クラウド構築完全ガイド|基礎から実践までのステップバイステップ
現代のビジネスにおいて、クラウドサーバー構築は不可欠な要素の一つです。クラウドサービスは、社内のDX化を促進し、新たなビジネスモデルの構築に寄与します。
本記事では、クラウド構築の基本と導入メリット、クラウドプロバイダーの種類、具体的な構築手順まで幅広く解説します。環境構築における注意点や導入事例についても紹介しているので、クラウドの導入を検討中の方はぜひ参考にしてください。
クラウド構築の基本と必要なスキル
はじめに、クラウド構築の基本と提供形態、構築の際に必要なスキルについて見ていきましょう。
クラウド構築とは?
クラウド構築とは、クラウド上にサーバーやアプリケーションを配置してシステム構築する手法です。従来のオンプレミスが、サーバーやネットワーク機器を自社で準備・設置するのに対して、クラウド構築は物理的なITインフラをクラウドプロバイダーから借り受けて環境構築できます。これにより、企業は導入時の手間や時間を大幅に節約でき、管理・メンテナンスにかかる運用負荷も下げられます。
主要なクラウドプロバイダーとして挙げられるのが、AWS、Azure、Google Cloudの3つで、これらは世界市場から見ても約73%のシェアを占める勢いです。それぞれ特徴の異なるサービスとテクノロジーが提供されており、多くの企業によって活用されています。
出典:Synergy「Cloud Market Gets its Mojo Back; AI Helps Push Q4 Increase in Cloud Spending to New Highs」
クラウドサービスの提供形態
クラウドサービスの提供形態は、主にIaaS、PaaS、SaaSの3つに分類され、それぞれサービス範囲が異なります。
出典:内閣官房内閣サイバーセキュリティセンター:クラウドを利用したシステム運用に関するガイダンス
IaaSとは、サーバーやネットワークなどの物理的なインフラ機能をインターネット経由で提供するサービスです。インフラとして提供されるものには、仮想サーバーやストレージ、データベース、ネットワーク、機械学習などがあり、要件に合わせて自由にリソースやサービスを追加できます。
一方、PaaSは、アプリケーション開発に必要なプラットフォーム(実行環境)を提供するサービスです。開発環境は通常、OSや開発ツール、データベースなどを準備する必要がありますが、PaaSではこれらがはじめから準備されています。これにより、企業は保守管理にかかる時間や手間を省け、開発業務をすぐに始められます。
3つ目のSaaSは、ソフトウェアやアプリケーションを提供するサービスです。一般的によく知られているものでは、Microsoft Office 365やDropboxなどがあり、クラウド上にデータを保存することができます。他にも、クラウド会計やタスク管理、チャットツール、人事管理といった業務用ソフトもこれに該当し、利用者はいつでも最新のソフトウェアを利用できます。
クラウド構築に必要なスキル
クラウド構築に必要なスキルは多岐にわたりますが、とくに重要なのがクラウド技術への理解です。各クラウドプロバイダーが提供するサービスの特性を理解し、適切に活用及び管理する能力が求められます。
たとえば、環境構築の際に必要なのがインフラのコード化(Infrastructure as Code)に関わる知識です。TerraformやAnsibleなどのツールを用いることでコードのスクリプト実行が可能となり、環境構築を自動化することができます。また、仮想ネットワークを設計するにはネットワーキングスキルも求められ、サブネットやルーティング、ファイアウォールなどの知識も必要です。
パブリック、プライベート、ハイブリッドの違い
クラウド環境は、その構築方法によってパブリッククラウド、プライベートクラウド、ハイブリッドクラウドの3つに分類されます。自社のニーズに最も適したモデルを選ぶには、それぞれの特性とメリットを理解することが重要です。
パブリッククラウド
クラウドプロバイダーが提供するITインフラを利用して、クラウド上にシステムを構築する方法です。複数の顧客が同じインフラを利用する形になり、リソースも共有することでコストを低く抑えられます。また、拡張性と柔軟性に優れ、利用者はビジネスの成長に合わせて自由にリソースの追加が可能です。
プライベートクラウド
リソースを他のユーザーと共有することなく、特定の企業や組織が専用に利用できるクラウド環境です。プライベートクラウドは、クラウドプロバイダーが提供するホスティング型と自社にサーバーを構えるオンプレミス型があり、いずれも優れたセキュリティとパフォーマンスを実現できます。
ハイブリッドクラウド
ハイブリッドクラウドは、オンプレミスやパブリック、プライベートなどの異なる環境を組み合わせたモデルです。複数の環境を連携させることでデータ共有が可能となり、それぞれのメリットを最大限に生かせます。セキュリティやコンプライアンスの使い分けができるため、自社の要件に合わせた運用が実現できます。
