システム運用マニュアルには何が必要?作り方や活用ポイントを解説
システム運用を円滑に進める上では、事前にマニュアルを作成しておくことが重要な意味を持ちます。システム運用マニュアルがあることで、担当者への情報共有の負担を減らしたり、経験の浅さをカバーして質の高い業務思考を実現できたりが期待できるからです。
この記事では、システム運用マニュアルを作成するにあたって知っておきたい、マニュアルの基本的な作り方や、マニュアルの活用ポイントを詳しく解説します。
システム運用マニュアルについて
システム運用マニュアルとは、システム運用の業務を遂行する上で必要な情報をまとめたマニュアルです。システムがどのような構成で成立しているのか、どのように運用業務を進めていけば良いのかなど、マニュアルを見ることでその全てを理解できるような文書となっていることが理想とされます。
システム運用に際しては、複数の製品に関する広範な知識が求められます。システム運用業務を進める上で、それぞれの製品理解を一つずつ進めていては、運用業務を担う前に多くの時間を必要とします。
そこで活躍するのが、システム運用マニュアルです。運用管理に必要な情報がまとまった形でインプットできる文書があれば、業務を効率よく進めることができます。
システム運用マニュアルが整備されていないことのリスク
システム運用マニュアルが無い、あるいは正しく整備されていないと、複数のリスクに企業は晒されてしまいます。
よくあるのは、運用管理業務の停滞です。システム運用に関する一つ一つの知識を口頭で伝えなければならず、業務の引き継ぎが効率よく進みません。
また、正しく業務が引き継がれずに運用上の不備が発生してしまい、重大なインシデントに発展する可能性もあります。障害やサイバー攻撃の予兆を見逃し、組織に損失をもたらしてしまうような潜在リスクを抱えます。
このような事態を回避する上でも、システム運用マニュアルの作成や更新は大きな意味を持っています。
システム運用マニュアルの作成がもたらす課題解決
システム運用マニュアルの作成は、企業課題の解決においても有効な施策です。どのような課題の克服につながるのかを確認し、課題解決を踏まえたマニュアル作成を目指しましょう。
属人化の解消
システム運用マニュアルがあることで、業務の属人化を回避しやすくなります。
マニュアル不在で業務を遂行する場合、業務への習熟度について、担当者間でギャップが生まれてしまうことがあります。業務への理解度の高い担当者に頼った業務プロセスが生まれてしまい、その人物がいないと対処ができないような脆弱性をもたらしかねません。
このような事態を解消できるのが、業務マニュアルの存在です。マニュアルがあることによって、業務に必要なノウハウを正しくインプットし、特定の人物に依存しない運用環境へとアップデートできるでしょう。
品質の均一化・向上
業務品質の均一化や向上の観点からも、システム運用マニュアルの存在は重要です。口頭での情報共有の場合、細かな業務の進め方などが十分に伝えられず、対応の漏れなどにつながる恐れがあります。
一方でシステム運用マニュアルがあれば、これに従って業務を進めることにより、誰が担当者であっても安定したパフォーマンスを発揮しやすくなります。
担当者間でのスキルに差があると感じる場合、運用マニュアルの作成、およびアップデートが必要と言えるでしょう。
研修コストの削減
運用マニュアルをベースに引き継ぎや人員の育成を行うことで、研修にかかるコスト削減につながります。
システム運用に関する全てのノウハウを、口頭で伝えるのは非常に時間がかかります。そこで運用マニュアルを作成し、その内容に沿って補完的に口頭で情報を届けることで、少ない負担で人材を育てることが可能です。
マンツーマンでの指導を行う必要性が減少し、短期間での人材確保を効率よく進められるでしょう。
システム運用マニュアルの4種類
システム運用マニュアルは、どのようなシステムを扱っているかによって、異なるマニュアルを作成しておくことが大切です。
マニュアルの種類や数は企業によって異なりますが、主に以下の4つの種類が用意されていることが一般的です。
設計マニュアル
設計マニュアルは、そのシステムの基本設計についての要項が書かれたマニュアルです。システムの構造に関する理解を読み手に促し、問題が発生した時、どのような点に原因があるのかを正しく把握したりする際に活躍します。
設計マニュアルの重要性は、システム開発を社外に外注した場合、特に高まります。社内で構築したシステムであれば、担当者とコミュニケーションをとることで、ある程度状況を把握することはできます。
一方で外注したシステムを扱う場合、設計マニュアルの形で設計や仕様がまとめられていないと、インシデント発生時の状況把握が困難になってしまいます。
こういった事態を防ぐ上で、設計マニュアルを事前に用意しておくことが重要です。
