クラウド運用コストの削減方法|最適化を実現するためのポイントとは?
クラウドの導入にあたり、運用コストの削減は企業にとって重要な課題です。コストが発生するタイミングや要因が従来のオンプレミスとは異なるため、コスト管理が難しいと感じる企業は多いのではないでしょうか。
本記事では、クラウド運用コストの課題とオンプレミスとの比較、具体的な解決方法について解説します。コスト削減に役立つツールや最適化するためのポイントについても解説しているので、クラウド運用にお悩みの方はぜひ参考にしてください。
クラウド運用コストの現状と課題
クラウド環境は、コスト管理を怠ると予算を大幅に超えるケースがあります。ここでは、コストの増加要因やコスト削減の必要性及びメリットについて解説します。
クラウド運用コストの増加要因
クラウドの運用コストが増える理由にはいくつかありますが、とくに多いのがリソースの管理不足です。クラウドサービスは、使用量に応じた従量課金制が通常のため、リソース管理を行わなければ想定以上のコストを招きます。
たとえば、ピーク時の負荷に合わせたマシンスペックを常時稼働させた場合、アクセスの少ない時間帯は大半が無駄なリソースです。ストレージサイズについても、はじめから過剰なサイズを選ぶと、利用していない部分の料金を支払い続けることになります。
また、運用ルールの不明確さも、無駄なリソースを発生させる原因の一つです。クラウドは共通で利用する環境のため、一時的な開発環境やテスト環境が放置されやすくなります。リソースの追加・削除がルール化されていないと不要なリソースが稼働し続けてしまい、結果として運用コストの増大を招きます。
コスト削減が必要な理由
クラウド運用で、コスト削減が必要な理由はコスト予測の難しさにあります。上で述べたように、クラウドサービスは使用量に応じた従量課金制で、リソースを保有すればするほど料金が発生するしくみです。リソースの追加やスペック増強の自由度が高い一方で、これが逆にリソースの無駄遣いや過剰な割り当てを生み出します。その理由から、日々リソースの利用状況をモニタリングし、コスト削減に取り組むことが重要です。
運用コスト削減のメリット
運用コストの削減は、単なる金銭的な節約だけでなく、運用効率の向上にも寄与します。
たとえば、リソースの最適化に活用される自動スケーリング機能は、アクセス量に応じてリソースの調整が可能です。これを用いることでリソース管理の手間が省け、いつでも最適なリソース状態を維持できます。さらに、アクセスが集中しやすい特定の時間帯にスペック増強もできるため、パフォーマンス向上においても効果的です。
また、コスト最適化モデルが確立されると、企業全体の視認性が高まる点もメリットです。利用されているリソースが、どの部署やチームに所属しているのかが明確になり、費用対効果の分析に役立ちます。これにより、適切な予算配分が行え、クラウドの利便性を高められます。
クラウドとオンプレミスの費用比較
クラウドとオンプレミスは、費用面に大きな違いがあります。ここでは、導入コスト、運用コスト、長期的なコストの3つの観点で解説します。
導入コストの違い
オンプレミスとクラウドの費用で、最も大きく異なるのが導入コストです。
オンプレミスは、自社でサーバーやネットワーク機器を設置するため、それらを購入する費用が発生します。システムの規模によってはおよそ100万程度のコストが発生するケースもあり、予算の少ない企業にとっては大きな課題です。導入時のインストールや初期設定についてもすべて自社対応のため、運用負荷にかかる人的コストも発生します。
一方、クラウドはインターネットを通じて外部サービスを利用する方式で、ほとんどのサービスでは初期費用をかけずに導入可能です。環境構築や初期設定はある程度の手順が決められており、契約後はすぐに利用を開始できます。
運用コストの違い
上で述べたように、オンプレミスは自社内でサーバーを保有する管理方式のため、クラウドのような従量課金は発生しません。しかし、ハードウェアの保守やメンテナンス、ソフトウェアのアップデートなどは自社で行うため、それに伴う人件費が発生します。また、運用保守には専門的な知識・スキルが求められ、運用負荷がかかりやすい点もデメリットです。
一方、クラウドでは、インフラ管理の多くをクラウド提供事業者に委ねられるため、利用者の運用負荷を大きく削減できます。適切なリソース管理を実施することでランニングコストも最適化され、コストパフォーマンスの高いシステム運用が可能です。
長期的なコストパフォーマンス
長期的なコストパフォーマンスを考える際、どちらを選ぶかは企業のニーズによって異なります。
