システム保守を怠るとどうなる? 保守の種類や適切な体制を整えるためのポイントを一挙解説!
現代社会において、企業活動とシステムは切っても切れない関係にあります。顧客管理、受発注、在庫管理、販売分析など、システムなしではビジネスが成り立たないと言っても過言ではありません。しかし、その安定稼働が崩れたとき、企業は計り知れない損失を被ることになります。情報漏洩、システム障害、機会損失…、システムトラブルは企業の存続を揺るがすリスクとなります。だからこそ、システムを「守り」「育て」「活かす」システム保守が、今、改めて重要視されているのです。
本記事では、システム保守の基礎知識から、具体的なリスク、そして最適なシステム保守体制の構築方法まで、わかりやすく解説していきます。
システム保守とは?基礎知識をわかりやすく解説
システム保守とは、構築したシステムを長期にわたり安定稼働させ、最大限の効率で運用していくための活動全般を指します。システム開発が建物を建てることだとすれば、システム保守はその建物を綺麗に保ち、使いやすく改修していくことに例えられます。システム開発は「作って終わり」ですが、システム保守は「作ってからが始まり」と言えるでしょう。
システム保守は、その内容によって、大きく4つの種類に分類されます。
予防保守
定期的なシステムの点検やソフトウェアのバージョンアップなど、システムの潜在的な問題を事前に発見し、障害発生を未然に防ぐための活動です。
例えば以下の業務が含まれます。
・定期的なシステム点検
・ソフトウェアのバージョンアップ
・脆弱性診断
・パフォーマンス監視
サーバーのリソース使用状況を定期的に監視し、ディスク容量が逼迫する前にアラートを上げる仕組みを作っておけば、容量不足によるシステム障害を未然に防ぐことができます。また、OSやミドルウェアの脆弱性を定期的にチェックし、セキュリティパッチを適用することで、外部からの攻撃リスクを低減できます。
データベースソフトウェアのバージョンアップなども予防保守に含まれます。新しいバージョンでは、バグ修正やセキュリティ強化だけでなく、パフォーマンス向上が見込める場合もあります。計画的にバージョンアップを実施することで、システムの安定稼働とパフォーマンス維持を実現できます。
事後保守
予期せぬシステムトラブル発生時に、迅速に原因を究明し、復旧させるための対応が事後保守です。
以下の業務が該当します。
・障害発生時の対応
・原因分析と再発防止策の検討
・データ復旧
システムエラーが発生した場合、まずはエラーログやイベントログを分析し、原因を特定します。原因が特定できたら、速やかに復旧作業を行い、システムを正常な状態に戻します。
迅速な状況判断と的確な対応が求められます。そのためにも、平時からエラー発生時の対応手順書を作成しておくなど、準備を怠らないことが重要です。
運用保守
システムの稼働状況監視、ユーザーからの問い合わせ対応、データバックアップなど、システムを安定稼働させるための日常的な運用作業全般を指します。具体的には、以下のような業務が含まれます。
・システム監視
・ユーザーサポート
・データバックアップ
・ジョブの実行
サーバーやネットワーク機器の稼働状況を24時間365日体制で監視し、異常を検知したら、速やかに対応する必要があります。また、ユーザーからの問い合わせに対しては、迅速かつ丁寧に対応し、問題解決を図ります。
運用保守は、地味で目立たない作業が多いですが、システムの安定稼働を支える上で非常に重要な役割を担っています。
改良保守
既存システムに機能追加や改修を行い、より使いやすく、より性能の高いシステムへと進化させていく活動が改良保守です。
以下の業務が当てはまります。
・システムに新しい機能を追加する
・パフォーマンス改善
・UI/UX改善
・法改正に伴うシステム改修
例えば、ユーザーからの要望に基づいて、システムに新しい機能を追加したり、既存機能を改善したりします。また、システムのパフォーマンス向上を目的として、ハードウェアの増強やソフトウェアの改修を行うこともあります。
改良保守は、システムのライフサイクルを通して継続的に行われる活動です。ユーザーのニーズやビジネス環境の変化に合わせて、システムを進化させていくことで、長期にわたってシステムを使い続けることができます。
これらの保守活動は、それぞれ異なる目的とメリット・デメリットを持ちます。例えば、予防保守は事前にトラブルを防ぐことで大きな損失を回避できる可能性が高い一方、定期的な費用が発生します。一方、事後保守は都度費用が発生するため、頻度が多いとコストがかさみますが、予防保守に比べて一時的な費用を抑えられる可能性があります。それぞれの保守活動の特徴を理解し、自社のシステム環境や予算、運用方針に合わせて、最適な組み合わせを選択していくことが重要となります。
システム保守を怠ることで起こるリスク4選
