システム保守における指標の活用法とは?可用性やMBTF、MTTRも解説
安定稼働、コスト削減、セキュリティ対策…システム保守の責任を背負うIT部門にとって、そのプレッシャーは計り知れません。限られたリソースで最大限の効果を出すためには、現状を正しく把握し、改善すべきポイントを明確化することが重要です。そこで、強力な武器となるのが、可用性やMTBF、MTTRといった「指標」です。
この記事では、システム保守担当者が知っておきたい指標の活用方法や、可用性、MTBF、MTTRといった専門用語をわかりやすく解説します。
システム保守で指標を活用するメリット
システム保守の指標とは、システムの運用状況や保守作業の効率性を客観的に評価するための「ものさし」です。指標を用いることで、感覚的な判断ではなく、具体的な数値に基づいた現状把握と改善活動が可能になります。
指標の活用は、システム保守担当者と経営層の双方に以下のメリットがあります。
保守担当者にとってのメリット
- 現状の課題を明確化し、具体的な改善策を立案できる
- チーム全体の目標達成度を可視化し、連携強化を図れる
- 非効率な作業プロセスを特定し、作業効率化と負担軽減を実現できる
経営層にとってのメリット
- システム投資の効果を数値で把握し、的確な投資判断を下せる
- システムの安定稼働状況を把握し、事業継続性を確保できる
- システム保守コストの削減に取り組める
逆に、指標がないとどうなるでしょうか?
例えば、毎月のシステムダウン回数が「なんとなく減った気がする」と思っても、それが「以前は平均5回だったのが、今は3回になった」という具体的な数値でなければ、本当に改善されたのか、どの程度改善されたのか、判断できません。
また、「障害対応に時間がかかっている」と感じていても、それが「平均復旧時間が4時間になっている」という事実を把握できなければ、問題の深刻さや対応の緊急性を正確に理解することはできないでしょう。
このように、指標がない状態では、現状の課題やボトルネックが不明確なまま、場当たり的な対応に終始してしまう可能性があるのです。
指標は、経営戦略とシステム保守を結びつける重要な役割を担っています。指標を活用することで、より効率的かつ効果的なシステム保守体制を構築し、ひいては企業の成長につながるでしょう。
システム保守指標の基本:主要な評価基準と計算方法
指標名 | 意味 |
可用性 | システムが正常に稼働している時間の割合 |
MTBF (平均故障間隔) | システムに障害が発生してから、次に障害が発生するまでの平均時間 |
MTTR (平均修復時間) | システムに障害が発生してから、復旧するまでの平均時間 |
解決時間 | 障害発生から解決までの時間 |
対応時間 | 障害発生の報告を受けてから、対応を開始するまでの時間 |
一次解決率 | 最初の対応で問題が解決した割合 |
保守費用 | システムの運用・保守に掛かっている費用全体 |
人件費 | 保守作業に従事するエンジニアの人件費 |
障害対応コスト | 障害発生から解決までに掛かった費用 |
ROI (投資収益率) | システム投資に対して、どの程度の利益が得られたかを示す指標 |
システム保守の指標は、「何を計測したいか」という視点から、大きく3つに分類できます。
1. システムの安定稼働状況を測る指標
システムが安定して稼働しているかを評価する指標です。
- 可用性 (Availability):システムが正常に稼働している時間の割合。
- MTBF (平均故障間隔):システムが故障してから次に故障するまでの平均時間。
- MTTR (平均修復時間):システムが故障してから復旧するまでの平均時間。
- その他:障害発生件数、インシデント発生件数、エラー発生率、パフォーマンスなど
可用性
これら指標の中でも「可用性(Availability)」は特に重要です。可用性とは、システムが利用可能な状態にある時間の割合を示します。値が高いほど安定稼働していると言えるでしょう。計算式は以下の通りです。
(システム稼働時間 – 障害時間) / システム稼働時間 × 100%
例えば、あるECサイトが24時間365日稼働しているとして、年間で10時間のシステムダウンが発生した場合、可用性は、(8760時間 – 10時間) / 8760時間 × 100% = 99.89%となります。
可用性の低いシステムは、ユーザーに不便をかけ、ビジネスに損失を与えるリスクが高まります。
MTBFとMTTR
可用性と並んで重要なのが、「MTBF (平均故障間隔:Mean Time Between Failures)」と「MTTR (平均修復時間:Mean Time To Repair)」です。
