クラウド運用の自動化で業務効率化を実現する方法
クラウド環境を効率的に運用するためには、業務の自動化が不可欠です。しかし、初心者にとってはその全貌が見えにくく、どこから始めればよいのかわからないと思う方は多いのではないでしょうか。
本記事では、クラウド運用における自動化の基本と導入するメリット、具体的な進め方について解説します。自動化による成功事例や注意点についても解説しているので、クラウド運用にお悩みの方はぜひ参考にしてください。
クラウド運用自動化の基本
はじめに、クラウド運用自動化の基本とその重要性について解説します。
クラウド運用自動化とは?
クラウド運用の自動化は、運用保守にかかる負担やコストを削減し、業務効率化を進めるための重要な手段です。ツールを活用することで多くの手作業が不要となり、効果的な自動化を実現できます。
たとえば、クラウド環境では、何度も同じ構成でインフラ構築や設定を行うことがありますが、自動化ツールを利用すれば迅速なデプロイが可能です。監視やアラート通知についても、自動化することで問題の予兆を素早くキャッチし、障害が起きる前に対処できます。また、ジョブのスケジューリングによってタスクや定期バックアップが自動で実行されるため、運用担当者の負担を大幅に削減できます。
クラウド運用自動化の必要性
クラウド運用の自動化は、単なる業務効率化のためだけでなく、セキュリティを向上させる点においても不可欠です。手動による管理は、設定ミスやセキュリティホールを生むリスクが高く、大規模なシステムであるほどその影響が懸念されます。運用業務に自動化を実装することで、これらのリスクを最小限に抑えられ、高セキュリティなクラウド環境を実現できるのです。
たとえば、クラウドの構成管理ツールでは、スクリプトやテンプレートを使って設定変更を自動適用でき、手作業の大幅な削減が可能です。誰がいつ何を変更したのかをすべて記録し、問題が起きた場合の原因特定に役立ちます。さらに、変更履歴によって簡単に変更前の状態に戻せるため、誤った設定を行った場合でも素早く対処できます。
クラウド運用を自動化するメリット
自動化の実装は、企業のクラウド運用に多くのメリットをもたらします。以下、具体的なメリットを4つ解説します。
- 運用業務の効率化
- 人的ミスの抑止
- 運用コストの削減
- サービス品質の向上
運用業務の効率化
クラウド運用自動化によって得られる最大のメリットは、運用業務の効率化です。自動化を実装することで、運用にかかる手間と時間を削減でき、コスト効率の向上が期待できます。
たとえば、24時間稼働するシステムを手動で監視する場合、多くの時間と労力が必要です。人の目による監視は見落としや操作ミスの問題もあるため、十分な監視体制とは言えません。しかし、自動化ツールを使えばシステム監視が自動で行えるようになり、問題を検知した際のアラート通知が可能です。これにより、迅速な対処が可能となり、効率的な運用が実現できます。
人的ミスの抑止
クラウド運用自動化は、人的ミスの抑止にも効果的です。クラウドサービスの運用には多くの作業が必要とされるため、手動での作業は必然的にミスの発生確率が高くなります。しかし、自動化を実装すれば設定ミスや操作ミスを削減でき、クラウド環境の安定化を図れます。
たとえば、バックアップのスケジュール機能では、あらかじめ実行タイミングや時間の設定が可能です。手動で起きるような取得のし忘れや誤削除が発生しないため、データ損失リスクを減らせます。また、セキュリティパッチの適用も自動化によって適用漏れを防ぐことができ、システムの安全向上に役立ちます。
運用コストの削減
クラウド運用自動化は、企業のコスト削減に大きな効果をもたらします。運用にかかる時間や手間を減らせるだけでなく、クラウドサービス利用料の最適化が可能です。
具体例として挙げられるのが、オートスケールを活用したリソース調整です。オートスケールでは、アクセスの増減に応じて仮想マシンの追加や削除を自動で調整することができ、無駄なリソースの発生を抑止できます。手動での管理は設定ミスのリスクを伴いますが、自動化を実装することで常にリソースを維持でき、ランニングコストの最適化が可能です。