運用マニュアル
運用マニュアルとは、システム運用業務そのものに関する進め方をまとめたマニュアルです。
ログの確認方法といった日々の業務の進め方や、運用方針の計画策定手順、他部門とのコミュニケーション方法など、安定稼働に必要な業務の手順が一通りまとめられています。運用マニュアルを読むだけで、業務が行えるような文書に仕上げられるのが理想です。
システム運用マニュアルを作成する場合、まずはこの運用マニュアルの整備からスタートすることになるでしょう。
障害対応マニュアル
障害対応マニュアルは、障害発生時の対応方法をまとめた業務マニュアルです。
基本的にシステム運用業務は、障害の発生を防ぎ、システムの安定稼働を維持する領域を指します。これに対しシステム保守は、障害やサイバー攻撃が発生した場合、迅速に原因を特定し問題を解決することで復旧を実施するための業務です。
そのため厳密に言うと、障害対応はシステム運用の管轄ではなく、システム保守の範囲で対応することになります。とはいえ、システム運用とシステム保守で担当者が変わることはなく、同じ部門で対応することになるのが一般的です。
このことを踏まえ、障害対応のためのマニュアルと普段の運用業務マニュアルを分けて作っておくことで、迅速なトラブルシューティングを実現できるでしょう。
エンドユーザー向けマニュアル
エンドユーザー向けマニュアルとは、システムを実際に使うユーザー向けに提供するマニュアルのことです。
エンドユーザー、つまりシステムを業務プロセスの中で使用する従業員に高品質なマニュアルを提供することで、ヘルプデスクの問い合わせ負担を減らすなどの効果が期待できます。
またエンドユーザーマニュアルがあることで、どのようにシステムが使われているかを運用担当者が把握し、トラブルが起こりやすい箇所を把握したりするのにも役立てられます。
システム運用マニュアル作成のポイント
システム運用マニュアルの作成にあたっては、以下のポイントを抑えて制作を進めていくことが重要です。
運用ポリシーを定義する
運用ポリシーとは、システム運用に関するコンセプトや方針のことを指します。システム運用の業務の目的や、どのような手段を講じるのかを宣言することで、運用マニュアル作成の方向づけやマニュアル理解を強く後押しできます。
システムの構成は具体的に記述する
システムの構成内容は、できる限りわかりやすく記述しておきましょう。ハードウェアやソフトウェア、ネットワークがどのように組み合わさっているのかの理解は、システム運用を円滑に進める上で大前提となる知識です。
システム構築の際に使用したドキュメントも活用しながら、システム運用担当者向けにブラッシュアップして運用できるのが理想と言えます。
初心者目線で手順を記述する
システム運用マニュアルは、システム運用経験のない初心者でも理解できるようなドキュメントとなっているのが理想です。専門家の目線ではなく、未経験の人の理解を促す意識で作成をしましょう。
専門的な用語を使う場合は解説を入れたり、用語の使用をできるだけ控えるなどの工夫を施すことが大切です。
業務の意味を深く理解できる工夫を施す
単純に業務の進め方を淡々と記すだけでなく、それによってどのような効果があるのか、なぜそれをしないといけないのかという、バックグラウンドにまで触れられるマニュアルが理想です。
業務の意味が正しく共有されていないと、業務にやりがいを持つことができなかったり、必要な手順が疎かになったりしてしまいます。
マニュアルから外れた業務が定着してしまうと、重大なインシデントを招く恐れもあります。担当者が一つ一つの手続きを大切にできるようなマニュアルを用意しましょう。
アップデートしやすい媒体を選ぶ
システム運用マニュアルは、時代に応じて内容を編集しながら運用することが大切です。システムの仕様が変わったり、求められるセキュリティ基準が変わったりするからです。
そのため、マニュアル作成時は後からの編集が容易な媒体で作成するのが良いでしょう。社内Wikiのような形でマニュアルを共有すれば、アップデートが必要な部分をいつでも改変できますし、最新の情報をいつでも担当者に共有することが可能です。
画像や映像などを積極的に活用する
マニュアル作成時はついついテキストに頼り切りになってしまいがちです。テキストだけでは十分に情報が伝わらなかったり、情報のインプットを効率よく進められないこともあります。
必要に応じて、運用方法を画像や映像によって紹介することで、感覚的な理解を促します。クリックの手順や操作画面の紹介などは、このようなメディアを使うのが効果的です。
システム運用マニュアルの作り方を5ステップで紹介
システム運用マニュアルの作成は、
- 対象読者を定義する
- 記述内容を整理する
- 定期更新の仕組みを整備する
- 業務の一覧を作成する