MTBFは、システムに障害が発生してから、次に障害が発生するまでの平均時間を計測します。値が大きければ大きいほど、安定したシステムであると言えるでしょう。システムの信頼性を示す指標として用いられることが多く、MTBFが長いほど、障害が発生する頻度が低く、安定したシステムであることを意味します。
一方、MTTRは、システムに障害が発生してから、復旧するまでの平均時間を示します。値が小さければ小さいほど、迅速な対応ができている、つまり復旧力が高いと言えるでしょう。MTTRは、システムの保守性や、障害発生時の対応体制の成熟度を示す指標として用いられることが多く、MTTRが短いほど、迅速な復旧が可能となり、システム停止による影響を最小限に抑えることができます。
2. 保守作業の効率性を測る指標
保守作業が効率的に行われているかを評価する指標です。
- 解決時間 (Resolution Time):障害発生から解決までの時間。
- 対応時間 (Response Time):障害発生の報告を受けてから、対応を開始するまでの時間。
- 一次解決率 (First Call Resolution Rate):最初の対応で問題が解決した割合。
- その他:バックログ件数、作業時間、変更作業成功率、自動化率など
解決時間と対応時間
解決時間は、障害発生から問題が完全に解決されるまでの時間を計測する指標です。この数値が短ければ短いほど、迅速な対応がなされていると言えるでしょう。現場では、トラブルチケットシステムなどを活用し、各障害にかかった時間を詳細に記録し分析します。
対応時間は、障害発生の報告を受けてから実際に作業を開始するまでの時間を示す指標です。こちらも対応の速さを評価する上で重要な指標と言えます。実務では障害受付システムのタイムスタンプと作業開始ログを照合して計測しますが、休日や深夜の対応は時間がかかる傾向にあります。そうした時間帯による違いも分析の対象となるでしょう。
一次解決率
一次解決率とは、最初の対応で問題が解決した割合を表します。この値が高ければ高いほど、適切かつスムーズな初動対応がなされていると言えます。サポートチームのスキルレベルやトレーニングの質にも関わる重要な評価項目です。
3. コスト・費用対効果を測る指標
保守作業にかかるコストや費用対効果を評価する指標です。
- 保守費用:システムの運用・保守に掛かっている費用全体。
- 人件費:保守作業に従事するエンジニアの人件費。
- 障害対応コスト:障害発生から解決までに掛かった費用。
- ROI (投資収益率):システム投資に対して、どの程度の利益が得られたかを示す指標。
保守費用と人件費
保守費用は、システムの運用・保守全体にかかる費用全体のことです。具体的には、人件費、ハードウェア・ソフトウェア費用、外注費、施設費など、システム保守に直接関わる全ての経費が対象となります。経年でのコスト推移を分析することで、無駄な支出がないか確認できるでしょう。
人件費は、システム保守の中でも大きな割合を占めることが多く、適切な人員配置やスキルアップによる効率化がコスト削減の鍵となります。プロジェクトベースで按分計算したり、保守業務の作業工数から算出したりと、さまざまな算出方法があります。
障害対応コスト
障害対応コストは、障害発生から解決に至るまでにかかった総費用で、対応にかかった人件費や機会損失額、復旧作業費、追加ツール費用なども含まれます。障害の発生頻度や対応時間を減らすことで、このコストを抑制できます。
ROI(投資収益率)
ROI(投資収益率)は、システム投資に対してどの程度の利益が得られたかを示す費用対効果の指標です。システム投資の適切さを評価する上で欠かせない数値と言えるでしょう。
計算方法は
(投資による収益 – 投資費用) / 投資費用 × 100%
です。
システム保守指標を基にした効果的な管理と運用体制の構築
システム保守の効率化を図るために一番大切なことはなんでしょうか。障害対応の迅速化、運用手順の改善、監視ツールの導入、スキル向上研修の実施、ドキュメント整備、人員増強――。 これらの施策は確かに重要です。しかし、まず考えるべきは目的達成のために何が効率的かを見極めることです。
システム保守を効率化するには、「改善の余地がある領域を特定する」ことが不可欠です。そのためには、現状を正確に把握することが極めて重要となります。「当たり前のことだ」と思う人もいるでしょうが、実際にこれを徹底している組織は意外と少ないのです。
現状把握の重要性
例えば、次の質問にどれくらい迅速に答えられるでしょうか?
