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システム運用管理へのAI適用は可能か?任せるべきこと・べきでないことの境界線

システム運用管理へのAI適用は可能か?任せられる仕事の範囲を徹底解剖!

デジタル化に伴い規模が拡大するシステム運用管理業務は、これまで全ての業務を専任の担当者に任せるという形態が一般的でした。ただ、近年は人材不足の影響もあり、高度な業務の自動化に向けたAI活用も同領域で進みつつあります。

システム運用管理はルーティンワークも多く、すでに同業務に特化したAIサービスの開発も進んでいます。AIの登場によって、システム運用管理の業務はどのように変化していくのでしょうか。

生成AIを前提としたシステム運用管理が採用されていく中で、有人と無人の仕事はどのように差別化されていくのか、現在登場している具体的なサービスにも触れながら、考えていきましょう。

システム運用AIアシスタントの登場

システム運用AIアシスタントの登場

システム運用の領域におけるAI運用を加速させる、ソリューションの開発が進んでいます。NTTデータ先端技術株式会社の統合運用管理ソフト「Hinemos」では、システム運用AIアシスタントの導入に関する実証実験が行われています。

NTTが開発したシステム運用AI「Hinemos」

Hinemosは、システム運用管理におけるデータの収集や見える化、そして業務の自動化を促進するオールインワンの統合運用管理パッケージです。

2024年3月18日に新たに発表された生成AIアシスタント機能は、システム運用担当者の判断を迅速な情報提供によってアシストしたり、自動でシステムへの実行を指示したりできるという、強力なパフォーマンスを発揮します。

サービス上では、運用に関するシステム固有の情報と、NTTデータ先端技術が有するナレッジを統合してAIが機能し、業務のアシストと自動化を促進するということです。

Hinemosを用いた実証実験の成果

この生成AI機能は、まだ実証実験の段階にあるため、一般利用ができるようになるまでには時間を要します。

とはいえ、すでにこれまでの実証実験では自然言語を使った運用ルールの自動生成や、自動化サイクルの構築、コンプライアンス対応が確認できており、2024年下期の提供開始が予定される段階に辿り着いています。

ユーザー企業におけるトライアル運用が年内に始まれば、2025年には生成AIを使ったシステム運用の本格的な自動化も期待できそうです。

AIによるシステム運用の完全自動化は可能なのか?

AIによるシステム運用の完全自動化は可能なのか?

AIを使ったシステム運用管理の実現は、企業や担当者にとって恩恵の大きな取り組みです。業務上の様々な負担がAIによって取り除かれる中、次なる焦点はAIを使用して、どれだけ多くの業務を自動化できるのか、というところになるのではないでしょうか。

運用ツール統合と生成AIによる分析を可能にする「IBM Concert」

2024年5月、米IBMは生成AI「IBM watsonx」を使用してアプリについてのインサイトを得ながら、IT運用ツールをまとめて管理できるサービス「IBM Concert」を発表しました。インフラやクラウドの監視やレベニュー管理などを担当する、それぞれのツールを同サービスの中で統合し、リスク分析などを行えるという、強力な生成AIソリューションです。

生成AIの分析結果は、自然言語を用いたチャットボットとの対話の中で、オペレーターが確認可能です。オペレーターにAI活用のためのノウハウはほぼ求められず、基本的なシステム運用に関する知見があれば日々の業務を遂行できます。

システム運用の業務に特化したサービスも、IBMは提供を開始しています。「IBM BlueBuddy」は、発生インシデントの概要をチャット形式で要約し、現状の把握や担当者の推薦、実施すべき対処法をオペレーターに伝え、業務の効率化やオペレーターの経験の不足を補えるものです。ヘルプデスク業務を生成AIによるチャットボット対応も進むなど、すでに多くのシステム運用業務が生成AIによって代替されつつあります。

AIを使ったシステム運用完全自動化の課題

システム運用分野における生成AIの活躍の余地は広く、担当者の負担削減を強力に推進するソリューションであることには違いありません。

一方、AIを使った完全自動化の実現には、乗り越えるべき障害は少なくないことも囁かれています。

より良い回答を求めようとする性質への対処

そもそも生成AIは、より良い回答を出力しようとする性質を持ったプログラムであるため、システム運用には適していないという考え方があります。

優れた回答を導こうとする取り組みは、試行錯誤が重視されるイノベーション事業においては有益な特性かもしれません。しかし、既存システムの安定稼働を主たる目的とするシステム運用管理の現場において、このような挑戦的な生成AIの性質は、かえってシステムをリスクにさらす懸念もあるのです。

