
【2025年最新】研究・実用化が進む「ゼロ知識証明」とは? セキュリティ担当者必見!
セキュリティの重要性が高まる現代において、さまざまな暗号化手法が検討されています。
今回は、その中でも情報を漏らさずに検証が可能な技術として注目を集めているのは、「ゼロ知識証明(Zero-Knowledge Proof:ZKP)」です。
ゼロ知識証明は、情報を開示せずにその正当性を証明する暗号技術であり、プライバシー保護とセキュリティ強化の鍵として注目されています。ブロックチェーンや認証システム、医療・金融分野での実用化が進む中、セキュリティ担当者にとってゼロ知識証明の理解は不可欠と言えるでしょう。
本記事では、ゼロ知識証明の基礎知識から具体的なユースケース、最新動向、導入の課題、そして将来展望までを解説します。
ゼロ知識証明とは?
ゼロ知識証明とは、証明者が自身の持つ情報を相手に一切開示することなく、その情報が確かに正しいことを証明する手法(暗号プロトコル)です。
具体的には、数学的および暗号学的な技術を用いて、相手に対して「知識を持っている」という事実だけを示すことができます。ゼロ知識証明は、以下の3つの特性があります。
完全性(Completeness) | 真の命題を持つ証明者がプロトコルを正しく実行すれば、検証者は高い確率でその命題を受け入れます。 |
健全性(Soundness) | 偽の命題を持つ証明者が検証者を騙す確率は極めて低く、確率的証明のエラー率は無視できるほど小さいです。 |
ゼロ知識性(Zero-Knowledge) | 検証者は命題の真偽以外の情報を一切得られません。この特性は、シミュレータを用いた理論的証明で裏付けられます。 |

ゼロ知識証明、2つの種類(対話型と非対話型)
ゼロ知識証明には、対話型と非対話型の2種類があります。
対話型ZKP(例: シュノアプロトコル)は証明者と検証者の複数回のやり取りを必要としますが、非対話型ZKP(例: zk-SNARK、zk-STARK)は一度の証明で完結し、ブロックチェーンでのスケーラビリティを向上させます。
ただし、zk-SNARKでは信頼設定(Trusted Setup)が必要であり、これがセキュリティ上の課題となる場合があります。
ゼロ知識証明の具体的な利用例
ゼロ知識証明自体は1980年代に学術的な証明がされており、すでに一定確立されている技術といえます。現在では、ブロックチェーン領域を中心に検証が進みつつ、他の領域での活用を目標にした応用的な研究が進んでいるところです。
たとえば、以下のようなやりとりがゼロ知識証明の具体的な利用例です。
認証システム
ZKPを用いれば、パスワードや生体認証情報を開示せずに本人確認が可能です。たとえば、FIDO2プロトコルと統合することで、プライバシー強化型の多要素認証(MFA)を実現できます。これにより、認証データの漏洩リスクを最小化できます。
プライバシー保護型データ共有
金融機関のKYC(Know Your Customer)プロセスでは、顧客が18歳以上であることや特定の国籍を持つことを証明しつつ、詳細な個人情報(生年月日やパスポート番号)を秘匿できます。医療分野では、患者が特定の疾患を持つことを証明しつつ、個人情報を保護したデータ共有が可能です。
ブロックチェーンとWeb3
ZKPはブロックチェーンでのプライバシー保護とスケーラビリティ向上に広く活用されています。Zcashは取引の秘匿化にZKPを採用し、Ethereumのzk-Rollup(例: Polygon zkEVM、zkSync)はトランザクションの効率化を実現しています。また、分散型ID(DID)での属性認証(例: セコムの方式)も実用化が進んでいます。
サイバーセキュリティ
ZKPは、脆弱性スキャン結果の検証(スキャン実施を証明しつつ詳細を秘匿)や、ログデータの正当性証明(改ざん防止とプライバシー保護の両立)に活用できます。これにより、監査プロセスでの信頼性向上が期待されます。
ゼロ知識証明を利用するメリット

端的に言えば、秘密にしたい情報を他者に明かすことなく、その情報を持っていることを伝えられるという点がゼロ知識証明の利点です。たとえば、自身の住所を知られたくはないけれどもある一定の地域に住んでいることを伝えたい場合や、身分証を明らかにしたくないけれども成人であることを証明したい場合などが考えられます。
このように、プライバシーを確保しつつ、自身の正当性を証明できる点がゼロ知識証明を利用するメリットです。
ゼロ知識証明に関する研究・実験の状況