システム保守を怠ると、企業は様々なリスクに晒されることになります。ここでは、具体的な事例を交えながら、その深刻さを紐解いていきましょう。
①情報漏洩
近年、企業を標的としたサイバー攻撃は増加の一途をたどり、その手口も巧妙化しています。システムの脆弱性を放置すると、サイバー攻撃の格好の標的となり、顧客情報や企業秘密などの重要なデータが漏洩する可能性があります。2020年に発覚した大手宿泊予約サイトへの不正アクセス事件では、約3100万人分の顧客情報が流出したとされ、企業は社会的信頼を失墜させ、巨額の賠償金支払いを余儀なくされました。
また、システムの脆弱性を突いたウイルス感染も、企業にとって大きな脅威です。2017年に世界中で猛威を振るったランサムウェア「WannaCry」のように、ウイルスに感染すると、システムが正常に動作しなくなったり、機密情報が外部に送信されたりする恐れがあります。
②システム障害
システム保守の不足は、セキュリティリスクだけでなく、システム障害のリスクを高めることにもなります。システム障害は、業務の遅延や停止に繋がり、企業の業績に大きな影響を与えます。2018年に発生した大手航空会社のシステム障害では、チェックインや予約システムが数時間にわたりダウンし、国内線を中心に多くの便が欠航、約15万人に影響が出ました。
③パフォーマンス低下
システムの老朽化によるパフォーマンス低下も軽視できません。処理速度の低下や、アクセス集中時のエラーは、顧客満足度の低下に直結し、企業の競争力を著しく低下させる可能性があります。顧客は、Webサイトの表示速度が遅かったり、エラーが頻発したりすると、ストレスを感じ、その企業を利用することをためらうようになるでしょう。
④最新技術への対応遅れ
近年では、AI、IoT、クラウドコンピューティングなどの最新技術への対応の遅れも、企業にとって大きなリスクとなっています。これらの技術を積極的に活用し、ビジネスモデルを進化させていくためには、システムのアップデートが欠かせません。システム保守を怠り、旧態依然としたシステムを使い続けることは、競争力の低下に繋がりかねません。
このように、システム保守を怠ると、企業は多岐にわたるリスクに直面することになります。これらのリスクを最小限に抑え、ビジネスの安定と成長を確実なものとするためには、適切なシステム保守体制を構築することが不可欠です。
自社に最適なシステム保守体制を構築するには?
企業がシステム保守体制を構築する際には、自社のビジネス規模やシステムの重要度、予算などを考慮し、最適な方法を選択する必要があります。ここでは、段階的に最適なシステム保守体制を構築するための方法を解説していきましょう。
自社のシステムの棚卸しをする
まず、自社で運用しているシステムを全て洗い出し、それぞれの重要度を評価する「システム棚卸」を実施します。システムの重要度は、システムが停止した場合の影響度を基準に、例えば「基幹システム」や「顧客向けシステム」など、ランク付けしていくと良いでしょう。重要なシステムには「クリティカル」、重要度の低いシステムには「ノンクリティカル」といったように、ラベル付けを行うこともあります。
システムの棚卸では、単にシステムの一覧を作成するだけでなく、各システムの利用状況や、システム間の関連性、セキュリティ対策の状況なども併せて把握することが重要です。この際、システム構成図やネットワーク図などの資料があると、より正確かつ効率的に棚卸を進めることができます。
システムの棚卸を実施することで、以下のようなメリットがあります。
無駄なシステムの洗い出し
長年運用を続けていると、使われていないシステムや、役割が重複しているシステムが散見されます。棚卸によってこれらのシステムを洗い出し、整理統合することで、運用コストの削減や、システム管理の効率化に繋がります。
セキュリティリスクの低減
セキュリティ対策が不十分なシステムを特定し、必要な対策を講じることで、情報漏洩などのセキュリティリスクを低減することができます。
システム更改の計画策定
システムの老朽化状況や、最新技術への対応状況を把握することで、効果的なシステム更改計画を策定することができます。
システムの棚卸しは、定期的に実施することが重要です。ビジネスの変化や技術の進歩に伴い、システムの重要度やリスクは変化していくため、少なくとも1年に1回程度は、棚卸を実施し、必要に応じてシステム保守体制を見直すようにしましょう。
必要な保守レベルを検討する
システムの棚卸が完了したら、次に、システムの重要度や利用頻度、データの機密性などを考慮し、それぞれのシステムに必要な保守レベルを決定します。システムの重要度が高いほど、より手厚い保守体制が必要となります。
クリティカルなシステムの場合
24時間365日体制の監視や、障害発生時の迅速な復旧対応など、万全の体制を構築する必要があります。
重要なシステムの場合
