クラウドサービスの個人情報リスク|データ漏えいを防ぐための効果的なセキュリティ対策とは?
クラウドサービスを利用する際、個人情報の保護がますます重要視されています。データの流出リスクは、サイバー攻撃や内部不正、さらにはサービス提供者のセキュリティ不備によっても引き起こされる可能性があります。
本記事では、これらリスクへの対策として、クラウド上で個人情報を安全に保つための方法を紹介します。加えて、企業のセキュリティ体制強化に役立つ情報も紹介します。
クラウド利用で考えられる個人情報漏えいのリスクとは?
ここでは、クラウドを利用することで考えられる個人情報漏えいのリスクについて紹介します。
サイバー攻撃などによる情報漏えい
クラウド利用で考えられる個人情報漏えいのリスクには、外部からのサイバー攻撃が挙げられます。特に不正アクセスやランサムウェア攻撃は、個人情報の漏えいや企業信用の低下に直接つながるため、厳重な対策が必要です。
過去には、とある企業でランサムウェア攻撃を受け、多数の顧客情報が暗号化される被害が発生しました。この事件では、過去にこの企業が提供したサービスを脱退した人を含む約49万人分の個人情報が流出した可能性がありました。
その後、この企業はバックアップデータからの復旧を試みましたが、バックアップ自体も暗号化されており、復旧が困難であることが判明しました。さらに、個人配達やクレジットカード決済の中止を余儀なくされ、業務に大きな影響を及ぼしました。
このような事例が発生すると、企業は信頼性を失墜させるだけでなく、法的責任を問われる可能性があります。
内部不正による情報流出
昨今、元従業員による故意の機密情報や顧客情報の持ち出しが原因での、情報漏えいも増加しています。
IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)の報告によると、情報漏えいの原因は2016年には『誤操作や誤認』が21.2%で最も多かったのに対し、2020年には『中途退職者』による漏えいが36.3%と最も多い要因となっています。
出典:「営業秘密の漏えいルート」企業における営業秘密管理に関する実態調査2020 報告書(IPA(独立行政法人 情報処理推進機構))
最近では、企業がクラウドサービスに保存していた名刺情報などの個人情報を金銭目的で情報漏えいする例も確認されております。このような事態が発生すると、企業の社会的信用を失うだけでなく、損害賠償などの経済的な損失が発生する可能性もあります。
クラウド上での個人情報保護に関する法対応
クラウドを使って個人情報を扱う上で、様々な法律や規則を守る必要があります。ここでは、関連する法対応について紹介します。
個人情報保護法との関連
個人情報保護法では、個人情報取扱事業者(一般的に企業や団体)は、個人データを第三者に提供する際に、原則として本人の同意を事前に取得する義務があります。例えば、クラウドサービスを利用してデータを保管する場合、そのサービス提供者が「第三者」と見なされるかどうかが問題となります。
しかし、例外として「クラウド例外」が存在します。これは、クラウドサービス提供者がデータを取り扱わない場合に適用され、個人情報保護法のQ&Aガイドラインによると、クラウド事業者はあくまでデータの保管のみを行い、データの閲覧や操作をしない場合には、第三者提供とは見なされません。このため、利用企業は本人の同意を得る必要がなくなり、かつクラウド事業者を監督する義務も免除されます。
このクラウド例外が適用されるには、クラウド提供者が契約でデータを取り扱わない旨を明示し、適切なアクセス制御を行っていることが条件です。しかし、データの安全管理については利用企業が責任を負い、安全対策を適切に講じる必要があります。クラウド利用にあたり、法的要件を確認しつつセキュリティ体制を整備することが、個人情報保護の観点で不可欠といえます。
GDPRなど国際的な規制との対応
クラウドサービスを利用する前に、自社がアップロードするデータがどの国のサーバーに保管されるのか、いわゆる「データの所在地」を把握することが重要とされています。
また、クラウドセキュリティに関する管理策を定めた国際規格「ISO/IEC 27017」には、「クラウドサービスの提供者は、利用者に対し、そのデータが保管される可能性のある国を通知することが望ましい」との記載があります。理由としては、クラウドサービスを提供する企業の所在国によっては、データ保護や捜査協力に関する厳しい法律が適用される場合があるからです。