- ・システムの可用性は何%か?
- ・平均故障間隔(MTBF)と平均修復時間(MTTR)はどれくらいか?
- ・障害対応にかかる平均時間は?
- ・最も頻発する障害の種類は?
- ・保守コストの内訳はどうなっているか?
これらの質問に即座に答えられる人は稀です。システムの規模が大きくなるほど、全体像の把握は困難になります。
しかし、効率化の第一歩は現状を数値で把握し、改善の余地がある領域を見つけることなのです。
システム保守効率化の4ステップ
システム保守の効率化は以下の手順に沿って進めていきます。
- 現状を把握する
- 改善の余地がある領域を特定する
- 具体的な施策を立案し、優先順位を定める
- 施策を実行に移す
ステップ1:現状を把握する
まずは以下のような情報を収集します。
- システム稼働率のデータ
- 障害対応記録
- 保守作業のログ
- コスト明細
- 人員配置図
これらのデータを分析する際は、時系列での推移を確認することが重要です。システムの状況は常に変化しており、過去のデータと比較することで、改善傾向や悪化傾向を把握できるからです。例えば、障害発生件数が徐々に増加している場合、システムの老朽化や負荷の増大などが考えられます。
さらに、特定の時期に障害発生件数が増加している場合も注目すべき点です。例えば、月末月初に障害が増える場合は、月次バッチ処理の負荷が原因かもしれません。また、特定の曜日や時間帯に障害が集中する場合は、アクセス集中や特定の業務プロセスに問題がある可能性があります。
他にも、以下のようなケースが考えられます。
- システム更改後に障害が増加:新システムへの移行に伴う設定ミス、互換性の問題などが考えられます。
- 特定のシステム構成の変更後に障害が増加:変更の影響範囲の洗い出し不足、テスト不足などが考えられます。
- 特定のベンダーの機器で障害が多い:機器の品質問題、ベンダーのサポート体制の問題などが考えられます。
つまり、時系列での推移を見ることで、潜在的な問題を早期に発見し、対策を講じることができるのです。また、特定の時期やイベントとの相関関係を分析することで、問題の根本原因を特定し、より効果的な対策を立てることができます。
また、平均値や中央値だけでなく、外れ値にも注目しましょう。例えば、障害対応時間が平均よりも大幅に長いケースがある場合、特定のシステムに問題がある、対応手順に改善の余地がある、担当者のスキル不足などが考えられます。外れ値は、システム全体の傾向から外れた特別な状況を示しており、改善の大きなヒントになることがあります。
ステップ2:改善の余地がある領域を特定する
データ分析から、以下のような改善ポテンシャルが見つかることがあります。
- 特定のシステムで障害が頻発している
- 一部の保守作業に過剰な時間がかかっている
- コストの大部分が特定の項目に集中している
- 特定の種類の障害への対応時間が非常に長い
- 特定の担当者への作業負荷が集中している
これらの問題は、システム保守の効率性を低下させる大きな要因となります。特定の計器が頻繁に故障する古い車に乗っているようなもので、放置すると対応コストが増大し、業務への悪影響も拡大する可能性があります。であれば、早急に問題の根本原因を特定し、適切な対策を講じる必要があります。
ステップ3:具体的な施策を考える
ステップ2で明らかになった問題点に対して、具体的な対策を検討し、優先順位をつけて実行計画を立てていきましょう。それぞれの問題点に対して、どのような対策が考えられるのかを見ていきます。
特定のシステムで障害が頻発している場合
この場合、障害の原因によって取るべき対策は変わってきます。もしハードウェアの老朽化が原因であれば、障害発生時の影響やシステムの重要性を考慮し、ハードウェアの交換を検討します。最新の機種への更新だけでなく、システムの安定稼働を強化するための冗長化構成の導入や、運用負荷を軽減できるクラウドサービスへの移行なども選択肢の一つとなります。
ソフトウェアのバグが障害の根源にある場合は、ソフトウェアのバージョンアップやパッチ適用が有効です。場合によっては、ベンダーに問い合わせ、修正プログラムの提供を依頼する必要も出てくるでしょう。
設定ミスが原因の場合は、まずは設定内容を細かく確認し、誤りを修正します。そして、同じ問題が再発しないよう、設定変更手順そのものを見直したり、変更管理プロセスを強化するといった対策も検討します。