クラウドサーバーを構築するメリット
クラウドサーバーの構築は、ビジネスの成長だけでなく、さまざまなメリットをもたらします。ここではクラウドサーバー構築の利点について解説します。
● 導入コストの削減
● 迅速な導入と運用
● インフラ管理の負担軽減
● 柔軟性・拡張性の高さ
導入コストの削減
クラウド構築において、最も大きなメリットが導入コストの削減です。クラウドは、オンプレミスのようにハードウェアやネットワーク機器を準備する必要がなく、クラウドプロバイダーから提供されるリソースを用いて自社システムを構築できます。導入の際に高額なハードウェアの購入が不要になるため、大きなコスト削減につながります。
また、クラウドは従量課金制であることから、ランニングコストの無駄も防げます。たとえば、最小のリソースを割り当てることでスモールスタートが可能となり、コスト効率の面で大きなメリットです。
迅速な導入と運用
導入から運用までを迅速に進められる点もクラウドのメリットです。従来のオンプレミス環境は、ハードウェアの購入や設置に手間がかかるだけでなく、セットアップにも多くの時間を要します。しかし、クラウドサービスは環境構築に必要なリソースがすべてインターネット上から提供され、利用者はすぐに自社システムのセットアップが可能です。これにより、急を要するプロジェクトにもスピーディに対応でき、企業の競争力強化に寄与します。
インフラ管理の負担低減
クラウドサーバーの構築は、企業のインフラ管理にかかる負担軽減にも効果的です。クラウドは、これまでオンプレミス環境で行っていた手作業が不要となり、多くの管理業務を自動化できます。
たとえば、仮想マシンのデプロイでは、laC技術を用いたコード化によって自動化及び高速化が可能です。日々の業務においても、パッチの適用やバックアップ、定期ジョブなどは、クラウドプロバイダーが提供するツールによって自動化されます。また、障害に備えて自動復旧や自動アクションなども設定でき、運用管理者の負担を大きく削減できます。
柔軟性・拡張性の高さ
オンプレミスと比較して、柔軟性・拡張性の高さもクラウドサーバーの魅力です。従来のオンプレミスは、リソースの追加が必要だとしてもすぐに対応できず、多くの時間とコストが必要でした。しかし、クラウドはオンデマンド方式で提供されるため、利用者はいつでも必要な分だけリソースを追加できます。また、自動スケーリング機能では、仮想マシンの台数やスペックを自動調整でき、クラウド環境を常に最適なパフォーマンスで運用できます。
クラウドサーバーを構築するデメリット
クラウドサーバーの構築は、ビジネスの成長や業務効率化につながる一方で、いくつかのデメリットもあります。以下、具体的な3つのデメリットについて解説します。
● コスト管理の難しさ
● カスタマイズの制約
● 高度な知識・スキルが必要
コスト管理の難しさ
クラウドの利用にあたり、最も難しい課題と言えるのがコスト管理です。
クラウドサービスは、リソースの使用量に応じた従量課金制が一般的で、これまでオンプレミスを運用してきた企業にとってコストが把握しづらくなります。たとえば、一時的に使用したテスト環境をそのまま放置していたり、システムの規模に見合わないサーバータイプを選んだりすると、予算を大幅に超える可能性があります。これを回避するためには、クラウドプロバイダーが提供するコスト管理ツールを活用し、定期的なコスト監査や最適化の実施が必要です。
カスタマイズの制約
クラウドサーバーはスケーラビリティに優れる一方で、オンプレミスに比べてカスタマイズの自由度が低くなります。とくに、パブリッククラウドは標準化されたサービスとして提供されているため、企業が求める独自の設定に対応できないケースがあります。
さらに、セキュリティポリシーやコンプライアンスに関わる制約にも要注意です。たとえば、自社のシステムに特定のネットワーク設定やセキュリティ対策が必要だとしても、利用するクラウドプロバイダーが必ずしもその要件に沿えるとは限りません。そのため、カスタマイズが必須の企業においては、プライベートクラウドやハイブリッドクラウドの利用も視野に入れる必要があります。
高度な知識・スキルが必要
クラウド環境の有効性を最大限に引き出すためには、高度な知識・スキルが求められます。クラウドは、オンプレミスとは異なる技術が必要なため、運用経験が少ない企業ほど問題が生じやすくなります。
たとえば、クラウド環境の最適化では、仮想ネットワークやセキュリティ設定、リソース配分に関わる知識が必須です。同時に、運用効率を上げるためには、各クラウドプロバイダーが提供するサービスやツールへの理解も求められます。また、クラウド環境で発生するさまざまな問題に対して、迅速且つ効果的に対応する能力も必要です。
クラウド構築のステップバイステップ
クラウドの構築は、主に4つのステップで進みます。ここでは、具体的な手順と注意点について解説します。
● サービスプロバイダーの選定
● 仮想ネットワークの設計
