
【速報】Microsoft Build 2025:オープニング基調講演(講演レポート)
2025年5月19日、シアトルで開催されたMicrosoft主催の開発者向けイベント「Microsoft Build 2025」の基調講演では、AIとエージェント技術を中心とした革新的なプラットフォームの進化と、開発者コミュニティへの新たな機会が紹介されました。
以下では、講演の主要なポイントを整理し、Microsoftが描く「エージェントウェブ」のビジョンとその具体的な展開について詳しく解説します。
エージェントウェブ:開発の未来を切り開く
基調講演の中心テーマは「エージェントウェブ(Agentic Web)」でした。これは、AIエージェントを活用して開発者がより複雑なタスクを効率的に処理し、アプリケーションやサービスをスケーラブルに構築するための新しいパラダイムです。
講演者であるサティア・ナデラCEOは、過去の技術的転換点(例:1991年のWin32、1996年のウェブスタック、2008年のクラウドとモバイル)に匹敵する、現在のAI主導のプラットフォームシフトが「中盤」に差し掛かっていると強調しました。このシフトは、単一のアプリケーションから、オープンでスケーラブルなエージェントウェブへと移行するもので、開発者にとってすべてのスタック層での機会を拡大します。
開発ツールの進化:GitHub CopilotとVisual Studio
講演では、開発ツールの進化が大きく取り上げられました。主要なアップデート内容は以下の通りです。
- Visual StudioとVS Codeの強化
Visual Studioは、.NET 10のサポート、デザインプレビュー、Gitツールの改善、クロスプラットフォームアプリ向けの新デバッガを導入。さらに、安定版リリースが月次サイクルに移行し、迅速な機能更新が可能になりました。VS Codeは100回目のリリースを達成し、マルチウィンドウサポートやエディター内でのステージングビュー強化が実現しました。 - GitHub Copilotのオープンソース化
GitHubは1億5000万人のユーザーを誇り、GitHub Copilotは1500万人以上の開発者に利用されています。今回のBuildで、GitHub CopilotがVS Code内でオープンソース化され、AI機能がVS Codeのコアに統合されることが発表されました。これにより、コード補完からマルチファイル編集、エージェント機能まで、開発プロセスがさらに強化されます。 - エージェントモードの導入
新たに導入された「エージェントモード」では、Copilotが単なるコード補完ツールを超え、バグ修正や新機能の実装といったタスクを自律的に実行可能に。たとえば、コミュニティページにフィルタを追加するタスクをCopilotに割り当て、ブランチ作成からプルリクエスト(PR)生成までを自動化するデモが披露されました。このエージェントはセキュリティ対策を尊重し、開発者体験を損なわずに動作します。
Azure AI Foundry:AIアプリケーションの生産ライン
Azure AI Foundryは、エージェントウェブの中核を担うプラットフォームとして紹介されました。これは、モデル選択、データ統合、オーケストレーションを一元化し、AIアプリケーションの構築を効率化する「AI時代のアプリサーバー」です。
- モデル選択の自動化
Foundryは1900以上のモデルをサポートし、OpenAIの最新モデルや近日中のSoraの統合も発表されました。新機能「モデルルーター」は、クエリに応じて最適なモデルを自動選択し、開発者の負担を軽減します。さらに、xAIのGrokがAzureに統合され、推論と応答モデルを単一モデルで提供することが明らかに。イーロン・マスク氏との対談では、Grok 3.5が物理学の第一原理に基づく推論を目指し、AIの安全性と正確性を追求するビジョンが共有されました。 - マルチエージェントオーケストレーション
Foundryはマルチエージェントオーケストレーションをサポートし、複雑なワークフローを効率化。Stanford Medicineの例では、腫瘍ボード会議向けに患者データ、放射線画像、臨床試験データを統合するエージェントオーケストレーターが紹介され、4,000回/年の会議を効率化する実例が示されました。 - データ統合とCosmos DB
Azure Cosmos DBがFoundryに直接統合され、会話履歴やRAG(Retrieval-Augmented Generation)アプリケーションのニーズに対応。Microsoft Fabricとの統合により、構造化・非構造化データを一元管理し、AI駆動のETL(Extract, Transform, Load)やデジタルツインビルダーも提供されます。
Microsoft 365 Copilot:ビジネスプロセスの革新
Microsoft 365 Copilotは、以下のアップデートを経て、ビジネスプロセスをエージェントで強化するプラットフォームとして進化しました。
- マルチモーダル機能
Copilotはチャット、検索、ノートブック、クリエイト、エージェントを統合し、ウェブデータと企業データを基盤にした直感的なUIを提供。たとえば、研究者エージェントはGitHubの課題を分析し、優先順位を提案します。 - Copilot StudioとTuning
Copilot Studioは、ノーコードでエージェントを構築可能にし、RFP応答エージェントのデモでは、メール受信をトリガーに提案書を自動生成する様子が示されました。Copilot Tuningは、企業独自のデータやワークフローに基づくモデル微調整を簡素化し、法務やコンサルティング業界向けにカスタマイズされたエージェントを提供します。
Windowsとエージェントウェブの統合
Windowsはエージェントウェブの開発プラットフォームとして強化され、以下の新機能が発表されました。
- Windows AI Foundry
Windows AI Foundryは、CPU、GPU、NPUをサポートし、ローカルで最適化されたオープンソースモデルを提供。Fi Silica SLMを使ったカスタマイズや、ハイブリッドRAGアプリケーションの構築が可能です。 - MCPのネイティブサポート
WindowsはMCP(Model Context Protocol)をネイティブサポートし、ファイルシステムや設定アプリとの連携を強化。デモでは、VS Codeで3文の指示だけでFedora 42のインストールとNode.jsを使用したウェブサイト構築、Figmaデザインの適用が実行されました。 - WSLのオープンソース化
WSL(Windows Subsystem for Linux)は完全オープンソース化され、開発者コミュニティとの連携が強化されました。
Microsoft Discovery:科学の加速
Microsoft Discoveryは、科学分野向けの新プラットフォームとして発表されました。これは、知識グラフとRAGを活用し、バイオファーマや材料科学の研究を加速します。
デモでは、データセンター冷却用のPFASフリー冷却液の探索が紹介され、知識収集、仮説生成、実験の3ステップをエージェントが実行。従来数か月かかるプロセスを数日で完了し、実際に有望な候補を合成した実例が披露されました。
社会的インパクトと開発者へのメッセージ
ナデラ氏は、技術の目的は人々の可能性を広げることだと強調しました。例として、ナイジェリアでのCopilotを活用した教育介入がWorld Bankの調査で効果的な技術介入として評価され、ペルーで公立学校教師の授業計画を強化するプログラムに拡大した事例が紹介されました。また、日本での航空会社や南米のスタートアップなど、AIが世界中で多様な課題解決に貢献している事例が共有されました。
まとめ
Microsoft Build 2025の基調講演は、エージェントウェブという新たなパラダイムを通じて、開発者がAIを活用して革新的なアプリケーションを構築する機会を強調しました。
GitHub Copilotのオープンソース化、Azure AI Foundryのモデル統合、Microsoft 365 Copilotのビジネスプロセス強化、WindowsのMCPサポート、Microsoft Discoveryの科学的発見の加速は、開発者にとって無限の可能性を提供します。
ナデラ氏は、技術は人々の創造性と結びついて初めて真の価値を発揮すると述べ、開発者コミュニティに「想像力を最大限に発揮してほしい」と呼びかけました。