AWS障害の種類と予防策を詳しく解説
AWSは世界で最も広く利用されているクラウドプラットフォームですが、そのような大規模なインフラストラクチャでも障害は避けられない現実があります。
以下ではAWS環境における障害の特徴と影響、そして障害に対する効果的な対策について詳しく解説します。
特に今回はシステムの可用性を高め、ビジネスの継続性を確保するための具体的なアプローチに焦点を当てていきます。
AWS障害とは
AWS障害とは、AWSで発生するシステムの不具合や機能不全を指します。
過去には2021年12月のUS-EAST-1リージョンでの大規模障害によるAmazon.comやNetflixへの影響、2022年7月の東京リージョンでのネットワーク接続性の問題による日本国内の複数のサービスへの影響などが発生しています。
それではどのような障害が起きる可能性があるのか、その種類と影響を見ていきましょう。
AWSで起こりうる障害の種類と影響
AWSで発生する障害は、AWSを使用して運用しているサービスの可用性に重大な影響を及ぼす可能性があります。
効果的な対策を講じるためには、まず発生しうる障害の種類とその影響について理解することが重要です。
主な障害のパターンと、それらがビジネスに与える影響は以下の通りです。
ネットワーク障害
接続性の問題や通信の遅延が発生し、サービスへのアクセスが困難になる障害です。
特に大規模なトラフィックが集中する時間帯では、ユーザーエクスペリエンスに重大な影響を及ぼす可能性があります。
またDNSやロードバランサーの問題が特に重要で、これらに対してはネットワークインフラの冗長化や適切な負荷分散設定による対策が必要です。地理的に分散された複数のアベイラビリティーゾーンの活用も効果的な対策となります。
システム障害
サーバーやストレージの機能停止が原因で発生し、システム全体のパフォーマンスが低下または停止する問題です。特に基幹システムでの障害は、ビジネス継続性に直接的な影響を与える可能性があります。
データの整合性への影響もあり、特にミッションクリティカルなワークロードでは慎重な対応が求められます。定期的なバックアップと復旧手順の確認が不可欠です。
アプリケーション障害
サービスの機能不全や異常動作によってユーザー体験が著しく低下する状態です。アプリケーションのバージョン互換性や設定の不整合が原因となることが多く、迅速な原因特定が求められます。
サービス間の依存関係にも影響が及び、システム全体の安定性に関わる重要な問題となります。マイクロサービスアーキテクチャでは、特に複雑な依存関係の把握と管理が重要です。
発生頻度と影響範囲
障害の発生頻度とその影響範囲を過去の事例から学んでおくと、障害に対する準備や対策も行いやすくなります。
以下は障害の規模とその影響です。
リージョン全体に影響する大規模障害
年に数回程度発生し、複数のアベイラビリティーゾーンに跨って広範囲に影響を及ぼす重大インシデントが大規模障害です。このような状況下では、マルチリージョン構成の重要性が増します。
事例:2021年12月のUS-EAST-1リージョン障害(人為的ミスが原因で、S3の決済システムの修正作業中にコマンド入力のミスがあり、多くのサーバーが停止してシステム全体の再起動が必要になった事例)で、NetflixやSlackなど多数のサービスが影響を受けました。この経験から、多くの企業が復旧計画とその実行プロセスを見直す契機になっています。
特定のアベイラビリティーゾーンでの障害
月単位で発生する可能性があり、特定地域のインフラストラクチャに限定された影響を与える障害です。適切にリソースを分散配置することが重要な対策です。
個別サービスの一時的な障害
比較的頻繁に発生するものの、影響範囲が限定的で迅速な復旧が可能な小規模な障害。適切なモニタリングと自動復旧手順の整備が重要です。
障害の出所を把握する
障害のタイプは複数ありますが、おおむねどの障害にもそれを引き起こす原因があります。
障害の原因を分析し、切り分けておくと対策もスムーズになります。
ハードウェア故障
物理的な機器の不具合によって引き起こされる障害。予期せぬ停電やハードウェアの経年劣化が主な要因となり、定期的な保守点検と予防的な機器交換が重要です。
