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【情シス向け】システムリスク分析の実践的なプロセスについて解説

情シス担当必見!システムリスク分析の実践的なプロセスについて解説

情報システム部門にとって、サイバー攻撃やシステム障害などによる事業への影響を最小限に抑えることは重要課題の一つです。しかし、日々巧妙化する脅威や複雑化するシステム環境において、効果的なリスク対策を実施するには、システムリスク分析が欠かせません。

本記事では、情報システム部門が自社のシステムリスクを正確に把握し、適切な対策を講じるための、実践的なシステムリスク分析の手法を解説します。

リスクの特定から評価、対策立案、経営層への報告まで、具体的な手順とポイントを、実務に役立つ情報と共に紹介します。

システムリスクとは

システムリスクとは

システムリスクとは、情報資産に対する脅威が、システムの脆弱性を突いて顕在化し、事業運営に悪影響を及ぼす可能性を指します。

具体的には、サイバー攻撃による情報漏えいやシステム停止、内部不正によるデータ改ざん、自然災害によるデータセンターの損壊などが挙げられます。

これらのリスクが現実のものとなれば、事業機会の損失、顧客・取引先からの信用失墜、損害賠償責任など、深刻な影響が生じる可能性もあるでしょう。

情シス部門は、事業継続性を確保する観点からも、リスクを的確に評価し、適切な対策を講じることが責務であり、経営層への説明責任も伴います。

情報セキュリティにおけるリスクの種類

情報セキュリティにおけるリスクの種類

情シス部門が管理するシステムに対するリスクは、主に「脅威」と「脆弱性」の2要素に分類されます。

情報セキュリティの脅威

情シス部門が対処すべき脅威は、外部・内部・環境の3つに大別されます。

外部脅威には、標的型攻撃やマルウェア感染、DoS攻撃など、悪意のある第三者による攻撃が含まれます。内部脅威は、従業員などによる情報の不正持ち出しや操作ミスなどです。

環境的脅威とは、地震、落雷などの自然災害、および、停電などインフラに関わる脅威を指します。多種多様な脅威を想定し、対策を講じることが、情シス部門の重要な役割です。

情報セキュリティの脆弱性

脆弱性とは、システムや運用プロセスに存在するセキュリティ上の欠陥です。ソフトウェアの脆弱性、不適切なアクセス権限設定、脆弱なパスワード運用、公開すべきでない情報の公開設定などが該当します。

これらは脅威が付け入る隙となり、放置すれば情報漏えいやシステム停止などのインシデントにつながりかねません。

脆弱性診断やペネトレーションテストなどを活用し、脆弱性を特定・評価し、パッチ適用や設定変更、運用見直しなどの対策を講じる必要があります。

システムリスク分析が情シスにもたらすメリット

システムリスク分析が情シスにもたらすメリット

システムリスク分析が情シス部門にもたらすメリットは、主に3つあります。

  • セキュリティインシデントの未然防止と被害最小化
  • ガイドラインの遵守
  • セキュリティ投資の最適化

それぞれどのようなメリットがあるか見ていきましょう。

セキュリティインシデントの未然防止と被害最小化

システムリスク分析は、セキュリティインシデントの未然防止と発生時の被害最小化に大きく寄与します。

リスク分析によって、自社システムが抱える脅威と脆弱性を事前に把握し、攻撃シナリオを想定した対策を講じることが可能です。

これにより、インシデントの発生確率を低下させるとともに、万が一発生した場合にも、迅速かつ的確な対応が可能となり、事業への影響を最小限に抑えられます。

情シス部門の重要な責務である、システムの安定稼働を実現することに直結します。

ガイドラインの遵守

システムリスク分析は、業界固有のガイドライン遵守を徹底する上でも不可欠です。

例えば、製造業では「自工会・部工会サイバーセキュリティガイドライン」、金融業では「FISC安全対策基準」への準拠が求められます。

情シス部門は、リスク分析を通じて、自社システムがこれらのガイドラインの要求事項を満たしているかを評価し、不足があれば対策を講じなければなりません。

さらに、NIST SP800-171などのフレームワークに基づくアセスメントの実施により、セキュリティレベルを客観的に評価し、向上させることも重要です。

これらは、取引先からの信頼性確保のみならず、法規制を遵守した企業運営を担保することにつながります。

セキュリティ投資の最適化

システムリスク分析は、セキュリティ投資の最適化、つまり費用対効果の最大化に直結します。詳細なリスク分析により、対策の優先順位が明確になるため、限られた予算をどこに投下すべきかが明らかになります。

