoogle Threat Intelligenceと統合し、異常行動や未知の脅威を特定。以下特徴。
- 仮想レッドチームテストで、AIモデルの脆弱性を事前評価
- リアルタイム分析で、ディープフェイクやゼロデイ攻撃の兆候を検知
- Sensitive Data Protectionで、AIデータセット内の機密データを自動分類
ユースケース
- ディープフェイク音声を使用したソーシャルエンジニアリング攻撃の検知
- クラウドワークロードでのゼロデイエクスプロイトの早期発見。
Microsoft Defender for Cloud AI Threat Protection
Azure AI Content SafetyとMicrosoftの脅威インテリジェンスを活用し、リアルタイムで脅威を検知。データ漏洩やゼロデイ攻撃に対応。以下特徴。
- Prompt Shieldsで、プロンプトインジェクションやディープフェイク関連の攻撃を防御
- Defender XDRとの統合で、AIワークロードの脅威を一元管理
- マルチクラウド(AWS、GCP)対応
ユースケース
- ディープフェイクを使用した認証回避の検知
- ゼロデイ攻撃の兆候を、異常なAPI呼び出しから特定
「インシデント対応の自動化」に有効なサービス例
AWS Incident Response Service、AWS Systems Manager Incident Manager
ンシデントの検知から対応までを自動化し、迅速な復旧を支援。GuardDutyやCloudWatchと連携し、インシデント対応プレイブックを実行。
- 自動化されたプレイブック(例: 不審なインスタンスの隔離、通知送信)
- インシデントの優先順位付けと影響範囲の評価をAIで支援
- CrowdStrikeとの統合で、ハイブリッド環境にも対応
ユースケース
- ランサムウェア検知後の自動隔離と通知
- マルチクラウド環境でのインシデント対応の統一管理
Google SecOps
AI駆動のセキュリティ運用プラットフォームで、脅威検知から対応までを自動化。自動プレイブックとリアルタイム分析を提供。
- Gemini AIによるインシデントの要約と推奨アクションの生成
- 自動化されたワークフローで、対応時間を短縮(例: ネットワーク隔離、チケット発行)
- マルチクラウド環境での一元管理(AWS、Azure対応)
ユースケース
- フィッシング攻撃検知後の自動ユーザーアカウントロック
- マルチクラウド環境でのインシデント対応の迅速化
Microsoft Sentinel、Defender for Cloud Workflow Automation
AIを活用したSIEM(Security Information and Event Management)で、インシデントの検知と対応を自動化。プレイブックで迅速な対応を実現。
- 分析ルールでインシデントの優先順位を自動設定
- 自動プレイブック(例: アカウント無効化、ネットワーク隔離)をLogic Appsで実行
- ServiceNowなどの外部ツールとの統合
ユースケース
- マルウェア検知後の自動隔離と通知
- マルチクラウド環境でのインシデント対応の統一
「AIガバナンスとリスク管理」に有効なサービス例
AWS Cloud Adoption Framework for AI、Amazon SageMaker Model Governance
AIの倫理的運用と法令遵守を確保するためのガバナンスフレームワーク。モデルバイアスやプライバシー侵害を監視。
- 責任あるAIの原則(説明可能性、公平性、透明性)を組み込んだポリシー管理
- データ保護(例: 機密データの検出と匿名化)をAmazon Macieで強化
- コンプライアンス監査のためのWORMストレージへのログ記録
ユースケース
- 金融機関でのAIモデルの公平性監査(例: 融資判定のバイアス検出)
- GDPRやCCPAに対応したデータプライバシー管理
Google Cloud Governance, Risk, and Compliance (GRC)、Vertex AI Model Monitoring
AIの倫理的運用とリスク管理を支援するフレームワーク。法令遵守とバイアス監視を強化。
- 説明可能性と公平性を組み込んだAIモデル監視
- Sensitive Data Protectionで、データプライバシーとコンプライアンスを確保
- セキュリティコマンドセンターで、AIワークロードのリスクを一元管理
ユースケース
- 医療機関でのAIモデルのHIPAA準拠監査
- 広告プラットフォームでのバイアス検出と是正
Microsoft Purview、Secure AI Framework
AIの倫理的運用とリスク管理を支援するガバナンスツール。データプライバシーと法令遵守を強化。
- Microsoft Purviewで、AIデータセットの機密性評価とアクセス制御
- MITRE ATLASやOWASP Generative AIリスクフレームワークに基づくリスク評価
- レッドチームテストで、AIモデルの脆弱性を検証
ユースケース
- 金融機関でのAIモデルのSOX準拠監査
- プライバシー侵害リスクの低減(例: GDPR対応)
「人材育成とAI協働」に有効なサービス例
AWS Skill Builder、Amazon SageMaker Studio
SecOpsチーム向けのAI/MLトレーニングと、AI開発環境を提供。人間とAIの協働を最適化。
- AWS Skill Builderで、GuardDutyやSageMakerの活用に関するオンラインコースを提供
- SageMaker Studioで、SecOpsチームがカスタムAIモデルを構築・テスト可能