ソフトウェアの不具合
設定ミスやバグによって発生する問題。システムアップデートや新機能の追加時に特に注意が必要で、段階的なデプロイメントと適切なテスト環境の整備が求められます。
運用上の問題
メンテナンス時の人為的ミスや不適切な設定変更による障害。適切な権限管理とチェック体制が重要で、自動化ツールの活用も効果的です。
マルチAZ構成とバックアップによる予防策
AWSの障害対策では、システムの可用性を確保するための重要な手法の一つが、複数のアベイラビリティーゾーン(AZ)を活用した冗長構成とバックアップ戦略です。
以下では、具体的な実装方法と注意点について解説します。
冗長化設計
対策項目 | 内容 | 実装例 |
単一障害点の排除 | システム全体の停止を防ぐための冗長化 | DBのマスター/スレーブ構成、複数ロードバランサー |
フェイルオーバー機能 | 自動的なバックアップシステムへの切り替え | ヘルスチェック、自動切り替え、整合性確認 |
冗長化レベルの選択 | コストと可用性のバランス調整 | 重要機能の高冗長化、その他は適度な冗長性 |
単一障害点の排除
システム内の単一の故障がシステム全体の停止につながることを防ぐため、重要なコンポーネントを冗長化します。データベースのマスター/スレーブ構成やロードバランサーの複数配置など、システムの重要な部分に対する慎重な冗長化設計を含みます。
フェイルオーバー機能の実装
障害発生時に自動的にバックアップシステムに切り替わる機能を実装し、サービスの継続性を確保します。
ヘルスチェックの実装、自動切り替えのトリガー設定、切り替え後の整合性確認など、綿密な計画と実装が必要です。
冗長化レベルの適切な選択
コスト効率と必要な可用性のバランスを考慮し、適切な冗長化レベルを選択します。
ビジネスクリティカルな機能には高い冗長性を持たせ、それ以外の機能には適度な冗長性を設定するなど、メリハリのある設計が重要です。
リソースの分散配置とバックアップ戦略
項目 | 概要 | 重要ポイント |
マルチAZ構成 | 複数のアベイラビリティーゾーンにリソースを分散配置 | ・ネットワークレイテンシー考慮・データ同期方法の検討・コスト影響の評価 |
バックアップ管理 | 定期的なバックアップと復元手順の検証 | ・世代管理の実施・データの暗号化・保管場所の分散化 |
災害復旧計画 | 大規模災害時のシステム復旧手順の計画と訓練 | ・RTOの定義・RPOの設定・復旧手順の文書化 |
マルチAZ構成の実装
複数のアベイラビリティーゾーンにリソースを分散配置し、単一のAZの障害に耐性を持たせます。この際、各AZ間でのネットワークレイテンシーやデータ同期の方法、コスト影響なども考慮に入れた総合的な設計が必要です。
定期的なバックアップと検証
データの定期的なバックアップを行い、復元手順の検証を実施して、確実な復旧が可能な状態を維持します。
バックアップの世代管理、暗号化、保管場所の分散化など、包括的なバックアップ戦略の策定が重要です。
災害復旧計画の策定
大規模災害時のシステム復旧手順を事前に計画し、定期的な訓練を通じて実効性を確保します。
復旧目標時間(RTO)と復旧目標時点(RPO)を明確に定義し、それらを達成するための具体的な手順と必要なリソースを明確化していきます。
システム監視
監視体制の構築(CloudWatchの活用と統合的な監視の実現)を目指すには、以下の要素が求められます。
監視カテゴリー | 主な監視項目 | 目的・効果 |
メトリクス監視 | ・CPU使用率・メモリ使用量・ディスク容量・ネットワークスループット・レイテンシー | ・システムの健全性確認・異常の早期検知・性能劣化の予防 |
ログ監視 | ・アプリケーションログ・システムログ・セキュリティログ | ・異常検知システムの構築・効率的な分析・長期保存とアーカイブ |
カスタムメトリクス | ・ユーザーセッション数・トランザクション成功率・APIレスポンスタイム | ・サービス品質の評価・ビジネスKPIの追跡・パフォーマンス最適化 |
メトリクスの監視