回答の揺らぎ

上述のような生成AIの性格は、システム運用の現場に混乱をもたらす可能性があります。質問の内容は同じであるのにも関わらず、毎回生成AIから異なる回答が出力されるリスクをはらんでいるからです。

システムの安定稼働の実現には、常に一定の状態を保つための努力が必要です。新しい脅威やシステム構成への対処にはイノベーティブなアプローチが求められますが、このようなシーンはシステム運用の領域においては極めて限られています。

生成AIの特性である「回答の揺らぎ」への理解がなければ、システム運用の現場はAIに振り回されることになるでしょう。

最適なLLMの選択

生成AIは、依然として成長の余地の大きい分野であるだけでなく、そのスピードがとにかく早い特性を持っています。そのため、一つのLLM(大規模言語モデル)を何年も使い続けるのではなく、その時々に応じて最も高いパフォーマンスを発揮するモデルを適宜換装できる体制構築が大切です。

ただ、このようなプログラムの運用方法は、システム運用管理の現場では定着していないのが現状です。生成AIを本格的に導入する場合、毎年、あるいはそれ以上のペースでLLMを切り替えるのがベターであるため、その度に組織の承認を得たり、換装しやすい環境づくりが求められます。

それでも有人のシステム運用が無くならない理由

それでも有人のシステム運用が無くならない理由

システム運用はその業務の性質上、可能な限りヒューマンエラーや24時間365日、死角を絶やし続けるための仕組みを整えることが重要です。

こういったニーズを踏まえると、生成AIが持つタスクの正確性やスピード、そして柔軟性の高さは、システム運用管理という領域において魅力的なソリューションであることは間違いありません。

しかしそのような優れた条件や、今後のさらなるAIの進化を踏まえても、システム運用管理において人間のオペレーターが排除され、完全な無人化が実現される見込みは、低いとみておくべきでしょう。

AIはツールの一種に過ぎない

IT革命以降に登場したソリューションの中で、AIは間違いなく最も優れたプログラムの一つでしょう。しかし、AIは人間とは異なり、自立した生命体ではありません。あくまで人工プログラムに過ぎないという事実を見過ごさないことが重要です。

AIはまるで、人間のように器用な業務遂行能力を有しています。しかし、基本的にはWordや一般的な管理システムと同様、プログラムの一種です。つまり、AIは特定の目的を達成するための手段であり、AIと人間の立場が逆転することはありません。

生成AIのあまりのオーバースペックに圧倒され、人間の立場や仕事がなくなってしまうと懸念する人は少なくないものです。しかし、AIは人間の命令がなければ自律的に行動することはありませんし、与えられた命令以上のタスクをこなすこともありません。

システム運用管理に特化した生成AIソリューションも、現状はこのような前提に基づいて提供されています。システム運用管理を担当するオペレーターが存在する前提で、彼らの仕事を減らすためにAIを活用してほしいというコンセプトが念頭にあるわけです。

システム運用管理業務を遂行する上で、以前ほど多くの人手を常に抱えておく必要は無くなるでしょう。だからと言って、全てのオペレーターを現場から排除し、システム運用部門を無人化してしまうことは難しく、現場責任者はこれからも必要です。

AIの意思決定能力の限界

AIはあらかじめ決定されているゴールを達成する上では、強力なパフォーマンスを発揮します。この能力は年々向上しており、さらなる高みを目指せるのは間違いありません。

一方、AIに「ゴール」そのものを作らせる取り組みは、依然として難しい問題です。

例えば、Xという問題を解決するための方法がわからないので、AIにどうやって対処すれば良いのかを尋ねるとします。AIはAという答えとBという答え、さらにはCという答えを提案できるかもしれません。

しかし、AIにどれだけ質問を重ねようとも、どの提案を採用すべきかの判断については質問者に委ねようとします。どのアプローチがもっとも確度が高いかについては、条件を指定していくことで数値化していくこともできますが、どれを選ぶかは質問者が判断しなければなりません。

AIがAIである限り、この問題を解決することは難しいかもしれません。前述の通り、AIはあくまで手段であり、人に成り代わる存在ではないという前提に立脚しているからです。

そのため、何か意思決定が必要な場面において、最終的なGOサインを出すのは責任能力を持つ人間でしかあり得ないということになります。どこまで行っても、AIは意思決定を「支える」以上のことはできず、意思決定者そのものにはなれません。