サービス品質の向上
クラウド運用の自動化は、サービス品質の向上にも大きく寄与します。問題が起きたとしても素早く正確に対処でき、クラウド環境の安定化を図れるためです。
たとえば、監視ツールの自動化では、異常内容に応じてさまざまな一次対処が可能です。運用担当者へのアラート通知とともに、レベルに応じてリソース調整やサーバー再起動などを実行できます。これにより、システムの可用性が向上し、顧客に対して安定したサービスを提供できるようになります。
クラウド運用自動化を実現する4つのステップ
クラウド運用の自動化には4つのステップがあります。以下、具体的な実施方法について見ていきましょう。
- クラウド運用自動化の準備
- 自動化ツールの選定
- 自動化の実装
- 自動化による効果測定と改善
クラウド運用自動化の準備
クラウド運用の自動化にあたり、はじめに取り組みたいのが業務の洗い出しです。自動化には向き不向きがあるため、これを見極めるには全体像の把握から始める必要があります。それぞれの業務がどのように行われているかを把握できれば、無駄な業務や重複した業務が見つかるはずです。そこから、単純作業や手作業で発生しやすい作業を優先的に自動化すれば、その効果を早期に得られます。
自動化ツールの選定
自動化ツールを選定する際、まず優先したいのがクラウドベンダーのサービスです。
AWSやAzure、GCPなどの大手クラウドは、自動化に役立つさまざまな機能を提供しており、これらを活用することで効率よく自動化を進められます。たとえば、タスクやパッチ適用、リソース設定、バックアップなどの自動化はどのクラウドも設定によって対応でき、実装までの時間を大幅に短縮できます。
ただし、マルチクラウドやハイブリッドといった複雑な環境化においては、別サービスの検討も必要です。すべてのクラウドが一括で管理できる統合管理ツールを導入すれば、クラウドサービスごとの機能を使い分ける必要がなくなります。
自動化の実装
自動化の実装にあたり、注意したいのがセキュリティ対策です。自動化は人の手を介さず作業が実行されるため、新たなセキュリティリスクを生み出す可能性があります。自動化による情報漏洩やデータ破損を招かないためにも、アクセス権やデータ保護のセキュリティ対策は徹底が必要です。
また、自動化は一度に始めるのではなく、段階的に進めることが重要です。まずは簡単に実装できるタスクから自動化を行い、徐々に範囲を広げることで、リスクを最小限に抑えられます。
自動化による効果測定と改善
自動化による効果を最大限に引き出すには、継続的な効果測定と改善が不可欠です。
効果測定の際は、まず具体的な指標設定を行い、定量的な評価を行いましょう。例えば、作業時間がどの程度短縮されたのかやエラー発生率の変化などを数値として表せば、分析・評価がしやすくなります。同時に、改善を行うPDCAサイクル(計画、実行、評価、改善)を活用することで、より効果的な自動化を実現できます。
クラウド運用自動化の具体的な手法とツール
クラウド運用の自動化は、ツールやサービスを活用することでスムーズに実装できます。以下、具体的な手法とツールを5つ紹介します。
- 業務プロセスの自動化
- 監視とアラート通知の自動化
- リソース管理の自動化
- APIを用いた自動化処理
- 運用支援サービスを活用した自動化
業務プロセスの自動化
クラウドサービスとして代表的なAWS、Azure、GCPは、提供されるツールを利用することで業務プロセスの自動化が可能です。それらはプログラミングの知識がなくても操作でき、幅広い業務に活かせます。実際によく利用されているツールは以下の通りです。
クラウドサービス | ツール(機能)名 | 内容 |
AWS | AWS Lambda | コードを用いて、特定のイベントが発生した際に自動で処理を実行 |
AWS Systems Manager | サーバーにパッチ適用の自動化 | |
AWS Config | ソースの設定管理を自動化 | |