システムの健全性を示す包括的なモニタリングとして、基本的なリソース監視(CPU使用率、メモリ使用量、ディスク容量など)に加え、システムの動作状態を詳細に把握するためのネットワークスループット、レイテンシー、キューの深さなどのインフラストラクチャ全体の指標を継続的に収集・分析します。
こうすることでシステムの異常や性能劣化を早期に検知し、予防的な対応が可能となります。
ログ監視
システム全体の動作状況を詳細に把握するため、アプリケーションログ、システムログ、セキュリティログの集中管理と分析を実施します。
ログデータの構造化により効率的な検索と分析が可能となり、機械学習を活用したパターン認識による異常検知システムの構築、さらには将来の分析や監査に備えた長期保存とアーカイブ戦略の実装まで、包括的なログ管理体制の確立につながります。
カスタムメトリクス
ビジネスKPIやアプリケーション固有の重要指標を継続的に監視します。
リアルタイムのユーザーセッション数、各種トランザクションの成功率、APIエンドポイントごとの詳細なレスポンスタイムなど、サービス品質に直結する指標を細かく追跡し、ビジネスインパクトの観点からもシステムの状態を評価します。
アラート設定とエスカレーション体制の確立
障害に関するアラートと障害発生後のエスカレーション体制を確立しておくことは、被害の最小化につながります。
以下の構成と重要なポイントを抑えた体制を整えましょう。
項目 | 内容 | 重要ポイント |
アラートしきい値設定 | 警告、注意、緊急の複数段階でのアラート基準設定 | ・システム特性の考慮・過去の運用実績反映・誤検知の最小化 |
通知チャネル | メール、Slack、電話、SMS等の使い分け | ・即時性・確実性・情報量・複数チャネルの併用 |
エスカレーション体制 | 一次対応から経営判断まで、各レベルの対応基準と責任者の定義 | ・24/365体制の整備・ローテーション管理・バックアップ体制 |
重要度に応じたアラートしきい値の設定
システムの状態を正確に把握し、適切な対応を行うため、警告レベル、注意レベル、緊急レベルなど、複数段階でのアラート基準を設定します。
各レベルの閾値は、システムの特性や過去の運用実績を考慮して慎重に調整し、誤検知(false positive)を最小限に抑えながらも、重要な異常を見逃さない最適な監視体制を構築します。
通知チャネルの設定
状況の緊急度や重要度に応じて、メール、Slack、電話、SMS等の多様な通知チャネルを適切に使い分けます。
各通知チャネルの特性(即時性、確実性、情報量など)を考慮し、状況に応じた最適な通知方法を選択できるよう設計し、重要な通知については複数のチャネルを併用することで、確実な情報伝達を実現します。
エスカレーションルートの明確化と担当者の割り当て
障害対応の効率化と確実な問題解決のため、明確なエスカレーションフローを確立します。一次対応チーム、専門知識を持つ二次対応チーム、さらには経営判断が必要な場合のマネジメント層まで、各レベルでの対応基準と責任者を明確に定義します。
また、24時間365日の対応体制を整備し、担当者のローテーションやバックアップ体制も含めた包括的な運用体制を構築します。
障害検知から復旧までのフロー
AWS環境での障害発生時における検知から復旧までの一連の流れを見ていきましょう。
以下では効率的な障害対応と迅速な復旧を実現するための最適な実践方法を紹介していきます。
障害発生時の初期対応手順
障害が発生した際の迅速かつ効果的な対応は、サービスの信頼性維持に不可欠です。
障害検知から初期対応までの具体的な手順は以下のようなイメージで進めていきます。
1.障害情報の収集と把握方法
AWS Health Dashboardを使用してサービスの現在の状態と影響を受けている範囲を詳細に確認し、CloudWatchを通じて主要なパフォーマンスメトリクスのリアルタイムモニタリングを実施します。
同時に、アプリケーションログやシステムログなどの各種ログデータの詳細な分析を行いながら、サービス依存関係図を参照することで、システム全体における障害の波及効果と影響範囲を多角的な視点から総合的に評価します。
こうすることで障害の根本原因の特定と適切な対応策の選択が可能です。
確認項目 | ツール | 確認内容 |