例えば、SOAR導入によるインシデント対応の工数削減効果、標的型メール対策による防御実績などを具体的な数値で示すことが重要です。さらに、攻撃を未然に防いだことによる損害回避効果を定量的に推定し、可視化する努力も求められます。

これらは、セキュリティ対策が「コスト」ではなく、事業継続に不可欠な「投資」であることを経営層に示す強力なエビデンスとなり、次年度の予算獲得に向けた、重要な交渉材料となるでしょう。

システムリスク分析に関連するガイドライン

システムリスク分析に関連するガイドライン

情シス部門がシステムリスク分析を実施する際、よりどころとなるのが各種ガイドラインです。

ここでは、2つのガイドラインについて詳しく解説します。

政府情報システムにおけるセキュリティリスク分析ガイドライン

デジタル庁発行の「政府情報システムにおけるセキュリティリスク分析ガイドライン」は、民間企業の情報システム部門にも有用です。

特に、ベースラインと事業被害を組み合わせた分析手法は効率性と精度を両立でき、プロファイル作成によるリスク評価の根拠明確化も効果的です。

本ガイドラインを参考に、リスク分析プロセスを強化し、セキュリティ・バイ・デザインの実践につなげましょう。

制御システムのセキュリティリスク分析ガイド

IPA発行の「制御システムのセキュリティリスク分析ガイド 第2版」は、製造業などの重要インフラを支える制御システム(OT)を対象としていますが、情シス部門にも大いに示唆を与えます。

特に、資産ベースと事業被害ベースの2つの詳細リスク分析手法は、ITシステムのリスク評価にも応用可能です。

情シス部門は、本書で解説されているリスク分析の手順、攻撃シナリオの検討方法、対策の具体例などを参考に、OT/ITが連携するシステムのセキュリティ強化を図りましょう。

リスク分析手法の種類と特徴

リスク分析手法の種類と特徴

システムリスク分析には複数の手法があり、組織の状況や目的に応じて選択することが重要です。

ここでは、代表的な4つの手法(ベースライン、非形式、詳細、組み合わせ)の特徴と選び方を解説します。

ベースラインアプローチ

ベースラインアプローチは、業界標準や公的機関が定めるガイドライン等を基に、最低限実施すべきセキュリティ対策項目を洗い出し、自社システムの適合状況を評価する手法です。

限られたリソースで網羅的な対策を実施したい場合や、セキュリティ対策の第一歩として何から着手すべきか不明な場合に有効です。

ただし、個別の詳細なリスク評価は行わないため、より高度なセキュリティを求める場合は、他の手法との併用も検討しましょう。

非形式的アプローチ

非形式的アプローチは、定められた手順やフォーマットを用いず、情報システム部門の担当者やセキュリティ専門家の経験・知見に基づいてリスクを特定・評価を行います。

迅速なリスク把握が可能であり、特に緊急性の高いセキュリティインシデント発生時や、限られた時間内で簡易的なリスク評価を実施したい場合に有効です。

ただし、担当者の主観に依存するため、結果の客観性や網羅性を確保するためには、文書化や複数人によるレビュー、他アプローチとの併用など、分析の妥当性を高めるための工夫が重要となります。

詳細リスク分析

詳細リスク分析は、情報資産、脅威、脆弱性の3要素を詳細に分析し、リスクレベルを定量的に評価する手法です。

情報システム部門は、この手法を用いることで、事業への影響度が高い情報資産を特定し、そこへの脅威とシステムの脆弱性を詳細に分析することで、具体的かつ優先度の高い対策を立案・実施できます。

高精度なリスク評価が可能ですが、相応の工数が必要となるため、重要な情報資産に絞って適用することが効果的です。

組み合わせアプローチ

組み合わせアプローチは、ベースライン、非形式、詳細リスク分析などの複数の手法を組み合わせ、それぞれの長所を活かし短所を補完する効果的な手法です。

例えば、まずベースラインアプローチでシステム全体のセキュリティレベルを底上げします。次に、非形式的アプローチで担当者の経験に基づくリスクを洗い出し、最後に重要情報資産に対して詳細リスク分析を行う、といった多段階的アプローチが有効です。

