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運用自動化のメリットと潜在的リスク

運用自動化のメリットと、潜在的リスクを考える

「この自動化システムを導入すれば、夜間の監視業務から解放されますよ」
こんな怪しい言葉でも、運用担当だと気になってしまうのは仕方ありません。

怪しい言葉の通り、知っておくべきことがたくさん隠れています。運用自動化は現代のITインフラ管理において欠かせない要素となっていますが、明るい未来だけではないのが現実です。

本記事では、システムエンジニアの視点から運用自動化の真の姿に迫ります。

運用自動化の基本的な考え方

運用自動化とは、システム運用において人間が行っていた作業をプログラムやツールによって自動的に実行する仕組みのことです。単純作業の繰り返しや、深夜の定期メンテナンスなど、人間にとって負担となる作業を機械に任せることで、エンジニアがより創造的な業務に集中できるようになります。

自動化の本質は「一貫性」と「再現性」にあります。人間が行う作業には常にばらつきが生じますが、プログラムは毎回同じ手順で正確に実行します。これにより、品質の均一化と標準化が実現できます。

運用自動化を検討する際に、重要なこと

自動化を考える際の基本原則としては、以下の点が重要になります。

  • 繰り返し発生する定型作業を優先的に自動化する
  • 人間による判断が必要な複雑な作業は後回しにする
  • 自動化の効果を測定可能な形で設計する
  • 障害発生時のフォールバック(手動対応)手順も整備する

最初は小さな成功体験を積み重ねることが大切です。例えば、日次のバックアップ確認やログローテーションなど、比較的シンプルな作業から自動化を始めるのがおすすめです。

運用自動化で得られるメリットと、具体例

運用自動化によって得られる最大のメリットは、作業効率の飛躍的な向上ヒューマンエラーの削減です。

例えば、サーバーのプロビジョニング作業を自動化することで、従来3日間かかっていた作業が15分で完了するようになることもあります。また、手作業での設定ミスも激減し、サービス品質の向上にも繋がっています。

実際に、24時間365日のシステム監視業務を自動化することで、オンコール対応の負担が大幅に軽減された例は数多くあります。

また、パッチ適用作業の自動化も効果的です。セキュリティパッチの適用漏れは深刻なインシデントに繋がる可能性がありますが、自動化によって適用状況の可視化と確実な実行が可能になります。パッチ適用の自動化により、セキュリティインシデントの発生率が前年と比較して60%減少したという事例もあったりします。

自動化に対するリスクだけを突いてくる方もいらっしゃいますが、適切に設計された自動化システムは、むしろヒューマンエラーを減らす方向に働きます。深夜の眠気と戦いながら行う作業よりも、冷静に設計されたプログラムの方が信頼性が高くなりますので、その点をしっかりと説明をしていくことが必要になります。

設定ミスや依存性増加といったリスクの現実

ここまで自動化のメリットを紹介してきましたが、しっかりとリスクも存在します。すべてを自動化すれば良いよいう安易な考えから現状よりも複雑化したケースを何度も見てきました。

設定ミスによる連鎖障害

筆者が最も多く見てきたのは、設定ミスによる連鎖障害です。手動操作であれば1台のサーバーで誤った設定を行っても影響は限定的ですが、自動化システムでは同じミスが数百、数千のサーバーに一斉に適用されることになります。

例えば、ファイアウォールルールの自動更新プログラムにバグがあると、全拠点のネットワークが一斉にダウンするという事態が発生してしまいます。復旧にかかった時間は手動操作の場合よりも長くなり、事業への影響は甚大になると想定できます。

自動化システムの複雑化で、障害の原因特定が困難に

また、自動化システム間の依存関係が増えることでシステム全体が複雑化し、かえって障害の原因特定が難しくなるケースもあります。「A→B→C→D」と連鎖する自動化処理の中で問題が発生した場合、どこに原因があるのかを特定するのは容易ではありません。

気づいたら自動化のブラックボックスが増えていたという状況も危険です。自動化を進めるうちに、その仕組みを理解している人材が限られてしまい、障害時に対応できる人がいなくなるリスクも現実のものとなっています。

人間のスキル低下

最後に見落としがちなのが、自動化による人間のスキル低下の問題です。手動操作の機会が減ることで、若手エンジニアが基本的なシステム構造を理解する機会が失われ、長期的には技術力の低下につながる可能性があります。