近年、ゼロ知識証明に関するさまざまな研究や実証実験が進んでいます。ここでは、そのうちいくつかを取り上げます。
NTTによる研究
NTTではゼロ知識証明の実用化に向けた研究を進めており、2024年、ゼロ知識証明の中でも汎用的に利用できる「リセット可能統計的ゼロ知識アーギュメント」に関する発表を行いました。リセット可能統計的ゼロ知識アーギュメントは「どのような主張も証明できるゼロ知識証明」であり、実用化されればさまざまなユースケースへの応用が実現します。
東京大学による実証実験
2022年、東京大学では入学や進学、留学、就職などに関わる手続きの効率化を目指し、学修歴の電子的な証明にゼロ知識証明を活用できないか実証を行いました。
本実証実験では、大学から発行された学修歴を本人が企業に開示し、それを企業が検証するワークフローの実現や、個人が属性情報を開示せずに就職先とのマッチングを行うといった検証を実施しています。
標準化の動き
W3Cでは、分散型ID標準におけるゼロ知識証明の標準化が進んでいます。また、量子コンピュータ耐性を持つゼロ知識証明アルゴリズムの研究も活発化しており、将来のセキュリティ強化が期待されます。
企業における活用ケース

ゼロ知識証明は、具体的に企業においてどのような利用方法が可能なのでしょうか。ここではその一例をご紹介します。
ユースケース | 概要 | |
暗号資産の取引 | ・身元に関する情報を明らかにせず、暗号資産を取引する | |
プライバシー確保 | ・一定の範囲の年収であることを証明することで、プライバシーを確保しつつローンや保険の与信を行えるようにする | |
決済への活用 | ・自身の預金残高や取引価格を明らかにせずに、商品の購入を実現する | |
生成AIへの適用 | ・生成AIの学習データに著作物が含まれていないことを実際のデータを開示せずに証明する | |
高度な認証の実現 | ・生体認証とゼロ知識証明を組み合わせることで、高度な認証を実現する |
プライバシーを確保した認証が実現できたり、生成AIの開発における著作権の問題を繰り返したりと、ゼロ知識証明が実用化されれば、幅広いユースケースでの活用が考えられます。
企業のセキュリティ担当者の方においては、認証方式の変化による社内規程類の見直しが必要となる可能性もあるでしょう。
導入の課題と解決策
ゼロ知識証明の導入には課題が存在しますが、解決策も進化しています。
計算リソースの課題
ゼロ知識証明は計算コストが高く、モバイルデバイスや低スペック環境での実装が難しいです。解決策として、信頼設定が不要で計算効率が高いzk-STARKや、GPU/FPGAによるハードウェアアクセラレーションが有効です。
導入の複雑さ
ゼロ知識証明の設計・実装には暗号学の専門知識が必要です。しかし、オープンソースライブラリ(例: libsnark、circom)や開発フレームワーク(例: Hardhat zkEVM)の利用により、一般エンジニアでも実装しやすくなっています。
規制とコンプライアンス
GDPRや個人情報保護法に対応するゼロ知識証明の設計が求められます。ゼロ知識証明をプライバシー強化技術として位置づけ、規制当局との対話を通じてコンプライアンスを確保することが重要です。
ユーザー認知度の低さ
ゼロ知識証明の利点はまだ広く知られていません。教育プログラムやデモアプリケーションの提供により、ユーザー認知度を向上させることが効果的です。
今後の展望

ゼロ知識証明の実用化はまだ道半ばといえますが、実用化への道は着実に進んでいると考えられます。
現時点ではブロックチェーン領域を中心として需要が高まっているゼロ知識証明ですが、今後2~3年程度で実用的なプロダクトが広まっていくとの予測もあることから、汎用的に利用できる手法が確立されれば爆発的に利用が広まっていく可能性もあります。
特にWeb3やメタバースでのデジタルアイデンティティ保護、量子コンピュータ時代でのセキュリティ強化に不可欠な技術となるでしょう。環境・社会・ガバナンスの3つの要素を重視する「ESG経営」の観点からも、サイバーセキュリティ強化策としてゼロ知識証明の価値が発揮できると考えられます。
セキュリティ担当者の方にとっては、従来利用してきた認証方式が大きく変化する可能性もあるため、今後の動向に注目しておくことをおすすめします。