これにより、効率性と精度のバランスを取りながら、自社の状況に最適なリスク分析を実現できます。

各手法の特性を理解し、状況に応じて柔軟に組み合わせる判断力が、情シス部門には求められます。

情シスのためのシステムリスク分析のプロセス

情シスのためのシステムリスク分析のプロセス

ここからは、情シス部門が主体となってシステムリスク分析を実行する際の実践的なプロセスを、8つのステップで解説します。

ステップ1:準備・計画

このステップでは、リスク分析の目的を明確化し、対象範囲(システム、情報資産)を特定することが重要です。

次に、情報システム部門が主体となり、関連部門と連携して実施体制を構築します。さらに、適切な分析手法の選定と、情報資産の価値やリスクレベル等の評価基準を定めます。最後に、具体的なスケジュールと必要なリソース(人員、ツール、予算)を確保します。

この準備・計画フェーズを確実に実行することが、その後のリスク分析プロセス全体の品質と効率を左右するので意識するようにしましょう。

ステップ2:情報資産の洗い出し・評価

ステップ2では、業務プロセスやシステム構成を調査し、組織が保有するすべての情報資産を特定します。

サーバーやネットワーク機器などのIT資産だけでなく、業務データ、顧客情報、技術情報など、保護すべきすべての情報が対象です。

洗い出した各情報資産に対して、機密性・完全性・可用性の観点から事業への影響度を評価し、資産の重要度を明確化します。

情シス部門は、この評価結果に基づき、対策の優先順位を判断することになるため、抜け漏れなく、客観的な評価が求められます。この作業には、資産管理台帳の整備・活用が有効です。

ステップ3:脅威分析

脅威分析では、特定した情報資産に対する脅威を洗い出し、その脅威が発生する可能性と影響度を評価します。

脅威には、マルウェア感染、不正アクセス、DoS攻撃などの外部脅威、内部不正や操作ミスなどの内部脅威、地震や火災などの環境脅威があります。

それぞれの脅威について、過去のインシデント事例や業界動向を参考に、攻撃者の目的・手法、攻撃対象となる情報資産を想定した脅威シナリオを作成します。

情シス部門は、これらの脅威が顕在化した場合の影響度を評価し、リスクレベルを判断するための材料を揃えることが求められます。このプロセスでは、脅威情報の収集と分析が重要な役割を果たします。

ステップ4:脆弱性分析

脆弱性分析では、脅威の侵入口となり得る弱点を特定し、その深刻度を評価します。OSやアプリケーションの既知の脆弱性、ネットワーク設定の不備、認証メカニズムの弱点などを、脆弱性診断ツールやペネトレーションテストなどを活用して、技術的な観点から詳細に調査します。

また、物理セキュリティ対策の不備や、従業員のリテラシー不足などの人的脆弱性も評価対象です。

情シス部門は、特定した脆弱性に対し、評価基準を用いて対策の優先度を判断します。脆弱性の確実な把握と迅速な対策実施が、システムリスク低減の鍵となります。

ステップ5:リスク評価

リスク評価では、これまでのステップで得られた情報資産の価値、脅威の発生可能性・影響度、脆弱性の深刻度を総合的に評価し、リスクレベルを算出します。

具体的には、リスクマトリクスや計算式を用いてリスクを定量化し、対応の優先順位を判断します。この評価結果に基づき、リスク対応方針を決定します。

情シス部門は、リスクレベルと事業への影響度を照らし合わせ、最も投資対効果の高い対策を選択することが求められます。

算出されたリスクレベルと対応方針は、経営層や関連部門と合意形成を図る上での重要な判断材料となります。

ステップ6:リスク対応

リスクレベルに応じて、リスク回避、移転、低減、受容の4つの対応方針から最適なものを選択します。

例えば、リスク回避では問題のあるシステムの利用停止、リスク移転では保険の活用、リスク低減では脆弱性対策やアクセス制御の強化などが考えられます。

情シス部門は、各対策の投資対効果を考慮しながら、経営層や関連部門と合意形成を図り、対策の実施計画を立案、実行します。

実行にあたっては、インシデント発生時の対応手順や連絡体制を事前に定めておくことも重要です。

ステップ7:報告・コミュニケーション

リスク分析の結果は、リスク分析報告書として文書化し、経営層や関連部門へ報告します。報告書には、リスク分析の目的、対象範囲、実施方法、特定されたリスク、対応策、対策の実施計画などを記載します。

