Amazon Bedrockの特徴と、ChatGPTなど他の生成AIサービスとの違いとは?
本記事では、急速に発展している生成AIの中からAmazon Bedrockをピックアップし詳しく解説します。
またAmazon BedrockとChatGPTや他のAWS AIサービスと比較し、ユーザーがどのように活用できるか、特定のユースケースを参考に理解を深めます。
Amazon Bedrockとは
Amazon Bedrockとは、既にAWSサービスを利用している企業をターゲットにした生成AIサービスです。豊富な基盤モデルを提供し単一のAPIからアクセス可能です。企業のマーケット分析やカスタマーサポートの自動化など様々なユースケースに対応できます。
AWSサービスとのシームレスな統合により、データ分析や需要予測モデルの構築が容易になり、業務効率を向上させます。また、機械学習の専門知識なしでマーケット分析や予測モデルの構築が可能です。
さらに、基盤モデルを自社データでカスタマイズすることにより、企業は独自のモデルを構築できるため、セキュリティ面でも安心なサービスです。
Amazon Bedrockの特徴
基盤モデル
Amazon Bedrockでは、現在7社の大手AI企業が開発した高い性能を持った豊富な事前学習済み基盤モデルへ単一のAPIを通じてのアクセスが提供されています。(2024年10月時点)
各基盤モデルによってサポートされているユースケースが違っていて、「テキスト生成・文書解析、要約・複雑な質疑応答・アート、ロゴ画像生成・多言語対応」など様々なニーズに対応することが可能です。そのため利用者は、モデルを一からトレーニングする手間なく各プロジェクト、クライアントに合わせた基盤モデルを選択できます。
さらに最適な基盤モデルを選択するために、自動モデル評価とAWSの評価者によるモデル評価を使用することも可能です。
また、Amazon Bedrockはコストパフォーマンスでも優れています。通常生成AIの開発には膨大なデータセット、時間、人件費などがかかりますが、提供されている基盤モデルを使用することにより「モデルの利用」と「カスタマイズ」に対してのみ料金が発生します。
これは常にサービスの質を上げつつコストの最適化を考えている各企業の責任者の満足度にもつながっています。
以下の表は、モデルプロバイダーの一覧と各社から提供されている基盤モデルの一例です。
プロバイダー | 基盤モデル例 |
---|---|
AI21 Labs | Jurassic-2 Ultra、Jamba 1.5 Large |
Amazon | Titan Text Premier、Titan Image Generator G1 V1 |
Anthropic | Claude、Claude 3 Sonnet、Claude 3 Haiku |
Cohere | Command、Embed English、Embed Multilingual |
Meta | Llama 2 Chat 70B、Llama 3.2 90B Instruct |
Mistral AI | Mistral 7B Instruct、Mistral Large |
Stability AI | Stable Diffusion XL、Stable Image Ultra |
カスタマイズ
企業はAmazon S3などにある自社のデータを使用し、提供されている基盤モデルを独自でカスタマイズすることができます。
カスタムモデルへのアクセスはその企業のみが可能なので、セキュリティ面でも優れています。カスタムモデルを使用することにより、企業のスタイル、顧客の要望、サービスにより特化した独自性を作り出すことが可能です。
各種AWSサービスとの統合
各種AWSサービスとのシームレスな統合は、他の企業が提供する生成AIにはないAmazon Bedrockの独自性といえます。
Amazon Bedrockは成長し続けているクラウド業界で最大手のAWSから提供されているサービスということもあり、以下など各種AWSサービスとの連携により、更なる効果を発揮します。
- Amazon S3
- AWS Lambda
- Amazon CloudWatch
Amazon CloudWatchとの統合を例に挙げると、Amazon CloudWatchを通じてAmazon Bedrockで生成したアプリケーションのパフォーマンスをリアルタイムで監視することができます。また、アラーム設定により異常な使用状況やエラーを即座に通知することができます。
これにより、異常事態が発生した際に素早い対応が可能になります。
セキュリティ
Amazon Bedrockには、データとモデルを保護するための強力なセキュリティ機能が組み込まれています。利用が一般的なAWSの各種セキュリティサービス(以下例)などでも使用できるため、セキュリティ業界標準への準拠が保証されます。