リスク軽減に向けた3つの対策

こうしたリスクは怖いですが、適切な対策を講じることで軽減可能です。以下の3つのアプローチを検討してみてください。

段階的な自動化と徹底したテスト

いきなり本番環境に適用するのはNGです。自動化スクリプトは必ず検証環境でテストし、小規模な対象から段階的に適用範囲を広げていきましょう。また、自動化システム自体にも単体テスト、結合テストなどの品質保証プロセスを適用することが重要です。

監視と可視化の強化

自動化したからといって放置するのではなく、監視を行うことが重要です。自動化システムの動作状況、処理結果、エラー発生状況などを常に可視化し、異常の早期発見に努めましょう。

ドキュメント整備と知識共有

自動化システムの設計思想、構成図、処理フロー、既知の問題点などを詳細にドキュメント化しましょう。また、定期的な勉強会やハンズオンセッションを通じて、チーム全体で自動化システムへの理解を深めることが重要です。 ”属人化は最大の敵” と心得ておくべきでしょう。

    運用自動化を進める上での導入ステップ

    では、具体的にどのように自動化を進めていけばよいのでしょうか。以下の導入ステップを参考にしてみてください。

    Step1 – 現状分析と対象選定

    まずは現在の運用業務を棚卸しし、自動化の優先度を決めましょう。「実行頻度」「所要時間」「ミスの影響度」「実現難易度」といった観点でスコアリングすると良いです。

    Step2 – 自動化方針の策定

    選定した対象に対して、どのようなツールや技術を使って自動化するかを検討します。Ansible、Terraform、PowerShellなど、目的に応じた適切なツールを選びましょう。たまに見かけますが、「何でもPythonで書けばいい」という安易な発想は避けるべきです。

    Step3 – PoC(概念実証)の実施

    小規模な環境で自動化の有効性を検証します。この段階でユーザーインターフェースや処理方式を試行錯誤し、最適な形を模索します。

    Step4 – 本格導入と展開

    PoCの結果を踏まえて本格的な開発を進め、段階的に適用範囲を拡大していきます。この際、チーム内での合意形成を丁寧に行い、抵抗感を最小化することが成功のポイントです。

    Step5 – 評価と改善

    定期的に自動化の効果を測定し、改善点を洗い出します。KPI(工数削減率、エラー発生率など)を設定し、定量的な評価を行うことが重要です。

    運用自動化のメリットを最大化する方法

    自動化を導入したら終わりではありません。さらにメリットを最大化するための工夫を4つ紹介します。

    1. セルフサービス化の推進

    自動化システムをエンドユーザー(開発者など)が直接利用できるポータルサイトやCLIツールとして提供することで、運用チームへの依頼を減らし、さらなる効率化が図れます。待たされるストレスをなくすことで、組織全体の生産性向上につながります。

    2. CI/CDパイプラインとの統合

    運用自動化をCI/CDパイプラインと統合することで、開発から運用までのシームレスな自動化を実現できます。「コードをプッシュしたら自動的にテスト、デプロイ、監視設定まで完了する」という流れが世の中で当たり前になってきていることを知っておくことが重要です。

    3. データ分析と予測保全への展開

    自動化システムから得られるデータを分析することで、障害の予兆検知や性能ボトルネックの特定が可能になります。事後対応から予測保全へというパラダイムシフトを実現できれば、システム安定性は飛躍的に向上します。

    4. チャットボットや音声インターフェースの活用

    Slackなどのチャットツールと連携し、自然言語での指示で自動化処理を実行できるようにすると、利便性が格段に向上します。「サーバAを再起動して」という指示だけで適切な処理が実行されるようにしている企業は少なくありません。

    まとめ

    運用自動化は、単なる効率化ツールではなく、ITサービスの品質と安定性を高めるための戦略的アプローチです。メリットを最大限に活かしつつ、潜在的リスクにも目を向けた慎重な導入が重要です。

    自動化によって人間の仕事がなくなるという懸念もよく聞かれますが、実際には自動化によって解放された時間を、より創造的で価値の高い業務に振り向けることができます。

    Sler企業にて10年間WEBアプリ開発から経験を積み、現在はフルスタックエンジニアとして現場で働いています。アプリケーションから、インフラ含めた幅広い知見をベースにノウハウをアウトプットしていきます。実は生粋のジャンカーでジャンク品を買い漁っては修理して楽しんでいますので、ハードウェアにも片足踏み込んでます。

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