平日の営業時間帯を中心に、障害発生時の迅速な復旧対応など、一定レベル以上の保守体制が必要となります。
ノンクリティカルなシステムの場合
定期的な点検や、障害発生時の対応など、必要最低限の保守体制で問題ない場合もあります。
外部委託におけるSLAの重要性
必要な保守レベルが決まったら、次に、保守体制を検討します。大きく分けて、「内製化」と「外部委託」の2つの選択肢があります。
外部委託を選択する場合、SLA(Service Level Agreement)の締結は非常に重要です。SLAは、サービスの品質や提供レベルに関する合意事項を記したものであり、これにより、期待するレベルのサービスを確実に受けることができます。具体的には、システムの稼働率、障害発生時の対応時間、セキュリティ対策などの項目について、事前に合意を取り交わします。
SLAを締結する際には、以下の点に注意する必要があります。
①具体的な数値目標を設定する
曖昧な表現ではなく、「システム稼働率99.99%以上」「障害発生から4時間以内の復旧」といったように、具体的な数値目標を設定しましょう。
②ペナルティ規定を設ける
SLAで定めたサービスレベルを満たせなかった場合のペナルティ規定を設けることで、ベンダーの責任感を高め、サービスレベルの向上を促すことができます。
③定期的な見直しを行う
ビジネスの変化や技術の進歩に合わせて、SLAの内容を定期的に見直し、常に最適な状態を保つことが重要です。
コスト削減とセキュリティ対策の両立
コスト削減とセキュリティ対策の両立は、多くの企業にとって重要な課題です。システム保守においても、可能な限りコストを抑えつつ、強固なセキュリティ体制を構築していく必要があります。
費用対効果の高い保守プランを選択することが、コスト削減の第一歩です。システムの重要度や必要な保守レベルに応じて、最適なプランを検討しましょう。例えば、重要度の低いシステムであれば、障害発生時の対応時間を短縮する代わりに、費用を抑えたプランを選択するといった方法も考えられます。
また、近年注目されているのが、AWSなどのクラウドサービスを活用したシステム保守です。クラウドサービスは、初期費用や運用コストを抑えられるだけでなく、高いセキュリティレベルを維持できるというメリットもあります。クラウドサービスのセキュリティ対策は、提供事業者が責任を持って行うため、企業は自前でセキュリティ対策を行うよりも、低コストで高いセキュリティレベルを実現することができます。
システム保守を成功させるためのポイント
システム保守を成功させるためには、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。
ベンダーとのコミュニケーションを円滑に行う
外部委託する場合は、ベンダーとの密な情報共有が不可欠です。システムの現状や課題、要望などを明確に伝え、ベンダーとの間で認識の齟齬がないようにする必要があります。また、定期的なミーティングや報告会などを開催し、コミュニケーションを密にすることで、小さな問題を早期に発見し、大きなトラブルに発展することを防ぐことができます。
ドキュメントを整備する
システムに関するドキュメント整備も非常に重要です。システム構成図や操作手順書など、必要なドキュメントを整備しておくことで、担当者の変更やトラブル発生時にも、スムーズな対応が可能となります。ドキュメントは常に最新の状態に保ち、誰でも理解しやすいように、わかりやすく整理しておきましょう。
システム担当者を育成する
システム保守業務の属人化を防ぐためには、担当者の育成にも力を入れる必要があります。定期的な研修や勉強会などを実施し、担当者のスキルアップを図ることはもちろん、最新技術の動向も常に把握しておきましょう。
最新技術への対応
IT技術は常に進化しており、システム保守においても、常に最新技術の動向を把握し、必要に応じてシステムに反映させていく必要があります。例えば、近年では、AIや機械学習を活用したシステム監視サービスが登場しており、従来の手法では検知できなかったような、細かいシステムの異常を検知できるようになっています。
まとめ
今回は、システム保守の重要性について解説しました。システム保守は、ビジネスの安定稼働を支えるとともに、企業の成長を促進する上で欠かせないものです。
適切なシステム保守は、システムトラブルのリスクを最小限に抑え、ビジネスの継続性を確保します。また、セキュリティ対策を強化することで、情報漏洩などのリスクから企業を守ります。さらに、最新技術への対応をスムーズに行うことで、企業の競争力強化にも繋がります。
システム保守は、決してコスト削減の対象として軽視すべきものではありません。むしろ、戦略的に投資していくべき重要な経営課題の一つと言えるでしょう。本記事が、システム保守の重要性を改めて認識し、自社に最適なシステム保守体制構築の参考になれば幸いです。