Azure | Azure Automation | クラウド環境やオンプレミス環境で発生する管理タスクを自動化 |
Azure Functions | 特定のイベントが発生した際に自動で処理を実行 | |
Azure Policy | リソースのポリシー違反を自動で監査 | |
GCP | Cloud Deployment Manager | リソースの作成と管理を自動化 |
Cloud Functions | 特定のイベントが発生した際に自動で処理を実行 | |
Cloud Scheduler | ジョブを一元管理し、スケジュールに沿った実行が可能 |
監視とアラート通知の自動化
24時間365日のシステム運用において、監視の自動化は不可欠です。異常検知とともに、アラート通知やスクリプト実行までを組み合わせることで、早期に問題を解決できます。
具体的な実装方法としては、まず監視ツールからリソースのメトリクスを収集します。取得した値に対してあらかじめ閾値を設けることで、メールやSMS、音声通話によるアラート通知が可能です。さらに、特定のアラートが発生した際は、スクリプトを自動で実行する設定を仕掛けておけば、問題を素早く修正することができます。
リソース管理の自動化
クラウド環境におけるリソース管理の自動化には2つの方法があります。
まず、インフラの構築やリソース設定に使えるのが、Infrastructure as Code(IaC)と呼ばれる技術です。IaCは、CPUやメモリ、ディスクといったインフラ構成をすべてコードで管理でき、同じ環境を何度でも自動で構築できます。
一方、オートスケールは、自動でリソースの問題解決が可能です。サーバーに負荷がかかる状態になると、自動で仮想マシンの台数を増減させたりスペック調整を行ったりすることができます。さらに、負荷分散機能では、クライアントから送られるリクエストを複数のインスタンスに分散することができ、クラウド環境で発生するパフォーマンスの問題を解決できます。
APIを用いた自動化処理
クラウドサービスでは、APIを活用した自動化処理が可能です。APIは、異なるサービス間のデータ連携や機能連携を可能にさせ、手作業が減ることで業務の効率化を実現できます。
代表的なツールとして挙げられるのが、AWSの「Amazon Web Services」やAzureの「Azure API Management」、GCPの「Google Cloud Endpoints」です。これらは、APIを簡単に作成でき、テストからリリースまでの作業をスムーズに進められます。また、これらにはAPIのモニタリングや認証機能なども実装されており、さまざまなバックエンドサービスとの統合が実現できます。
運用支援サービスの活用
自動化よりも、さらに運用効率を上げられるのが運用支援サービスです。
運用支援サービスとは、監視やセキュリティ対策、定期メンテナンスなどを一手に引き受けるサービスのことで、これを利用すれば自社で自動化を意識しなくても効率化が可能です。委託先ではクラウドに精通したプロフェッショナルが在籍しているため、クラウドにとって最も効率的な方法で運用してくれます。また、サービスによっては24時間365日の有人監視や障害時の1次対応ができるものもあり、クラウド運用の安定化及び効率化を同時に実現できます。
クラウド運用効率化の成功事例
ここでは、クラウド運用の効率化が成功した事例を2つ紹介します。
- 自動監視・運用サービスで運用負荷を削減した事例
- AWS運用監視の委託で生産性向上が実現できた事例
監視・運用サービスで運用負荷を削減した事例
さまざまなコンテンツ事業を営むこの企業では、稼働させていた約400台のサーバーの管理コストが膨れ上がり、運用するエンジニアの確保も難しい状態でした。その折、一斉にサーバーのリース切れを迎えるタイミングが重なったこともあり、VMwareへの移行を検討し始めました。
しかし、既存環境には古いOSやミドルウェアが含まれていたため、すべての移行が完了できるのか不安を感じたそうです。そこで、移行と運用負荷を減らすために、運用支援サービスを活用しました。