オンプレミスは導入費用や運用保守の負担を伴いますが、これらはあらかじめ固定費として計画できます。クラウドのような変動費ではなく、限られた予算内で運用できる点は大きなメリットです。また、要件に合わせて自由にカスタマイズもできるため、企業独自のクラウド環境で運用できます。
一方、クラウドは初期投資が少なく、オンプレミスに比べて運用負荷が抑えられる点がメリットです。クラウド特有の高い柔軟性や拡張性を持ち、急な需要変動が起きたとしても簡単にリソースを増減できます。ただし、継続して変動型のランニングコストが発生するため、運用方法によってはオンプレミス以上のコストが発生します。
クラウド運用コスト削減の4ステップ
クラウド運用コストの課題解決には4つのステップがあります。以下、具体的な解決方法について見ていきましょう。
- 初期投資とランニングコストの試算
- コスト削減ツールの選択
- ツールを活用したコスト削減アクションコスト削減のための具体的アクション
- 社内教育の実施
初期投資とランニングコストの試算
クラウドのコストを考える際、初期投資とランニングコストの試算が必要です。
初期投資は、導入時の契約や初期設定にかかる費用のことで、多くのクラウドサービスでは初期費用が無料です。オンプレミスからクラウドへ移行する場合は、それに伴う人件費や外注費も含めた試算が求められます。
一方、ランニングコストは、利用するリソース量やストレージ容量、データ転送量に基づいて計算を行います。これには、現在のシステム利用状況について把握し、クラウドに移行した場合や再構築を行った場合に、どの程度の利用量になるかの予測が必要です。そこから各クラウドサービスの料金と照らし合わせてコストを算出する流れになります。
コスト削減ツールの選択
次の準備段階で行いたいのが、コスト改善に向けたツール選択です。
AWSやAzure、Google Cloudではリソース管理に役立つツールが提供されており、それらを活用することでコスト削減が可能です。たとえば、監視ツールではモニタリングとリソースの分析が行えるほか、自動スケーリングは、アクセス量に応じてマシン台数やスペックを自動調整することができます。さらに、コスト管理ツールを活用することで、現在のリソースがグラフによって可視化され、どこに改善点があるのかを一目で把握できます。
クラウドサービス名 | 種類 | ツール名(機能) | 内容 |
AWS | 監視 | Amazon CloudWatch | リソースのメトリクス収集、ログ分析、アラート設定、パフォーマンス監視 |
自動スケーリング | Amazon EC2 Auto Scaling | EC2インスタンスの数を自動的に増減 | |
自動スケーリング | AWS Auto Scaling | 複数のリソース(EC2、DynamoDBなど)に、自動スケーリングポリシー(ルール)を設定 | |
コスト管理 | AWS Trusted Advisor | 推奨事項を提供しリソースの最適化を支援 | |
Azure | 監視 | Azure Monitor | リソースのメトリクス収集、ログ分析、アラート設定、パフォーマンス監視 |
自動スケーリング | Azure Virtual Machine Scale Sets | 仮想マシンのグループを自動的に増減 | |
自動スケーリング | Azure App Service Autoscale | WebアプリケーションやAPIのリソースを自動的にスケール | |
コスト管理 | Azure Advisor | 推奨事項を提供しリソースの最適化を支援 | |
Google Cloud | 監視 | Google Cloud Monitoring | リソースのメトリクス収集、ログ分析、アラート設定、パフォーマンス監視 |
自動スケーリング | Google Compute Engine Autoscaler | インスタンスの数を自動的に調整 | |
自動スケーリング | Google Kubernetes Engine (GKE) Autoscaler | クラスター(コンテナ化されたアプリケーション)の負荷に応じてリソースを動的に調整 | |
コスト管理 | Google Cloud Cost Management | 推奨事項を提供しリソースの最適化を支援 |
ツールを活用したコスト削減アクション
ツール選定後は、コスト削減に向けた実行フェーズに移ります。具体的なアクションとしては以下のようなものがあり、ツールを活用することで効率的なコスト削減が可能です。
- 未使用のリソースを削除
- 使用率の低いリソースのサイズ変更
- 料金プランの見直し