- コラボレーションツール(例: SageMaker Notebooks)で、データサイエンティストとセキュリティチームの連携を促進
ユースケース
- セキュリティアナリスト向けの脅威検知モデルの構築トレーニング
- AIを活用したログ分析のワークフロー構築
Google Cloud Skills Boost、Vertex AI Workbench
SecOpsチーム向けのAIトレーニングと、AI開発・運用環境を提供。人間とAIの協働を最適化。
- Google Cloud Skills Boostで、セキュリティAIの活用に関する実践的なコースを提供
- Vertex AI Workbenchで、SecOpsチームがカスタム検知モデルを構築可能
- コラボレーションダッシュボードで、チーム間の情報共有を促進
ユースケース
- セキュリティチーム向けのAI駆動ログ分析トレーニング
- AIモデル開発でのデータサイエンティストとSecOpsの協働
Microsoft Learn、Azure Machine Learning
SecOpsチーム向けのAIトレーニングと、AI開発環境を提供。人間とAIの協働を最適化。
- Microsoft Learnで、Defender for CloudやSentinelのAI活用コースを提供
- Azure Machine Learningで、SecOpsチームがカスタム脅威検知モデルを構築
- コラボレーションツール(例: Azure DevOps)で、セキュリティチームとデータサイエンティストの連携を強化
ユースケース
- セキュリティアナリスト向けのAIモデル構築トレーニング
- インシデント対応でのAIと人間の協働ワークフロー構築
有効なサービスまとめ
ガートナーが発表するSecOpsにおけるAI活用の「4つのアプローチ」に有効な手段の例をまとめると、以下のようになる。
AIによる脅威検知の強化 | ・Amazon GuardDuty Extended Threat Detection ・Google Security Command Center with AI Protection ・Microsoft Defender for Cloud AI Threat Protection |
インシデント対応の自動化 | ・AWS Incident Response Service ・AWS Systems Manager Incident Manager ・Google SecOps ・Microsoft Sentinel ・Defender for Cloud Workflow Automation |
AIガバナンスとリスク管理 | ・AWS Cloud Adoption Framework for AI ・Amazon SageMaker Model Governance ・Google Cloud Governance, Risk, and Compliance (GRC) ・Vertex AI Model Monitoring ・Microsoft Purview ・Secure AI Framework |
人材育成とAI協働 | ・AWS Skill Builder ・Amazon SageMaker Studio ・Google Cloud Skills Boost ・Vertex AI Workbench ・Microsoft Learn ・Azure Machine Learning |
AWSは、セキュリティとAI/MLを統合したサービスを通じて、脅威検知からガバナンスまで幅広いニーズに対応している。GuardDutyやIncident Managerによるリアルタイム検知と自動対応、ガバナンス重視のAI運用で、総合的なセキュリティソリューションを提供。特にマルチクラウドやハイブリッド環境に強い。
Google Cloudは、AI主導のセキュリティプラットフォームと高度な自動化を特徴とし、SecOpsの効率化を重視。Gemini AIやSecOpsによる高度な自動化と、データ保護に強いガバナンスを提供する。AIリテラシー向上のためのトレーニングも充実している。
Azureは、Microsoft Defender for CloudとSentinelを核に、AIセキュリティとガバナンスを統合的に提供。Defender for CloudとSentinelによる統合的なセキュリティ管理と、Purviewによる強力なガバナンスを提供する。
戦略的活用と課題
ガートナーは、2024年に発表した「日本の企業がセキュリティに関して2024年に押さえておくべき10の重要論点」にて「企業では平均45点のセキュリティツールが企業で使用され、運用を複雑化させる」と指摘する。サービス統合とAIガバナンスの徹底が必要だ。
SecOpsにおけるAI活用の課題としては、AIの誤検知や倫理的リスクが挙げられる。(例:GuardDutyが正常なトラフィックを誤検知し、業務を停止するなど)
Amazon SageMaker、Microsoft Purviewなどのガバナンスツールを活用し、透明性と説明責任を確保するのもひとつだ。また、人材育成は継続的な投資を要し、クラウドの学習プラットフォームを活用した定期トレーニングが不可欠だと言える。
サイバー戦争の次の戦場:あなたは準備できているか?
ガートナーの4つのアプローチとクラウドのAIサービスは、SecOpsを次の次元に引き上げる。今回紹介した各サービスは、サイバー戦争の最前線で戦う武器だ。
しかし、AIは両刃の剣。適切に運用すれば、企業の守護者となる。誤れば、誤検知や倫理的危機を招く。2025年、あなたの組織はAIをどう操るのか? 次の攻撃は、すでにクラウドの影に潜んでいる。