例えば、EUにはGDPR(一般データ保護規則)という法律があり、EU域内での個人データ保護とその取り扱い方法が厳しく定められています。日本企業であっても、EU内に拠点を持つ場合やEU市民のデータを取り扱う場合には、この規則に従う義務が生じる可能性があるため注意が必要です。
個人情報漏えいを防ぐ効果的な方法とは
クラウドで個人情報漏えいを防ぐためにはどのようにしたら良いのでしょうか。ここでは、個人情報の漏えいを防ぐ効果的な方法を紹介します。
データの暗号化
クラウドサービスを利用してデータを保存する際には、セキュリティを強化するためにデータ暗号化の活用が不可欠です。データ暗号化とは、情報を一度暗号化(エンコード)し、特定の復号鍵がなければ内容が読めないようにする技術です。これにより、仮に外部からの不正アクセスが発生しても、暗号化されたデータは解読されにくく、情報漏えいのリスクを大幅に減らすことができます。
暗号化されたデータは、クラウド上で保存されている間はそのまま暗号化状態に保たれ、ユーザーがデータを参照するときのみ復号(デコード)されます。このとき、復号に必要な「鍵」は利用者自身が管理し、クラウドサービス提供者には共有しないことが重要です。もしも復号鍵が他者に渡ってしまうと、暗号化の意味がなくなってしまうため、鍵の管理には特に注意を払いましょう。
クラウドサービスはどこからでもアクセスできる利便性がある一方で、セキュリティのトラブルが発生しやすい点が課題です。そのため、利用者側でデータ暗号化を行うことで、クラウドサービス提供者や第三者からのアクセスに対するセキュリティ対策が強化されます。また、定期的な鍵の更新や強力な暗号化アルゴリズムを用いることで、情報保護のレベルをさらに向上させることが可能です。
クラウド上での個人情報保護において、暗号化は最も効果的で基本的なセキュリティ手段のひとつです。
アクセス管理ツールと多要素認証(MFA)の導入
クラウドサービスを利用する際、個人情報漏えいを防ぐためにアクセス管理ツールと多要素認証(MFA)の導入が推奨されます。アクセス管理ツールを活用することで、必要な権限を持つ人だけがデータにアクセスできるよう、各従業員に適切な権限を割り当て、「必要最小限の原則」を実現します。さらに、このツールを通じて定期的なアクセス権限の見直しを自動化することで、不要な権限を持つ従業員や関係者による不正アクセスのリスクを減らせます。
また、クラウドへのログイン時に使用するパスワードには、英数字のランダムな並びを使用し、大文字・小文字・数字・記号を含めた10文字以上の長さで設定するのが理想です。これにより、パスワードリスト攻撃やブルートフォースアタックといった不正手段に対する防御力が高まります。
さらに、多要素認証(MFA)の導入も、セキュリティを強化するために有効です。MFAはパスワードに加えて、生体認証やSMSコードなど複数の認証要素を要求する仕組みで、不正アクセスのリスクを大幅に低減します。MFAを活用することで、万が一パスワードが漏えいした場合でも、二重三重の認証プロセスが加わるため、第三者による不正ログインを防ぐことができます。
アクセス管理ツールと多要素認証を組み合わせた対策を講じることで、クラウド上の個人情報を安全に守ることが可能になります。
セキュリティログによる定期的な監査
セキュリティログの定期的な監査は、クラウド上での個人情報保護において重要な役割を果たします。セキュリティログには、システムやネットワークへのアクセス履歴が詳細に記録され、異常なアクセスや不審な試行を早期に検出するための貴重な情報が含まれています。通常と異なるアクセスパターンが見られたり、不正な試行があった場合はアラートを上げることで、漏えいリスクを未然に防ぐことが可能です。
また、セキュリティログは内部不正の抑止にも役立ちます。従業員が不正にアクセスを試みたり、情報を持ち出した場合、その行動がログに記録されるため、定期的な監査により内部不正の兆候を早期に察知し、適切な対応が可能になります。こうしたアクセス履歴の確認を日常的に行うことで、従業員にも監視されている意識が生まれ、不正行為を防ぐ抑止効果も期待できます。
さらに、セキュリティログを継続的に分析することで、潜在的なリスクの評価やセキュリティの改善ポイントを洗い出せます。例えば、不審なアクセスが集中する箇所や特定の操作の頻度が異常に高い場合は、システムの設定やアクセス権限の見直しが必要かもしれません。これにより、システム全体のセキュリティ水準を向上させ、個人情報漏えいを防ぐための強化策に繋げられます。
従業員向けクラウドにおける個人情報保護のマネジメントとは?