特に、経営層に対しては、リスクが顕在化した場合の事業への影響と、対策の投資対効果を明確に示すことが重要です。

また、情シス部門は、リスク分析の結果を組織全体で共有し、リスク認識の統一とセキュリティ意識の向上を図る役割を担います。定期的な報告と適切なコミュニケーションを通じて、全社的なセキュリティレベル向上を目指します。

ステップ8:モニタリング・改善

リスク分析は一度実施して終わりではなく、継続的なモニタリングと改善が必要です。情シス部門は、リスク対応策の実施状況を定期的に確認し、その有効性を評価します。

また、新たな脅威や脆弱性の出現、システム環境の変化などに対応するため、少なくとも年に1回はリスク分析全体の見直しを行いましょう。

インシデント発生時には、原因分析と再発防止策の検討を通じて、リスク分析プロセスの改善につなげます。

PDCAサイクルを回し続けることで、変化し続けるビジネス環境に適応した、実効性のあるリスク管理体制を構築・維持することが可能です。

システムリスク分析を内製化する際の課題と解決策

システムリスク分析を内製化する際の課題と解決策

ここまでのステップで、システムリスク分析のプロセスを解説してきました。しかし、実際に情シス部門が中心となってリスク分析を内製化する際には、多くの課題に直面する可能性があります。

ここでは、内製化を進める上で障壁となる代表的な課題を挙げ、それぞれの解決策について解説します。

専門知識・スキルを持つ人材の不足

システムリスク分析の内製化における最大の課題は、専門知識・スキルを持つ人材の不足です。リスク分析には、セキュリティ全般、脅威動向、脆弱性診断、関連法規制などの幅広い知識が求められます。

情シス部門は、必要なスキルセットを明確化し、計画的な人材育成に取り組む必要があります。例えば、情報処理安全確保支援士などの資格取得支援や、セキュリティベンダーの研修プログラムの活用が有効です。

また、高度な専門性が必要な部分については、外部のセキュリティ専門家の支援を受けることも一つの解決策です。

社内人材の育成と外部リソースの活用を組み合わせ、ハイブリッドな体制を構築することが、内製化成功の鍵となります。

継続的な実施・運用の負荷

システムリスク分析の内製化において、継続的な実施・運用は大きな負荷です。リスク環境の変化に対応するため、定期的な見直しが必要ですが、通常業務と並行して行うことは容易ではありません。

この課題を解決するには、一部のプロセスをアウトソーシングすることも有効な手段です。例えば、定期的な脆弱性診断や、高度な分析を要するリスク評価を外部の専門家に委託することで、社内リソースをより戦略的な業務に集中させることが可能となります。

客観性・網羅性の担保の難しさ

システムリスク分析を内製化する際、担当者の経験や主観に依存し、分析結果に偏りが生じる可能性があります。また、視野が狭くなることで、リスクの網羅的な特定・評価が難しくなることも課題です。

これらの課題に対処するためには、第三者機関によるレビューや診断を受け、客観的な評価を得ることが重要となります。

加えて、業界セミナーやベンダーからの情報収集を行い、最新の脅威情報や対策事例を収集することで、分析の視野を広げ、網羅性を高めることが重要です。

情シス部門は、内部の知見だけでなく、積極的に外部の知見を取り入れ、分析の妥当性を確保するよう努めることが求められます。

まとめ

本記事では、情報システム部門が担うシステムリスク分析について、重要性、実践プロセス、内製化の課題と解決策を解説しました。

サイバー攻撃の高度化やシステム環境の複雑化に伴い、リスク分析の重要性はますます高まっています。

そこで、情報システム部門は、本記事で紹介した8ステップを実践し、リスクを的確に把握するとともに、優先順位に基づいた効果的な対策を講じることが求められます。

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