サービスステータス | AWS Health Dashboard | ・現在のステータス・影響を受けているリージョン・予想される復旧時間 |
リソース状態 | CloudWatch | ・CPU使用率・メモリ消費・ディスクI/O・ネットワークトラフィック・レイテンシー・エラーレート |
ログ分析 | 各種ログ | ・システムログ・アプリケーションログ・アクセスログ・エラーメッセージ・スタックトレース |
影響範囲 | サービス依存関係図 | ・マイクロサービス間の依存関係・影響を受ける可能性のあるコンポーネント・波及効果の予測 |
2.緊急連絡体制の確立
障害発生時には、明確な連絡体制とエスカレーションルートを確立し、各担当者の役割と責任を明確にした24時間365日の対応体制を整備した上で、Slack、メール、電話などの状況に応じた適切なコミュニケーションツールを活用して迅速な情報共有と対応を行います。
段階 | 対象者 | 通知内容 | 連絡手段 |
初期対応 | First Responderテクニカルリードシステム管理者 | ・障害の重要度(P1~P4)・初期状況報告・必要な対応指示 | Slack電話 |
経営層報告 | CTO事業部長顧客サポート責任者 | ・障害状況・対応状況・影響範囲・復旧見込み | メールZoom会議 |
専門家招集 | インフラ担当アプリケーション担当DB担当ネットワーク担当 | ・具体的な技術課題・必要なリソース・対応方針 | SlackZoom会議 |
進捗管理 | 全関係者 | ・最新の状況・対応の進捗・次のアクション | Slack(リアルタイム)メール(正式報告)Zoom(緊急会議) |
システム復旧手順
迅速かつ確実な復旧作業がシステム障害発生時には求められます。
効率的な復旧を実現するための具体的な手順と、各段階で実施すべき重要なチェックポイントは以下のようなイメージで想定しておきます。
ステップ | 作業項目 | 詳細タスク |
1 | 初期評価 | ・障害の影響範囲の特定・システムの現状確認・優先度の判断 |
2 | 復旧作業の実施 | ・バックアップからの復元・設定の再構成・サービスの再起動 |
3 | 動作確認 | ・各機能の正常性確認・パフォーマンステスト・エラーログの確認 |
4 | 報告・記録 | ・復旧完了の報告・障害報告書の作成・再発防止策の提案 |
初期評価
障害発生時のシステム状態を詳細に分析し、各マイクロサービスやインフラストラクチャコンポーネント間の複雑な依存関係を包括的に評価しながら、直接的および間接的な影響範囲を正確に特定します。
この過程では、システムアーキテクチャ図やモニタリングツールからの詳細なメトリクスを活用し、障害の波及効果を多角的に分析します。
復旧作業の実施
あらかじめ定められた詳細な手順書とチェックリストに従って、システムバックアップからの復旧作業を段階的かつ確実に実行します。
この際、データの整合性を厳密に維持するため、トランザクションログの検証やデータの整合性チェックを綿密に行い、必要に応じてロールバック手順も準備します。
動作確認
復旧後のサービス正常性を、パフォーマンス指標、機能の動作状況、データの整合性、外部システムとの連携など、複数の重要な観点から総合的に検証します。
各コンポーネントの健全性評価基準に基づいて、すべての機能が期待通りに動作していることを段階的に確認し、必要に応じて詳細な動作テストも実施します。
報告・記録
関係するステークホルダーに対して、障害の根本原因分析、影響範囲の詳細な評価結果、実施した対策の有効性、および今後の再発防止策について報告します。
明確で具体的な情報を、状況の進展に応じて適切なタイミングで報告するのが最低限求められる対応です。
この報告には、技術的な詳細と事業への影響の両方の観点を含め、各ステークホルダーの関心事に応じた情報を提供します。
まとめ
ここまでAWS障害の概要と対策について紹介しました。
AWS障害は完全に防ぐことはできませんが、監視体制の確立や明確な緊急連絡体制の構築、体系的な復旧手順の設定など、適切な対策と準備により影響を最小限に抑えることができます。
これらの対策を事前に整備し定期的に見直すことで、AWS障害発生時でも迅速かつ効果的な対応ができるようになるため、日頃から準備しておくと安心です。