【2024年11月発表】幅広い用途で利用できるAzure Localを解説
2024年11月、Microsoftはアメリカで行われたイベント「Microsoft Ignite 2024」にて、新サービス「Azure Local」を発表しました。実質的にはAzure Stack HCIのリブランディングとなるAzure Localですが、名称の変更とともに新たな機能も追加されています。
今回は、幅広い用途で利用できるAzure Localについて、サービスの概要や想定されるユースケースを詳しくご紹介します。
Azure Localとは?
Azure Localは、Microsoftが提供するサービスであり、Azureをオンプレミスのサーバーへと拡張し、クラウドの機能をローカルでも利用できるようにするものです。主にエッジコンピューティング環境での利用や、ハイブリッドクラウド環境の構築などに利用できます。
Azure Stack HCIの後継であるAzure Local
これまで、Azure Localと同等の機能を持つサービスは「Azure Stack HCI」として提供されてきました。
Azure Stack HCIは、ハイパーコンバージドインフラストラクチャソリューションに分類されるサービスであり、オンプレミス・クラウド共通での仮想マシンの管理やストレージサーバーの統合、高可用性のネットワーク機能を提供するものです。
Azure Stack HCIでは、クラウド環境とオンプレミス環境を一体のインフラストラクチャとして扱うことができます。ハードウェアやクラウドインフラを増設することで、柔軟でスケーラブなインフラストラクチャを構築できるサービスでした。
リブランディングの背景
2024年11月、MicrosoftはAzure Stack HCIをリブランディングし、今後は「Azure Local」として提供することを発表しました。
Microsoftでは、リブランディングの背景を以下のように説明しています。
Azure Localは、統合された分散インフラストラクチャ ポートフォリオ全体をより正確に表します。 すべてのユーザーのエクスペリエンスを簡素化するための継続的な取り組みの一環として、Azure Stack HCI から Azure Local への名前変更は、Azure Local の統合および拡張された機能の使用と移動を容易にするように設計されています。
※引用:Microsoft「Azure Stack HCI の新しい名前」より
少しわかりにくい文章ですのでかみ砕くと、ポイントとしては「ローカルをクラウドに統合できるサービスであることを、より明確に伝えられる名称へ変更した」というのが背景となります。
従来、HCIというとオンプレミス環境下にて、ハードウェアを増設することでスケールアップするための仕組みというイメージがありました。近年ではオンプレミスだけでなく、クラウドとの連携を行える製品も登場しているものの、やはりHCIという名称は「オンプレミス中心」のイメージを与えるものといえます。
一方で、Azure Localは「クラウド環境をオンプレミスにも拡張できる」サービスという位置づけです。主体はクラウド側であり、クラウド環境をローカルの物理サーバーに展開し、利用できるサービスといえるでしょう。
Azure Localの利用イメージ
以下では、Azure Localの導入イメージを理解できるように、Microsoft社の提供情報も参考にしつつ、具体的な利用の流れをご紹介します。
ハードウェアの準備
Azure Localは、100以上の検証済みハードウェアで動作させることができます。Microsoftでは、検証済みハードウェアをカタログとして提供しており※、こちらを参考に製品を選定できます。
※Microsoft「Azure Stack HCI is now part of Azure Local」
Azure Arcとの接続
ローカルのハードウェア上でAzure Localを使い始めるには、ハードウェアからAzure Arcに接続する必要があります。
Azure ArcはMicrosoftのハイブリッドクラウド・マルチクラウド管理サービスであり、クラウド環境とオンプレミス環境の両方を一元的に管理するためのソリューションです。
ハードウェアをAzure Arcに接続するためには、Azure PortalからAzure LocalをデプロイするためのOSをダウンロードし、マシンにインストールした上で、対象のマシンをAzure Portalから選択します。
Azure Localインスタンスの作成
次に、Azure PortalにてAzure Localインスタンスを作成します。複数の物理サーバーを接続する場合には、パラメーターが設定されたテンプレートを使用することもできます。
ここまでの流れで、クラウドとローカルが接続されます。
VMの立ち上げ
統合されたクラウドおよびローカル上に、VMを立ち上げます。Azure Localでは、必要なスペックを指定して独自のカスタムVMイメージを使うほか、Azure Marketplaceから必要なサービスを利用することも可能です。
Azure Local環境上で立ち上げた新しいVMは、自動的にAzure Arcに対応し、Microsoft Defender for Servers、Azure Monitor、AD Join、カスタムスクリプト、SQL Serverなどの機能を利用できます。
Azure PaaSサービスの利用
Azure Localでは、ローカル上でAzureのPaaSサービスを利用することもできます。
たとえば、Azure Virtual Desktopを使用することで、デスクトップやアプリをユーザーの近くに配置して待機時間を短縮し、オンプレミスのレガシーシステムとの相互運用性を向上させる構成を組むこともできます。
また、SQL Managed InstanceやAzure IoT Operationsなどのデータサービスも、Azure Local上で利用できます。
Azure Kubernetes Serviceの利用