- 個別での業務対応方法を記述する
という5つのステップを踏むことが大切です。それぞれの手順について、解説します。
対象読者を定義する
はじめに、その運用マニュアルは誰が読むものなのかを定義します。
上記でも触れていますが、基本的にシステム運用マニュアルは初心者でも理解できるように作成するのが重要です。そのため、作成に際しては初心者でもシステム運用業務に従事できるようにするための文書とすることを宣言しましょう。
記述内容を整理する
運用マニュアルを作成するにあたり、どんな情報を記す必要があるのかを整理します。あらかじめ記述すべき内容を明らかにしておかないと、記述の順序から実用性が失われたり、抜け漏れが発生したりします。
書くべきことは全て明らかにしておき、目次を作成してから内容の記述に移ることがポイントです。
定期更新の仕組みを整備する
マニュアルは作成時の段階で、定期更新の仕組みを整えておきましょう。マニュアルを作成したら、次はいつ、誰がマニュアルをアップデートするのかをスケジュールとして組み込みます。
マニュアルの更新を定期的に行うことで、マニュアルをブラッシュアップしてさらに有用性の高いものに仕上げることができます。
業務の一覧を作成する
書き出す内容が決まったら、業務をどのような手順で進めていくのかを、整理して具体化しておきましょう。
各作業で個別の操作が発生するのはもちろんですが、その業務の後は何をするのか、という流れを共有しておかないと、円滑な運用を阻害してしまうからです。
メインの進行マニュアルと並行して、用語の理解を促すレファレンスや、よくある質問集なども別途用意できるのが理想です。
個別での業務対応方法を記述する
全体の流れを整理できたら、一つ一つの業務の進め方について、記述を進めます。あくまでもわかりやすく伝えることを第一に考え、必要に応じてフローチャートや画像なども使いながら、マニュアルを完成させましょう。
システム運用マニュアルに記載したい項目のサンプル
システム運用マニュアルには、どのような項目を記載すべきなのでしょうか。
結論から言うと、記載内容については各社が導入するシステム構成などによって大きく異なるため、一概に「これを記載しておけば良い」と言えるものはありません。
ただ、多くのシステム運用マニュアルでは
- 達成すべき目標
- 業務の進め方
- 意思決定の判断基準
- よくあるミスやトラブルの対処法
といった要素を踏まえているケースが散見されます。
どのようなシステム運用マニュアルであっても、その業務を通じて達成したい目標はあるものです。マニュアルを読んだ担当者が何を目指してインプットすれば良いのか、指針を立てておきましょう。
また、業務手順はマニュアルであれば必ず記載しておくべき事項です。可能な限り時間軸を意識して手順を記載しておくことで、マニュアルに則ったルーティンを構築できます。
何を基準に担当者は行動すれば良いのか、という意思決定の判断基準を示すことも大切です。どのような数値が現れたときは相談すべきなのかなど、システムの安定稼働に必要な目安はあらゆるシステムに存在します。
ある程度自立して担当者が考えて行動ができるよう、マニュアルでその基準を示しておきましょう。
よくある質問や不明点、そしてトラブルがある場合も、整理してマニュアルに載せておきます。困った時にマニュアルをひらけば、大抵の問題が解決できるようにできれば、理想的なマニュアル作成が実現できていると言えます。
システム運用マニュアルはどのように活用すべきか?
システム運用マニュアルが完成したら、まずはアクセシビリティに優れた媒体にマニュアルを掲載しましょう。
マニュアルは必要になった時、いつでも読めるのが理想です。紙に印刷して運用する場合、古いバージョンのマニュアルを参考にしてしまう可能性があるため、おすすめはできません。
社内の担当者のみにアクセス権限を制限したWikiやクラウドストレージを作成し、そこでマニュアルをいつでも読める、あるいは編集できるような仕組みにしておくのが理想です。
また、マニュアルは一度作成して終わりではなく、実際のシステム運用を経てブラッシュアップすることにより効果を高められるものです。
マニュアルを参考にする担当者はもちろん、マニュアルの更新作業の担当者も決定した上で、定期的に効果測定やヒアリングなどを行えるオペレーションを整えておきましょう。
まとめ
システム運用を円滑に遂行する上では、事前のマニュアル作成が重要な役割を果たします。質の高いマニュアルを用意することができれば、経験の浅い担当者でも質の高い業務を遂行可能です。
また、マニュアルは定期的に更新を行い、最新のシステム環境にキャッチアップできるような管理体制を整備しておくことも大切です。
マニュアル管理の担当者も事前に決定の上、常に改善が行われる、理想的なマニュアル運用を実現しましょう。