- 自動スケーリングスケールの実装
- インスタンスタイプの変更
- 組織ごとの予算作成
社内教育の実施
適切なコスト管理を実施するには、従業員のスキルと知識が求められます。クラウド全体の運用効率を上げるためにも、社内教育を通じて、クラウドの基本から運用技術までの習得が必要です。
具体的な進め方として、まずクラウドのしくみやオンプレミスとの違い、セキュリティリスクなどを含めた基礎研修を実施します。次に、実際の監視やリソースの最適化、自動化の実装、トラブルシューティングといった実践的なスキルを身につけます。さらに、定期的な勉強会を実施することで最新技術に関わる知識が身につけられ、効率的なクラウド運用が実現できます。
クラウド運用のコスト削減方法
クラウド運用に伴うコストは、いくつかのポイントを押さえることで大幅に削減できます。以下、主なコスト削減手法を4つ紹介します。
● 適切なリソースの選択
● 自動化ツールの活用
● 未使用リソースの削除
● API利用による業務効率化
適切なリソースの選択
適切なリソースの選択は、毎月のランニングコストを下げるための重要なポイントです。小規模なシステムにもかかわらず高スペック・大容量なプランを設定すると、多くの無駄なリソースを発生させてしまいます。
これを解決するには、まず現在の利用用途やCPU使用率、メモリ使用量、ストレージ容量を把握し、何が最も必要とされているのかを分析する必要があります。その結果をもって、クラウド提供事業者が示す料金プランと比較すれば、最適なリソースを導き出せます。たとえば、AWSのスポットインスタンスやリザーブドインスタンスの活用は、コスト削減に有効です。
自動化ツールの活用
クラウド環境では、リソースの運用が複雑化しやすく、人の手による管理は時間とコストがかかります。自動化ツールを活用することで、これらの問題が解消され、効率的なクラウド運用が可能です。
代表的なものとしてよく利用されるのが、自動スケーリングです。必要なリソースを適切なタイミングで追加・削除でき、無駄なリソースの使用を防ぐことができます。また、各クラウドサービスが提供する統合管理ツールを活用することで、利用されない時間帯の停止や再起動が可能です。これらを活用することでリソースの最適化が行え、運用負担の削減につながります。
未使用リソースの削除
クラウドサービスは、稼働するリソースに対して課金されるため、放置されたリソースが存在すると無駄なコストがかかります。これを回避するには、統合管理ツールやコスト管理ツールを活用し、定期的にリソースの利用状況を確認することが重要です。
未使用リソースの削除に役立つのが、スクリプトや自動化ツールの活用です。たとえば、一定期間使用されていないリソースを自動削除するしくみを実装すれば、手動管理の手間を省けます。また、定期的なレビューと最適化を計画することで、不要なリソースの削除漏れが防げ、コストパフォーマンスの高いクラウド運用を実現できます。
API利用による業務効率化
クラウド運用において、運用負荷に伴う人的コストも忘れてはならないポイントです。クラウドサービスでは、APIを活用することで運用の自動化と効率化を実現できます。
たとえば、サーバーやデータベース、ストレージなどのリソースは、APIによって簡単に作成・管理が可能です。クラウドリソースの監視や異常値を検出した際のアラート、定期バックアップなどもすべてAPIによって自動化できます。さらに、APIは異なるクラウドサービス間のデータ連携も容易に行えるため、マルチクラウド環境の効率化に役立ちます。
コスト削減のためのツール紹介
適切なコストでクラウドを運用するためには、コスト管理ツールの利用は必須です。ここでは、選定基準と人気ツールに搭載される機能、導入のメリットについて解説します。
コスト管理ツールの選定基準
コスト管理ツールを選定する際のポイントは、機能の充実度です。たとえば、どのサービスにどれだけコストがかかっているのかを直感的に判別できるグラフや分析レポート、予算設定、アラート機能などはコスト管理に大いに役立ちます。そのほか、コストを最適化するための推奨事項を示す機能もあり、これを活用すれば、すばやくリソースを最適化できます。
また、マルチクラウド環境においては、各クラウドプロバイダーに対応できることも重要です。AWSやAzure、GPCのコストが1つの管理画面から確認できるツールなら、コスト管理の負荷を大幅に削減できます。
人気のツールとその機能
クラウド運用は、ツールを活用することで適切なコスト管理が可能です。そのなかでも、人気のツールが以下になります。
ツール名 | 機能詳細 |