ここまで、クラウド上で個人情報を保護するためのツールや仕組みについてご紹介しましたが、それだけではリスクから個人情報を完全に守ることはできません。従業員の理解と協力が欠かせないため、緊急時にも適切に対応できる体制が重要です。
ここでは、従業員向けの個人情報保護に関するマネジメントについて、クラウド環境で個人情報を守るための取り組みをご紹介します。
定期的な従業員教育の実施
クラウドにおける個人情報保護のためには、従業員教育が欠かせません。教育を通じて従業員が個人情報保護の重要性やリスクを理解することで、日常業務における意識が高まり、不注意な操作やうっかりミスが減少します。また、適切な対策方法やセキュリティルールを学ぶことで、従業員が定められた手順に沿った行動を徹底できるようになります。
さらに、クラウド上でのデータはアクセスが容易になりやすいため、従業員が情報管理について十分に理解していないと、意図しない情報漏えいのリスクが高まります。従業員教育では、アクセス権限の適切な設定、強固なパスワードの管理、データの持ち出しルールといった基本的なセキュリティ対策を周知することで、内部不正や不適切なデータ操作を防ぎます。
また、個人情報漏えいなどのインシデントが発生した際、従業員が迅速かつ正確に対応できるようにすることも重要です。教育により、異常を察知したときにすぐに報告やログ確認ができる体制を整えることで、初期対応が迅速に行えます。
これにより、組織全体のセキュリティ意識も向上し、企業全体で強固なセキュリティ体制を築くことができるようになります。
アクセス権の管理
クラウド環境での個人情報保護には、アクセス権限の管理も重要です。アクセス権限を必要最低限に制限することで、業務に必要のない従業員によるデータアクセスを防ぎ、意図せぬ情報漏えいや内部不正のリスクを低減します。特に個人情報を含むデータに関しては、過剰な権限付与を避けることで、漏えいリスクを最小限に抑えることができます。これは、アクセス管理ツールを利用した場合に得られる管理機能とは異なり、具体的に「誰がどの情報にアクセスできるか」という権限そのものを制限する点で、より根本的な情報漏えい防止策と言えます。
また、アクセス権限の適切な設計と定期的な見直しは、データ管理の透明性向上にもつながります。各従業員のアクセス可能なデータ範囲が明確になるため、管理者は誰がどのデータにアクセスしているかを把握しやすくなります。これにより、従業員も不正行為や操作ミスに対する意識が高まり、慎重にデータを扱うようになります。
さらに、アクセス権限の適正な管理は、法的・規制の順守にも寄与します。多くの個人情報保護規制では、アクセス権限の適切な管理が求められています。権限を必要最小限にし、定期的な見直しを行うことで、これらの規制に準拠しやすくなるうえ、万が一のインシデント発生時にも、適切な管理体制が整っている証拠として対応できます。
社内監査とモニタリング体制の強化
社内監査とモニタリング体制の強化は、クラウドにおける個人情報保護において非常に重要です。不正アクセスや異常な操作を早期に発見し、迅速に対応できる体制が整っていれば、従業員や外部からの不正アクセスが検知された際、即座に問題解決に取り掛かることが可能です。これにより、被害の拡大を防ぎ、データ保護の信頼性が向上し、組織のセキュリティ基盤が強化されます。
また、定期的な監査とリアルタイムのモニタリングを通じて、個人情報がどのように利用されているかを明確に把握できるようになります。従業員による誤操作や意図しない情報流出を防ぐため、モニタリング体制は欠かせません。特に、監視体制を強化することで、データの取り扱いが適正に行われていることが確保され、個人情報の安全性が向上します。
さらに、社内監査とモニタリングの実施は、コンプライアンスの順守にもつながります。多くの個人情報保護法や規制では、監査やモニタリングによる管理体制が求められており、定期的な監査とモニタリングを実施することで、規制に準拠したデータ管理が可能になります。また、万が一のインシデント発生時にも、適切な管理体制の証明として法的リスクを軽減できるため、組織としての信頼性も向上します。
まとめ
本記事では、クラウド上で個人情報を安全に保つための方法や、企業のセキュリティ体制強化に役立つ情報について紹介しました。
クラウド環境で個人情報を適切に保護するには、セキュリティ対策の強化とともに、組織全体での保護意識を高める取り組みが重要です。暗号化、多要素認証、アクセス管理といった基本的なセキュリティ対策を導入するだけでなく、従業員教育や定期的な監査を実施し、情報漏えいリスクに対する未然の対策を徹底することが求められます。
特に、クラウド上のデータはアクセスが容易であるため、組織全体で厳密な管理体制を構築し、万が一のインシデントにも迅速に対応できる体制が不可欠です。安全なクラウド利用を実現するためにも、常に最新のセキュリティ対策を講じ、個人情報保護の重要性を意識した運用を徹底していくことが重要です。
クラウドサービスにおける個人情報リスクについてこの記事が、参考になりましたら幸いです。