● リソースの見積もりと設定
● クラウド環境の構築
サービスプロバイダーの選定
クラウドを構築する際、はじめに取り組むのがサービスプロバイダーの選定です。クラウドの活用が進む昨今では、AWS、Azure、Google Cloudをはじめとしたさまざまなサービスが展開されており、それぞれ特徴・強みが異なります。この中から、最適なクラウドサービスを選択するには、自社の求めるニーズに最も適していることが重要です。
たとえば、AWSはサービス範囲の広さと優れたスケーラビリティが大きな特徴です。ドキュメントやチュートリアル、専門家によるサポートの充実度が高く、初めてのクラウド構築でも安心して取り組めます。一方、AzureはMicrosoft製品との親和性を持ち、WordやExcel、PowerPoint、Microsoft Teamsといったソフトウェアとの連携が容易です。
仮想ネットワークの設計
サービスプロバイダーを選定したあとに実施するのが仮想ネットワークの設計です。仮想ネットワークは、クラウド環境全体の基盤となるもので、設計を細部まで決めておくことで可用性の高いシステムを実現できます。
その際、押さえておきたいのが物理構成図と論理構成図の作成です。物理構成図とは、物理的なリソースの種類や位置情報、通信経路などを表す設計のことで、論理構成図は、サブネットやルーティングテーブル、セキュリティグループといった目に見えない設定部分になります。これらを事前にしっかりまとめることで通信とデータの流れが明確になり、インフラ環境の構築や問題解決に役立ちます。
リソースの見積もりと設定
3つ目のステップとして実施するのが、リソースの見積もりと設定です。具体的には、現行システムの利用状況を参考に、必要とされる仮想マシンのスペックやインスタンスタイプ、ストレージ容量、ネットワーク帯域などを予測します。これらの情報を収集することで、初期に割り当てるべきリソースが判断でき、おおよそのランニングコストも導き出せます。
その際、コスト効率を高めるためのポイントが、将来的なスケーラビリティへの配慮です。たとえば、初期段階から過剰なリソースを割り当てると、使用していないリソースの料金が初めから発生します。これを防ぐためには、導入時に最小のリソースでスタートし、需要に応じてマシンスペックやリソースを見直す運用が求められます。
クラウド環境の構築
設計とリソースの見積もりを終えたあとは、実際にクラウド環境を構築します。通常のクラウドサービスは、専用の管理画面が用意されており、そこから環境構築や各種設定が可能です。
具体的な手順として、はじめに実施するのが仮想プライベートの作成とネットワーク設定です。続いて、仮想マシンの作成やストレージの設定、ソフトウェアのインストールを行います。さらに、セキュリティ設定や監視設定、バックアップ、自動スケーリングの設定も進めていき、最後に動作確認を実施します。
クラウドサービスプロバイダーの比較
AWS、Azure、Google Cloudは三大クラウドと呼ばれ、クラウド市場の大半を占めています。ここでは、それぞれの特徴と強みを紹介します。
AWSの特徴とメリット
AWSは、200を超える広範なサービスが特徴で、コンピューティングからストレージ、データベース、機械学習、分析、IoTに至るまで、あらゆるニーズに対応可能です。2024年12月現在では、世界各国に34のリージョン・108のアベイラビリティゾーンを構えており、可用性の高い環境が提供されています。
AWSの強みは、優れたスケーラビリティとセキュリティの高さです。とくに、自動スケーリングは、トラフィック量に応じてリソースを自動調整でき、コストとパフォーマンスを最適に維持できます。また、24時間のテクニカルサポートや豊富なドキュメント、トレーニングも提供されており、はじめてのクラウド運用でも安心して利用できます。
Azureの特徴とメリット
Azureは、マイクロソフト社によって提供されており、Microsoft製品との相性の良さが特徴です。すでに、WindowsやOffice365、SQL Serverなどを活用している企業にとっては連携や移行がしやすく、クラウド導入をスムーズに進められます。
さらに、もう一つの大きな強みと言えるのが高度なセキュリティ機能です。たとえば、複数のクラウドを併用する企業の場合、Azureのアクセス管理ツールを用いることで統合管理が実現できます。また、セキュリティ検知では最新の人工知能が使われており、出現して間もない脅威を即座に見つけ出せます。
Google Cloud(GCP)の特徴とメリット
Google Cloudは、Googleによって提供されるサービスで、スケーラビリティの高さや高度なセキュリティ、クラウド環境の安定性が特徴です。とくにデータ分析や機械学習分野は優れた性能で知られており、初心者から本格的な開発までさまざまな用途に対応できます。