このことからも、やはりシステム運用管理においてAIを使った完全な無人化の実現は難しいことがわかります。

人間はどこまでAIを信用できるか?問題

もう一つ問題となるのが、AIの提案をどれだけ信用できるか、という人間の意思決定にまつわる判断基準の問題です。

上述の通り、AIの回答にはある程度の揺らぎが発生するリスクがあり、この「揺らぎ」がいつ現れるかというのは予期できません。また、AIはその学習過程によって、回答の傾向や制度も大きく変わってくることから、判断を一任できる信頼性が担保できているのか、という点には疑問の余地が残ります。

ワンマン経営の小規模なベンチャー企業のように、あらゆる業務を経営者が一人でこなすような事業者の場合、AIによる意思決定のサポートは、強力なソリューションとなるでしょう。しかし複数の従業員を抱え、経営判断も複数人の意思決定者によって行われている場合、AIを誰かの責任の下で、手段の一つとして使用することが大切です。

システム運用管理という部門に限定しても、このような議論の余地は同様に残ります。システムのインシデント発生を回避し、事業継続性を担保するという重要性の高いミッションを負うシステム運用管理の場において、生成AIに全ての判断を委ねてしまうというのはリスクの大きい選択です。

AIを使ったシステム運用管理を実現するには何が必要か

AIを使ったシステム運用管理を実現するには何が必要か

生成AIのシステム運用管理における導入をある程度認めることは、効率的かつ費用対効果の高いシステム運用を実現する上で、今後不可欠な判断になってくるでしょう。

一方、生成AIに全ての業務を任せることは現状難しく、システム運用に特化したAIソリューションも、有人業務を効率化することを前提とした製品が揃います。

AIを使ったシステム運用管理体制を整える上では、事業者、そして運用オペレーターにどのようなスキルや心構えが求められるのでしょうか。

導入目的の明確化

生成AIを現場に導入する場合、AIを使って何をしたいのかを具体的にしておくことが大切です。AIは多くの問題を解決してくれるポテンシャルを秘めていますが、ただ導入するだけでは問題解決に繋がりません。

AIに成果を求める場合、自社で抱えている課題の解決に適したAIソリューションを選定・導入し、それを正しく運用するためのスキルを身につけなければいけません。これらの取り組みは、計画的に遂行することが費用対効果の面からも重要ですが、計画を立てるためには「AIを使って何をするのか?」に対する答えが現場で共有されていることが求められます。

高度なAIリテラシー

AIを正しく使いこなすためには、AIそのものに対する知見の深さが重要です。AIを使って何ができるのか、どのような前提に基づき、AIは答えを出力するのかがわかっていないと、AIに振り回されてしまう恐れがあるためです。

生成AIがもたらすアウトプットに対して、主体的に意思決定を下すためには、オペレーターや組織の意思決定者がAIに精通している必要があります。稀に発生するAIの「揺らぎ」に対して、動揺することなく意思決定を遂行できる能力は、AIリテラシーの高さと表裏一体の関係にあります。

AI運用に関する柔軟性の高い意思決定

AIは現在進行形で開発が進められている最先端のテクノロジーです。そのため、現在運用中のAIよりも優れたソリューションが登場した場合、迷いなくそちらを選べるリテラシーと、運用環境を柔軟に刷新できる意思決定の場が必要です。

ハイテク導入を妨げる要因に、意思決定に多くの時間と人を要してしまう問題を挙げる企業は少なくありません。AIは今後さらに短期間で、高度に成長していくことが期待される技術です。このスピード感に対応できる、AIに理解のある意思決定者の存在は、より重要になっていきます。

自社の環境に適したLLMへ、時代に応じて換装することにも抵抗がないような、AIに最適化した意思決定プロセスの導入も検討しましょう。

まとめ

システム運用管理の領域は、遅かれ早かれ生成AIの登場による多大な恩恵を受けることになると期待できます。すでに専用のソリューションも複数登場しているため、今後数年以内に国内での普及が進むでしょう。

ただ、生成AIの活用には不確定要素も残ることから、AIによる業務の完全自動化はまだ先の話となるか、当面は期待できないのも現状です。また、運用環境によっては生成AIの導入が適さない場合もあるため、AI活用へ過度に固執する必要もないと言えます。

AIを採用するにせよしないにせよ、重要なのはシステム運用管理に携わる担当者や、組織における意思決定者がAIや最新のテクノロジーに対して、高い感度や優れたリテラシーを有しておくことです。

AI導入以外にも、システム運用の分野では以前として最新ソリューション導入の余地が多く残されています。既存システムの現状を把握した上で、常に業務改善に活躍する、最新のサービスや技術に目をむけることが大切です。

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