- AWS PrivateLink
- AWS Key Management Service (KMS)
- Amazon CloudWatch
基盤モデルをカスタマイズする際、そのモデルのプライベートコピーに基づいてカスタムモデルを作成することになります。その結果、各企業はカスタマイズに使用するデータがモデルプロバイダーへ共有やモデルの改善に使用されることなく安心して独自のカスタムモデルを作成することが可能です。
またAmazon Bedrockにはガードレール機能が備わっており、モデルの応答をカスタマイズすることで企業のポリシーに則った機能を提供することが可能です。
「Amazon Bedrock」と「他のAWS AIサービス」の比較
AWSは、それぞれ独自の強みを持つAIおよび機械学習サービスを提供しています。ここでは、Amazon BedrockとAmazon SageMaker、Amazon Qを比較していきます。
これら3つのAIサービスはそれぞれ使用目的が異なります。
Amazon Bedrockは、生成AIを提供されているモデルから構築できるサービスです。用途に合った基盤モデルを手軽に選択、カスタマイズできます。
Amazon SageMakerは、機械学習プロジェクトを包括的にサポートするサービスです。開発者が1からデータ準備、トレーニング、デプロイまでをスムーズに行うことができます。
Amazon Qは、業務用生成AIです。ビジネスの現場でシステム内のデータを要約、コンテンツの生成、タスクの自動化などを安全に行うことができます。また開発者のデバグやコードの最適化などに用いることもできます。
それぞれの用途やターゲット、ユースケースなどを表にまとめると、以下のようになります。
Amazon Bedrock
項目 | 詳細 |
---|---|
用途 | 提供されている基盤モデルを使用し、迅速にAIアプリケーションを構築 |
カスタマイズ | 事前トレーニングされたモデルを使用し、カスタマイズは限定的に行える |
モデルの選択肢 | 豊富な種類の事前トレーニングされたモデルから選択 |
ターゲットユーザー | 機械学習への専門知識がない開発者または企業 |
結論 | AI機能を素早く組み込みたい開発者や、機械学習の専門知識があまりないユーザーに最適。事前トレーニングされたモデルを活用することで、すぐにアプリケーションに組み込み可能 |
Amazon SageMaker
項目 | 詳細 |
---|---|
用途 | MLモデルを構築、トレーニング、デプロイに最適 |
カスタマイズ | モデルの構築、トレーニングを完全にカスタマイズ可能 |
モデルの選択肢 | 自分でモデルを構築、または既存モデルを選択 |
ターゲットユーザー | 機械学習に精通したデータサイエンティストまたはエンジニア |
結論 | カスタムモデルを必要とする機械学習の専門があるユーザーにとっては最適。柔軟性が非常に高く独自のモデルを構築可能。一方で設定、トレーニングに手間がかかる。 |
Amazon Q
項目 | 詳細 |
---|---|
用途 | 自然言語処理を活用した対話型AIアプリケーションの構築 |
カスタマイズ | 対話のフローや応答方法などを一部カスタマイズ可能 |
モデルの選択肢 | 事前トレーニングされた対話型モデルを選択 |
ターゲットユーザー | 開発者、ビジネスユーザー |
結論 | いわゆるチャットボットAIを簡単に構築したい開発者やビジネスパーソンに最適。 |
「Amazon Bedrock」と「ChatGPT」の比較
現在、生成AIといえばChatGPTを思い浮かべる人が多いと思います。ここでは実際のAmazon Bedrockのユースケースを紹介しつつ、 生成AI代表格「ChatGPTと何が違うの?」という疑問を解消したいと思います。
大前提としてChatGPTは今や誰もが知っている生成AI業界をリードする存在であり、非常に強力で多くのニーズに対応できます。一言でAmazon BedrockとChatGPTの違いを説明すると「対象ユーザーが個人か企業か」という点が違います。
ChatGPTは一般ユーザー(学生、会社員、開発者etc…)向けの手軽に利用できるサービスです。Webブラウザからアクセスでき日常的なことからコードに関する質問まで会話形式で行えることが魅力です。
一方Amazon Bedrockは、大規模なデータ処理や他のAWSサービスとの統合が必要な企業向けサービスです。ChatGPTに比べて一般ユーザーが利用するのに障壁はありますが、既存のAWSサービスとシームレスな連携を行い、複雑なワークフローに対応することができます。
マルチモデル対応
ChatGPTといえば、会話形式の文章生成です。テキスト生成、会議を要約、ブレインストーミングなどがChatGPTの得意分野です。