Google Cloudを利用するメリットは、データ処理の効率性です。データ分析を行うためのTensorFlowやBigQueryといったサービスが充実し、膨大なデータセットを短時間で解析できます。また、自然言語処理や画像認識といった高度な分析も可能なため、多くのビジネスに活用されています。
クラウド構築における注意点
クラウド構築をスムーズに進めるためには、いくつかの注意点があります。ここでは、構築の際に気をつけたいポイントを3つ紹介します。
● 移行計画の策定
● 自社のリソース使用量を把握
● クラウド構築支援サービスの検討
移行計画の策定
クラウドを構築する際に、忘れてはならないのが移行計画です。クラウド導入は通常、既存システムからの移行が多く、無計画な環境構築は問題が生じやすくなります。スムーズな移行を実現するためには、データの整合性やダウンタイム、予算などを考慮した移行計画が必須です。
その際、重要なポイントとなるのが移行する対象です。まず、現行システムを詳細まで洗い出し評価することで、必要な手順やそれに要する時間が明確化されます。また、移行テストを行うことで発生しうるリスクを事前に把握でき、クラウドへの移行をスムーズに進められます。
自社のリソース使用量を把握
クラウドのコストパフォーマンスを最大化させるためには、リソースの使用量を正しく把握することが重要です。クラウドはリソースの使用量やマシンスペック、データ通信料に応じて料金が加算されるため、これらを定期的に監査する運用が求められます。
その際、リソースのモニタリングをサポートしてくれるのがコスト管理ツールです。コスト管理ツールは各クラウドプロバイダーによって提供されており、現在の稼働状態やコストの発生状況を一目で把握できます。さらに、コストが閾値を超えた場合はアラート発行も可能なため、プランの見直しやリソースの割り当て変更に役立てられます。
クラウド構築支援サービスの検討
クラウドへの移行をスムーズに進めるためには、専門家からのサポートも重要です。クラウド構築支援サービスは、クラウド環境の設計から実装、運用までの全てのフェーズをサポートし、迅速なクラウド移行を実現してくれます。
さらに、クラウド構築支援サービスは、環境構築だけでなく、監視や保守、セキュリティ対策などの支援も可能です。システムに異常が見つかった際は、あらかじめ決めておいた手順に沿って一次対処でき、障害やシステムダウンを未然に防げます。これにより、企業はクラウド運用にかかる負担を減らしつつ、最適なクラウド環境を維持できます。
クラウド構築の成功事例
クラウド環境の構築は、企業にどのような変化をもたらすのでしょうか。ここでは、クラウド構築の成功事例を2つ紹介します。
● 全国に280店舗を構える企業がAWSへの移行を成功した事例
● 導入支援、開発支援によりGoogle Cloudの基盤構築が成功した事例
全国に280店舗を構える企業がAWSへの移行を成功した事例
通販事業及び、全国280店舗の小売販売を営むこの企業では、ハードウェアの保守管理に負担を感じていました。修理やスケールアップ、リプレイス業務に多くのリソースが奪われるほか、サポート期限への考慮も課題だったそうです。そこで検討し始めたのが、冗長化と拡張性を兼ね備えたクラウド環境への移行です。
AWSを導入した結果、ハードウェアの管理が不要となり、保守業務の負担は大きく軽減されました。ビッグデータの分析や仮想デスクトップ(Amazon WorkSpace)といった新しいチャレンジも可能となり、低コストで素早いPCDAサイクルが実現できたそうです。また、繁忙期でも需要に応じて簡単にサーバースペックを変更でき、イベント期間を安心して迎えられるようになったとのことです。
導入支援、開発支援によりGoogle Cloudの基盤構築が成功した事例
情報システムの企画・開発からコンサルティングまで手掛けるこの企業では、介護マッチングサービスへの参入を計画しました。新サービスの事業戦略として、データドリブンでビジネスを進めたいと思い、ビッグデータ分析が可能なGoogleCloudの導入を決めたそうです。同時に、技術的な支援や運用サポートの必要性も感じ、構築支援サービスへの委託も決定しました。
その結果、クラウドの基本設定からコードの書き方、デプロイの仕方のレクチャーによって、環境構築をスムーズに進められたそうです。アプリ開発においても、コア機能の開発サポートを受け、企業側ではユーザーインターフェースの開発に注力できたとのことです。また、今後の展望はBigQueryをフル活用し、サービス改善などに役立てたいそうです。
まとめ
クラウドは、オンプレミスに比べて導入コストが低く、運用負荷や拡張性の面でも非常に優れています。しかし、自社に最適なクラウド環境を実現するためには、適切なクラウドプロバイダーを選択し、正しい手順に沿って進めることが重要です。
その際、注意したいのが移行スケジュールの策定です。データの整合性やダウンタイム、予算といった項目を事前に計画することで、問題の発生を最小限に留められます。また、クラウド環境の設計、移行、運用保守をよりスムーズに進めるためには、クラウド構築支援サービスの検討も必要です。