AWS Cost Explorer | AWS向けのコスト管理ツール。詳細なレポート機能や予測機能、API、カスタマイズに対応。 |
Microsoft Cost Management | Azure向けのコスト管理ツール。コスト分析や予算管理をはじめとした多彩な機能を搭載。クラウド環境を最適化するためのAzure Advisorと統合されており、推奨事項の確認が可能。 |
Google Cloud Cost Management | Google Cloud向けのコスト管理ツール。予算設定やアラート機能、詳細なレポート作成が可能。 |
VMware Tanzu CloudHealth | AWS、Azure、Google Cloudのマルチクラウドに対応したコスト管理ツール。コスト配分やレポート機能、カスタムダッシュボードに対応。 |
Harness Cloud Cost Management | AWS、Azure、Google Cloudのマルチクラウドに対応したコスト管理ツール。コスト最適化のための高度な自動化機能を搭載しており、SaaSだけでなくセルフホスト型としても利用可能。 |
ツール導入のメリット・デメリット
コスト削減ツールは、無駄なリソースの削除をサポートしてくれるだけでなく、企業にさまざまなメリットをもたらします。たとえば、予算管理や予測機能を使えば、将来的なコストが見通せることでクラウドビジネスを戦略的に進められます。また、リソースが最適化されればシステムのパフォーマンスが向上し、企業全体の生産性向上も期待できます。
ただし、コスト削減ツールの運用には自動化やスクリプト、APIの実装なども含まれるため、一定以上の知識・経験が求められます。これに対処するには、社内で人材育成を計画し、定期的な勉強会やトレーニングが必要です。
コスト最適化を実現するためのポイント
クラウドのコスト管理は、いくつかのポイントを押さえることで効率よくコスト削減を進められます。以下、コスト削減に効果的な3つのポイントを解説します。
● 自社環境における運用ガイドライン
● 定期的な見直しとプロセス改善
● アウトソースの検討
自社環境における運用ガイドライン
コスト削減のスムーズ化を図るためには、運用ガイドラインの策定は必須です。クラウドに関わる社員が同じ意識を持って業務にあたれば、システムの一貫性を保つことができます。
たとえば、リソースのモニタリングや自動化を実装する際、ガイドラインがあれば同じ操作・設定が可能です。クラウド運用に新しい社員が配属されたとしても、運用方法や手順が標準化されていればスムーズに業務を引き継げます。また、ガイドラインにはセキュリティ対策も含まれるため、統一されたセキュリティ基準で運用できる点もメリットです。
定期的な見直しとプロセス改善
コスト削減は一度実施すれば終わりではなく、定期的な見直しとプロセス改善が必要です。その大きな理由に挙げられるのが、クラウド特有のサービス内容にあります。
たとえば、クラウドサービスは料金プランは不定期で変更され、時折新たな料金プランが登場します。定期的なコスト管理を実施すれば最新プランに気づくことができ、よりコストパフォーマンスの高いプランへの変更が可能です。
また、クラウドはビジネスの成長や変化に伴い、リソースの使用状況も変わります。定期的に見直すことで、現在の運用に沿った自動化やコスト改善が策定でき、リソースの無駄を減らすことができます。
アウトソースの検討
クラウド運用のコスト最適化に向け、検討したいのがアウトソースの活用です。アウトソースは、クラウド環境に必要な運用保守をすべて任せられ、効率的なコスト管理を実現できます。
アウトソースの最も大きなメリットは、専門知識・スキルを持つプロフェッショナルに運用を任せられる点です。コスト管理に詳しい専門家が在籍しているため、リソースの最適化や自動化が容易に行えます。また、アウトソース先の企業では最新のツールを用いた運用管理が実施されており、常に最適なコスト管理を維持できます。
まとめ
クラウド環境を利用する企業にとって、コストの最適化は重要な課題です。クラウドサービスは使用量に応じた従量課金制が通常で、コストの予測が難しい特性があります。そのため、適切なコストで運用するには、日常的にリソースの利用状況をモニタリングしコスト削減に取り組むことが重要です。
具体的な実施策として挙げられるのが、料金プランの見直しやツールの活用です。クラウドサービスが提供するツールには自動化機能が実装されており、必要なリソースを適切なタイミングで追加・削除することができます。さらに、アウトソースを活用することでクラウド運用にかかる人的リソースも削減でき、常に最適化されたコスト管理が実現できます。