その結果、厳しいスケジュールであったにも関わらず、当初の予定通りに移行が完了しました。移行支援によって、本来想定したよりも約20人月ものコスト削減につながったそうです。また、監視業務についてもアラートの1次対応まで支援してもらえ、運用負荷が大幅に削減されたとのことです。
データセンター移行支援および 移行後の大規模プライベートクラウドの自動監視・運用サービスのご利用
AWS運用監視の委託で生産性向上が実現できた事例
グローバル企業として自動車製造を営むこの企業では、新たなプロジェクトの発足を機にAWSの運用を始めました。しかし、仮想サーバーの台数が増えるごとに運用負荷が大きくなり、今後の維持管理や監視業務に不安を抱えるようになったそうです。そこで、運用監視業務を効率化するために決めたのが、運用支援サービスの活用です。
その結果、ほとんどの監視業務を外部に委託することで、運用負荷を大幅に削減できました。委託先では、自動監視と有人監視という二重監視体制が敷かれており、手順書に基づいた障害の一次対応や、その後の障害調査・復旧まで対応してもらえるそうです。これにより、運用監視を行っていたメンバーが本来の業務に集中でき、新たなチャレンジにも取り組めるようになったとのことです。
サービス開発基盤となるAWSの運用監視をJIG-SAWに委託 運用コストを削減し、開発業務に注力できる時間を確保
クラウド運用自動化における注意点
クラウド運用自動化は、企業にさまざまなメリットをもたらしますが、いくつかの注意点もあります。以下、具体的な注意事項について見ていきましょう。
- 自動化を実装するまでに時間がかかる
- システム環境によっては自動化が難しい
- 自社の運用スキルが低下する
自動化を実装するまでに時間がかかる
1つ目の注意点が、自動化を完了するまでに要する時間です。
自動化は、ツールによって実装されることが多く、使い方を知らなければすぐに自動化することができません。たとえば、自社のシステムに合わせるには、設定やカスタマイズでスクリプト作成が必要なため、これに関わる知識・スキルが求められます。また、実際に稼働させる際は、スクリプトが正常に動作するか確認するためのテストと検証が必要です。そのため、自動化の規模によっては長期に及ぶ可能性があります。
システム環境によっては自動化が難しい
自動化は、企業が運用するシステム環境によっては実装できないケースがあります。
たとえば、ブラックボックス化したシステム環境では、業務プロセスの洗い出しが非常に困難です。とくに、古い技術によって構築されたレガシーシステムは、最新の自動化ツールと互換性がとれない場合も少なくありません。また、システム同士の連携には、それぞれの仕様やプロトコルを考慮したカスタマイズが必要なため、技術的な課題の多さで計画が滞る可能性もあります。
自社の運用スキルが低下する
自動化は、運用効率が上がる一方で、自社の運用スキルが低下する恐れがあります。
たとえば、既に自動化が実装された状態で新たな運用担当者が配属されると、手動による運用はなかなか機会が得られません。人が入れ替わるごとにこれが続くと、内部構造の知識を持たない従業員が増えてしまいます。また、スキル不足によって新たな技術への取り組みが難しくなることや、システム障害時に適切な判断ができないことなども懸念材料です。
ただし、これらのリスクは、定期的な勉強会やトレーニングによって回避が可能です。自動化ツールの運用と並行し、従業員が学びやすい環境を作ることで運用スキルの低下を防げます。
まとめ
クラウド運用の効率化を考える上で、自動化のしくみは不可欠です。自動化は、運用業務の負担を減らせるだけでなく、人的ミスの抑止やコスト削減といったさまざまなメリットをもたらします。
ただし、自動化は、前もって自動化する業務の切り分けやツール選定が必要です。稼働の際も一度に進めるのではなく、段階的にセキュリティリスクを回避しながら進めましょう。また、自動化による効果を最大限に引き出すためには、継続的な効果測定と改善も重要です。