近年では、アプリケーション開発においてコンテナをベースとしたアーキテクチャを採用するケースが増えています。Azure Localでは、コンテナのオーケストレーションに利用されるAzure Kubernetes Serviceを利用することもできます。
Azure Kubernetes Serviceは、Azure Localのインスタンスごとに自動的にセットアップされ、更新も自動で行われます。Kubernetesベースのアプリに必要なものがすべて提供され、Azure Portalからクラスターを管理できます。
集中監視
Azure Localでは、クラウド・ローカルの一元的な集中監視も可能です。
Azure Monitorにて、クラウドおよびローカルのリソースを監視できます。一画面でVMやKubernetesクラスター、物理インフラを監視可能です。
その他、Azure Portal上でプロセッサやメモリの使用率を追跡したり、ハードウェア障害時の通知を設定したりすることもできます。
アップデートの実施
Azure Localでは、各種アップデートも一元化されます。Azure Update Managerにて、他のクラウド環境と併せてアップデート情報の管理が可能です。
対象のAzure Localインスタンスを選択し、数回クリックするだけで更新プログラムが適用されます。バックグラウンドで各マシンの更新順序を調整することも可能です。
Azure Localのメリット
以下では、Azure Localを導入するメリットを整理します。
オンプレミス環境からAzureサービスの利用が可能
すでにご紹介してきた通り、Azure Localを導入することで、オンプレミス環境においてもPaaSサービスや各種運用管理サービスなどAzureの各種サービスを利用することができます。
これにより、オンプレミスのITインフラをクラウドと連携させつつ、クラウド・オンプレミス一貫で共通したサービスを利用できます。
低スペックマシンでの活用
Azure Localは、低スペックのマシンでも効率的に動作するように設計されています。これにより、エッジユース向けの低スペックマシンや、旧式のハードウェアも活用しつつ、最新のクラウドサービスを利用できます。
Azureに用意された各種管理ツールを用いることで、低スペックマシンの監視やメンテナンスも容易になります。
データのローカル保存
Azure Localによって、Azureの利便性の高い仕組みを利用しつつ、データをオンプレミスに設置した物理的なサーバーに保存することができます。これにより、特に機密性の高いデータについて、セキュリティを確保しやすくします。
クラウドにデータを移行することなく、オンプレミス環境でデータを管理できるため、コンプライアンス要件を満たしつつ、データの保護を強化することができる点はAzure Localの大きなメリットです。
セキュリティの強化
Azure Localによって、ローカルのサーバーのセキュリティを強化できるというメリットもあります。Azure Localにより展開されたローカルのサーバーは、高いセキュリティ設定が自動で適用されるとともに、データやアプリケーションも暗号化されます。
Azure Localでは、数百もの構成オプションが利用できます。これらのうち、自社のセキュリティポリシーに適したものを選択することで、手軽にセキュリティ強度の高いサーバー環境を構築できます。
Azure Localが実現できること
ここまでご紹介した通り、Azure Localはオンプレミス環境にAzureの機能を拡張し、様々なユースケースを実現するサービスです。
それでは、Azure Localは企業においてどのような用途で活用できるのでしょうか。以下では、Azure Localの具体的なユースケースをご紹介します。
エッジコンピューティング環境の構築
一つ考えられるのは、エッジコンピューティング環境の構築です。
前述のとおり、Azure Localは低スペックなエッジ向けハードウェアでも動作します。Microsoftは、Azure Localの動作要件として「SSDとギガビットイーサネットが搭載されたマシンであること」としています。これにより、コストを抑えてエッジコンピューティング環境を構築できます。
たとえば、IoTデバイスから収集したデータをローカル処理し、低レイテンシーでリアルタイムな処理を実現する用途で活用できます。収集したデータをエッジ環境でAIに読み込ませ、処理結果を利用するような構成も検討できます。
また、Azure LocalはActive Directoryの有無にかかわらず動作しますので、ローカルに閉じた処理も行わせやすいといえます。
Azure Virtual Desktopの利用
Azure Localは、仮想デスクトップ環境を構築するのにも有効です。
Azure Virtual Desktop on Azure Localによって、Azure Virtual Desktop環境をローカルにデプロイすることも容易に行えます。これにより、たとえばAzureのクラウド環境へのアクセス性が悪い拠点に仮想デスクトップ環境を提供したり、既存のオンプレミス環境に設置されたシステムと同じ場所から仮想デスクトップ環境を利用できるようにしたりといったことも実現できます。
ハイパーコンパージドクラスタソリューションとしての活用
もちろん、Azure Localは従来HCIと呼ばれてきたサービスですので、HCI環境を構築するための基盤としても活用できます。
既存のデータセンターに設置されたハードウェアをクラウドと統合しインフラストラクチャの柔軟性を高め、スケーラビリティを向上させることができます。
Azureの各種サービスを利用できますので、運用監視やメンテナンスの手間を抑えることにもつながります。
まとめ
今回は、2024年11月に発表されたAzure Localについて詳しくご紹介しました。
Azure Localは、工場や店舗、農地など、エッジ環境におけるAI活用を手軽に実現できるサービスといえます。幅広いユースケースが考えられるサービスといえるでしょう。Azure Localについて、詳しくチェックしてみてはいかがでしょうか。