サイバー攻撃が原因の場合は、セキュリティ対策ソフトの導入・強化、脆弱性診断の実施、セキュリティポリシーの見直しなど、多層的な対策を講じることが重要となります。
一部の保守作業に過剰な時間がかかっている場合
この問題についても、原因別に適切な対策を講じる必要があります。
手作業が多い場合は、自動化ツールを導入することで作業効率を大幅に向上させることができます。スクリプト作成やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の活用も有効な手段です。
手順が複雑で時間がかかっている場合は、手順書そのものを見直し、簡素化・標準化を図ります。フローチャートなどを活用し、視覚的に分かりやすく情報を整理することも、作業効率向上に繋がります。
情報共有が不足しているために作業時間が増えている場合は、情報共有ツールを導入し、担当者間のコミュニケーションを円滑にすることが解決策となります。ナレッジベースの構築や、定期的な情報共有会の開催なども、情報共有不足の解消に役立ちます。
コストの大部分が特定の項目に集中している場合
コストの問題も、その内訳によって取るべき対策は異なります。
- 古いシステムの維持費用が高額になっている場合:システムの更改やクラウドサービスへの移行を検討します。最新技術への移行は、保守性・拡張性の向上に加え、コスト削減効果も期待できます。
- ベンダーへの依存度が高い場合:内製化を推進し、ベンダーへの依存度を軽減することでコスト削減を目指します。ただし、内製化には人員確保やスキル向上が必要となるため、段階的に進めることが重要です。
- ライセンス費用が高額な場合:類似製品への乗り換えや、オープンソースソフトウェアへの移行を検討します。また、ベンダーとの再交渉も、ライセンス費用削減の有効な手段となり得ます。
特定の種類の障害への対応時間が非常に長い場合
対応時間が長い障害への対策も、原因を特定し、それに合わせた対策を講じる必要があります。
- 障害原因の特定が難しい場合:障害解析ツールを導入することで、原因特定の効率化を図ります。ログ分析ツールの活用や、AI技術による障害予測なども有効な手段です。
- 対応手順が確立されていない場合:障害対応マニュアルを作成・整備し、対応手順を明確化します。過去の障害事例を分析し、対応ノウハウを蓄積していくことも重要です。
- 担当者の経験不足が原因の場合:研修やOJTを通じて、担当者のスキル向上を図ります。ベテラン社員によるメンタリングや、外部専門家によるトレーニングなども有効です。
施策の優先順位付け
具体的な対策を検討したら、施策を実行していく優先順位を決めていきましょう。施策の優先順位づけには、以下の評価軸を使用します。
- 効果の大きさ
- 実現までの期間
- 実現する見込み
- 必要リソース
- 実行の容易さ
これらの評価軸に基づいて各施策を評価し、総合的に判断して優先順位を決定します。効果が大きく、実現可能性が高く、必要リソースが少ない施策は、優先度が高くなります。
ステップ4:施策を実行に移す
優先順位に従って施策を実行しますが、定期的に進捗を確認し、必要に応じて優先順位を見直します。
システム保守の効率化は、適切な指標の活用から始まります。現状を正確に把握し、データに基づいて改善策を立案・実行することで、確実に効率化を図ることができます。
この方法は一見単純ですが、実践することで真の効果を発揮します。経営層こそがこのアプローチを理解し、推進する必要があるのです。
まとめ
システム保守におけるIT部門のプレッシャーは大きく、限られたリソースでの効率的な運用が求められます。そんな中、可用性やMTBF、MTTRなどの指標を活用することで、現状把握や改善策の立案が可能になります。それだけでなく、これらの指標は保守担当者と経営層の双方にメリットをもたらし、具体的な数値に基づいた判断を可能にします。現状を把握し、改善の余地を特定することが効率化の第一歩であり、施策の実行が企業の成長につながります。
システム保守指標は、適切に活用することで、システムの安定稼働、コスト削減、そしてサービス品質の向上に大きく貢献します。本稿を参考に、自社のシステム保守体制を見直し、さらなる進化を目指しましょう。