ChatGPTがOpenAI特定のモデルに依存しているのに対し、Amazon Bedrockでは複数の大手AI企業が開発した豊富な事前トレーニング済み基盤モデルへ単一のAPIを通じてのアクセスが提供されています。各基盤モデルによって特徴が違っており、サポートされているユースケースも異なります。
Claude (Anthropic) ではテキスト生成・文書解析・要約・複雑な質疑応答が、Stable Diffusion (Stability AI)ではアート、ロゴ画像生成などこれらの様々なニーズにこたえることができます。
またAmazon Bedrockのいくつかの基盤モデルでは、日本語対応の精度、感情の理解、セキュリティ管理の分野でChatGPTより優れていると評価されていることもあります。
Amazon Bedrockでは選択肢が多いので、企業担当者が特定のユースケースに最適な基盤モデルを選べるよう自動モデル評価を行うことも可能です。
AWSリソースとの統合
Amazon BedrockとChatGPTの決定的な違いは、AWSリソースとの統合だといえます。例を挙げて、Amazon BedrockがAWSリソースとのシームレスな統合によりその効果を発揮するか見ていきます。
例えば、AWS IAMを活用することでユーザーはモデルへのアクセス権限を細かく設定することができ、セキュリティ強化につながります。
またAmazon CloudWatchと統合すれば基盤モデルと生成AIアプリケーションの使用状況メトリクスを追跡し、カスタマイズ可能なダッシュボードを作成できます。
さらに、Amazon CloudWatchはモデルを呼び出す際のログを収集し、受け取ったリクエストやレスポンスのメタデータを収集する機能も備わっています。これによりリアルタイムでアプリケーションのパフォーマンス監視が可能になり、アラームを設定して問題発生の際に迅速に対応できます。
この統合は、Amazon Bedrockでのアプリケーションの運用をより安全かつ効率化し、ビジネスの成長を手助けします。
ユースケース
ここでは、事例を公表している某社の例をご紹介します。この会社では、顧客のフィードバックを分析し、対策案などを提供するためのプラットフォームを運営しています。
某社は、一度の調査で数万にもわたる顧客からの膨大なフィードバックを収集してAmazon S3とAmazon RDSにデータを保存した後、従来の自然言語処理(NLP)モデルで処理していました。
しかし自由形式のアンケート回答には従来のモデルでは捉えられない顧客の微妙な言い回しが多く、その意図を適切に把握するために、Amazon Bedrockを導入しました。
この企業では特に、Anthropic社のClaude Instantモデルを使用し、複雑な顧客の回答からトピックや感情をより正確に分析できるようになりトピック分類制度が4~6倍向上、従来の手法に比べて時間とコストを抑えることに成功しました。 また従来モデルでかかっていたトレーニング時間や維持にかかるコストも大幅に削減し、顧客に対してより満足度の高いサービスを提供できています。
以下がこのケースでAmazon Bedrockを使用した処理の流れです。
このケースでは、マイクロサービスアーキテクチャを採用しているように読み取れます。
まず外部からのリクエスト、ここでは数万のアンケート回答をAPI Gatewayで受け取り、オーケストレーションレイヤーにルーティングします。次に、オーケストレーションレイヤーでタスクをそれぞれ独立して動いている適切なサービスへと振り分けます。
具体的には、アンケートの回答内容をタグ付けサービスやテキスト分析サービス、分類サービスがAmazon Comprehendを使いそれぞれ振り分けられたタスクに応じて処理を行います。
このプロセスにより、データの前処理や分析を効率的に行うことができ、複雑になりやすいワークフローをシンプルな構成で管理することができます。これらのデータを基に、Amazon Bedrockでより高度な分析が行われ、その後データはAmazon RDSやAmazon S3に保存されます。
Amazon Bedrockと他のAWSリソースとの統合すると、このようにデータの収集から分析、保存までを一貫して行うことができ、効率化とコスト削減を実現できます。
まとめ
今回は、Amazon Bedrockについて説明してきました。
他のAWS生成AIやChatGPTとの比較を交えながらどのように企業がビジネスで活用できるのかを考えましたが、参考になりましたでしょうか。
最後に紹介したユースケースではAWSリソースと統合し膨大なデータをAmazon Bedrockを用いて時間とコストを抑えつつ、より正確に分析できることがわかりました。ぜひご参考ください。